高市政権の本当の影響とは?自民・維新連立の政策を解説

2025年10月21日に臨時国会で行われた首相指名選挙により、自由民主党(自民党)の高市早苗氏が第104代内閣総理大臣に選出されました。発足から約2ヶ月が経過した現在、高市政権の特徴の一つとしては、連立政権のパートナーに公明党ではなく日本維新の会(維新)と組んでいる点が挙げられます。そのため、高市政権の運営方針には維新の公約が多く反映されています。
本記事では、高市政権における自民党・維新連立の基本構造や経済対策、社会保障改革により予想される影響などについて紹介します。
1. 高市政権とは?自民党・維新連立の基本構造
高市政権のパートナーとなった維新が政権与党となるのは今回が初めてです。閣僚は出していないものの、連立合意書で、維新の公約もいくつか取り入れられています。ここでは、自民党・維新連立の基本構造を紹介します。
高市政権発足の経緯と連立合意の背景
高市氏は2025年9月、前首相の石破茂氏の退陣表明を受けて行われた自民党総裁選に勝利しました。しかし、自民党は2024年10月の衆院選、2025年7月の参院選の両方で大敗し、連立パートナーであった公明党と合わせても、議席数は過半数を割っている状況です。
公明党とは、少し前に発覚した裏金問題を巡る意見の食い違いにより連立を解消することとなったため、首相指名選挙で高市氏が選出されるためには新たなパートナーを見つける必要がありました。
そこで、自民党は政治的主張の比較的近い維新と連立を組むことで合意し、首相指名選挙を経て10月21日に高市政権が発足しました。
自民党と日本維新の会の連立合意12項目の全体像
自民党総裁の高市氏と日本維新の会代表である吉村洋文氏は、10月20日に会談を行い、連立政権合意書に署名しました。合意書によれば、両党は経済・社会保障、外交・安全保障など4つの分野における12の項目について政策の方向性を示しています。
特に、経済・社会保障の分野では、物価高対策に早急に取り組むことや、現役世代の保険料引き下げなどがポイントです。また、政治改革の分野では議員定数の1割減、企業・団体献金の扱いについて高市総裁の任期中までに結論を出すことなどが明記されています。
「閣外協力」という連立形態の特徴と政権運営への影響
今回、自民党と連立政権を組むにあたって維新は、閣外協力という形態を取っています。閣外協力とは、連立政権のパートナーとなる一方で、大臣は出さないという枠組みであり、各党からそれぞれ大臣を任命する閣内協力に比べると政治的安定性は弱くなります。
自民党側は維新の議員を大臣として登用する閣内協力を求めていましたが、維新は政権与党となるのが初めてであることなどを理由として、閣外協力を希望した模様です。
2. 中小企業に直結する物価高対策と経済政策
高市政権では、国民の生活を直撃している物価高について重く見ており、様々な対策を取る方針が示されています。ここでは、物価高対策と経済対策に関して、特に中小企業に直結する3点を紹介します。
ガソリン税暫定税率廃止で何が変わる?運送・物流業への影響
そもそもガソリン税とは、揮発油税と地方揮発油税、暫定税率の3つで構成されています。
暫定税率とは、オイルショックを機に道路整備の財源確保の名目で上乗せされた税率のことです。当初は一時的なものとして導入されたため、過去に何度かガソリン税の暫定税率を廃止する議論が行われてきたものの実現に至っていませんでした。
しかし、高市政権では物価高対策としてガソリンの暫定税率は2025年12月31日、軽油は2026年4月1日に廃止することを決定しました。これによりガソリンについては1Lあたり25円程度安くなる見込みがあります。
一般家庭はもちろん、コストの多くを燃料費が占める運送・物流業ではガソリン価格の低下により収支改善効果が期待されます。(2025年11月1日時点の情報に基づく)
電気・ガス料金補助と地方交付金拡充による中小企業支援
2025年補正予算では、冬季の電気・ガス料金の補助が議論されています。また、主に地方の中小企業の支援を目的として自治体向けに重点支援地方交付金の拡充も議題となっています。
高市政権では積極財政をうたっているため、物価高対策目的または経営難の企業向けの補助金については充実していくと考えてよいでしょう。ただし、連立パートナーである維新では政策効果の薄い租税特別措置や補助金については大胆に廃止していくとしているため、縮小される補助金もあると考えられます。
賃上げ税制を活用できない赤字企業への新たな支援策
賃上げ税制とは、従業員の待遇改善のために給与の支払い額が前年より増えた企業に対し、増加分の一部を法人税から控除できる制度のことです。
2024年4月1日以降に経済対策の一つとして導入された賃上げ税制は、そもそも法人税がほとんどかからない赤字企業には恩恵がないという問題がありました。そこで、繰越控除を可能にし赤字企業でも賃上げ税制を活用できるようにすることが盛り込まれています。
3. 社会保障改革が中小企業に与える影響
維新の公約である「現役世代の社会保険料負担減」を取り入れた高市政権では、社会保障改革への取り組みが期待されています。ここでは、社会保障改革が中小企業に与える影響について紹介します。
現役世代の社会保険料負担軽減の方向性と実現可能性
維新では、公約として「現役世代一人あたり年間6万円の負担減」を掲げ、その財源として4兆円分の医療費を削減するとしています。ただし、後期高齢者の医療機関窓口負担1割から3割への引き上げには自民党が難色を示しています。
また、収入ではなく保有資産に応じた負担割合への制度変更などは、システム上の問題があり、実現は簡単ではありません。しかし、社会保険料についてはある程度の負担軽減が実現すると考えられますが、数年単位の時間がかかるでしょう。
OTC類似薬の保険適用除外など医療費適正化の動き
OTC類似薬とOTC医薬品は、有効成分や一日最大容量などがほぼ同じでありながら、片方は健康保険が適用され、片方は非適用であるために全額自己負担が必要という問題がありました。
そこでOTC類似薬を保険適用除外とすることで医療費の無駄を省き、不公平感を解消する動きが進んでいます。早ければ2026年度中には、OTC類似薬が保険適用除外となるでしょう。
OTC類似薬の保険適用除外には、医療費適正化のほかに不要な受診がなくなり、医療現場の負担が軽くなる効果も期待できます。一方で、患者が受診を控えることで必要な処置が遅れる、医師があえて患者負担の大きいOTC医薬品ではなく、保険適用の処方箋薬を処方することで、想定ほど医療費が抑制されない、といったデメリットが指摘されています。
診療報酬・介護報酬引き上げと中小企業への影響
診療報酬・介護報酬の引き上げは、赤字や経営難に苦しむ特に中小の医療法人・介護法人などにとっては、経営改善につながる可能性がある政策です。経営状況が改善されれば働く人の待遇向上にもつながるでしょう。
賃上げや物価高により、医療法人や介護法人の運営コストは年々増加しています。高市政権では診療報酬改定の時期を待たず、補助金などを活用して前倒しで政策を実施する方針も示されています。(2025年10月31日時点の情報に基づく)
4. 中小企業が知っておくべき支援策と今後の備え
高市政権でも、以前から行われている中小企業への支援策は、継続される見込みです。一方で、首相交代によって予想される変更点もあります。
ここでは、中小企業が押さえておきたい支援策と今後の備えについて紹介します。
中小企業向け賃上げ促進税制の活用ポイント
中小企業向け賃上げ促進税制とは、雇用者に対する給与支払総額が前年度より1.5%以上増加した事業者に対し、増加額の一部を法人税額から控除できる制度です。中小企業に限り、法人税額の20%を上限として通常は給与増加額の15%、上乗せ条件を満たす場合は最大で45%を控除できます。
対象は以下の条件を満たす企業です。
・前3事業年度の所得金額の平均額が15億円以下かつ資本金または出資金の額が1億円以下
・従業員数1,000人以下の個人事業主
・協同組合など
また、子育てサポート企業として厚生労働省から「くるみん認定」を受けている企業、女性活躍を推進し「えるぼし」以上の認定を受けている企業は、税額控除率に5%を加算できます。
さらに賃上げを実施した年度に控除しきれなかった金額を5年間繰り越せる、繰越控除制度も設けられたため、赤字の企業も賃上げ税制のメリットを享受できるようになりました。
サプライチェーン強靱化と中小製造業への投資支援
サプライチェーン強靭化とは、想定外の事態が起きた場合にも事業継続が可能となるよう、サプライチェーンを強くて柔軟なものにすることです。
具体的には以下のような方法が挙げられます。
・国内外を含めた複数の地域に生産拠点を置き、特定地域への依存を減らす
・既存工場の能力増強、新工場の建設などにより全体の生産能力を増やし、一部の拠点の稼働が止まっても他で代替できる体制を整える
・生産工程のDX(デジタルトランスフォーメーション)を進め、需要の変動に柔軟に対応できる体制を作る
中小企業がサプライチェーン強靭化に取り組む場合は、事業再構築補助金(サプライチェーン強靭化枠)が利用できる場合があります。
また、中小製造業の成長を促すため、直接金融の活用や経営者保証の解除などの投資支援を実施する方向性が示されています。
高市政権下で中小企業が注意すべきリスクと対応策
高市政権では長年連立政権のパートナーであった公明党に代わって、維新と閣外協力する形を取っています。閣外協力は、それぞれの党が閣僚を出し合う閣内協力と比べて、政治的安定性が劣ることがリスクの一つです。
また、維新の公約も取り入れることで高市氏のカラーが薄まることもリスクとして挙げられます。高市氏自身が積極財政派である一方、維新は財政健全化を重視しているためです。
たとえば、食料品の消費税撤廃については、代替となる財源が見つからない中で、無理に実現させることを維新が認めない可能性があります。一方で、維新が公約として掲げる社会保険料負担の軽減については、後期高齢者の自己負担割合引き上げに自民党が難色を示しているため、やはり実現には時間がかかるものと考えられます。
なお、政権が推し進める経済対策によって労働集約的な分野、主に医療や介護の分野から人材が流出する懸念があることもリスクです。過度な人材流出を防ぐためには、政治による社会保障改革に加えて、企業側でもDX化などにより業務効率を高めることが必要です。
まとめ
2025年10月に発足した高市政権は、物価高対策や社会保障改革に注力することを発表しています。特に社会保障については、連立政権のパートナーである維新の公約でもある「現役世代の負担軽減」を実現するため、今後具体的な検討が進められていくものと考えられます。
ただし、財政健全化を重視する維新の立場や高齢者の負担増加に対する自民党の立場の違いから、ガソリン税の暫定税率廃止以外の政策については実行までに数年ほどかかる可能性が高いでしょう。
中小企業経営者や個人事業主が抱える資産運用や相続、税務、労務、投資、保険、年金などの多岐にわたる課題に応えるため、マネーイズム編集部では実務に直結した具体的な解決策を提示する信頼性の高い情報を発信しています。
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