通勤手当の制度変更で今すぐ必要な対応とは?遡及精算・就業規則見直し・社会保険への影響を徹底解説

令和7年11月、通勤手当の非課税限度額引き上げが実施されました。上限額引き上げは11年ぶりであるのに加えて、4月に遡っての適用となるため年末調整での精算対応が必要とされる点が今回の改正の特徴です。

当記事では、令和7年の通勤手当の非課税限度額改正について、改正内容や年末調整業務での対応方法などについて解説します。

1. 通勤手当の非課税限度額改正(令和7年)とは?改正内容と背景

通勤手当は給与と異なり、一部が非課税とされています。ここでは、令和7年に実施された非課税限度額の引き上げについて、内容と改正の背景を紹介します。

令和7年11月施行の非課税限度額改正の全体像

令和7年11月、所得税法施行令における非課税限度額が改正され、いわゆるマイカーなどで通勤している人が受け取っている通勤手当の非課税限度額が引き上げられました。今回の改正の対象となるのは「自動車や自転車などの交通用具を使用している人」です。通勤に公共交通機関などを利用している人、交通機関と自家用車などを併用している人は改正の対象ではありません。

また、今回の非課税限度額改正のポイントは、令和7年4月まで遡って改正後の内容が適用されることです。公務員を含む多くの職場が4月~翌年3月の一年間を会計年度としていることから、わかりやすくするために遡及適用が決められたと考えられます。なお、非課税限度額引き上げにより、すでに支払われた通勤手当との差額が発生した場合は、原則として年末調整で対応することとされています。

改正前と改正後の非課税限度額の比較(距離区分別)

今回の改正による非課税限度額を距離区分ごとにまとめました。距離はいずれも片道の通勤距離を指しています。

距離区分

改正後

改正前

2km未満

変更なし

全額課税

2km以上10km未満

変更なし

4,200円

10km以上15km未満

7,300円

7,100円

15km以上25km未満

13,500円

12,900円

25km以上35km未満

19,700円

18,700円

35km以上45km未満

25,900円

24,400円

45km以上55km未満

32,300円

28,000円

55km以上

38,700円

31,600円

通勤距離が片道10km以上の場合、非課税限度額は200円から7,100円引き上げられていることがわかります。

令和7年4月1日に遡及適用される理由と人事院勧告の背景

今回施行された通勤手当の非課税限度額の改正は、令和7年8月に公表された国家公務員の通勤手当の支給水準の見直しを求める「令和7年人事院勧告」がベースとなっています。この人事院勧告の中で、通勤距離の既存区分(60km以上までの区分)については令和7年4月からの引き上げ実施が求められているため、今回の通勤手当の非課税限度額引き上げの遡及適用が実現しました。

なお、通勤手当の非課税限度額改正の背景には、燃料費を含む物価高騰対策に加えて、公務員と民間企業に勤める人との待遇格差を縮めて人材を獲得しやすくする狙いもあります。実際に令和7年8月の人事院勧告では通勤手当以外にも月給やボーナスの引き上げなどが含まれています。

2. 年末調整での遡及精算が必要なケースと対象者の見極め方

今回の非課税限度額の改正により、人事や労務、経理担当者は年末調整での遡及精算の業務が発生することがあります。まずは従業員のうち遡及精算が必要なケースを把握することが大切です。また、年内に退職者や中途入社がいる場合は個別に対応が求められることもあります。

年末調整で精算が必要になる3つの条件

今回の改正により年末調整で精算が必要になるのは以下の3つの条件に当てはまる人です。

・自動車(または自転車)で通勤している
・片道の距離が10km以上
・非課税限度額改正が行われる前(令和7年11月19日以前)に通勤手当が支払われており、かつ限度額を超えて源泉徴収された部分がある

上記の3つすべてに該当する従業員がいる場合、年末調整での遡及精算が必要となります。なお、年末時点で在職中であることも年末調整が必要となる条件です。詳しくは後の項目で解説します。

精算不要なケースと適用除外となる通勤手当

以下のようなケースは年末調整での精算不要です。
・自家用車や自転車で通勤しているが、片道10km未満である
・各距離区分における非課税限度額を超えていない

また、公共交通機関など、自家用車や自転車以外の手段で通勤している人は、今回の非課税限度額引き上げの対象外です。したがって年末調整での精算も必要ありません。

退職者や中途入社者への対応方法

年の途中での退職者に関しては、年末調整を行う必要はありません。ただし、退職時までに支払った給与などに関して源泉徴収票を作成する際は、通勤手当についても非課税限度額引き上げの影響を受けていないかチェックし、必要に応じて修正を行いましょう。

また、退職時など年の途中ですでに源泉徴収票を交付している場合は、修正のうえ再交付が必要になることもあります。対象者を洗い出し、通勤手当の状況について確認しましょう。

4月1日以降に中途入社した人については、他の従業員と同様に入社日から11月19日までに支払った通勤手当を確認し、必要に応じて年末調整で精算を行います。

3. 年末調整での遡及精算の具体的な手順と計算方法

ここでは、年末調整での遡及精算の具体的な手順や計算方法を解説します。年末調整業務の参考にしてください。

新たに非課税となる金額の計算方法(具体例付き)

年末調整で遡及精算が必要な従業員については、一人ひとりの精算額を算出する必要があります。ここでは片道40km、通勤手当25,000円を受け取っている従業員を例に解説します。

距離区分(35km以上45km未満)の場合、非課税限度額引き上げ前の上限額は24,400円。改正後は25,900円のため、改正によって新たに非課税となる金額は1ヶ月あたり600円です。
1ヶ月あたりの新たな非課税額に対象月数を乗じることで、新たに非課税となる金額を算出できます。

25,000(支給額) – 24,400(改正前の上限額)= 600(円)
600 × 7(令和7年4月から10月までの給与支払い月数) =4,200(円)

源泉徴収簿への記載方法と源泉徴収票の修正ポイント

年末調整で新たに非課税となる通勤手当の額が算出できたら、源泉徴収簿にも記載が必要です。源泉徴収簿の枠外の余白に以下の「」内のように記載しましょう。

新たな非課税額1ヶ月あたり600円、対象月数7ヶ月の場合
「非課税となる通勤手当 4,200円(600円×7ヶ月)」

また、源泉徴収簿の左側「給料・手当等」の金額から非課税となる通勤手当の合計金額(上記例では4,200円)を差し引きます。例えば、年間の総支給金額が360万円だった場合は、359万5,800円と記載します。左側の「給料・手当等」枠の合計欄にも同額を記入しましょう。

なお、退職者などに対して年の途中ですでに源泉徴収票を交付している場合は、状況に応じて修正・再交付が必要になることがあります。新しく交付する源泉徴収票は、以下の2点に注意して作成しましょう。
・「支払金額」欄を総支給額から新たな非課税額を差し引いた金額へ訂正する
・「摘要」欄に「再交付」と記載する

給与所得の見積額への影響と扶養控除への注意点

基礎控除や扶養控除といった各種の控除の対象となるかを判断する際、給与所得の見積額を使うのが一般的です。通勤手当は原則として非課税のため、給与所得の見積額には含まれません。ただし、通勤手当の非課税限度額を超える部分は、給与所得の見積額に含める必要があります。

したがって非課税限度額を超える通勤手当を受け取っていた従業員については、限度額引き上げにより給与所得の見積額が変動している可能性があります。給与所得の見積額が正しくない場合、扶養控除などの計算にも影響するため注意しましょう。

4. 企業が対応すべき実務手続きと関連する注意事項

通勤手当の非課税限度額改正に合わせて、従業員に支給する手当の額を見直す企業は少なくありません。また、通勤手当の支給額は控除額などの計算にも影響するため、さまざまな手続きが必要となります。ここでは、企業が対応すべき実務手続きや注意事項を紹介します。

就業規則・賃金規程の見直しと通勤手当の追加支給判断

就業規則や賃金規定において、通勤手当の金額を非課税限度額に合わせて設定している企業は多いでしょう。その場合、今回実施された非課税限度額の引き上げに応じて規則や規定の見直しが必要です。

また、規則や規定の見直しと同時にすでに支払った令和7年4月から10月分の通勤手当について、不足分がある場合は追加支給するかどうかの判断も求められることがあります。通勤手当についても遡及して支払うかは企業の判断に任されています。

社会保険の随時改定(月額変更届)が必要になるケース

年金や健康保険といった社会保険は年に一度、それぞれの従業員の平均的な1ヶ月の給与額をもとに金額を決めています。

ただし、急な昇給や手当の増額などがあった場合、社会保険料を増額する必要があるため、随時改定(月額変更届)を提出しなければいけません。通勤手当の非課税限度額の改正に合わせて社内ルールを見直し支給額を増やした企業は、従業員が随時改定(月額変更届)の対象でないか確認しましょう。

なお、随時改定が適用されるかは以下の方法で確認できます。

・通勤手当が変更された月から3ヶ月間の給与の平均額を算出する
・変更前と変更後の給与の平均を比較し、標準報酬月額が2等級以上増減している

標準報酬月額の変動がない場合や、1等級以内の変動の場合は随時改定が必要ありません。

令和8年以降のさらなる改正予定と今後の対応準備

「令和7年人事院勧告」では、令和8年4月1日の実施を前提に以下の2つの改正案が挙げられています。

・通勤手当の距離区分のうち、65km以上から100km以上までの区分を5km刻みで区切り、上限66,400円の新たな区分を設ける案
・月額5,000円を上限としてマイカー通勤での駐車場代を支給する案

これらはまだ確定したわけではないものの、令和8年以降も通勤手当に関する制度改正が行われる可能性があることを押さえておきましょう。最新情報をチェックし、柔軟に対応できる体制を整えておくことが大切です。

まとめ

令和7年11月に通勤手当の非課税限度額が改正されたことに伴い、企業では年末調整での遡及精算や源泉徴収簿の修正、社内の手当に関する規則や規定の見直しなどの対応が必要となります。

また、今回の改正のきっかけである令和7年人事院勧告では、令和8年以降の改正案についても言及されています。今後も随時改正が行われると考えられるため、常に最新情報をチェックし、適切に対応していくことが大切です。

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