
【相続 後編】国税OBが語る 財産に不動産を含む相続でやるべきこと、注意する点とは
木村和彦税理士事務所 所長 木村和彦氏不動産を含む相続は、揉めやすい
――ところで、不動産が絡んだ相続は、相続人が揉めやすいと聞きます。実際にはどうなのでしょうか?
木村 そういう傾向はあると感じます。不動産は、現預金などと違って、物理的に「分けにくい」うえ、高額になります。売却して現金化できたり、きっちり線を引いて分けられたりすればいいのですが、相続人の誰かが自宅に住み続けるような場合には、そうもいきませんよね。
このようなケースでは、相続で不動産を取得した人が、「もらい過ぎた分」を他の相続人に現金で支払ってバランスをとる「代償分割」という方法が、よく検討されます。ただし、そもそも不動産をもらう人に代償金を支払う能力がないと、このスキームは使えません。
「いくら支払うのか」で、揉めることも考えられます。例えば、代償金を支払う側が相続税評価額をベースにしたいと思っても、前編で説明したように、実際価格よりも割安になりますから、受け取るほうは納得しない可能性があるでしょう。
――この場合の評価額は、税金の計算とは別の意味を持ちます。
木村 さらに言えば、問題になるのは、表面上の価格だけとは限りません。そこに、「先祖代々の家を守るのだから」というような価値観が絡むと、話はさらにややこしくなります。
――どこかで妥協が必要なのだけど、それがなかなか難しい。
木村 分割の話し合いが難しそうだからと、子ども同士の共有にするケースもありますが、後々問題を生む可能性が高いですから、お勧めできません。共有のままでは、不動産の売却や活用が難しくなります。また、名義人が亡くなると、共有部分が相続されることになりますから、不動産の権利関係がどんどん複雑になってしまうのです。

――不動産の相続に関しては、きちんと分けるとか、1人の人が引き継ぐとか、その代で決着をつけていくことが大事だということですね。
木村 そうです。余談ながら、戦後も昭和の時代までは、家の中で父親の権限が強く、「家も財産も長男に継がせる。その代わり、親の面倒は長男がみなさい」という話が、それなりに通じたんですね。結果的に、それで相続争いに蓋をされていた面が、けっこうあったと思うのです。
今の時代では、父親がそのような権威を持ち続けているのは稀です(笑)。相続が原因で家族関係がおかしくなってしまった、といったことのないように、必要な手立てを講じておくべきでしょう。
話し合いの場を持つことが理想
――相続人が揉めないための手立てには、どのようなことがありますか?
木村 相続の遺産分割は、被相続人(亡くなった人)の有効な遺言書があれば、原則としてその通りに実行されます。きちんと遺言書を作っておいて、親の遺志をはっきり示すことで、無用の争いが避けられる可能性があります。
遺言書に関して言えば、当事務所には、例えば「遺産は、できるだけ長男に譲りたいから」といったかたちで、遺言書作成の相談にみえる方が、結構いらっしゃいます。このように、特定の相続人に多く相続させたいとか、遺産別に相続人を決めておきたいとかの希望がある場合には、遺言書を作成することで、それを叶えることが可能になるでしょう。
ただし、法定相続人には、「遺留分」といって、相続の際に必ず受け取れる遺産の割合が法的に認められていることには、注意しなくてはなりません。遺言書による相続分がゼロだったり、遺留分に満たなかったりした場合には、その相続人は、他の相続人に対して「遺留分侵害額請求」を行って、不足分を「取り戻す」ことができるんですよ(※)。
※遺留分、遺留分侵害額請求について 「不公平な相続」が発生したときどうする?遺留分侵害額請求の方法と、意外に短い時効に要注意 | MONEYIZM
――遺言書といっても、オールマイティではないわけですね。
木村 実際に遺留分侵害額請求ということになれば、それが原因で相続人の関係がぎくしゃくするかもしれません。遺言書を作成する場合には、それぞれの相続人の遺留分に配慮して、分け方を決めるのがいいと思います。
さらに言えば、遺留分は侵害していなかったとしても、親が亡くなってからいきなり遺言書を見せられた子どもが内容に不満を抱いて、トラブルに発展するようなことも十分あり得ます。揉め事を起こさないという点では、事前に家族に遺言の中身、例えば「長男には家を守ってもらいたいから、遺産を少し多めに渡したい」といった相続についての考えを話し、理解を得ておくのがベストといえます。まあ、言うほど簡単なことではないのですが。
――特に子どもの側から相続の話を切り出すのは、なかなか難しいと思います。「縁起でもない」とか、「財産目当てなのか」とか言われそうで(笑)。
木村 そういうこともあって、我々は、気軽に足を運びやすい無料の相談会を開いているんですよ。「税金が心配だから、一度いっしょに相談してみよう」と、親をそうした場に誘うというのも、1つの方法かもしれません。
――いきなり相続の話を切り出すよりも、スムーズにいく感じがします。
木村 この前、相談に来た高齢の男性は、「娘に『きちんと遺言書を書いておいてほしい』と言われて」とおっしゃっていました。親子関係にもよると思いますが、案外子どもが真剣に話せば、親も「考えてみようか」という気持ちになるかもしれません。
「二次相続」まで考えた対策を
――不動産については、まずその評価額を把握することが必要だ、というお話がありました。その結果、高額の相続税が課税されるような場合、対策としてはどのようなことが大事になりますか?

木村 自宅などの相続には、「小規模宅地等の特例」という制度があります。相続税のせいで自宅に住み続けることができなくなる、などの事態を避けるためのもので、土地の評価額を最大80%減額することが認められているんですね。この適用を受けたおかげで、相続税の課税そのものを免れることも、珍しくありません。
非常にメリットの大きな制度ですが、あくまで特例ですから、例えば「被相続人と同居していた」「適用を受ける人が自宅を持っていない」といった要件があります。まずは、そうした要件を満たして、この特例が使えるかどうかを検討すべきでしょう。
また、これは不動産絡みの事案に限らないのですが、両親のどちらかが亡くなる「一次相続」と、残った親が亡くなる「二次相続」をトータルに対策を考えることが、とても大切です。
――例えば、父親の相続で、配偶者控除(※)を目いっぱい使って母親に遺産を相続してもらえば、目先の相続税を圧縮できるけれど、母が亡くなった際には、税額が大幅に膨らむかもしれません。
※相続税の配偶者控除 夫婦のうちのどちらかが亡くなり、配偶者が遺産を相続した場合、その遺産額が「1億6,000万円」または「法定相続分」までは、相続税が非課税とされる制度。
木村 そうしたことも含めて、二次相続までを考えた納税額のシミュレーションが必要になるのです。支払うべき税額がわかって、次にその資金をどのように用意したらいいのか、という対策の話ができるでしょう。なんの準備もなく、いきなり「納税額は、こうなります」と言われても、できることは限られてしまいます。
――相続ではないのですが、不動産については、「相続時精算課税」なども使って生前贈与する、という方法もあります。
木村 相続時精算課税は、贈与税非課税で贈与を受けて、相続が発生したときに相続税で納税する、というやり方です。いわば、納税の先送りですが、不動産の場合には、贈与時の評価額をベースに税額が計算されるため、相続発生時に実勢価格が値上がりしていれば、節税につながります。値下がりしたら、逆の結果になるのですが。
生前贈与は、自分の死後に遺産分割が行われるのと違い、渡したい相手に、より確実に財産を渡すことができる、というのもメリットです。そうした点と税負担についてよく検討したうえで、贈与を選択するのもいいと思いますよ。
――わかりました。最後に、貴事務所の今後の展望について、お聞かせください。
木村 高齢化の進展で、相続の申告件数はますます増加が予想され、課税強化の動きも避けられないでしょう。我々のような専門家のサービスに対するニーズも、高まるものと思われます。地域密着型の税理士事務所として、他の士業などとも連携しながら、そうした期待に応えていきたいと考えています。
――貴重なお話をありがとうございました。今後のご活躍を期待しています。
注:記載の「事例」に関しては、情報保護の観点により、お話の内容を一般化したり、シチュエーションなどを一部改変したりしている場合があります。
国税庁、税務署での勤務経験を活かし、深度ある税務戦略を提供する大阪の税理士事務所。500件以上の相続相談実績を持ち、生前対策から相続発生後の対策まで、相続の悩みにも幅広く対応する。
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