世界で急成長するウェルネス投資とは?健康と資産形成を両立する新しい投資の考え方を解説

働き方改革や健康経営という言葉に代表されるように、日本でも心身の健康が一人ひとりの幸福に結びつくという考えが広まってきています。中でも最近注目されているのが、心身の健康(ウェルネス)を資産形成と組み合わせたウェルネス投資の考え方です。
本記事では、ウェルネス投資の概念や国内外での広がり、最新のトレンドなどを具体例とともに紹介します。従業員のための企業による取組みであるウェルネス経営にも触れていますので、ぜひ参考にしてください。
1. ウェルネス投資とは?定義と注目される背景
日本でもウェルネス投資という言葉を聞く機会が増えてきました。投資といえば、経済的リターンだけを追求するイメージがあるかもしれませんが、ウェルネス投資では健康維持・増進に役立つ企業やサービスを選ぶことと経済的リターンを両立させることがポイントといえます。
ここではウェルネス投資について、定義や注目されている背景について紹介します。
ウェルネス投資の定義と基本概念
ウェルネス投資とは、単に金銭的な利益を追求するだけでなく、心身の健康(ウェルネス)と資産形成を組み合わせた、より包括的な投資の考え方です。具体的には、健康維持・増進に役立つ不動産やサービスへの投資、また従業員のウェルネスを目的とした企業への投資、さらには「ファイナンシャル・ウェルネス(経済的幸福)」を目指すための資産運用サービスなどが含まれます。
また、健康という現実的なリターンを得るという意味では「サプリメントを飲む」「毎日運動する」といった自身の健康維持・増進のための行動を取ることも、広い意味でウェルネス投資といえるのです。
なぜ今ウェルネス投資が注目されているのか
医療技術の発展により平均寿命が延びる中、健康に生活できる期間=健康寿命とのギャップが問題になっています。厚生労働省の調査「健康寿命の令和4年値について」によると、2022年における日本人男性の平均寿命は81.05歳、女性は87.09歳です。一方、健康寿命は男性が72.57歳、女性75.45歳であり、平均寿命との差はそれぞれ男性で8.49年、女性で11.63年あります。
健康寿命と平均寿命の間は日常生活を送るのにさまざまな制限がかかるため、健康寿命をできるだけ延ばしたいと考える人が増えています。そもそも健康でなければ仕事や生活を充実させられないとして、特に富裕層の間では健康という無形資産に投資するウェルネス投資が広まっているのです。
健康経営との違いとウェルネスの広義な意味
ウェルネス投資に関連する言葉として「健康経営」と「ウェルネス経営」があります。健康経営とは、従業員が健康でいきいきと働ける環境を企業が整備することで、以下のようなメリットがあります。
・従業員の心身の健康が守られることで離職率・休職率が低下する
・従業員の健康に配慮する企業として求職者や消費者からのイメージが向上、社会的評価が高まる
・ウェルネス投資を行う投資家から資金を集めやすくなるため、上場している場合は株価の上昇が期待できる
近年は、経済産業省が健康経営銘柄や健康経営優良法人を選定するなど、国も企業に対して健康経営を推進しようとしています。
なお、日本においてウェルネス経営と健康経営の基本的な概念に大きな違いはありません。ただし、元の英語の意味も踏まえて考えると健康が「単に病気でない状態」を指す一方で、ウェルネスは健康に過ごすための手段も含む、より広い概念だといえます。
2. ウェルネス投資の市場規模と最新トレンド
ウェルネス投資は日本だけでなく、世界中で広がっている概念です。ウェルネス投資が広がるにつれて、関連産業も拡大し続けています。
ここでは、ウェルネス投資の市場規模や最新のトレンドについて紹介します。
世界と日本のウェルネス市場規模
グローバル・ウェルネス・インスティテュートの調査によると、2023年の世界のウェルネス市場の規模は、約976兆円(6.3兆アメリカドル、1ドル=155円で計算)です。同調査では今後もウェルネス市場が拡大し、2028年には7.3%の成長になるとしています。
日本においては、ウェルネス市場として算出されたデータはありませんが、経済産業省によれば2020年度の公的保険外のヘルスケア・介護に係る国内市場は約24兆円です。また、2050年の同市場規模は、77兆円に拡大することを目標としています。ウェルネス市場は国内外で大きく成長が見込まれる市場だといえます。
企業向けウェルネス市場の成長予測
企業向けウェルネス市場とは、企業が従業員の心身の健康維持のために提供するフィットネスや健康診断、禁煙などさまざまなプログラムにかかる費用をまとめたものです。
従業員の健康管理に投資することのメリットが知られるようになっているため、今後もますます多くの企業が健康経営・ウェルネス経営を意識するようになり、費用も増やすと考えられます。
企業向けウェルネス市場の具体的な規模は調査会社によって異なるものの、今後も毎年5~6%程度の成長を続けるとしているデータが多くなっています。
注目されるウェルネス投資分野とビジネストレンド
消費者の健康維持や病気予防をサポートするビジネスに投資することもウェルネス投資の一つです。ウェルネス投資分野の中でも注目されているのが、IT技術を駆使した新しいサービスと女性の健康問題を技術の力で解決するフェムテック(女性を意味するFemaleとTechnologyを組み合わせた造語)の2つです。
IT技術を使った新サービスとしてはVR(仮想現実)によってメンタルヘルスの問題を克服する「Oxford VR」、フェムテックの例としては月経周期管理アプリ、不妊治療サポートサービスなどがあります。
また、新たなウェルネス分野のビジネスとしてリラックスできる自然環境やリラクゼーション施設などを目的に旅行するウェルネスツーリズムも注目を集めています。
3. ウェルネス投資の具体的な方法と事例
ここでは、ウェルネス投資の具体的な方法や事例について紹介します。ウェルネス投資が何か知りたい方や、始めてみたいと考えている方は参考にしてください。
個人向けウェルネス投資の具体例
ウェルネス投資の具体例を紹介します。
・がんや生活習慣病を予防するための各種検査、遺伝子診断など
・運動習慣をつけるフィットネスクラブ
・ストレスマネジメントに役立つヨガや瞑想、コーチング
・サプリメントの摂取、栄養士や医師などの専門家のアドバイスまたはDNA検査などの科学的根拠に基づく食事指導
上記のような事業を営む企業への投資や、自らサービスを利用することがウェルネス投資に該当します。
企業が導入するウェルネスプログラムの実践例
従業員の健康に投資するいわゆるウェルネス経営は、従業員だけでなく企業にとってもメリットがあります。ここでは、ECモールの運営や金融事業など幅広い事業を手掛けている楽天グループの取り組みを紹介します。
楽天では個人の健康意識を高めたり、組織として健康維持に努めたりする専門の部署として2018年にウェルネス部を創設しました。以来、社内で健康的な食事を取れるカフェテリアの整備・社内クリニックへの禁煙外来設置などに取り組んでいます。
また、コロナ禍をきっかけに運動不足や体重管理、睡眠不足など健康に関するセミナーのオンライン開催を開始しました。オンラインセミナーには、毎回400名以上の社員が参加し、健康管理に活用しています。
ウェルネス不動産・ツーリズムへの投資
ウェルネス投資の中でも富裕層に人気の分野がウェルネス不動産やウェルネスツーリズムです。ウェルネスを維持することが資産形成に欠かせないとの考え方が広まると、ジムやスパなどのプライベートな健康施設がついた不動産の人気が高まりました。
また、自然環境のよい場所へ旅行し、日頃の疲れを癒すウェルネスツーリズムへの関心も高まり、関連する施設やサービスへの投資も行われています。
4. ウェルネス投資のメリット・デメリットと始め方
すでに触れてきた通り、ウェルネス投資には金銭的利益以外にもさまざまなメリットがあります。実際にウェルネス投資を始める方のために、ここではウェルネス投資のメリット・デメリットと始め方をまとめて紹介します。
ウェルネス投資で得られるメリットとリターン
ウェルネス投資で得られるのは経済的な利益だけではありません。生産性の向上や医療費の削減、社会的信用・評価の上昇などもウェルネス投資に期待できるメリットです。
また、企業が従業員の健康に投資するウェルネス経営では、従業員満足度の向上やそれによる離職率の低下、採用コストの抑制などもメリットとして挙げられます。さらに、ウェルネス不動産への投資では、物件の資産価値の上昇もリターンとして期待できるでしょう。
このようにウェルネス投資では経済的リターン以外にもさまざまなメリットやリターンが得られるため、一般的な資産運用よりも効率的だといわれています。
注意すべきリスクとデメリット
ウェルネス投資やウェルネス経営を実施することによる直接的なデメリットはほとんどありません。強いていえば、コストがかかることや効果が出るのに時間がかかったり期待したほどの効果が得られなかったりする可能性があることです。
特にウェルネス経営の場合は、従業員に食事を提供したり、フィットネスジムの利用料を補助したりすれば当然その分のコストが増えます。一方で、健康的な食事によって体調に変化が現れたり、運動習慣が身についたりするには時間がかかります。そのため、ある程度長い目で見て取り組むことが大切です。
ウェルネス投資の始め方と実践のポイント
ウェルネス投資は、まず自身が投資したい分野や企業を絞り込むことから始めるとよいでしょう。たとえば、病気の予防に関心がある方は遺伝子検査を行う企業、普段から不動産投資に取り組んでいる方は、ウェルネス不動産への投資を選ぶと始めやすいと考えられます。
なお、ウェルネス経営の場合は経営層だけでなく、従業員全体に制度や方向性が浸透するよう積極的に働きかけることが大切です。社内にCWO(最高健康責任者)と呼ばれる役職を置き、従業員の健康維持・増進に関わる制度を取りまとめる専門の部署を設けることも有効です。
まとめ
ウェルネス投資とは、心身の健康を意味するウェルネスと資産形成を両立させる考え方のことです。企業の中には、従業員の健康維持・増進を図るウェルネス経営を取り入れるところも増えてきています。
ウェルネス投資は、経済的リターン以外にも社会的信用度の上昇、医療費の削減などさまざまなメリットがあります。自身の価値観に合う企業やサービスに投資しながら各種のリターンを期待できる方法ですので、資産形成に取り組む際は、ウェルネス投資の考え方を取り入れてみてはいかがでしょうか。
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