
「中小企業投資促進税制を活用する」という節税術
中小企業が成長していくうえで、設備投資は欠かせない取り組みです。しかしその一方で、多額の資金を要するため、経営の大きな負担にもなりかねません。
そこで利用を検討したいのが、「中小企業投資促進税制」です。この制度を使えば、一定の要件を満たす設備投資について特別償却や税額控除が受けられ、大きな節税効果が期待できます。
今回は、設備投資によって生産性が向上し、節税で財務体質も強化できる「中小企業投資促進税制」について詳しく解説します。設備投資を検討している中小企業の経営者や個人事業主の方は、ぜひ参考にしてみてください。
中小企業投資促進税制とは
中小企業投資促進税制とは、中小企業の設備投資を後押しすることを目的とした税制優遇制度です。中小企業が一定の要件を満たす設備やソフトウェアなどを導入した場合、通常の減価償却に加えて、「特別償却」や「税額控除」といった節税メリットを享受できます。
この制度は、中小企業の生産性向上や経営基盤の強化を支援するために設けられたもので、設備投資による負担を軽減し、積極的な成長戦略を後押しする役割を担っています。
中小企業投資促進税制の対象事業者
この制度の対象となるのは、青色申告を行っている中小企業等です。具体的には、以下のいずれかの要件を満たす法人や個人事業主が該当します。
- 資本金または出資金が1億円以下の法人
- 常時使用する従業員が1,000人以下の法人(農業協同組合や商店街振興組合なども含む)
- 常時使用する従業員が1,000人以下の個人事業主(農家も含む)
対象となる業種は多岐にわたり、製造業や建設業、農林水産業、小売業、飲食業など、幅広い業種が制度の対象となっています。 ただし、一部対象外となる業種もあるため、中小企業庁の公式ウェブサイトで最新情報をご確認ください。
中小企業投資促進税制の対象となる設備
この税制の適用対象となるのは、中小企業の生産性向上などに資する以下の設備やソフトウェアなどです。
- 機械装置(1台あたり160万円以上)
- 測定工具及び検査工具(1台あたり120万円以上、または1台30万円以上のものを複数合計で120万円以上)
- ソフトウェア(1本あたり70万円以上、または複数合計で70万円以上)
- 貨物自動車(車両総重量3.5トン以上)
- 内航船舶(取得価格の75%以上が対象設備とされるもの)
対象範囲や要件は年度によって変動するほか、個別の設備によっては詳細な条件が定められている場合があります。必ず中小企業庁の公式ウェブサイトや税理士などの専門家に問い合わせて、最新情報を確認してください。
中小企業投資促進税制の節税メリット
中小企業投資促進税制の節税メリットとして、特別償却または税額控除ができることが挙げられます。これにより、企業の財務体質を健全化でき、中長期的な投資計画を立てやすくなります。詳しく見ていきましょう。
節税メリット1 特別償却(30%)で課税所得を圧縮できる
中小企業投資促進税制を適用すると、購入した固定資産について、通常の減価償却に加えて「取得価額の30%」を追加で経費計上(特別償却)できます。この特別償却によって、課税所得を大きく圧縮でき、企業のキャッシュフロー改善につながります。
例えば、70万円で企業業務ソフトを購入した場合だと、購入価格の30%である21万円を取得年度に経費として計上が可能です。
もし、会社の利益が500万円あり、法人税率を20%と仮定すると、通常であれば100万円(500万円 × 20%)の法人税がかかります。しかし、70万円のソフトウェアを導入し、21万円の特別償却を適用した場合、課税所得は479万円(500万円 – 21万円)に減少します。
この結果、法人税は約95.8万円(479万円 × 20%)となり、約4.2万円(100万円 – 95.8万円)の節税が可能です。
なお、特別償却と税額控除(7%)は併用できず、どちらか一方を選択する必要があります。どちらが有利かは、利益の状況や資金繰りなどによって異なるため、事前に検討しましょう。
また、中小企業経営強化税制という選択肢もあり、これについてはあとで詳しく解説します。
節税メリット2 税額控除(7%)が受けられる
中小企業投資促進税制を適用すると、特別償却のほか、税額控除を受けるという選択肢もあります。税額控除とは、法人税を計算後に、取得価額の7%を法人税から直接控除できる制度です。
先述と同様のケース(70万円で企業業務ソフトを購入)の場合、税額控除を受けると節税額は以下のようになります。
- 法人税(特別償却適用前): 100万円
- 70万円で企業業務ソフトを購入した場合の税額控除額: 4.9万円(70万円 × 7%)
- 税額控除後の法人税額: 95.1万円(100万円 – 4.9万円)
税額控除は、課税所得を減らす「特別償却」とは異なり、計算された法人税額そのものを直接減額できる点が大きな特徴です。
どちらの制度が有利かは、企業の課税所得の金額や今後の利益の見通し、資金繰りなどによって異なります。
例えば、多額の利益が出ていて課税所得を大幅に圧縮したい場合は特別償却が有効な場合もありますし、安定して利益が出ている場合は税額控除が有利なケースもあります。そのため、自社の状況に合わせてどちらを選ぶか慎重に検討することが重要です。
なお、どちらを選択すべきかの判断は専門的になるため、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
節税メリット3 企業の財務体質を健全化できる
中小企業投資促進税制を活用すると、課税所得の圧縮や法人税の軽減により、手元に残るキャッシュが増加します。結果として資金繰りが安定し、自己資本比率の向上にもつながり、財務体質の健全化が期待できるでしょう。
例えば、固定資産の導入で多額の支出があっても、税制の恩恵で税負担を抑えられれば、実質的な資金流出を軽減できます。このような余裕があれば、金融機関からの評価も高まり、将来的な融資や資金調達の面でも有利に働く可能性があります。
節税メリット4 中長期的な投資計画を立てやすくなる
税制優遇の適用を前提とした設備投資は、導入時期や投資規模の意思決定をしやすくするというメリットもあります。
特に中小企業では、設備投資に慎重になりがちですが、税制の後押しがあれば「今年度中に導入すれば節税できる」といった形で、明確な投資スケジュールが組みやすくなるでしょう。
また、制度の内容を把握し、あらかじめ導入計画と連動させておけば、中長期的な経営戦略の一環として無理のない投資判断が可能になります。これは結果として、持続的な生産性向上や業績改善にもつながっていきます。
中小企業投資促進税制を活用する際の注意点
中小企業投資促進税制を活用すると、大きな節税効果が期待できますが、いくつかの注意点があります。ここでは、必ず知っておくべき重要な注意点を解説します。
注意点1 最新の適用要件を確認する
中小企業投資促進税制は、適用対象や要件などが税制改正によって見直されることがあります。そのため、前年まで適用されていたからといって、同じ条件で今年も使えるとは限りません。
例えば、対象となる設備の種類や取得価格の下限、適用期間などは年度によって変更されることがあり、特にリース資産の取扱いや中古資産の可否なども注意が必要です。
直近では、令和7年度(2025年度)税制改正で、中小企業投資促進税制の適用期間が2027年(令和9年)3月末まで延長され、みなし大企業の判定方法が変更されました。
最新情報を把握しておかないと、節税を見込んでいたはずの効果が得られず、資金計画にも影響を与えかねません。
そのため、設備投資を検討する際は、国税庁や経済産業省、中小企業庁の最新資料をチェックしたうえで、必要に応じて税理士などの専門家にアドバイスを求めると安心です。
注意点2 中小企業経営強化税制との違いに注意する
中小企業投資促進税制と似た制度に「中小企業経営強化税制」がありますが、それぞれ対象要件や優遇内容が異なります。制度の違いを理解しないまま申請を進めてしまうと、適用外となるリスクがあるため注意が必要です。
例えば、中小企業経営強化税制では「経営力向上計画」の認定が必要になる一方で、投資促進税制ではそうした事前申請は不要です。また、経営強化税制のほうが即時償却や控除率の面で有利になる場合もあります。
経営強化税制だと、対象となる設備を導入する際は、即時償却または10%(資本金の額等が3,000万円超の法人は7%)の税額控除が受けられます。中小企業投資促進税制は、30%の特別償却または7%の税額控除になりますが、手続きが比較的簡単であることが大きなメリットです。
両制度は基本的に併用できないため、どちらが自社にとってより適しているのか、事前に税理士などの専門家と相談して慎重に選ぶようにしましょう。
この節税術に必要な心構えとは
中小企業投資促進税制は、設備投資を通じて生産性の向上と節税の両方を実現できる有効な制度です。特別償却や税額控除によって、法人税の負担を軽減しつつ、企業の成長基盤を強化することが可能になります。
ただし、制度には適用要件や手続きの細かな規定があるため、事前の準備と情報収集が欠かせません。
節税だけでなく、資金繰りや中長期的な経営戦略の観点からも、設備投資のタイミングや制度の活用方法を慎重に検討することが重要です。導入前には必ず、税理士など専門家に相談し、自社にとって最適な活用方法を見つけましょう。