
【事業承継 前編】事業承継・M&Aには「過去の会計処理」が大きく影響する
IMAS総合会計事務所 代表税理士 石津友幹氏中小企業の事業承継が社会問題になっている。後継者難に伴い、近年はM&Aも増えているが、特にその際に「会社の会計」が問題になりやすいのをご存じだろうか。ネックになる会計処理にはどのようなものがあるのか、事業承継をスムーズに進めるために日頃から心掛けるべきこととは? 今回は、「会社の“入り口から出口”まで伴走する」ことをミッションに掲げるIMAS総合会計事務所の石津友幹代表税理士に話をうかがった。
記事は、「前編」で中小企業の事業承継・M&Aの現状や問題になりやすい会計処理について、「後編」で将来の選択肢を狭めないために、経営者が考えるべきことなどについてまとめた。
まだまだ少ない中小企業のM&A
――先生は税理士になる前に、事業会社での仕事を経験されているそうですね。
石津(敬称略) はい。BtoC、BtoBの営業を10年近くやり、中小企業の経営者の方にも数多くお会いしました。その経験が今の仕事の根幹にあり、経営者に寄り添った課題解決のご提案ができるところは、強みの1つだと思っています。
その後、大手税理士法人での勤務を経て、昨年この事務所を立ち上げました。顧問先は9割が法人で、年齢的には50〜60代くらいの経営者が多いこともあり、事業承継を含めた将来設計が現実的な課題となっていますね。
――今回は、その事業承継・M&Aについてうかがっていきたいと思います。承継に悩む経営者は多いと思いますが、先生は現状をどのようにみていらっしゃいますか?

石津 やはり後継者不足は深刻です。かつては当たり前だった「子どもが家業を継ぐ」というパターンは当たり前ではなくなって、従業員承継やあるいはM&Aを検討することが、普通の選択肢になりつつあります。
ちなみに、国もこの問題を重視していて、例えば親族や従業員が継いだ場合には、自社株に課税される贈与税・相続税の納税を猶予する事業承継税制を設けています。適用を受けるのに必要な特例承継計画の提出期限は、2026年3月末までとされていましたが、2026年度税制改正で2027年9月末まで延長されました。
ただ、この制度は承継後にも結構ハードルの高い順守要件があり、満たせないと利子税を含めた納税を求められます。そのため、いまひとつ利用率が上がらない現実がありますね。
――そのような状況もあり、ご指摘のようにM&Aも増えているようです。
石津 日本国内のM&Aは年間5,000件程度ともいわれます。全体の件数が右肩上がりに増えているのは確かでしょう。ただし多くを占めるのは、上場企業が事業の拡大や効率化のために手掛けるM&Aではないか、と私は感じています。前職の税理士法人時代に、大企業が吸収合併や買収をそれこそ当たり前のように繰り返すのを目の当たりにしてきましたから。
裏を返すと、中小企業の事業承継の手段としてのM&Aは特別なことではなくなっているものの、成約に至る件数はまだまだ少ないと思うのです。結果的に、後継者や買い手が見つからず、利益は出ているのに廃業せざるを得ないようなケースが後を絶たない…というのが実状ではないでしょうか。
事業承継はすぐにはできない
――経営者としても、承継準備の必要性はなんとなく認識しているものの、なかなか実行に移せないという話も聞きます。
石津 特に創業者の方は、自分がずっと育ててきた事業からリタイアすることには、かなり抵抗があるでしょう。それに、今の60代、70代はみなさん元気ですから、「まだまだやれる」という気持ちも持っている。事業承継やM&Aは、「その時が来たら専門家に相談すればいい」という感覚の方も多いのではないでしょうか。
しかし事業承継は、必要に迫られてから取り掛かろうとしても、思い通りにはいかないと考えてください。スムーズな引継ぎが難しくなることに加え、無理をすれば会社の将来に問題を残すかもしれません。
こんな話を聞いたことがあります。ある会社で、社長が親族外の役員を後継者にしたいという思いを持っていたものの、具体的な準備に着手する前に社長が亡くなってしまいました。事業についてはその役員だった人が引き継いで新社長になったのですが、問題は自社株で、多くを経営には関与しない創業家の親族が相続したんですね。その状態だと、いつ社長を解任されてもおかしくない、と新社長が不安になっていたそうです。
現状、親族の方は「経営については信頼してすべてお任せします」というスタンス。でも、もしその人たちが亡くなって株が相続されれば、会社の議決権は別の人に移ります。
――相続などで自社株が分散すると、安定した経営を維持するために、社長が高値での買い取りを余儀なくされるようなことも考えられます。
石津 会社の将来や後継者のことを考えるのならば、前社長が生前に株を渡しておく、といった対策も事前に検討すべきでした。
見落とされがちな会計処理の問題とは

石津 事業承継においては、子どもや従業員の能力や適性の不足がネックになる場合もありますが、逆に継ぐ側からみて、その会社が承継したいと思える状態にはないことも少なくありません。
業績不振だったり、大きな負債を抱えていたりするのはわかりやすいと思いますが、意外に見落とされがちなのが「過去からの会計処理」なんですよ。特にM&Aの場合には、大きな問題になりかねません。
あえて言えば、ルーズな処理を続けていると、事業承継の選択肢を狭めてしまいます。私は実際にそうした会社を数多く見てきました。
――具体的には、どのような会計処理が問題になるのですか?
石津 典型的なものは2つあります。1つは、使途のはっきりしないお金が、役員貸付金として積み上がっているケースです。他の会計事務所からチェンジしてきたお客さまで、役員貸付金の科目が数千万円になっているようなケースを複数見たことがあります。しかもよく見ると20年くらい前から行われている処理なのに、「今まで気がつかなかった」とおっしゃるのです。
――そうなんですか。なぜ、そんなことになってしまうのでしょう?
石津 お話をうかがうと、「税務・会計については税理士に“丸投げ”で任せていたから、よくわからない」と。本来会社の決算は、株主総会で決算書の承認を受けた後、申告書を作成し、それをさらに会社が承認して申告を行う、というプロセスが必要です。ところが割と多いのが、税理士側で申告まで済ませた後に、社長のところに最終報告が来るパターン。しかも、経営者の方はその内容も詳しく見ていないわけです。
――今期も無事に納税まで済ませることができた、という感じで済ませてしまう。
石津 でも、これはものすごく大きな税法上のリスクなのです。会社が貸し付けたお金である以上、税務上適正とされる利率で利息を立てる必要があります。利息も立てず、返済の実態もないまま放置されていれば、貸付金そのものが役員賞与とみなされる可能性があります。その場合には、「賞与なのに、源泉徴収されていないのはどうしてですか?」という話になります。
M&Aの際に、買い手側のDD(※)でこうした会計処理の状況が発覚すれば、「買い叩く」格好の材料になるでしょう。場合によっては、それが原因で破談になるかもしれません。
※DD デューデリジェンス。会社の買収や投資を行うにあたって、対象となる企業や投資先の価値、リスクなどを調査すること。
問題になりやすい会計処理の2つ目は、「行き過ぎた節税」です。いうまでもなく、法人税は会社の儲け(利益)に課税されます。節税のためには、できるだけ利益を圧縮することがポイントで、実際にさまざまな手法があるわけです。
しかし、節税のために利益を抑え、結果的に純資産も小さいままの会社は、外からはどのように見えるでしょうか。やはりM&Aの際の評価額への影響は避けられません。つけ加えれば、そのような決算書は金融機関の融資などでも不利に働きます。
――節税の意識を持つことは必要ですが、無理して目先の利益を抑えるようなことを繰り返していると、将来的に大きなデメリットになる危険性があるわけですね。
「後編」では、事業承継・M&Aの選択肢を狭めないために、日頃から心掛けるべきことなどについて、引き続きお話をうかがいます。
注:記載の「事例」に関しては、情報保護の観点により、お話の内容を一般化したり、シチュエーションなどを一部改変したりしている場合があります。
メーカーの法人営業として10年間、経営者と商談を重ねてきた経験を活かし、経営者が本当に必要としている意思決定に伴走する市川の会計事務所。特に事業承継・相続・M&Aに強みを持ち、法人から個人事業主まで、多様な業種・規模の税務顧問に対応。
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