賃上げ促進税制とは?今回の改正で何が変わった?税制について詳しく解説

従業員の待遇改善は人材確保の有効な手段の一つですが、企業にとっては人件費負担が増えてしまいます。そこで企業の負担を減らしつつ、賃上げを後押しするために、賃上げ促進税制が導入されました。2024年度税制改正では控除率の拡充などが実施されたため、積極的に活用したいと考えている企業は多いでしょう。
本記事では、賃上げ促進税制について制度の概要や2024年度税制改正のポイント、適用要件、計算方法などを紹介します。
1. 中小企業向け「賃上げ促進税制」とは?制度の基本と2024年改正ポイント
賃上げ促進税制の対象は全企業ですが、企業規模に応じて制度が適用される要件や控除率が異なります。また、2024年度税制改正により要件や控除率も見直されているため、ここではあらためて賃上げ促進税制について制度の基本や変更点を紹介します。
賃上げ促進税制の仕組みと中小企業向けの特徴
賃上げ促進税制とは、人材確保のために従業員の待遇を改善した企業が、増加した人件費の一部を法人税から控除できる仕組みです。デフレ脱却を目標に2013年から開始された所得拡大促進税制と、2021年にスタートした人材確保等促進税制を統合する形で2022年から始まりました。
賃上げ促進税制は条件を満たしていれば企業の規模に関係なく、個人事業主や小規模事業者も対象です。特に資本金1億円以下の企業や従業員1,000人以下の個人事業主は中小企業として取り扱われ、控除率などの優遇があります。
2024年度税制改正で何が変わった?適用期間延長と控除率拡充
賃上げ促進税制は2024年度税制改正で内容が一部変更されました。具体的には適用期間が3年延長され、特定の条件を満たしたときの控除率の上限が引き上げられています。また、中小企業に限り、控除額が余った場合に5年間の繰り越しが可能になりました。
変更点は以下の通りです。
・適用期間が2024年4月1日~2027年3月31日までに開始する事業年度へ3年間延長
・給与等支給額の増加率(前年度比)に応じて、法人税から控除される割合を最大40%から45%へ引き上げ(中小企業の場合)
・黒字額が小さい場合など、余った控除額は5年間繰り越しできる(中小企業のみ)
2024年度税制改正により賃上げ促進税制はさらに使いやすい制度になりました。
所得拡大促進税制との違いと全企業向け・中堅企業向けとの比較
所得拡大促進税制と賃上げ促進税制は、給与等の増加額に対して法人税から控除が受けられる点が共通しています。ただし、制度の目的はやや異なります。
所得拡大促進税制は、長く続いたデフレから脱却するため、企業の賃上げにインセンティブを与えることで国民の所得を増やすことが目的でした。一方、ここ数年継続的に物価が上昇している中で、従業員の生活水準を維持したり、優秀な人材の定着を図ったりするために給与を引き上げる企業を支援するのが賃上げ促進税制の目的です。
賃上げ促進税制では、企業の規模ごとに適用要件と控除率が異なり、大企業の控除率は最大35%、中堅企業も最大35%であるのに対して、中小企業は法人税の最大45%が控除される可能性があります。控除率に差があるのは、大企業に比べて中堅企業・中小企業の方が従業員数を増やしている傾向にあるためです。
2. 適用要件と控除率|最大45%控除を受けるための条件
賃上げ促進税制で最大45%控除を受けるためには以下の条件を満たす必要があります。
・中小企業であること
・基本要件ならびに2つの上乗せ要件すべてに当てはまること
なお、賃上げ促進税制における中小企業の定義は以下の通りです。
・資本金または出資金1億円以下の法人、または従業員数が1,000人以下の個人事業主
・青色申告書を提出していること
ここでは最大45%控除を受けるための3つの要件を解説します。
【基本要件】給与等支給額1.5%以上増加で15%控除
賃上げ促進税制の対象となるには「雇用者給与等支給額が前年度比で1.5%以上増加」していることが必要です。この条件を満たしている場合、法人税から15%が控除されます。
雇用者給与等支給額には国内で雇用している社員やアルバイト、パート従業員に対して支払われた給与や賞与、残業代、住宅手当などの各種手当が含まれます。所得税法上、給与所得に該当しない退職金は含まれません。
また、前払い給与も対象外です。判定の基礎となる金額で、具体的には「国内雇用者」に対して支給した「給与等」の額が該当します。
【上乗せ要件①】給与増加率2.5%以上で30%控除
雇用者等給与支給額の増加率が基本要件である前年度比1.5%を上回り、2.5%以上となっている場合は控除率が15%上乗せされ、30%に拡大します。
なお、給与支給額の増加によって30%もの控除を受けられるのは中小企業のみです。大企業や中堅企業の場合、控除率の上限は中小企業より低いうえ、適用されるための条件も厳しく設定されています。
【25%の控除を受ける条件】
大企業:雇用者等給与支給額が前年度比7%以上増加
中堅企業:同支給額が前年度比4%以上増加
【上乗せ要件②③】教育訓練費5%増加+女性活躍支援で最大45%
従業員の職務能力開発に積極的な企業や、女性や子育て中の従業員の活躍を推進する企業にはさらなる税額控除額の上乗せがあります。中小企業の場合、前年度と比べて教育訓練費が5%増えていれば控除率が10%拡大します。
教育訓練費とは、従業員が参加したセミナーの参加費や研修実施のために招いた講師への謝礼、セミナー会場の使用料などのことです。
また、女性活躍や従業員の子育てと仕事の両立をサポートする企業として認定されている場合、さらに5%の控除率の上乗せを受けられます。
控除率拡充の対象となるには、以下のいずれかの認定を取得している必要があります。
・えるぼし2段階目以上
・くるみん
・プラチナくるみん
教育訓練費5%増加と女性・子育て社員活躍支援については、両方の条件を満たしていれば控除額を合算できます。そのため、給与等支給額2.5%以上増加、教育訓練費増加、えるぼしやくるみん認定の取得の3つを同時に達成している中小企業は、最大45%の税額控除が受けられるのです。
3. 税額控除額の計算方法とシミュレーション
賃上げによる費用負担が軽くなる賃上げ促進税制は魅力的ですが、自社が対象になるかわかりにくいと感じる企業もいるでしょう。ここでは、賃上げ促進税制を理解するために、雇用者給与等支給額や税額控除額の計算方法をシミュレーションを交えながら解説します。
雇用者給与等支給額の計算方法と対象となる給与の範囲
雇用者給与等支給額に含まれるものは、国内で雇用されている従業員に支払った以下のような費用です。なお、従業員とは正社員だけでなくパート、アルバイトなども対象ですが、役員や役員の家族など特別な関係にある従業員は含みません。
・給与
・賞与
・残業代
・休日出勤手当
・家族手当など
また、雇用安定助成金額も対象です。その他の助成金、補助金は雇用者給与等支給額に含まれないため注意しましょう。
賃上げ促進税制の適用要件である増加率1.5%以上、または上乗せ要件の増加率2.5%以上を満たしているかを確認するには、以下のように計算します。
当事業年度と前事業年度の雇用者給与等支給額の差額を計算し、前事業年度の雇用者給与等支給額で割ります。結果が1.5%以上または2.5%以上であれば税額控除が受けられますが、1.5%未満であれば対象外です。
具体例で学ぶ税額控除額の計算シミュレーション
賃上げ促進税制における税額控除額は、控除対象雇用者給与等支給増加額に控除率をかけて計算できます。控除雇用者給与等支給額とは、当事業年度と前事業年度の雇用者給与等支給額の差額のことです。
具体例で税額控除額を見てみます。
【前提】
当事業年度の雇用者給与等支給額:3,600万円
前事業年度の雇用者給与等支給額:3,500万円
給与等支給額の増加率:2.8%
教育訓練費の増加率:11%
くるみん・えるぼし認定:取得済
控除率:45%
法人税額:300万円
法人税額 × 20% = 60万円
税額控除額には、法人税額または所得税額の20%という上限があります。このケースでは税額控除額が法人税額の20%未満となっているため、45万円を法人税から控除できます。
5年間繰越控除の仕組みと赤字企業でも活用できる理由
2024年度税制改正により、中小企業は当該事業年度で控除しきれなかった税額控除額を次年度以降、5年間繰り越しできる仕組みが導入されました。これにより、赤字のため法人税を払っていない企業や賃上げ幅が大きく、税額控除額が法人税または所得税の20%という上限を超えてしまった企業も賃上げ促進税制の恩恵を受けられるようになりました。
たとえば、2024年度に前年度比で給与等支給額が300万円増加したが、赤字のため法人税の支払いがなかった企業があるとします。この企業は、2025年度~2029年度に黒字になった事業年度があれば、その事業年度に支払うべき法人税から控除額を差し引くことが可能です。
4. 申請方法と必要書類|確定申告での手続きの流れ
賃上げ促進税制を利用しようとする企業や個人事業主は、確定申告での手続きが必要です。ここでは申請方法と必要書類について簡単に紹介します。
事前申請は不要|確定申告時に添付する必要書類一覧
賃上げ促進税制は、確定申告時に制度の対象であることを証明する書類を添付するだけで適用されるため、事前の申請は不要です。確定申告時に添付が必要な書類は以下の通りです。
・適用額明細書(法人の場合のみ)
・控除額計算明細書
・繰越控除金額や繰越限度超過額の明細書(繰越控除を受ける場合のみ)
適用額明細書と控除額計算明細書の作成方法
賃上げ促進税制を活用するため、確定申告で添付する書類のうち適用額明細書は法人だけが必要な書類です。2010年より租税公課の透明性を高めるため、法人税率の特別措置や法人税の特別控除を受けようとする法人に適用額明細書の提出が義務付けられました。
国税庁のウェブサイトに公開されている確定申告書または連結確定申告に添付する2つの様式のどちらかを用いて、適用される租税特別措置法の条項や適用額などを記入して作成します。
控除額計算明細書とは適用事業年度の給与等支給額、税額控除額など、賃上げ促進税制の適用に必要な数値を記入して作成する書類です。様式は国税庁のウェブサイトにて「給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」という名称で公開されています。
教育訓練費の記録保管と繰越控除の手続き上の注意点
教育訓練費の増加率が前年度比で5%以上増加した場合(10%の上乗せ)、控除率の上乗せを希望する場合は、教育訓練費の実施内容や実施期間、受講者などの記録を作成しておきましょう。確定申告書に添付は不要ですが、保管しておく必要があります。
また、税額控除額の繰り越しを希望する場合は、確定申告の際に繰越税額控除限度超過額の明細書の添付が必要です。様式は国税庁のウェブサイトからダウンロードできます。
まとめ
物価上昇や人手不足に対応するため、従業員の賃上げをする企業を後押しするために導入されたのが賃上げ促進税制です。2024年度税制改正で賃上げ促進税制が強化されたことにより、特に中小企業にとっては控除率上限の引き上げや繰越控除の導入などのメリットがある制度となりました。
賃上げ促進税制には給与等支給額の前年度比増加率に基づく基本要件のほか、2つの上乗せ要件があります。確定申告だけで適用されるため、特に中小企業は積極的に活用したい制度です。
中小企業経営者や個人事業主が抱える資産運用や相続、税務、労務、投資、保険、年金などの多岐にわたる課題に応えるため、マネーイズム編集部では実務に直結した具体的な解決策を提示する信頼性の高い情報を発信しています。
新着記事
人気記事ランキング
-
【最新動向】ガソリン税「暫定税率」12月廃止の可能性は?与野党合意に向けた最新協議と価格変動・代替財源の論点解説
-
相続放棄したら、未払いの公共料金や介護施設利用料はどうなる?相続放棄の注意点を解説
-
相続税対策としての生命保険の「非課税枠」とは その使い方と注意点を解説
-
円満な相続のため親が元気なうちにやるべきこと3つ
-
外国人による日本不動産購入の最新ルールと今後の規制を解説
-
通勤手当の制度変更で今すぐ必要な対応とは?遡及精算・就業規則見直し・社会保険への影響を徹底解説
-
75歳以上の医療費が2割負担に!対象者と家計への影響をわかりやすく解説
-
すき家、11年ぶりの値下げ概要と背景を解説!戦略の狙いと今後の展望とは
-
税金・公共料金をスマホで簡単支払い!キャッシュレス納付の方法とお得な使い方
-
贈与の「暦年課税」と「相続時精算課税」はどちらが得なのか それぞれのメリット・デメリットを解説



