住宅ローン減税特例の延長など「コロナ時代」見据えた税制改正大綱のポイントを解説

2021年度以降の増減税などの方針をまとめた与党の税制改正大綱が、発表になりました。今回の「大綱」には、新型コロナウイルス感染症の感染拡大という非常事態を踏まえた特例的な措置も盛り込まれています。私たちの暮らしや、事業経営に関連するものを中心に、ポイントをまとめました。
家計に配慮した住宅ローン減税特例措置の延長
◆住宅ローン減税特例措置の2年間延長
2019年の消費税増税の際、住宅ローン減税を受けられる期間が、それまでの10年から13年に延びる特例が導入されました。これには昨年12月31日までに取得した住宅が対象、という期限が設けられていましたが、この期限が22年末まで(契約の期限は、新築注文住宅は21年9月末、マンションや中古住宅などは同11月末まで)に、2年間延長されます。
対象となる住宅の範囲も広がります。従来は床面積50㎡以上が要件でしたが、40㎡以上に緩和されました。ただし、50㎡未満の場合は、1,000万円という所得制限が設けられました。高所得者の税優遇を避けるためです。
なお、原則「ローン残高の1%」という控除額に対しては、ゼロ金利時代にそぐわないという批判もあり、22年度以降、見直される=引き下げられる可能性があるようです。
◆教育資金などの生前贈与の特例も2年延長
13年に始まった、子や孫に対する教育資金の贈与を非課税とする特例は、2年間延長され23年3月末までとされました。30歳未満で合計所得1,000万円以下の子や孫には、1人当たり1,500万円まで贈与税がかからずに渡すことができます。
ただ、現行では、教育資金の贈与を受けた孫などが、それを使い切らないうちに祖父母などが亡くなった場合、贈与から3年以内の死亡でなければ相続税は課税されないのですが、この「3年以内」という条件がなくなります。つまり、祖父母がいつ亡くなったのかには関係なく、残高に相続税が課税されることになるのです。
通常、祖父母から孫への相続は、子どもが相続するのに対して税額が2割加算されるのですが、教育資金の一括贈与であればそれが免除される、という仕組みも見直されます。「残額」があれば、孫が相続によって資産を取得したものとみなされて、2割加算が適用されます。
また、結婚や子育て資金を1,000万円まで非課税で贈与できる特例措置も、同様に条件を厳しくしたうえで、期限を23年3月末まで、2年間延長されます。
◆認可外保育所利用などで受けた自治体からの助成は、非課税に
ベビーシッターや、認可外保育所を利用した場合の助成制度を設けている地方自治体があります。この助成金は、原則として「雑所得」として確定申告が必要なのですが、それは子育て世代の大きな負担になるとして、「大綱」で非課税とする方針が示されました。
◆「エコカー減税」を延長
21年4月に期限を迎えるいわゆる「エコカー減税」(購入した自動車の環境性能を基準に、車検時に支払う自動車重量税を減免する措置)は、23年4月末まで延長されることになりました。ただ、今年5月からは、現行よりも高い環境性能を設定した新基準が適用されることになります。
中小企業のM&Aを促進
◆中小企業経営強化税制の延長
中小企業の経営力強化を目的に、中小企業経営強化税制が設けられています。対象となる設備投資に関しては、当年度の経費として100%即時償却したり、取得価格の10%を税額控除したりすることができます。制度の適用期限は、21年3月31日までとされていましたが、対象となる設備を一部追加したうえで2年間延長され、23年末まで使えるようになりました。
◆「経営資源集約化税制」の新設
菅政権は、生産性向上に向けた中小企業の再編を経済政策の目玉の1つに位置付けています。そうした方針に沿って新設されるのが、経営資源集約化税制です。ひと言でいえば、中小企業のM&Aを税の面から後押ししようというもので、買収によって見込める生産性向上の効果や買収後の雇用安定化などを盛り込んだ計画を策定し、政府から認められれば、税の優遇が受けられる、というスキームになっています。
具体的には、買収時のリスク軽減を目的とした準備金制度が新設されます。中小企業のM&Aは、買収前のデューデリジェンス(資産査定業務)が不十分なことも多く、例えば買収後に簿外債務が発覚するといった事態も考えられます。そうしたリスクに備えるために、買収費用の一定割合を準備金として計上し、5年間据え置きで損金に算入できるようにします。
買収先の従業員を雇い、給与などの総額を前年から一定割合以上増やした場合にも、税を優遇します。給与総額を1.5%以上引き上げた場合には増加金額の15%を、2.5%以上なら25%の税額控除が認められます。
◆固定資産税の負担増を回避
固定資産税について、すべての土地を対象に21年度限定の特例措置が講じられることになりました。新型コロナウイルス感染拡大による企業や家計の負担増を回避するのが狙いで、地価の上昇で税額が増える場合には、20年度と同じ税額に据え置き、地価が下落して税額が減少する場合には、その額を適用するというものです。
押印なしで確定申告
◆電子帳簿保存制度の見直し
国税関係帳簿書類に関しては、せっかく紙でなく電子データによる保存が認められるようになったのに、その「使い勝手の悪さ」が指摘されていました。経費精算の際に領収書を電子的に読み込んで保存するためには、税務署の事前承認や事後的な原本との照合が求められるためです。
「大綱」には、こうした事前承認や定期検査を撤廃し、スキャナー保存後に電子データの日時を証明するタイムスタンプを打てば、原本をすぐに廃棄できる、とする内容が盛り込まれました。22年1月1日から施行される予定です。
◆今年の確定申告から押印は不要に
「担保提供関係書類及び物納手続関係書類のうち、実印の押印及び印鑑証明書の添付を求めている書類」と「相続税及び贈与税の特例における添付書類のうち財産の分割の協議に関する書類」を除き、税務関係書類への押印が不要になります。確定申告も、会社の年末調整にも、押印の必要がなくなるわけです。
押印原則不要の改正は、21年4月1日以後に提出する税務関係書類について適用することとされていますが、「大綱」には「施行日前においても、運用上、押印がなくとも改めて求めないこととする」という注意書きがあります。つまり、今年の確定申告は「ハンコなし」でOKということになります。なお、国税だけでなく、地方税関係書類についても、原則として押印を要しないこととされています。
まとめ
政府は、こうした内容に基づく税制改正法案を国会に提出し、可決されれば順次実行に移されます。新型コロナの感染状況などによっては、今後も税に関するさまざまな施策が打ち出される可能性がありますから、最新情報に注意するようにしてください。
中小企業経営者や個人事業主が抱える資産運用や相続、税務、労務、投資、保険、年金などの多岐にわたる課題に応えるため、マネーイズム編集部では実務に直結した具体的な解決策を提示する信頼性の高い情報を発信しています。
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