
【DX 後編】中小企業のDXのよき相談相手を目指し RPA、AIを活用した業務改革を推進中
税理士法人CROSSROAD 代表社員 三嶋政美氏「ICTベンダーと会話ができる」顧客の代理人に
――昨年末には、RPA推進室をデジタル戦略推進室に衣替えした、と前編でうかがいました。その狙いや具体的な取り組みを教えてください。
三嶋 当社のクライアントである中小企業の多くは、DXを進めなければ、という意識を持ちながら、実際には「場当たり的」なICTの導入を行ってきた現実があります。例えば経理は経理のシステム、人事はまた別のシステムというように「部分最適」のICT化を実行した結果、それぞれをつなぐために人手が必要になる。せっかく新しいシステムを入れたのに、逆に現場が疲弊してしまう、という笑えない状況が生まれているわけです。
――そういう話は、いたるところで耳にします。
三嶋 どうしたらそれが改善できるのかも、お客さんにはよくわからない。そこで、当社がDX化についての「お困りごと」に応えられるよき相談相手、アドバイザーになろう、と。そのための戦略を立案し、実行の旗振り役を担うというのが、新たな推進室の位置づけです。
相談相手にもいろいろあると思うのですが、中小企業の立場になってみると、例えば自分の代理人としてICTベンダーと会話をしながら、「全体最適」のDXをサポートしてくれたら、こんなに頼もしいことはないでしょう。そんな存在になるのが、当社の目指すところです。
そのためにも、自社の業務のDX化をさらに前に進めていく必要があります。
データの「鍵」を取り払う
――その原動力がAIの活用なのですね。
三嶋 ここでいうAIの活用は、生成AIに質問してどうこうという話ではありません。目標達成に最適な手段を自律的に選択して仕事をするAIエージェントをベースに据えた業務の効率化、高付加価値化を進めていく、ということです。
課題になったのが、「データの分断」でした。実は「部分最適」は他人ごとではなくて、当社も最先端だと思って導入してきたシステム・ツールが、結果的にツギハギ状態で稼働していたんですね。

それぞれのデータに鍵がかかったような状態で、相互の連携は困難でした。それでは、AIエージェントが自由に動き回ってタスクを実行することは不可能です。
そこで、最初のステップとして取り組んでいるのが、AIが自在にデータを読みに行くことのできる「オープンな環境」作りなんですよ。概要をお話しすると、「Google Workspace」と、グループチャットなどができる「Slack」を導入、連携させる形でシステムの基盤を刷新し、社内の各所にあった鍵を外します。
さらにその“土台”をベースに、「Notion」を導入し、議事録や顧客情報などすべての情報のデータベース、いわば“脳”を構築します。最終的には自社開発のAIエージェントに、その脳を使って手足を動かしてもらう。これが当社のAI活用の基本戦略になります。
――その戦略の実行により、どのような成果を見込んでいるのですか?
三嶋 例えば、「会計レビューの自動化」があります。お客さまの決算の際に、担当者が会計処理をした後、必ず上司が「この仕訳は間違っているのではないか」といったレビューを行います。これを会計データにアクセスしたAIにやらせれば、大幅な業務の効率化が実現するでしょう。
サービスの品質向上という点では、「商談のスコアリング」を考えています。お客さまとの対話の録画、録音を基に、AIにあらかじめ設定した指標に従ってその内容を点数化させるのです。評価に使おうとかいうのではなく、点数が低かった部分を上司が参照し、必要があればお客さまに追加提案をしてサービス品質の向上を図るとともに、本人に改善点をフィードバックするなど、教育指導に役立てることも想定しています。
――なるほど。仕事のやり方や中身は、がらりと変わりそうです。
三嶋 以前からナレッジマネジメントの重要性が指摘されていますよね。個人の持つ知識やノウハウを組織全体で共有し、生産性の向上などにつなげていく経営手法です。でも、実際にはなかなかうまくいきませんでした。知識の蓄積といっても、仕組みとして機能させるのには限界があったわけです。
しかし、AIがここまで進化したことで、状況は一変しました。どんなデータでも、とりあえず“脳”に放り込んでおけば、AIがそこから必要なナレッジを拾い上げて、仕事をしてくれるわけですから。その環境を最大限活用していこうということなんですよ。
現場の戸惑いには丁寧に対応
――企業がDXを進めようとするとき、社内で起こる「抵抗」がネックになるという話もよく聞きます。先進的な取り組みを行っている貴社ですが、その点はどうだったのでしょうか?
三嶋 「Google Workspace」を導入した、とさらっといいましたけど、当社はずっと「Microsoft 365」を使っていたんですね。この「転換」のインパクトがどれほど大きいか。慣れ親しんだExcelやWordをやめて、いきなりスプレッドシート、ドキュメントの世界になるわけですから。
――それはけっこう大変ですね。
三嶋 会計ソフトなども入れ替えを行いました。当然、現場からは「前のほうが使いやすかった」といった声が聞かれましたよ。今現在も、そういう面でのストレスを抱えている社員がいることは理解しています。
でも従来のシステムのままでは、お話ししてきたようなAIドリブンな組織というものは、実現できないわけです。ですから、ある程度強制的に「変えるべきものは変える」というスタンスを貫いてきました。背景には、時代を見越して変化していかなければ、競争に勝ち残っていくことはできない、という危機感があったわけです。おかげさまで、現場はみんな文句をいいながらも頑張ってくれています。
――リーダーの強い意志というのは、重要だと思います。
三嶋 とはいえ、私一人が騒いでいるだけでは、ここまで進まなかったでしょう。西田をはじめICT、AIに強いメンバーたちがサポート役にいる。社内にそういう体制が築けているというのも非常に大きいと思います。
西田 戸惑いを感じているような人のところには、けっこうこまめに自席まで行って、話を聞くように心がけています。チャットツールも積極的に活用します。例えば、新しいロボットが稼働するときなどには、「みなさん利用してみてください」と使い方を説明したり。さきほどお話しした工数削減も、そうやって徐々に進んできた実感がありますね。

デジタル戦略推進室の西田清和氏
DX化のポイントは業務フローの設計にある
――自社で蓄積したDXのノウハウなどをベースに、お客さまにさまざまなサービスを提供していきたいというお話でした。中小企業のDXの現状については、どうみていますか?
三嶋 若い経営者だったりスタートアップであったりというところには、AIの本格的な活用を視野に入れているような会社もありますが、それは例外に近いですね。大半の中小企業は、依然として「紙文化」で非常にアナログ的な業務スタイルのままです。
先日も、歴史のある製造業の会社から業務効率化についての相談を受けて、バックオフィスを見せてもらって驚きました。6枚複写の伝票に手書きで記入されたものが関係部署に回っていく、という「昭和のやり方」が残っていたのです。
ただ、多くの経営者の方はそのままでいいという認識ではなくて、なんとか効率化を図りたいと思っている。ですからDX化に対するニーズは非常に高いものがあります。中でも、100名規模以上の会社にはそういう意識が強いと感じます。
――会社によって状況は違うと思いますが、DX化を実行するときのポイント、注意点には、どのようなものがありますか?
三嶋 最大のポイントは、「まず考えるべきなのは、どんなシステムを入れるかではなく、業務フローの設計である」ということです。
我々がサポートに入る際には、最初に現場のヒアリングを行って、業務フローを可視化するところから始めます。そうすると、必ずといっていいほど、例えば必要性の薄れた業務をただ引き継がれたからやっているとか、仕事がダブっているなどの無駄や非効率があぶり出されてきます。そういうところを改めて、業務がスムーズに流れる形を作るのが先決です。

前提条件が整ってこそ、DXはうまくいく。それをやらずに「部分最適」のシステム化を目指そうとするから混乱してしまうのです。
――順番を間違えないことが大事ですね。
三嶋 さらにいえば、業務フローを設計して、適したシステムを導入しても、現場で使われなければ意味がありません。仕組みを作るのも非常に重要です。手前味噌ですが、当社がサポートする場合には、従業員の方への説明資料を作成したりして、実際に使ってもらうところまでフォローします。
西田 今の「実際に使ってもらう」というところのサポートが、日本ではものすごく弱いんですよ。当社にそれができる人材を増やしていくことには、大きな意味があると思っています。
――今回は、貴社の実際の取り組みを中心に、貴重なお話をうかがうことができました。最後に、今後の展望についてお聞かせください。
三嶋 AIの活用を本格化させることなどにより生産性を上げ、1人当たりの売上を今の1・5倍まで引き上げる、という目標を掲げています。平均給与も同じ比率でアップさせて、他の企業に負けない人材を確保できるような好循環を実現していきたいですね。そうした人材を武器に、将来的には「DXやAIならCROSSROAD」という存在を目指したいと思っています。
――グループのさらなる飛躍を期待しています。
注:記載の「事例」に関しては、情報保護の観点により、お話の内容を一般化したり、シチュエーションなどを一部改変したりしている場合があります。
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