制度導入から7年以上経過した現在もなお、論議が収まらないマイナンバー制度ですが、主に問題として取り上げられているのはマイナンバーカード(以下「マイナカード」)の安全性についてです。
この記事ではマイナンバー制度の成り立ちと今後の予定をまとめています。取得を考えている方の参考になれば幸いです。
※記事の内容は記載当時の情報であり、現在の内容と異なる場合があります。
マイナンバー制度とは?導入の目的は?
そもそもマイナカードの国民への交付はマイナンバー制度全体における一項目であり、交付以前から制度自体は始まっていたことはご存知の方も多いでしょう。
しかし今はマイナカード問題が独り歩きしている状態なので、改めてマイナンバー制度(以下「本制度」)について以下に整理してみました。
マイナンバー制度における用語の説明
本制度でよく出てくる用語に「マイナンバー」「マイナンバーカード(マイナカード)」そして「マイナポータル」がありますが、まずは各用語の違いを理解しておきましょう。
・マイナンバーについて
「マイナンバー」とは、我が国の住民1人1人に国から与えられる個人番号のことです。
マイナンバー自体は、既に国民全員に12桁の番号が個々に割り振られており、マイナカードを持っていなくても後述する通知カードや住民票取得時に希望することで自分の番号を知ることができます。
マイナンバーは外国籍の人でも住民票を持っていれば交付されますし、新生児は出生届を出した2〜3週間後に交付される仕組みになっています。
マイナンバー自体はマイナカードの所持不所持にかかわらず既に割り振られていることがポイントです。
・マイナカードについて
「マイナカード」は、マイナンバーを有する個人が自身の住民票のある自治体に申請することで交付される、マイナンバーのいわば「確認書類」です。
運転免許証のない人はマイナカードのみで本人確認証とすることができます。また、カードリーダー(多くのスマホでも読み取り可能)を使えばオンライン確定申告時の電子証明書や、ふるさと納税のワンストップ特例にも使えますし、コロナ禍においてはワクチン接種証明書も取得できました。
・マイナポータルについて
「マイナポータル」は、マイナカード所持者がサイトに登録することで使える、行政機関によるオンラインサービスの名称です。マイナカードを使ってログインすることで前述した電子証明書を取得したり、マイナポイント(マイナカード取得者に付与されるキャッシュレス決済ポイント)を申し込んだりことができます。(なお、マイナポイントの対象となるマイナカードの申請は、令和5年2月末で終了しています。)
制度導入の目的は公的手続きの利便性向上
国が行う行政、例えば医療や社会保障、税制などは手続き時に一定の個人情報が必要ですが、行政機関は完全な縦割り社会で横のつながりがないためこれまでそれらの情報は各機関のみで管理されてきました。
しかしマイナンバー制度により、個人番号を取得すれば各機関が必要な情報を一定程度共有することが可能になることで、行政運営の効率化やコスト削減に繋がります。特に税制においては正確な所得を把握することで納税の負担を公平化する効果が謳われています。
また行政サービスの利用者にとっても必要書類の簡素化など利便性の向上が期待できます。
このように利用者・行政機関双方の効率化を図ることが本制度の目的とされています。
マイナンバーカードに関するこれまでの政府の動き
この章では、本制度導入に至るまでの政府の動向について大きく3つに分けて紹介します。
マイナンバー通知カードの交付まで
自国民に個人番号を付与して情報を管理するマイナンバー制度ですが、同じ制度は欧米を中心に海外の多くの国で既に実施されていました。むしろ先進国の中で日本は後発的な立ち位置です。それもあり、行政サービスの充実や効率化のために「共通番号制度」を導入しようという議論は以前からありました。
しかし実際に番号制度について公けに言及したのは2009年12月発表の「税制改正大綱」です。その後番号制度に関わる幾度かの検討会を経て2010年11月に「社会保障・税に関わる番号制度に関する実務検討会」が設置されました。
さらに番号制度推進本部の立ち上げ、マイナンバー法案の概要決定などを経て、2013年5月にマイナンバー法が成立の運びとなりました。そして国民に対する一定の周知期間後の2015年に、通知カードの交付が開始されたのです。
もちろん新聞などで法案成立までも報道はされてきましたが、一般的に「マイナンバー」が拡がったのは2013年以降といえるでしょう。
マイナンバー運用開始からマイナポータルの開始まで
実際の行政手続きにおいて本制度の運用が始まったのは2016年1月です。運用開始と同時に、希望者に対するマイナカードの交付受付が始まりました。マイナカードを使用しての電子確定申告もできるようになりました。
2017年にはマイナポータルが公開され、カード取得者はアカウントを登録すれば利用できるようになりました。
この時期は確定申告書や年金手続きなどでマイナンバーの記入が必要になるなど、本制度の運用が徐々に広まってきた頃です。一方でマイナカードについてはニーズが限られており、カードから個人情報が漏洩することを怖れる風潮もあって、普及率はなかなか上がりませんでした。
口座とのひもづけ、保険証との一体化、普及促進
政府としてはマイナカードと保険証の一体化や、預貯金口座との紐づけなどの制度を実施予定していたものの、肝心のカード普及率が上がらなかったため、普及を一気に促進しようと2020年9月に「マイナポイント事業」を導入しました。
カード交付を申請する、保険証の情報を紐づけするなどをするたびに一定のポイント(最大2万円分)が付与されることから、交付者数は急増しました。加えてコロナ禍により「外出せずネット上で確定申告をしたい」「ワクチン接種証明をスマホで取得したい」といったニーズが増えたことも普及率向上の一因であると考えられます。
その結果、2023年8月現在の、マイナカード交付率は国民の約75%となっています。
続いて2021年3月から、マイナカードが健康保険証として利用することができるようになりました。また、2022年3月から「公金受取口座登録制度(いわゆる「紐づけ」)」が開始されました。
マイナンバーカードの今後の流れは?何が問題になっている?
交付率が上がるのと比例して、マイナカードに対するネガティブな意見が世間を騒がせるようになってきました。政府がこのまま予定通り本制度を推進していくのかについても多様な意見が出ているのが現状です。
申請時の誤登録によるトラブルや情報漏洩の不安
マイナカードの交付申請はオンラインの他郵送や自治体の役所に出向いて行うことができます。マイナポイント制度は交付率の向上に一役買った一方で、窓口業務の混雑を引き起こしました。
現在明らかになっているマイナカードに関するトラブルとして、第三者の情報が誤って登録されていたため、住民票が取れない、保険証が使えない、同姓同名の別人の口座に行政から入金されたなどがあります。入力ミスや直前に申請した第三者の情報を消し忘れるといった人的ミスが原因とされていますが、急激な申請者の増加が人為ミスの一因となっていると考えられます。
また、暗証番号が知られれば所得額などを知られたり不正利用されたりするリスクについても不安が払拭できていない状況です。
保険証の廃止により任意だったカード取得が義務に?
このような状況にもかかわらず、2023年8月現在デジタル庁は2024年秋を期限として保険証を原則廃止し、マイナカード(マイナ保険証)に統一する予定としています。
マイナカードを持たない人には代わりに「資格確認証」を発行するとしていますが、それなら現状通り保険証を残せばいいのだから、事実上のカード取得義務化ではないかと利用者や医療機関などから疑問の声が上がっています。
まとめ
現段階でのマイナカードの今後の流れとしては、2026年に運転免許証との一本化を目指す他に、図書館カードとの一体化、また民間と行政との連携として引越し手続きのワンストップ化などが検討されています。もちろんメリットも多い制度ですから、政府には国民に不安を与えないよう、丁寧に事を進め、対応していくことが求められています。