賃上げ促進税制とは?2024~2026年度改正のポイントと今後の見通しをわかりやすく解説

従業員の待遇改善は人材確保の有効な手段の一つですが、企業にとっては人件費負担が増えてしまいます。そこで企業の負担を減らしつつ、賃上げを後押しするために、賃上げ促進税制が導入されました。2026年度(令和8年度)税制改正では大企業向け措置の適用終期が前倒しされました。2026年4月1日以降に開始する事業年度は大企業向け措置の対象外となっており、企業規模ごとに状況が異なります。 本記事では、賃上げ促進税制について制度の概要や税制改正のポイント、適用要件、計算方法などを紹介します。
1. 中小企業向け「賃上げ促進税制」とは?制度の基本と2026年度改正ポイント
賃上げ促進税制の対象は全企業ですが、企業規模に応じて制度が適用される要件や控除率が異なります。また、2026年度税制改正により要件や控除率も見直されているため、ここではあらためて賃上げ促進税制について制度の基本や変更点を紹介します。
賃上げ促進税制の仕組みと中小企業向けの特徴
賃上げ促進税制とは、人材確保のために従業員の待遇を改善した企業が、増加した人件費の一部を法人税から控除できる仕組みです。デフレ脱却を目標に2013年から開始された所得拡大促進税制と、2021年にスタートした人材確保等促進税制を統合する形で2022年から始まりました。 賃上げ促進税制は条件を満たしていれば企業の規模に関係なく、個人事業主や小規模事業者も対象です。特に資本金1億円以下の企業や従業員1,000人以下の個人事業主は中小企業として取り扱われ、控除率などの優遇があります。
直近の税制改正で何が変わった?2024~2026年度改正のポイントと今後の見通し
賃上げ促進税制は、2024年度税制改正で内容が一部変更されました。具体的には適用期間が3年延長され、特定の条件を満たしたときの控除率の上限が引き上げられています。また、中小企業に限り、控除額が余った場合に5年間の繰り越しが可能になりました。 変更点は以下の通りです。
・適用期間が2024年4月1日~2027年3月31日までに開始する事業年度へ延長(個人事業主は2024年〜2027年の各年分が対象)
・給与等支給額の増加率(前年度比)に応じて、控除率を最大40%から45%へ引き上げ(中小企業の場合)
・黒字額が小さい場合など、余った控除額は5年間繰り越しできる(中小企業のみ)
・「中堅企業(常時使用する従業員数2,000人以下の法人)」という新たな区分が新設され、大企業・中堅企業・中小企業の3区分で制度が設計
2025年度は2024年度改正の内容が引き続き適用されており、控除率等に大きな変更はありません。
2026年度税制改正では、賃上げ促進税制について内容が一部変更されました。具体的には、大企業向け措置が前倒しで廃止され、中堅企業向け措置は要件を厳格化したうえで2027年度末に廃止、中小企業向け措置は本体を維持しつつ教育訓練費の上乗せ措置のみ廃止となりました。変更点は以下の通りです。
・大企業向け措置:2026年3月31日をもって廃止
・中堅企業向け措置:2026年4月1日〜2027年3月31日までに開始する事業年度について、以下の要件見直しを行った上で、適用期限(2027年3月31日までに開始する事業年度)の到来をもって廃止
1. 控除率10%が適用される要件を、給与等支給額の増加率(前年度比)4%以上に引き上げ(現行3%以上)
2. 控除率の上乗せ措置を、給与等支給額の増加率(前年度比)5%以上で5%加算、6%以上で15%加算に変更(現行は4%以上で15%加算)
3. 教育訓練費に係る上乗せ措置を廃止(最大控除率が35%→30%に低下)
・中小企業向け措置:本体は継続されるが、教育訓練費に係る上乗せ措置(10%)は廃止(最大控除率が45%→35%に低下)
所得拡大促進税制との違いと全企業向け・中堅企業向けとの比較
所得拡大促進税制と賃上げ促進税制は、給与等の増加額に対して法人税から控除が受けられる点が共通しています。ただし、制度の目的はやや異なります。 所得拡大促進税制は、長く続いたデフレから脱却するため、企業の賃上げにインセンティブを与えることで国民の所得を増やすことが目的でした。一方、ここ数年継続的に物価が上昇している中で、従業員の生活水準を維持したり、優秀な人材の定着を図ったりするために給与を引き上げる企業を支援するのが賃上げ促進税制の目的です。賃上げ促進税制では、企業の規模ごとに適用要件と控除率が異なります。2024年度税制改正で「中堅企業」という区分が新設され、大企業・中堅企業・中小企業の3区分で制度が設計されていました。中堅企業とは、大企業・中小企業のいずれにも該当しない法人を指し、常時使用する従業員数が2,000人以下の法人が対象です。
ただし、2026年度税制改正により、大企業向け措置は2026年3月31日をもって廃止されました。2026年4月1日以降に開始する事業年度は、中堅企業と中小企業のみが対象となります。中堅企業の控除率の上限は最大30%、中小企業は最大35%が設定されています。

※表は2026年4月1日以降に開始する事業年度の内容。教育訓練費に係る上乗せ措置は全区分で廃止されました。
※認定マーク:女性活躍推進法に基づく「えるぼし」、次世代育成支援対策推進法に基づく「くるみん」など
2. 適用要件と控除率|最大35%控除を受けるための条件(2026年度改正後)
2026年度税制改正により、2026年4月1日以降に開始する事業年度から教育訓練費に係る上乗せ措置が廃止されました。これに伴い、賃上げ促進税制で最大控除率35%を受けるためには、以下の条件を満たす必要があります。
・中小企業であること
・基本要件(給与等支給額1.5%以上増加)を満たすこと
・上乗せ要件①(給与等支給額2.5%以上増加)を満たすこと
・上乗せ要件②(認定マークの取得)を満たすこと
なお、賃上げ促進税制における中小企業の定義は以下の通りです。
・資本金または出資金1億円以下の法人、または従業員数が1,000人以下の個人事業主など
・青色申告書を提出していること
ここでは最大35%控除を受けるための3つの要件を解説します。
【基本要件】給与等支給額1.5%以上増加で15%控除
賃上げ促進税制の対象となるには「雇用者給与等支給額が前年度比で1.5%以上増加」していることが必要です。この条件を満たしている場合、法人税から15%が控除されます。 雇用者給与等支給額には国内で雇用している社員やアルバイト、パート従業員に対して支払われた給与や賞与、残業代、住宅手当などの各種手当が含まれます。所得税法上、給与所得に該当しない退職金は含まれません。 また、前払い給与も対象外です。判定の基礎となる金額で、具体的には「国内雇用者」に対して支給した「給与等」の額が該当します。
【上乗せ要件①】給与増加率2.5%以上で30%控除
雇用者等給与支給額の増加率が基本要件である前年度比1.5%を上回り、2.5%以上となっている場合は控除率が15%上乗せされ、30%に拡大します。 なお、給与支給額の増加によって30%もの控除を受けられるのは中小企業のみです。大企業向け措置は2026年3月31日をもって廃止されました。2026年4月1日以降は、中堅企業(従業員2,000人以下の法人)は以下の控除率段階で適用されます。
【中堅企業の控除率段階(2026年4月1日以降に開始する事業年度)】
前年度比+4%以上:10%控除
前年度比+5%以上:15%控除(10%+上乗せ5%)
前年度比+6%以上:25%控除(10%+上乗せ15%)
【上乗せ要件②】女性活躍支援の認定取得で最大35%
女性や子育て中の従業員の活躍を推進する企業には、さらなる税額控除額の上乗せがあります。2026年度税制改正により、2024年度改正で設けられていた教育訓練費の増加(10%上乗せ)による優遇措置は廃止されました。2026年4月1日以降に開始する事業年度では、女性活躍や従業員の子育てと仕事の両立をサポートする企業として認定されている場合、5%の控除率の上乗せを受けられます。
控除率拡充の対象となるには、中小企業の場合、以下のいずれかの認定を取得している必要があります。
・えるぼし2段階目以上
・くるみん
・プラチナくるみん
・プラチナえるぼし
そのため、給与等支給額2.5%以上増加(基本要件+上乗せ要件①で合計30%)、およびえるぼし・くるみん等の認定取得(+5%)の両方を達成している中小企業は、最大35%の税額控除が受けられます。
※2026年4月1日以降に開始する事業年度を前提とした内容。
※認定の取得時期については、適用事業年度中に取得が必要なもの(くるみん・えるぼし等)と、事業年度終了時点で取得していれば良いもの(プラチナくるみん・プラチナえるぼし等)があります。
3. 税額控除額の計算方法とシミュレーション
賃上げによる費用負担が軽くなる賃上げ促進税制は魅力的ですが、自社が対象になるかわかりにくいと感じる企業もいるでしょう。ここでは、賃上げ促進税制を理解するために、雇用者給与等支給額や税額控除額の計算方法をシミュレーションを交えながら解説します。
雇用者給与等支給額の計算方法と対象となる給与の範囲
雇用者給与等支給額に含まれるものは、国内で雇用されている従業員に支払った以下のような費用です。なお、従業員とは正社員だけでなくパート、アルバイトなども対象ですが、役員や役員の家族など特別な関係にある従業員は含みません。 ・給与 ・賞与 ・残業代 ・休日出勤手当 ・家族手当など また、雇用安定助成金額も対象です。その他の助成金、補助金は雇用者給与等支給額に含まれないため注意しましょう。 賃上げ促進税制の適用要件である増加率1.5%以上、または上乗せ要件の増加率2.5%以上を満たしているかを確認するには、以下のように計算します。
当事業年度と前事業年度の雇用者給与等支給額の差額を計算し、前事業年度の雇用者給与等支給額で割ります。結果が1.5%以上または2.5%以上であれば税額控除が受けられますが、1.5%未満であれば対象外です。
具体例で学ぶ税額控除額の計算シミュレーション
賃上げ促進税制における税額控除額は、控除対象雇用者給与等支給増加額に控除率をかけて計算できます。控除対象雇用者給与等支給増加額とは、当事業年度と前事業年度の雇用者給与等支給額の差額のことです。
以下、2026年4月1日以降に開始する事業年度を前提とした具体例で税額控除額を見てみます。
【前提】
当事業年度の雇用者給与等支給額:3,600万円
前事業年度の雇用者給与等支給額:3,500万円
給与等支給額の増加率:2.8%
くるみん・えるぼし認定:取得済
控除率:35%(基本要件15% + 上乗せ要件①15% + 上乗せ要件②5%)
法人税額:300万円
税額控除額には、法人税額または所得税額の20%という上限があります。このケースでは税額控除額が法人税額の20%未満となっているため、35万円を法人税から控除できます。
5年間繰越控除の仕組みと赤字企業でも活用できる理由
2024年度税制改正により、中小企業は当該事業年度で控除しきれなかった税額控除額を次年度以降、5年間繰り越しできる仕組みが導入されました。この仕組みは2026年度税制改正後も継続しています。これにより、赤字のため法人税を払っていない企業や、賃上げ幅が大きく税額控除額が法人税または所得税の20%という上限を超えてしまった企業も、賃上げ促進税制の恩恵を受けられるようになりました。
たとえば、2026年度に前年度比で給与等支給額が300万円増加したが、赤字のため法人税の支払いがなかった企業があるとします。この企業は、2027年度~2031年度に黒字になった事業年度があれば、その事業年度に支払うべき法人税から控除額を差し引くことが可能です。
ただし、繰越控除の適用を受けるには、繰越控除を受けようとする事業年度において、雇用者給与等支給額が前事業年度の雇用者給与等支給額を超える必要があります(雇用者給与等支給額が減少している事業年度では、繰越控除は適用できません)。
4. 申請方法と必要書類|確定申告での手続きの流れ
賃上げ促進税制を利用しようとする企業や個人事業主は、確定申告での手続きが必要です。ここでは申請方法と必要書類について簡単に紹介します。
事前申請は不要|確定申告時に添付する必要書類一覧
賃上げ促進税制は、確定申告時に制度の対象であることを証明する書類を添付するだけで適用されるため、事前の申請は不要です。確定申告時に添付が必要な書類は以下の通りです。 ・適用額明細書(法人の場合のみ) ・控除額計算明細書 ・繰越控除金額や繰越限度超過額の明細書(繰越控除を受ける場合のみ)
適用額明細書と控除額計算明細書の作成方法
賃上げ促進税制を活用するため、確定申告で添付する書類のうち適用額明細書は法人だけが必要な書類です。2010年より租税公課の透明性を高めるため、法人税率の特別措置や法人税の特別控除を受けようとする法人に適用額明細書の提出が義務付けられました。 国税庁のウェブサイトに公開されている確定申告書または連結確定申告に添付する2つの様式のどちらかを用いて、適用される租税特別措置法の条項や適用額などを記入して作成します。 控除額計算明細書とは適用事業年度の給与等支給額、税額控除額など、賃上げ促進税制の適用に必要な数値を記入して作成する書類です。様式は国税庁のウェブサイトにて「給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」という名称で公開されています。
繰越控除の手続き上の注意点
2026年度税制改正により、2026年4月1日以降に開始する事業年度から教育訓練費に係る上乗せ措置は廃止されました。そのため、改正後は教育訓練費に関する記録保管の義務はなくなります。なお、2026年3月31日までに開始した事業年度について教育訓練費増加による10%の上乗せを適用する場合は、教育訓練等の実施時期、実施内容、実施期間、受講者、支払証明を記載した書類を作成し、保管しておく必要があります(確定申告書への添付は不要)。
また、中小企業が税額控除額の繰り越しを希望する場合は、以下の2点の手続きが必要です。
・未控除額が発生した事業年度以後の各事業年度の確定申告書に、繰越税額控除限度超過額の明細書を添付する
・繰越控除の適用を受けようとする事業年度の確定申告書に、繰越控除を受ける金額の計算に関する明細書を添付する
いずれの様式も国税庁のウェブサイトからダウンロードできます。
まとめ
物価上昇や人手不足に対応するため、従業員の賃上げをする企業を後押しするために導入されたのが賃上げ促進税制です。2024年度税制改正で賃上げ促進税制が強化されたことにより、特に中小企業にとっては控除率上限の引き上げや繰越控除の導入などのメリットがある制度となりました。一方、2026年度税制改正では、大企業向け措置の廃止や中堅企業・中小企業向けの教育訓練費上乗せ措置の廃止など、制度の縮小に舵が切られています。2026年4月1日以降に開始する事業年度からは、中小企業の最大控除率も従来の45%から35%に引き下げられました。
賃上げ促進税制には給与等支給額の前年度比増加率に基づく基本要件のほか、上乗せ要件があります。確定申告だけで適用されるため、特に中小企業は積極的に活用したい制度です。
賃上げ促進税制は控除要件が複雑で、毎年の税制改正によって内容が変わることもあります。特に現在は、2026年3月31日までに開始した事業年度(現行制度)と2026年4月1日以降に開始する事業年度(改正後)が実務上並行する時期にあたり、自社の事業年度がどちらに該当するかの判断も重要です。 自社に適用できる要件を正確に把握し、控除額を最大限に活かすためにも、最新の改正に精通した税理士への相談をおすすめします。税理士に依頼することで、要件の判定から申告書類の作成まで、スムーズかつ確実に対応できます。
中小企業経営者や個人事業主が抱える資産運用や相続、税務、労務、投資、保険、年金などの多岐にわたる課題に応えるため、マネーイズム編集部では実務に直結した具体的な解決策を提示する信頼性の高い情報を発信しています。
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