医療費控除を受ける場合や、控除漏れが見つかった場合など、年末調整をした後で確定申告をするケースも多いです。この場合、気になるのが、確定申告と年末調整で給与所得や所得控除などが重複してもよいのかということです。この記事では、確定申告と年末調整で重複するケースや、重複しても良いのかどうかについて解説します。
確定申告と年末調整の違い
確定申告と年末調整が重複しても良いのかどうかを見ていく前に、確定申告と年末調整それぞれの概要について見ていきましょう。
そもそも確定申告とは
そもそも確定申告とは1年間の収入や経費、所得金額や納める所得税の金額を納税者自身が計算し、国に申告することをいいます。
日本の税金には、賦課課税方式と申告課税方式の2つがあります。賦課課税方式とは、国や自治体などが税額を計算し、納税者に通知する方法です。例えば、固定資産税や自動車税などが賦課課税方式の税金です。
申告課税方式とは、納税者が自分で税額を計算し納税する方法です。所得税は、申告課税方式の税金です。そのため、その年に収入のあった個人は原則、自分で確定申告書を作成し、申告期限内(翌2月16日から3月15日)に、税務署に申告書を提出し、所得税を納める必要があります。
サラリーマンは、後述する年末調整を行うため、基本的には確定申告をする必要はありません。そのため、所得税の確定申告を行う人の大部分は個人事業主になります。
年末調整とは?確定申告との違い
原則、その年に収入のあった個人は、確定申告をする必要があります。しかし、労働人口の多くを占めるサラリーマンが、すべて確定申告をするのは難しいです。そこで、サラリーマンには年末調整の制度があります。
年末調整とは、毎月の給料から概算の所得税を天引きし、1年間の給料額が確定する年末に、過不足を調整する所得税課税のしくみです。
確定申告と年末調整の大きな違いは、所得税の計算や納付を誰がするのかということです。確定申告は、納税者本人が所得税の金額を計算し、国に納付します。一方、年末調整では、勤務先の会社が従業員本人に変わって、所得税の金額を計算し、国に納付します。
サラリーマンは、年末調整で所得税の手続きが完了するので、確定申告をする必要がありません。
確定申告と年末調整が重複したらどうなる?
ここまでは、確定申告と年末調整の違いについて見てきました。ここでは、確定申告と年末調整が重複したらどうなるのか見ていきましょう。
確定申告と年末調整で重複する内容
大きく分けると、個人事業主が確定申告をし、サラリーマンは年末調整をします。それでは、確定申告と年末調整が重複するとは、どのような状態のことを指すのでしょうか。それは、年末調整のあとに確定申告をするようなケースです。こうしたケースは主に確定申告者がサラリーマンである場合に起こります。
例えば、医療費控除は年末調整で適用することができないため、確定申告をする必要があります。この場合、年末調整をせずに確定申告するのではなく、いったん勤務先の会社で年末調整をした後、従業員本人が確定申告を行います。
また、勤務先に控除証明書を出し忘れたなどの理由から、年末調整で本来受けられる所得控除が受けられなかった場合も、確定申告をすることで控除を受けることができます。
それでは、年末調整の後に確定申告をする場合、確定申告書には何を記載するのでしょうか。
残念ながら、所得控除の金額だけを記載すればよいというわけではありません。確定申告書には、年間調整後に受け取る源泉徴収票の内容をすべて記載する必要があります。
具体的には、源泉徴収票に記載されている1年間の給料支給額や、社会保険料控除などの所得控除金額、年末調整後の所得税の金額などを、確定申告書に記載します。そのうえで、医療費控除の金額や漏れている所得控除の金額を記載し、所得税の金額を再計算することになります。つまり、源泉徴収票の内容は、年末調整と確定申告で重複します。
確定申告と年末調整は重複してもよい
年末調整の後で確定申告をする場合、源泉徴収票に記載されている給料収入の金額や所得控除の金額を確定申告書に記載しますが、所得控除を二重で受けることになるのではないかと、不安になる人も多いでしょう。
しかし、確定申告と年末調整の内容は重複しても問題ありません。むしろ、確定申告では1年間の収入の情報をすべて記載しないといけないため、必ず重複します。
それでは、税務署や市役所などの自治体に、同じ人の年末調整の書類(源泉徴収票)と確定申告書が届いた場合は、どのように扱われるのでしょうか。この場合は、確定申告書の内容を優先します。このことからも、確定申告と年末調整の内容は重複しても問題ないことが分かります。
確定申告と年末調整が重複する場合の具体例
ここでは、具体例で確定申告と年末調整が重複した場合の処理を見ていきましょう。確定申告と年末調整が重複する場合の確定申告における税額の計算は、次の流れで行います。
・給与所得控除後の金額から所得控除の金額を差し引き、課税される所得金額を求める
給与収入には、個人事業主と違い、原則、経費の計上が認められていません。その代わりに、給与収入額に応じた一定の給与所得控除が認められています。源泉徴収票では、給与所得控除後の金額が記載されています。給与所得控除後の金額から、所得控除の金額を差し引くことで、所得税の対象となる給与所得金額を求めることができます。
・課税される所得金額に所得税率を乗じ、所得税額を求める
課税される所得金額を求めたら、次に所得税率を乗じ、所得税額を求めます。所得税率は、所得金額に応じ、次の表のように決まっています。
給与所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
・求めた所得税の金額と源泉徴収税額を比較し、納付額または還付額を求める
確定申告で所得税額を求めたら、給料から天引きされている所得税の金額(年末調整後)と金額を比較し、差額を求めます。給料から天引きされている所得税の金額が不足している場合は国に納付し、逆に天引きされている所得税の金額が多い場合は還付を受けます。
例)医療費控除を受けるために、年末調整後に確定申告をおこなった。年末調整後の源泉徴収票の数字は、次の通りである。
- 支払金額(1年間の給料の金額)4,000,000円
- 給与所得控除後の金額 2,760,000円
- 所得控除額の合計額 430,000円
- 源泉徴収税額(年末調整後)135,500円
なお、医療費控除を計算した結果 150,000円だった。
・給与所得控除後の金額から所得控除の金額を差し引き、課税される所得金額を求める
・課税される所得金額に所得税率を乗じ、所得税額を求める
上の所得税率の表に当てはめると、課税給与所得金額2,180,000円の所得税率は「所得税率10%-控除額97,500円」です。
・求めた所得税の金額と源泉徴収税額を比較し、納付額または還付額を求める
求めた所得税額120,500円と源泉徴収票の源泉徴収税額(年末調整後)135,500円を比べると、天引きされている所得税の金額が多いです。
そのため、135,500円-120,500円=15,000円の還付を受けることができます。
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まとめ
ここまで解説してきたとおり、医療費控除など年末調整の後で確定申告を行う場合は、年末調整の数字を基に、そこに医療費控除などの金額を加えて、所得税の金額を計算しなおします。そのため、年末調整と確定申告で重複して控除を受けることはありません。また、確定申告の数字が最終の数字とみなされます。
年末調整後に確定申告を行う場合は、重複を気にせず、正しく計算を行うようにしましょう。