相続放棄したら、未払いの公共料金や介護施設利用料はどうなる?相続放棄の注意点を解説

被相続人(亡くなった人)に多額の借金があって、プラスの財産を上回るような場合には、家庭裁判所に申し立てを行うことで、相続放棄することができます。では、未払いになっている公共料金、介護施設利用料などについても、支払う義務がなくなるのでしょうか? 注意点と併せて解説します。
相続放棄は、「相続人でなくなる」こと
結論をいえば、被相続人が水道光熱費などの公共料金や、介護施設利用料金を未払いのまま他界した場合、相続放棄した人は、借金と同様に、その支払い義務も免除されます。仮に滞納が高額に上っている場合でも、原則として弁済する必要はありません。
公共料金の支払い義務はない
相続放棄が認められると、法的には「初めから相続人ではなかった」扱いになります。このため、被相続人の債務を弁済する義務もなくなります(同時に、被相続人の財産をもらうこともできなくなります)。
被相続人名義で契約されていた電気、ガス、水道など公共料金の滞納、未払い分は、被相続人の債務に当たります。ですから、相続放棄すれば、これらの支払いもする義務はなくなるのです。
実務上は、相続放棄の事実が自動的に電気事業者などに伝わるわけではないので、相続人とみなされて料金の請求を受けることもあります。相続放棄した場合には、事業者にその旨を連絡すれば、請求されることはなくなるでしょう。
同居していた場合、支払い義務が生じることも
ただし、被相続人と同居していた場合など、公共料金未払い分の支払い義務が生じるケースもあります。生計を共にしていた配偶者などには、法律上、「日常家事債務の連帯責任」があり、「食費や光熱費・被服費」は、この「日常家事債務」に該当するためです。たとえ相続放棄していても、被相続人名義の未払い分を支払わなくてはなりません。
介護施設利用料金の支払い義務はない
被相続人名義で契約された介護施設の利用料金も、公共料金と同じくその債務に当たるため、相続放棄した人に未納分の支払い義務はありません。
ただし、契約の際に、利用料金納付についての保証人になっていた場合には、相続放棄の効力は及びません。未払い分があれば、支払う必要が生じます。
「無理に支払う」と問題が起こる可能性
これらの被相続人の未払い分に関して、むしろ気をつけたいのは、「あえて支払う」場合です。故人がお世話になった施設の利用料金や、ヘルパーさんの介護費用については、「やむをえず相続放棄はするけれど、それだけは払っておきたい」という気持ちになっても、おかしくはないでしょう。
しかし、その際に、被相続人の相続財産(預金など)から支払いを行うと、相続に関して「単純承認」した(遺産の相続を認めた)ことになり、相続放棄自体ができなかったり、取り消されたりする可能性があるのです。どうしても支払いたい場合には、自分の財産から支出するのが鉄則です。
葬祭関連費用は相続財産からの支払いも原則OK
一方、葬儀費用に関しては、社会通念上、不当に高額なものでなければ、被相続人の財産から支出しても、相続放棄に影響を与えることはありません。仏壇や墓石の購入費用も同様だとされています。
相続放棄の注意点
被相続人に多額の債務のあった場合には、相続放棄をすれば、それを引き継がなくて済みます。そういう意味では、「助かる」仕組みなのですが、述べたように、普通の人では判断に迷うことも多くあります。そうした点を中心に、注意すべきことをまとめました。
相続放棄には期限がある
相続放棄する場合には、自分が相続人であることを知ったとき(通常は被相続人の死亡を知ったとき)から3ヵ月という期間内に、家庭裁判所にその意思を記した申述書を提出する必要があります。財産の調査に時間がかかる場合などには、期限の延長を認めてもらうことも可能です。
相続放棄の事実を他の相続人に伝えておく
相続人には、被相続人から見て
・第1順位:子(亡くなっている場合には孫)
・第2順位:親(亡くなっている場合には祖父母)
・第3順位:兄弟姉妹(亡くなっている場合には甥姪)
という順位があります。
配偶者は、順位に関わりなく常に相続人です。
前の順位の相続人がいる場合には、後の順位の人は相続人ではありません。ただ、さきほど述べたように、相続放棄は「相続人ではなくなる」ことを意味します。被相続人に債務があった場合、前の相続人が相続放棄でいなくなれば、後の順位の相続人が、それを引き継ぐことになるわけです。
後々トラブルを生まないよう、自分が相続放棄した場合には、他の相続人(候補)全員にその事実を伝えるべきでしょう。
相続人には戻れなくなる
家庭裁判所に相続放棄が認められると、それを強要されたりしたケースでない限り、再び相続人に戻ることはできなくなります。新たな財産が見つかっても、相続することはできません。
相続財産に手を付けるのはNG
「相続財産の処分をしたとき」には、単純承認したとみなされ、相続放棄はできなくなります。「処分」とは、被相続人の預金を勝手に引き出したり、遺品を売却したり、要するに相続財産に勝手に手を付けることを指します。
さきほどの公共料金や介護施設利用料の相続財産からの支払いは処分に該当し、葬儀費用は該当しない、ということです。
債権者への弁済手続きは必要
被相続人の「マイナスの財産」を受け継ぐ相続人がいれば、その人が債権者に対して返済していくことになります。しかし、このようなケースでは、相続人全員が相続放棄することが珍しくありません。その場合でも、被相続人の残した「プラスの財産」があれば、そこから債権者に対する弁済を行う必要があります。
具体的には、家庭裁判所でその後の財産管理を任せる相続財産清算人が選任され、債権者への弁済や財産の売却、国庫への帰属手続きなどを行うことになります。相続財産清算人には、一般的には弁護士が選任され、月に数万円程度の費用が発生します。
相続放棄したからすべて終わり、とはいかないケースもあるわけです。
不動産を「現に占有」していれば保存義務がある
相続財産に不動産がある場合、以前は相続放棄してもその管理義務が残りました。例えば、空き家が倒壊して近隣に被害を与えたら、その責任を問われる可能性があったわけです。
2023年4月から施行された改正民法では、その義務について、「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは」と新たに規定されました。「現に占有」というのは、例えば被相続人の残した家に住んでいるような状態を指します。そのような場合には、相続放棄後も適切に管理しなくてはなりません。一方、遠くに暮らしていた親が亡くなって、自宅が残されたようなときには、その義務は負わないでいいことになりました。
「現に保有」している人が保存義務(管理義務から改称)を免れるには、家庭裁判所に相続財産清算人の申し立てを行う必要があります。清算人に不動産を引き継いだ時点で、義務はそちらに移ります。
まとめ
相続放棄すれば、被相続人が未払いだった公共料金や介護施設使用料を支払う義務もなくなります。あえて支払う場合には、相続財産ではなく、自分の財産を充てるようにしましょう。
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