出国税3倍の引き上げに企業・観光業はどう備える?2026年7月開始の制度改正と実務対応を解説

2026年7月から出国税の引き上げが予定されているため、インバウンド需要への影響を気にしている宿泊業・観光事業者は多いでしょう。また、出国税は海外に出かける日本人も対象となるため、海外出張のコストアップを懸念する企業もいるかもしれません。

この記事では、出国税の引き上げが海外出張コストに与える影響や宿泊業・観光事業者が押さえておくべきポイントなどについて紹介します。

1. 出国税が1,000円から3,000円へ3倍引き上げ、2026年7月1日から適用

出国税とは、日本から外国へ出発する際に課される税金として、2019年1月7日から導入された税金です。外国人観光客の爆発的増加に伴う、さまざまな問題に対処するための財源確保を目的として導入されました。

2歳未満の子どもや乗り換え(トランジット)のために日本に入国し、24時間以内に出国する人など、一部例外はあるものの原則として日本人を含むすべての人が出国税を支払う必要があります。

ここでは、出国税の引き上げについて日程や税収の見通しなどを紹介します。

令和8年度税制改正大綱で正式決定、施行日と経過措置

令和8年度税制改正大綱にて、出国税の引き上げが正式に決定しました。2019年の導入以来、2歳以上の旅客1人あたり1,000円とされていた出国税は、2026年7月1日出国より3,000円に変更されます。

ただし、2019年の導入時と同様に経過措置として、2026年6月30日までに購入した航空券については、同年7月1日以降に出国する便でも出国税は従来通り1,000円に据え置かれます。

オーバーツーリズム対策と地方誘客の財源確保、年間1,500億円の税収見込み

近年、日本を訪れる外国人観光客が急激に増えたことにより、各地でいわゆるオーバーツーリズムといわれる問題が起きています。

訪日外国人数は、コロナ禍によりいったん落ち込みを見せたものの再び増加傾向にあります。それに伴って出国税税収も増え、2024年度には過去最高となる524億8,000万円に達しました。

出国税が3,000円に引き上げられ、かつ訪日外国客数に変化がなければ、出国税による税収は3倍の年間1,500億円になる見込みです。出国税による税収は、オーバーツーリズム対策や訪日客の地方への分散促進などに使われます。

日本人のパスポート手数料引き下げで負担軽減、実質増税の懸念も

政府は2026年7月より、日本人がパスポートを申請・更新する際の手数料を引き下げる方針です。出国税は日本人も対象のため、引き上げによる負担を軽減するのが目的とされています。

政府案では、現行の10年有効パスポートにかかる申請料金を16,000円から9,000円へ減額し、18歳未満が対象の5年有効パスポートもそれぞれ4,500円ずつ引き下げるとしています。なお、18歳以上の5年有効パスポートは廃止され、10年有効パスポートへ統一される見込みです。

しかし、パスポート申請料金が7,000円引き下げられたとしても、海外渡航頻度の高い人にとっては実質的な増税になることが懸念されています。今回の税制改正では、出国税が2,000円引き上げられるため、パスポートが有効な10年間のうちに4回以上海外へ渡航する人は出国税引き上げ前より負担が増えると試算できます。(2,000円×4回=8,000円>7,000円)

2. 企業の海外出張コストへの影響と年間増加額の試算

従業員の海外出張が多い企業では、出国税引き上げはコストアップにつながります。ここでは、出国税引き上げが企業に与える影響や年間のコスト増加額のシミュレーションなどを紹介します。

出張頻度別のコスト増加シミュレーション、家族4人で年間8,000円の負担増

出国税は出張や留学、旅行などの海外渡航の目的に関わらず課せられる税です。そのため、出張やレジャーなどで頻繁に海外へ行く人ほど負担は大きくなります。

また、原則として2歳以上から年齢に関係なく1人あたり3,000円かかるため、家族旅行であれば家族の人数が多いほど出国税の総額は大きくなるでしょう。

たとえば、家族4人で年に1回、海外旅行へ出かける家庭では、年間の負担額は12,000円(3,000円×4人)であり、出国税引き上げ前と比較すると8,000円(引き上げ額2,000円×4人)の負担増です。

同様に年に1回海外出張に行く人であれば、年あたり2,000円の負担増ですが、毎月出張に行く人は24,000円(2,000円×12回)となります。

出国税は企業の経費として計上可能、旅費交通費または租税公課での処理

出張として海外へ行く場合、基本的に出国税は企業の経費として計上可能です。経理の実務としては、旅費交通費または租税公課として処理するとよいでしょう。ただし、経費として認められるには海外出張が業務上必要であることが前提です。

海外出張した際は、現地で業務上必要な視察やミーティングを行ったことなど、あくまでも業務として海外に行ったことを証明できる報告書を作成しておくと安心です。

万が一、業務上必要であったと会社に認めてもらえない場合、会社が負担した出国税は給与として取り扱われるため、支給された人(出張した人)に所得税を納める義務があります。また、業務上不要な海外出張ではそもそも会社が費用を負担する必要がないため、出国税も含めた旅費を全額自己負担することを求められるおそれもあります。

観光併用の海外出張は按分計算が必要、業務従事割合の算出方法

出張のついでに観光するというケースでは、業務を行った日数の分だけ出国税を経費とすることが可能です。たとえば、5日間の日程のうち、4日を業務にあて、1日を観光に費やしたケースでは、出国税の80%は会社の経費にできますが、残り20%は個人で負担することになります。

業務従事割合の計算式:4(業務に従事した日数)÷ 5(出張日数)=80%

3. 旅費規程の見直しポイントと実務対応

企業が出国税を非課税の経費とするには、旅費規程に明記する方法があります。ここでは、旅費規程の見直しや実務対応で注意したいポイントを紹介します。

出国税3,000円を旅費規程に明記、経過措置の取り扱いに注意

従業員が出張する機会の多い企業は、経理処理を簡便にするために旅費規程を設けていることが多いでしょう。出国税3,000円も旅費規程に明記することで、海外出張のたびに経費を精算する手間を減らせます。

ただし、出国税の引き上げが行われるのは2026年7月以降であるものの、同年6月までに購入された航空券については、経過措置として出国税1,000円が適用されることに注意が必要です。

出張手当(日当)の適正額の見直し、非課税要件と税務調査対策

出張する従業員に対して出張手当(日当)の支給を、旅費規程で定めている企業は多いでしょう。旅費規程に定められた出張手当は原則として非課税となるため、企業にとっても従業員にとってもメリットがあります。

ただし、非課税となるのはあくまでも出張の目的や内容、従業員の地位などに対して日当の額が適切な場合に限られる点に注意が必要です。たとえば、一般社員が出張にグリーン車を使ったり、目的地の宿泊費相場を大きく超えた高級ホテルに泊まったりするのは、業務との関係性が認められず、経費として認められない可能性があります。

同様に出張の日当についても高額すぎると税務調査などで指摘されるかもしれません。産労総合研究所の調査によると、一般社員の国内出張の日当の平均は2,355円、海外では地域によって異なるものの4,000円〜5,000円です。出張手当の額を見直す際の参考になるでしょう。

また、税務調査が行われるときに備えて日当額を決定した根拠となる書類やデータなどを保管しておくことも大切です。

海外出張の経費処理と消費税の取り扱い、インボイス制度への対応

従業員の海外出張では、航空券代・宿泊費・日当のほかにビザ取得費用、保険料、外貨両替手数料などさまざまな費用について経費処理が必要です。

経理処理に際しては、取引が海外で行われるものについては、消費税がかからないことに注意しましょう。具体的には海外ホテルの宿泊費や接待費、交通費などが該当します。

一方、航空券代や国内の空港までの交通費など、国内で取引されるものは消費税がかかります。適格事業者から領収書(いわゆるインボイス)を受領していれば、インボイス制度による消費税の仕入税額控除も可能です。

4. 旅行業・観光事業者の価格転嫁と顧客対応

出国税は、原則として航空会社または旅行会社が料金に上乗せする形で徴収するため、プライベートジェットを利用する場合などの一部のケースを除き、個人が空港などで支払いを求められることはありません。

そのため、どのタイミングで出国税が必要になるのかわからず、旅行業・観光事業者へ問い合わせることも考えられます。ここでは、旅行業・観光業に携わる事業者が押さえておきたい顧客対応のポイントを紹介します。

ツアー料金への上乗せ方法と表示ルール、予約済み商品の取り扱い

出国税は、ツアー料金に上乗せされるのが基本です。料金表などに国際観光旅客税として明記されることが多いでしょう。ただし、商品によっては、空港利用税などその他の費用とまとめて「諸税」として表記され、個別に明記されない可能性もあります。

また、出国税引き上げの経過措置に伴い、2026年6月までに予約した商品については、同年7月以降の出発であっても上乗せされている出国税は1,000円です。

宿泊業での問い合わせ対応、航空券に上乗せされる仕組みの説明

一部の旅行客が出国税を宿泊費に含まれるもの、もしくはホテルなどで支払う必要があるものと勘違いする可能性があります。もし顧客から問い合わせがあった場合は、航空券に上乗せされる仕組みであることを説明し、宿泊施設では支払う必要がないことを伝えましょう。正しく回答できるよう従業員にも出国税の仕組みをあらためて周知しておくことが大切です。

また、出国税が引き上げとなるタイミングや、2歳未満の子ども・24時間以内の乗り継ぎなど出国税がかからないケースについても、必要に応じて情報提供を行うとよいでしょう。

インバウンド需要への影響、諸外国の出国税との比較

出国税の引き上げがインバウンド需要に与える影響は小さい可能性があります。世界で出国税と同様の税を課している国は多いうえ、日本よりも1人あたりの金額が大きい傾向にあるためです。

たとえば、オーストラリアでは2024年7月より出国税を60豪ドルから70豪ドル(約7600円、1豪ドル109円の場合)に引き上げました。また、日本からイギリスに渡航する際に利用する長距離便には、エコノミークラスで約1万円の航空旅客税がかかります。

日本の出国税3,000円は諸外国と比べて低い水準にあるため、訪日外国人客の動向に大きく影響することはないと考えられます。

まとめ

2026年7月から出国税が引き上げられることが決定しました。税収はオーバーツーリズム対策などに使われる予定です。また、日本人の負担増加を避けるため、パスポート申請費用の軽減が同時に実施される見込みですが、海外渡航頻度の高い人にとっては実質的な増税になる可能性があります。

特に従業員が海外出張する機会の多い企業にとっては、出国税引き上げは負担増加につながります。また、宿泊・観光事業者は、利用者からの問い合わせが増加する可能性があるため、従業員が正しい情報を把握しておくことも大切です。

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