「繰越欠損金を活用する」という節税術

[取材/文責]マネーイズム編集部

企業経営において、赤字はできれば避けたいものです。しかし、税務上は「赤字=無価値」ではありません。一定の要件を満たせば、過去に生じた赤字を将来の利益と相殺して、法人税の節税につなげる制度が用意されています。それが「繰越欠損金」です。

特に成長過程にある中小企業にとって、この制度を正しく理解し活用することは、将来的な税負担を軽減するための強力な経営戦略の一つとなります。

本記事では、中小企業の経営者向けに、繰越欠損金の基本から節税効果、注意点までをわかりやすく解説します。

繰越欠損金とは?基本的な仕組みをわかりやすく解説

繰越欠損金は、企業経営において一時的に赤字が出た場合でも、将来の税負担を軽減できる重要な税務制度です。

「赤字は節税につながる」と聞くと意外に感じるかもしれませんが、制度の仕組みを正しく理解すれば、経営にとって大きな武器になります。

まずは、繰越欠損金とは何かという基本的な考え方から確認し、その仕組みや活用のポイントを順に見ていきましょう。

繰越欠損金とは?赤字を将来の節税につなげる制度

繰越欠損金とは、法人が事業年度で生じた税務上の赤字(欠損金)を、翌期以降の事業年度に繰り越せる制度です。青色申告法人であれば、一定の要件のもと、この制度を利用できます。

将来黒字が出た場合、その黒字と過去の欠損金を相殺できるため、税金の支払いを抑えられます。

たとえば、前年に1,000万円の欠損金があり、当期に800万円の所得が出た場合、欠損金と相殺すれば課税所得はゼロとなり、法人税は発生しません。

このように、繰越欠損金は一時的な赤字であっても将来の節税に活かせる制度であり、「赤字を無駄にしないための仕組み」といえます。

欠損金の繰越控除の仕組みと節税効果

法人税法第57条に定められた欠損金の繰越控除は、青色申告をしている法人が利用できる制度です。正式には「青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除」と呼ばれます。

適用を受けることで、将来の課税所得から欠損金を差し引き、法人税・地方法人税などの税額を抑えられます。利益が出た年度であっても、過去の赤字の分だけ税金を納めなくて済むため、納税額を実質的にゼロにすることも可能です。

中小企業の場合、一定の要件を満たせば課税所得の全額を欠損金で控除可能です。一方、大法人では控除限度額が課税所得の50%(一部年度では60%)に制限されます。

この違いからも、繰越欠損金は中小企業にとって特に節税効果が高い制度だといえるでしょう。

繰越欠損金はどこを見れば分かる?申告書・別表の確認事項

「自社に繰越欠損金があるのか分からない」という経営者の方も少なくありません。 繰越欠損金がある青色申告法人として、毎年申告書を提出している場合、必ず確認すべきなのは、法人税申告書の別表七(一)です。

別表七(一)の正式名称は「欠損金の損金算入等に関する明細書」といい、繰越欠損金の残高、どの事業年度の欠損金か、繰越期限などが記載されています。

この別表が、将来の節税に使える「繰越欠損金の管理台帳」の役割を果たしているとイメージしてください。顧問税理士がいる場合は、決算書とあわせて説明を受けると理解が深まります。

繰越欠損金の仕訳と税効果会計の基本

税務上の繰越欠損金は、会計上では「税効果会計」と深く関係します。税効果会計の目的は、会計上の利益と税務上の所得のズレを調整し、適切な期間に法人税費用を認識することにあります。

将来の節税効果(将来、法人税を支払わなくて済む権利)が見込める場合、その効果を資産として評価し、「繰延税金資産」(勘定科目:繰延税金資産)として計上されることがあります。

ただし、将来黒字化の見込み、つまり繰越欠損金を確実に使いきれる見込みが不確実な場合は、この資産を計上できないケースもあります。

中小企業では、実務上、税効果会計を適用しない場合も多いですが、上場を目指す場合や大企業との取引がある場合は重要です。ここは会計・税務の専門判断が必要なため、税理士との相談が欠かせません。

繰越欠損金を活用する節税メリット

繰越欠損金は、単に税金を減らすだけでなく、企業の財務体質を強化し、将来の成長を支える戦略的な制度です。特に、創業期や成長過程で一時的に赤字を計上しやすい中小企業にとって、この制度は強力な武器となります。

ここでは、繰越欠損金を活用して得られる具体的な節税メリットを、4つのポイントに分けて詳しく解説します。

節税メリット1 将来の黒字と相殺して法人税を大幅に削減

繰越欠損金最大のメリットは、将来の黒字(課税所得)と相殺できる点です。

たとえば、過去に500万円の欠損金があり、今期に500万円の課税所得が出たとします。繰越控除を適用することで、今期の課税所得はゼロとなり、この500万円にかかる法人税、地方法人税、法人事業税(所得割)の全額が非課税になります。

もし繰越欠損金がなければ、この500万円に対して約30〜35%の税金(約150〜175万円)を支払う必要がありました。

このように、業績が回復し、利益が出たタイミングで手元のキャッシュが流出するのを防げるため、経営の安定につながります。事業拡大のための投資や運転資金に資金を回せるようになり、企業の持続的な成長をサポートする効果があります。

節税メリット2 中小企業は控除限度額の制限がなく有利

中小企業は、原則として繰越欠損金を課税所得の全額まで控除できます。

一方、資本金が1億円を超える大法人の場合、欠損金の控除限度額は課税所得の50%に制限されています(ただし、平成30年4月1日以前に開始した事業年度では60%などの制限がありました)。これは、国が中小企業の経営安定化と成長を特に支援する意図があるためです。

つまり、大法人が利益の半分に税金を払う必要があるのに対し、中小企業は過去の赤字の範囲内であれば利益全体から欠損金を差し引けるため、その年度の法人税負担をゼロにすることが可能です。

この優遇措置を最大限活用することで、税金として流出する資金を抑え、事業再投資に回せるのは大きなメリットです。大法人との違いを理解しておくことで、税務戦略を立てやすくなります。

節税メリット3 繰越期間10年で長期的な税負担軽減が可能

現在、繰越欠損金として控除できる期間は、欠損金が発生した事業年度から最長で10年間です。なお、平成20年4月1日〜平成30年3月31日までに開始した事業年度の欠損金は9年間でしたが、それ以降に発生した欠損金は10年間に延長されています。

この10年という長期の繰越期間が設定されていることで、企業は一時的な景気変動や設備投資による初期の赤字から立ち直り、本格的に利益を出し始めるまでの十分な時間を確保できます。

たとえば、創業から5年目にようやく黒字化しても、その後の5年間も過去の赤字を相殺し続けることが可能です。長期的な視点に立ち、何年後にどれくらいの節税効果が見込めるかを税理士と綿密に計画することで、将来のキャッシュフロー予測の精度も高まり、経営の安定に貢献します。

節税メリット4 キャッシュフロー改善と経営安定化に貢献

繰越欠損金による節税効果は、「タックス・シールド(税金の盾)」とも呼ばれます。これは、税金の支払いを抑えることで、企業の手元資金を守る仕組みです。

税金の支出が減れば、その分だけ運転資金や新規事業・設備投資に回せる余力が生まれます。特に、急な業績回復で多額の法人税が発生した場合でも、資金繰りのリスクを軽減できるでしょう。

繰越欠損金は、利益を成長の原資として留保することを可能にし、安定した資金繰りの確保、企業の財務体質強化、そして長期的な経営の安定化に貢献する重要な制度です。

繰越欠損金を活用する際の注意点

繰越欠損金は大きな節税効果をもたらしますが、その適用には厳格な要件や期限、制度の制限が存在します。これらのルールを誤ると、せっかくの節税機会を失ってしまうリスクがあります。

この制度を確実に活用するためには、メリットだけでなく、落とし穴となり得るポイントを事前に把握しておくことが重要です。

ここでは、中小企業の経営者が特に注意すべき4つのポイントについて解説します。

注意点1 青色申告が必須で適用要件を満たす必要がある

繰越欠損金による節税メリットを享受するためには、青色申告を行っていることが大前提となります。白色申告では、青色申告法人のような欠損金の繰越控除は原則として利用できません。

青色申告の適用を受けるためには、法人の設立から3ヵ月以内、または事業年度開始日の前日までに税務署へ「青色申告の承認申請書」を提出する必要があります。

さらに重要な点として、欠損金が発生した事業年度において、期限内に青色申告書を提出していることが必須条件です。この手続きを怠ると、せっかく生じた欠損金も将来の節税に活かすことができなくなってしまいます。

青色申告は欠損金の繰越控除以外にもさまざまな税制上の優遇措置があるため、設立時に必ず申請すべきでしょう。

注意点2 繰越期間10年の数え方と税制改正の影響に注意

繰越欠損金の繰越期間は最長10年ですが、欠損金が発生した年度の翌年度からカウントがスタートします。この期間は、個々の欠損金が発生した事業年度ごとに厳密にカウントされ、期限切れになると、たとえ黒字が発生してもその欠損金は永久に使えなくなってしまいます。

たとえば、令和5年3月期に欠損金が発生した場合、繰越期間は令和6年3月期からスタートし、令和15年3月期まで使用可能です。この間に黒字が発生すれば、欠損金と相殺して法人税負担を軽減できますが、令和16年3月期以降は期限切れとなり、残った欠損金は利用できません。

期限がいつまでなのか、またどの年度の欠損金から優先的に使っていくのかをきちんと把握しておく必要があります。そのため、先に解説した法人税申告書の別表七(一)を用いて、期限をしっかりと確認することが極めて重要です。

また、過去にも期間が9年から10年に延長されたような税制改正があったため、常に最新のルールを確認する必要がある点にも注意しましょう。

注意点3 合併・設立時の繰越欠損金には厳しい制限がある

合併や会社設立(組織再編)時に、過去の繰越欠損金を節税目的で利用することを防ぐため、税法上、欠損金を引き継げない、あるいは利用に制限がかかるケースがあります。

この制限は、「欠損金のある会社を買収して、その欠損金を自社の利益と相殺する」といった租税回避行為を防止するために設けられています。

節税目的だけの合併や、欠損金の不正利用とみなされる取引は、税務調査で否認される可能性が非常に高いため、細心の注意が必要です。特に、特定資本関係にある企業間の合併など、複雑な組織再編を伴うケースでは、必ず事前に税理士に相談し、適法性を確認しましょう。

注意点4 繰越欠損金を使わない・使えないケースもある

まず、企業が将来にわたって黒字化しない、または黒字化しても期限内に使いきれない場合、繰越欠損金は期限切れで消滅します。「使わない」のではなく「使えない」状態にならないよう、長期の経営計画が重要です。

一方で、あえて繰越欠損金を使わない方が有利になるケースも存在します。それは、「欠損金の繰り戻し還付」を受ける場合です。

これは、欠損金が発生した事業年度の前1年以内に法人税を納付している場合、その納付済みの税金の還付を受けられる制度です。繰越控除と繰り戻し還付は基本的に選択制であり、どちらが自社にとって有利かを税理士と綿密にシミュレーションし、判断する必要があります。

この節税術に必要な心構えとは

繰越欠損金は、正しく理解し、早めに対策すれば強力な節税手段になります。

一方で、要件や期限、税制改正など注意点も多く、自己判断はリスクを伴います。

「自社の繰越欠損金はいくら残っているのか」
「今後、どのように活用すべきか」

こうした疑問を感じたら、早めに税理士へ相談することが、結果的に最大の節税につながるでしょう。

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