
「決算賞与で利益を圧縮する」という節税術
法人税や消費税の納付時期が近づくと、資金繰りのやりくりに頭を抱える中小企業経営者は少なくありません。会社の業績が伸びて利益が残ることは喜ばしい反面、経営者を悩ませるのが「想定以上の税負担」です。
決算直前でも間に合う有力な対策の一つが決算賞与です。従業員へ賞与を支給することで当期の利益を圧縮し、法人税等の負担を軽減できる可能性があります。
ただし、当期の損金(経費)として認められるためには、税務上定められた3つの厳格な要件をすべて満たさなければなりません。要件を満たせなければ、節税効果が得られないリスクがあります。
本記事では、決算賞与の基本的な仕組みから、損金算入の3要件、具体的な節税効果、注意点までを中小企業経営者向けにわかりやすく解説します。決算対策を検討する際の参考にしてください。
決算賞与とは何か
決算賞与とは、会社の業績に応じて決算時期に支給する臨時の賞与のことです。通常の夏季賞与・冬季賞与とは異なり、その期の利益状況を踏まえて支給額や支給の有無を決定できる点が特徴です。
中小企業では、決算直前に想定以上の利益が出た際の決算対策として活用されるケースが多く見られます。実際の支払いが決算日後となる場合でも、一定の要件を満たせば当期の損金として計上できるため、法人税等の負担調整につながる可能性があります。
また、従業員へ利益を還元しながら決算対策を進められる点も、決算賞与の特徴の一つです。
ただし、損金算入を認めてもらうためには、税務上定められた要件を満たす必要があります。要件を満たせない場合には、当期の経費として認められないケースもあるため注意が必要です。
決算賞与で利益を圧縮する節税メリット
決算賞与は、従業員への利益還元を行いながら、当期の利益を圧縮できる節税手法です。要件を満たせば、実際の支払いが決算日後になった場合でも、当期の損金として計上できる可能性があります。
ここでは、決算賞与を活用する主な節税メリットを解説します。
節税メリット1 当期の課税所得を圧縮できる
決算賞与が節税につながる大きな理由は、支給額分を当期の損金として計上できる点にあります。
法人税は、会社の課税所得に税率を掛けて計算されます。そのため、決算賞与を損金に算入できれば、課税所得を抑えられ、結果として法人税等の負担軽減につながります。
たとえば、想定以上に利益が出た事業年度に決算賞与を支給することで、その期の利益を一定程度圧縮できます。決算前に利益見込みが明らかになった段階で検討しやすい点は、中小企業にとって大きなメリットといえるでしょう。
節税メリット2 未払いでも当期の損金に算入できる
通常、賞与は実際に支払った事業年度の損金として扱われるのが基本です。
しかし、決算賞与については、一定の要件を満たすことで、まだ支払っていない状態でも当期の損金として計上できる仕組みがあります。
未払いの決算賞与を当期の損金に算入するためには、主に以下の要件を満たす必要があります。
- 決算日までに、支給対象となる従業員へ各人別の支給額を通知する
- 通知した金額を、事業年度終了日の翌日から1ヶ月以内に支払う
- 通知した金額を、未払賞与としてその事業年度の決算に計上する
このように、決算日までに支払いが完了していなくても、通知・支払い・会計処理の要件を満たせば、当期の損金として扱える点が決算賞与の大きな特徴です。
ただし、いずれかの要件を満たせない場合には、当期の損金として認められない可能性があります。通知方法や支払い期限、会計処理については、事前に税理士へ確認しておくと安心です。
節税メリット3 従業員への利益還元につながる
決算賞与は、単に会社の税負担を抑えるためだけの方法ではありません。
会社に利益が出たタイミングで従業員へ賞与を支給することで、利益を従業員に還元できます。納税負担の調整を行いながら、従業員のモチベーション向上にもつなげられる点は、決算賞与ならではのメリットです。
特に、人材確保や定着が重要な中小企業では、業績に応じた還元を行うことで、従業員に対して会社の成長を実感してもらいやすくなります。
節税メリット4 税負担の軽減効果を具体的に試算できる
決算賞与は、支給額や利益見込みをもとに、ある程度の節税効果を事前に試算しやすい点もメリットです。
たとえば、以下のような条件で考えてみます。
- ・税引前利益:1,000万円
- ・決算賞与支給総額:300万円
- ・法人税等実効税率:約35%
このケースで決算賞与を支給しない場合、法人税等は約350万円となります。
一方、300万円の決算賞与を損金算入できれば、課税所得は700万円となり、法人税等は約245万円まで減少します。結果として、税負担は約105万円軽減される計算です。
ただし、決算賞与を支給すると、会社負担分の社会保険料も追加で発生します。仮に会社負担額が約45万円発生した場合でも、最終的には約60万円の資金改善効果が見込めます。
規模別のイメージは以下の通りです。
- ・利益2,000万円、賞与500万円の場合
→ 税負担軽減:約175万円
→ 社会保険料考慮後:約100万円の資金改善 - ・利益500万円、賞与150万円の場合
→ 税負担軽減:約52万円
→ 社会保険料考慮後:約30万円の資金改善
このように、決算賞与は従業員への利益還元を行いながら、法人税等の負担調整につなげられる点が特徴です。
なお、実際の節税効果は、利益規模や適用税率、社会保険料率などによって変動します。正確な試算については、事前に税理士へ相談するとよいでしょう。
決算賞与で利益を圧縮する際の注意点注意点・よくある失敗
決算賞与は、適切に活用すれば法人税等の負担調整につながる一方で、税務上の要件を満たせなければ当期の損金として認められない可能性があります。
特に、通知方法や支払い期限、対象者の範囲などは、実務上ミスが起こりやすいポイントです。ここでは、決算賞与を活用する際によくある注意点を確認していきましょう。
注意点1 役員への賞与は対象外
決算賞与の損金算入制度は、原則として従業員に対する賞与を対象としています。代表者や役員に対する賞与については、原則として損金算入が認められません。
役員賞与を損金として扱うためには、「事前確定届出給与」など別の税務ルールに沿った対応が必要になります。
そのため、決算賞与を検討する際は、従業員分と役員分を明確に区分した上で処理を進めることが重要です。
注意点2 一部通知はNG・全員通知が必須
決算賞与の損金算入において、特に注意したいのが通知対象の範囲です。
通知は、支給対象となる全従業員に対して、同時期に個別通知を行う必要があります。一部の従業員のみに通知した場合や、特定の従業員を除外した場合には、要件を満たさず、当期の損金算入が認められない可能性があります。
この点は税務調査でも確認されやすいポイントの一つです。通知対象や通知文面に不明点がある場合には、事前に税理士へ確認しておくと安心でしょう。
注意点3 社会保険料(会社負担)が追加発生する
決算賞与を支給すると、健康保険料や厚生年金保険料など、会社負担分の社会保険料が追加で発生します。一般的には、賞与総額の約15%前後が会社負担額の目安とされています。
そのため、決算賞与を検討する際は、法人税等の軽減額だけを見るのではなく、社会保険料を含めた実際の資金負担まで確認しておくことが重要です。
特に、利益規模が大きい場合や賞与額が高額になる場合には、想定以上に社会保険料負担が増えるケースもあります。事前にシミュレーションを行い、資金繰りに無理がないか確認しておくと安心でしょう。
注意点4 通知・支払い・会計処理の不備に注意するその他よくある失敗事例
決算賞与では、細かな実務ミスによって当期の損金算入が認められなくなるケースも少なくありません。特に、以下のような事例には注意が必要です。
- ・通知を口頭のみで済ませ、書面を残していない
- ・支払いが期限を1日でも超過してしまう
- ・通知額と実際の支給額に差異がある
- ・通知文に在職条件を記載してしまう
- ・未払賞与の会計処理を失念する
これらは、税務調査でも確認されやすいポイントです。特に初めて決算賞与を活用する場合には、通知文面やスケジュール管理について、事前に税理士へ確認しておくと安心でしょう。
この節税術に必要な心構えとは
決算賞与は、決算直前でも活用しやすい利益圧縮・決算対策の一つです。要件を適切に満たせば、法人税等の負担調整を行いながら、従業員への利益還元にもつなげられます。
一方で、通知・支払い・会計処理の3要件を1つでも満たせなかった場合には、当期の損金算入が認められない可能性があります。また、社会保険料の会社負担も発生するため、単純な税額だけではなく、資金繰り全体を踏まえて判断することが重要です。
決算賞与は、単なる節税策ではなく、企業と従業員の双方にメリットをもたらす可能性のある制度ともいえるでしょう。適切に活用できれば、納税負担の調整と従業員のモチベーション向上を両立できる可能性があります。
まずは今期の業績見込みを確認し、自社にとって決算賞与が適切な選択肢か検討してみてはいかがでしょうか。不安な点がある場合には、早めに税理士などの専門家へ相談しながら進めると安心です。

