75歳以上の医療費が2割負担に!対象者と家計への影響をわかりやすく解説

[取材/文責]マネーイズム編集部

日本では高齢化の進展に伴い、医療費の総額が年々膨らんでいます。その結果、働く世代の家計や社会保障費に対する負担も増加しており、制度の維持が大きな課題です。この状況を改善する取り組みの1つに、75歳以上を対象とする後期高齢者医療制度における「自己負担割合2割」区分の導入があります。

制度は2022年10月から開始されましたが、急激な負担の増加を抑えるために2025年9月30日まで経過措置(配慮措置)が設けられていました。本記事では、2割負担制度について、基本概要や対象者、配慮措置終了による影響、さらに今後の医療制度改革の方向性について解説します。

1. 75歳以上医療費2割負担制度の基本概要

後期高齢者医療制度は、2008年4月に創設された、75歳以上の方全員と、65~74歳で一定の障害をもつ方が加入する医療保険制度です。75歳の誕生日に、これまで加入していた医療保険から、自動的に移行します。

後期高齢者医療制度では、2022年10月に「自己負担割合2割」の区分が新たに導入されました。ここでは、制度改正の背景や実施時期、基本内容、そして改正の必要性について解説します。

制度改正の背景と実施時期

これまで、75歳以上の医療費自己負担は原則1割でした。しかし、基準以上の所得をもつ方については、2022年10月1日から、2割に引き上げられています。

この改正は、2022年度以降、第一次ベビーブーム期に生まれた「団塊世代」が75歳を迎え始め、医療費総額が大幅に増大することを見越して行われました。

ただし、急激に負担が増加するのを防ぐために、負担増加額を月3,000円までとする配慮措置が設けられていましたが、2025年9月30日をもって終了しました。

背景には、働く世代の負担増加を抑えつつ、医療制度を安定させる狙いがあります。たとえば、教育費や住宅ローンの支払いに追われる世帯に過度な保険料負担がかからないよう、高齢者自身にも所得に応じた負担を求める形です。

従来の1割・3割から新たに2割区分を追加

75歳以上の自己負担は、従来所得に応じて「1割」または「3割」の2区分でした。2022年10月以降は、以下のように新たに「2割負担」の区分が追加され3区分になりました。

・現役並み所得者:3割負担
・一定以上所得者:2割負担
・一般所得者等:1割負担

これにより、従来1割負担であった方の一部は、2割負担へ移行することになったのです。

団塊世代の75歳突入と現役世代負担軽減の必要性

2021年度から2025年度にかけて、後期高齢者の人口は約300万人増加する見込みです。2022年度以降、団塊世代が75歳を迎え始めることで、医療費総額の急増が予測されています。

厚生労働省によると、後期高齢者医療制度の財源内訳(2022年度予算ベース)は以下の通りです。

・公費(税金):約8.0兆円(約43%)
・働く世代からの支援金(保険料):約6.9兆円(約37%)
・後期高齢者医療の保険料:約1.5兆円(約8%)
・自己負担:約1.5兆円(約8%)
・その他:約0.5兆円(約3%)

このように、約80%は税金と、働く世代が支払う保険料で支えられているため、医療費総額が増大すると、働く世代の負担も増加します。しかし、働く世代は、教育費や住宅費など生活費の負担が重く、十分な貯蓄が難しい家庭も少なくありません。

そのため、支払い能力がある75歳以上の方にも、無理のない範囲で負担を求め、働く世代に求められている保険料負担を軽減することが必要とされています。

2. 2割負担の対象者判定基準と条件

自己負担割合が2割の区分に該当するのは、次の条件を満たす場合です。

75歳以上の人が1人いる世帯
 「課税所得が28万円以上」加えて「年金収入とその他の合計所得額」が200万円以上

75歳以上の人が2人以上いる世帯
 「課税所得が28万円以上」加えて「年金収入とその他の合計所得額」が世帯で合算して320万円以上

このように、2割負担の対象となるかどうかは、世帯の人数や所得額によって決まります。自己負担割合が2割の条件に当てはまらなかった場合は「1割負担」または「3割負担」に該当します。

なお、生活保護を受給している方は「医療扶助」と呼ばれる制度で医療費を負担してもらえるため、原則として自己負担はありません。

課税所得28万円以上の世帯条件

後期高齢者医療制度における「課税所得」とは「前年の収入」から「各種控除」を差し引いた金額を指します。

各種控除の例として、以下のようなものがあります。

・給与所得控除
・公的年金等控除
・所得控除(基礎控除、社会保険料控除など)

課税所得が28万円以上の場合、自己負担割合の判定に影響する可能性があります。

年金収入とその他所得の合計額基準

「年金収入」には、遺族年金や障害年金などは含まれません。また「その他所得の合計所得額」とは、「事業収入・給与収入」から「必要経費・給与所得控除など」を差し引いた金額を指します。

世帯単位での判定方法と特例措置

ここでいう「世帯」とは、住民票上で同一世帯とされる「世帯主」と「同居家族」を指します。75歳以上の医療費負担割合は、以下のように判定されます。
現役並み所得者(課税所得145万円以上):3割負担 ※例外あり

75歳以上で現役並み所得者に該当しない場合、以下の通りです。

・「世帯内に75歳以上で課税所得28万円以上の人(該当者)がいない」:世帯全員1割負担
・「該当者が1人」かつ「年収とその他の所得合計額が200万円未満」:1割負担
・「該当者が1人」かつ「年収とその他の所得合計額が200万円以上」:2割負担
・「該当者が2人以上」かつ「年収とその他の合計所得額が320万円未満」:1割負担
・「該当者が2人以上」かつ「年収とその他の合計所得額が320万円以上」:2割負担

75歳以上で、これまで自己負担割合が1割であった方のうち、基準以上の所得がある方は、2022年10月1日から、自己負担割合が2割に引き上げられました。

しかし、急な負担増加を避けるために、負担増加額を月3,000円までとする配慮措置が設けられていました。この措置は2025年9月30日をもって終了しています。

3. 配慮措置の終了と家計への影響

自己負担割合が2割の方に適応されていた配慮措置は、2025年9月30日で終了しました。ここでは、配慮措置の内容や、終了による影響について解説します。

3年間の配慮措置期間とその内容

配慮措置は、2022年10月1日から2025年9月30日まで設けられていました。

配慮措置の内容は、以下の通りです。

・目的:自己負担が1割から2割に移行した方の負担が急激に増えないようにする
・対象:75歳以上の2割負担の方が外来を受診した場合
・内容:負担増加額を月3,000円までとする

この措置が2025年9月30日で終了したことによって、2025年10月1日以降は完全に2割を自己負担する必要があるため、支払う金額が増加します。

2025年10月からの負担増加額

厚生労働省によると、配慮措置の対象となっていた人は、全国で約310万人(75歳以上の約15%)にのぼります。

この配慮措置が2025年9月30日で終了したことにより、2025年10月以降は2割負担が完全に適用されるため、自身で負担する金額がこれまでと比べて増加します。平均で年間約9,000円、中央値で年間約6,500円の負担が増えると見込まれているのです。

対象約310万人への具体的影響

2割負担に引き上げられた人の中でも、とくに医療機関の受診回数が多い方や、薬を継続して服用している方は自己負担が増える可能性があります。一方で、今回の改正によって、税金や現役世代からの保険料などから600億円程度、コストを削減できるといわれています。

また、医療費が高額な場合は、従来通り高額療養費制度の利用が可能です。高額療養費制度は、年齢や所得によって、1カ月あたりの自己負担額に上限が設定されています。

たとえば、自己負担割合が「2割負担」の区分に該当する場合、外来での自己負担上限は月18,000円(個人)、入院と合わせても上限が57,600円(世帯ごと)です。(2025年10月2日時点の情報に基づく)そのため、大きな医療費が発生した場合でも、上限額が定められており、家計からの高額な負担は防げます。

4. 今後の医療制度改革の方向性と展望

ここでは、今後の医療制度改革の方向性と展望を解説します。

2040年を見据えた医療提供体制の改革

85歳以上を中心に高齢者は2040年ごろまで増加すると予測されており、医療に対する需要はさらに高まるでしょう。一方で、2040年に人口は全国的に生産年齢人口を中心に減少すると予測されており、医療従事者の人手不足も懸念されています。

人口構造の変化に対応するには、医療DX(オンライン診療、電子カルテ共有など)、タスクシフト、タスクシェアなどを進めることが求められています。そして、限られた人員でも医療を継続できる仕組みをつくることが重要です。(2024年12月18日時点の情報に基づく)

現役並み所得者の3割負担対象拡大検討

政府は、2024年9月の閣議で「高齢社会対策大綱」を決定しました。高齢社会対策大綱は、政府が進める高齢社会対策の方針として高齢社会対策基本法に基づいて定めるものです。後期高齢者のうち医療費を3割負担する「現役並み所得者」の対象拡大に向けて検討を進める方針を示しました。

これは、働く世代に求められる負担を抑えるために行う見直しの1つです。現在「現役並み所得者」は、課税所得が145万円以上の方が該当しますが、今後は基準の見直しによってこの範囲が広がる可能性があります。

世代間負担の公平化と制度持続性の確保

後期高齢者医療制度の財源は、税金が約43%、働く世代の保険料が約37%を占めています。団塊世代が75歳を迎えることで、医療費総額の増大が進む中、働く世代が背負う負担をこれ以上大きくしないためには、制度の見直しが不可欠です。

そのため、軽度な症状での外来受診や、市販薬購入(OTC医薬品)については自己負担を増やし、重い病気の際には高額療養費制度で支援する方向性が検討されています。

さらに、健康保険組合連合会は2025年9月25日、医療費の自己負担を増やす方針を示しました。現在、原則70〜74歳は2割負担、75歳以上は1割負担としている年齢区分を5歳引き上げる案を提示しました。

高齢者の就労状況や、低所得者へ配慮しながら、今後は働く世代と同様に3割負担に近づけることを目指すものです。(2025年9月29日時点の情報に基づく)

まとめ

高齢化が進展する日本では、医療費総額の増大や働く世代が背負う負担が大きな課題とされています。働く世代の負担を和らげながら、医療保険制度を持続可能な形で維持することが求められています。

その対策の1つとして、2022年10月から後期高齢者医療制度に「自己負担2割」の区分が導入され、3年間設けられた配慮措置が2025年9月30日に終了しました。2025年10月以降は2割負担が完全に適用されるため、対象の方は自己負担額がこれまでと比べて増加します。

さらに、政府は後期高齢者のうち医療費を3割負担する「現役並み所得者」の対象拡大に向けて検討を進める方針を示しました。また、軽い症状での外来受診・市販薬購入(OTC医薬品)に対する自己負担を増やし、重い病気にかかった際は高額療養費制度で支援する方向性が検討されています。

中小企業経営者や個人事業主が抱える資産運用や相続、税務、労務、投資、保険、年金などの多岐にわたる課題に応えるため、マネーイズム編集部では実務に直結した具体的な解決策を提示する信頼性の高い情報を発信しています。

新着記事

人気記事ランキング

  • banner
  • banner