個人事業主の税金と節税 これだけは知っておきたい知識とは | MONEYIZM
 

個人事業主の税金と節税
これだけは知っておきたい知識とは

税金や節税に関心のある人は多いでしょう。個人事業主の場合、自分の意思で必要経費に計上できる点で会社員とは大きく異なります。しかし、税金や節税の情報が氾濫しているため、どこから勉強すればよいのか分からないかもしれません。そこで、これだけは知っておきたい税と節税の知識について解説します。

個人事業主に関係する税金

納める税金の種類

個人事業主が納める税金の種類は次の通りです。

(1)所得税

所得税とは、「所得=もうけ」に対して所得税率を掛けて計算する税金です。そのため、もうけの金額に比例して納める税額も高くなります。

(2)復興特別所得税

復興特別所得税とは、東日本大震災からの復興財源を確保するために設けられた税金です。2037年まで上記(1)所得税に加え、所得税の2.1%が課税されます。

(3)住民税

住民税は「前年の所得に対して税率を掛ける所得割」と「所得の金額に関係なく定額で課税される均等割」に大別されます。

(4)事業税

個人事業主の場合、特定の事業(70種類の法定業種)に対する税金です。所得に対して3~5%の税率を掛けて計算します。

(5)源泉所得税

源泉所得税とは、所得税の前払いに相当する税金であり、源泉所得税を天引きした額が報酬として入金されます。個人事業主の場合、「本人の収入金額から源泉所得税が天引きされるケース」と「支給する給与から源泉所得税を天引きするケース」の2パターンがあります。

申告と納税の基礎知識

申告と納税をするにあたり、知っておきたい基礎知識について見ていきましょう。

確定申告の対象税目

そもそも個人事業主の確定申告とは、自分で計算した所得税と復興特別所得税を税務署に申告し、納付する一連の手続きです。申告したデータをもとに住民税と事業税が自動的に計算され、自治体が本人に納税額を通知する仕組みになっています。その通知された住民税と事業税を納めます。

所得税の計算式を理解する

所得税の計算式の理解が、所得税のみならず、復興特別所得税・住民税・事業税の節税対策を知ることにつながります。それでは計算式を見ていきましょう。

(1)合計所得金額

合計所得金額は収入から必要経費を引いたものになります。計算式にすると次の通りになります。

 

収入金額-必要経費=合計所得金額
(2)課税所得金額

「合計所得金額-所得控除」が課税所得金額になります。所得控除には医療費控除、配偶者控除など生活に関する項目が該当します。

(3)所得税

「課税所得金額×税率」が1年間の所得税になります。累進課税制度により、課税所得金額に比例して税率が高くなるのが特徴です。

 

所得税の速算表
課税される所得金額 税率 控除額
195万円以下 5% 0円
195万円を超え330万円以下 10% 97,500円
330万円を超え695万円以下 20% 427,500円
695万円を超え900万円以下 23% 636,000円
900万円を超え1,800万円以下 33% 1,536,000円
1,800万円を超え4,000万円以下 40% 2,796,000円
4,000万円超 45% 4,796,000円
注) 例えば「課税される所得金額」が700万円の場合には、求める税額は次のようになります。
7,000,000円×0.23-636,000円=974,000円
(出典:国税庁 筆者が(注)の計算の金額を「万単位→円単位」に修正)
(4)納税額

「上記(3)の所得税-税額控除」が納税額になります。税額控除の代表例は住宅ローン控除でしょう。そのため、住宅ローン控除が所得税を上回れば、納税額は0円になります。

 

上記を踏まえた上で、節税対策のポイントは次の通りになります。

 

  • 収入金額を抑える
  • 必要経費を計上する
  • 所得控除を計上する
  • 所得税の税率を抑える
  • 税額控除を計上する

開業するときに知っておきたい知識

新たに事業を始める場合、開業届の提出と青色申告を申請するのがセオリーになります。青色申告の税制上の特典を受けるのに必要となるためです。それぞれの期限は次の通りです。

 

  • 開業届の提出期限:事業の開始日から1ヵ月以内
  • 青色申告の申請期限:事業の開始日から2ヵ月以内(1月1日~15日の間に開業した場合は3月15日)

 

青色申告の税制上の特典は主に次の通りです。

(1)青色申告特別控除

青色申告者で確定申告をした場合に限り、経費に加えて青色申告特別控除額を合計所得金額から控除できる制度です。令和2年から青色申告特別控除額の条件が変更されます。具体的には次の通りです。

 

  • ①複式簿記などの正規の簿記の原則により記帳している青色申告者
    • 原則:55万円
    • 電子申告または電子帳簿保存をしている場合:65万円
  • ②上記①に該当しない青色申告者
    • 10万円
(2)青色事業専従者給与

配偶者などの家族への給与が必要経費に計上できる制度です。青色事業専従者給与を支給することで家族に所得を分配でき、本人の所得税の税率を下げられます。

(3)貸倒引当金

事業所得に限り、売掛金など債権の貸倒れの見積計上額を必要経費に算入できる制度です。債権の合計額の5.5%(金融業は3.3%)までが貸倒引当金として繰り入れが可能になります。

(4)純損失の繰越しと繰戻し

白色申告の場合、事業所得などの赤字額を節税に利用できず、切り捨てられてしまいます。しかし、青色申告を申請することで、赤字額を有効利用可能です。

 

純損失の繰り越しとは、事業所得などの赤字額が給与所得などほかの所得から控除しきれない金額を翌年から3年間の所得金額から繰越控除が認められる制度です。一方、純損失の繰り戻しとは、赤字額を前年の所得金額から控除して、控除額に対応する前年の所得税の還付(返金)を受けられる制度です。

 

ほかにも固定資産の購入費用を必要経費に一括計上できる範囲が「10万円未満→30万円未満」に拡大されるなどさまざまな税制上の特典が存在します。

確定申告書の提出方法

確定申告書の提出方法により、提出した日付が決まってきます。具体的には次の通りです。

 

  • 税務署の窓口に直接提出する:実際に提出した日
  • 郵送:信書で提出した場合は消印日
  • 電子申告:送信した日

 

特に3月15日間近で提出する場合、提出した日が提出期限以内かどうかを意識したほうがいいでしょう。

税金の納付方法

税金の納付方法により納付期限が決まります。具体的には次の通りになります。

(1)現金払い

インターネットバンキングや納付書などを用いて、金融機関の窓口などで納付します。所得税の納付期限は確定申告書の提出期限と同日の3月15日になります。

(2)振替口座

税務署で振替口座の手続きをすると、所得税を口座引き落としにすることができます。納付期限は提出期限より1ヵ月程度後になります。

(3)クレジットカード納税

クレジットカードで納税する方法で、カード会社のポイントが付与される代わりに決済手数料を負担するのが特徴です。納付期限は現金払いと同じ3月15日であり、クレジットカードの支払い手続きをもって納付したものとして取り扱われます。実際の支払日はカード引落日になるため、現金払いよりも支出日が後になります。

必要経費を計上するポイント

個人事業主は自分で必要経費を計算できる立場にいます。そこで、節税対策のキモとなる必要経費を計上するポイントについて説明します。

必要経費とは事業にかかる費用

必要経費とは、事業遂行に必要な費用のことを指します。そのため、飲食費などの支払名目でなく、費用が事業に関連するかどうかが必要経費に計上するポイントになります。例えば、同じ飲食費でも業務上の打ち合わせが目的なら必要経費に計上できます。

プライベート費用も計上できる

賃貸物件の家賃や水道光熱費、ガソリン代などのプライベート費用でも、事業用に使用した部分を合理的に見積計算すれば、事業割合に対応する部分を必要経費に計上できます。

必要経費の範囲は業種ごとで異なる

事業遂行に必要な費用の範囲は業種ごとで異なるため、必要経費に計上できる範囲も異なります。例えば、医学の専門書籍代は事業と関連しないのが一般的ですが、個人経営のクリニックなら事業遂行に必要な必要として必要経費に計上できます。

まとめ

今回は税金や節税の基本的な知識を取り上げました。税金の知識は幅広く、必要経費に計上できる範囲などあいまいな部分が存在します。特に節税の知識は一度身に付けて終わりでなく、繰り返し勉強する必要があるでしょう。

 

現在は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、納税が難しい個人事業主も多いでしょう。納税が猶予される制度もありますので、国税庁などのホームページでご確認ください。

阿部正仁
TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。
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