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相続税の配偶者控除で1億6,000万円まで非課税に!適用条件・手続き・注意点を徹底解説

相続税の配偶者控除

最終更新日:2025年4月24日

この記事の監修者
スエナガ会計事務所
代表 末永 寛

配偶者の相続税負担を大幅に軽減する「配偶者控除」は、正しく活用すれば1億6,000万円まで非課税になる強力な特例制度です。しかし適用条件や申告手続きを誤ると、この特例が受けられなくなるリスクも。本記事では配偶者控除の仕組みから具体的な手続き方法、さらには見落としがちな注意点まで徹底解説します。

相続税における「配偶者控除」とは?

制度の基本と非課税枠の仕組み

配偶者控除(正式名称:配偶者の税額軽減)とは、被相続人の配偶者が相続で取得した財産に対し、「1億6,000万円」または「法定相続分相当額」のどちらか多い方の金額まで相続税が非課税になる特例です。この制度は、残された配偶者の生活を経済的に保障する目的で設けられています。

たとえば遺産総額が2億円で配偶者と子1人が相続人の場合、法定相続分は配偶者1/2=1億円ですが、非課税枠は1億6,000万円(法定相続分より大きい額)となるため、配偶者が相続する財産が1億6,000万円までであれば相続税はゼロになります。

また、もし配偶者のみが相続人であれば法定相続分は100%となるため、遺産額がどれだけ多額でも配偶者が取得する分については相続税が一切かからないという仕組みです(ただし後述するとおり申告自体は必要です)。

多くの一般家庭では、遺産額がこの非課税枠内に収まることが多いため、配偶者に関する限り相続税が発生しないケースがほとんどです。この配偶者控除を正しく適用することで、相続税の大幅な節税が可能になります。

配偶者控除の具体的な計算例

実際に配偶者控除を使った場合としない場合で、相続税額がどう変わるのか具体例で見てみましょう。

【ケース例】
  • 遺産総額:3億円
  • 相続人:配偶者と子2人
  • 配偶者の法定相続分:1/2(1億5,000万円)
  • 子の法定相続分:各1/4(各7,500万円)

このケースで配偶者が1億5,000万円、子がそれぞれ7,500万円ずつ相続したと仮定します。

■配偶者控除を適用しない場合の相続税
(基礎控除額:3,000万円+600万円×3人=4,800万円)
課税遺産総額:3億円−4,800万円=2億5,200万円
・配偶者の相続税額:2,860万円
・子1人あたりの相続税額:1,430万円
・相続税合計:5,720万円

■配偶者控除を適用した場合の相続税
配偶者:1億5,000万円が配偶者控除の対象となり、相続税額は0円
・子1人あたりの相続税額:1,430万円(変わらず)
・相続税合計:2,860万円

この例では、配偶者控除を適用することで、相続税の総額が5,720万円から2,860万円へと、2,860万円も節税できることになります。配偶者控除の威力が一目瞭然です。

配偶者控除を受けるための適用条件

法的要件と申告の必要性

配偶者控除は誰でも自動的に適用されるわけではありません。以下の条件をすべて満たす必要があります。

まず「法律上の配偶者であること」が絶対条件です。配偶者控除の対象となるのは戸籍上の夫または妻に限られます。事実婚や内縁関係のパートナーは含まれない点に注意が必要です。

次に「相続税の申告を行うこと」が不可欠です。配偶者控除を受けるには、たとえ税額がゼロになる場合でも、相続税の申告書を提出する必要があります。「非課税だから申告不要」と誤解して無申告にすると、控除が適用されず本来不要だったはずの相続税を課税されてしまう恐れがあります。申告・納税期限は被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内であり、この期限までに必ず申告を行わなければなりません。

遺産分割と正確な申告の重要性

配偶者控除の適用には「遺産分割が確定していること」も条件です。非課税枠は「配偶者が実際に取得した遺産額」に基づいて計算するため、申告時点で誰が何を相続するか(遺産分割の方法)が決まっていることが前提となります。遺言書がある場合は基本的にその指定どおり、遺言がない場合は相続人全員で遺産分割協議を行い、申告期限までに分割内容を確定させておく必要があります。

また「正直に遺産を申告していること」も重要です。故意に遺産の一部を隠して申告し、後から税務調査で発覚した場合、その隠していた財産については配偶者控除を適用することができません。申告漏れを指摘され修正申告となる財産には控除が効かず、結果的に余分な税負担が生じます。適用要件を満たすためにも、全ての遺産を正確に申告することが重要です。

記事監修者からのワンポイントアドバイス
配偶者控除(配偶者の税額軽減)は、適用する事により大きな減税効果が期待できます。その大きな減税効果の恩恵を受けるためには、「期限内申告」は必須要件と考えておきましょう。
その為には、申告期限10ヶ月までに確実に相続税申告が完了するよう、被相続人が生前の間に推定相続人と遺産分割についての家族会議を開き、ある程度方針を決めておくことです。家族会議を生前に開くことで、引き継ぐ予定の推定相続人の意思確認ができ、もめる要素が予想される場合は、生前の間に解決に着手でき、後々大きな効果を発揮します。
特に、被相続人に子がいない場合で、相続人が第三順位の「兄弟姉妹」まで広がる場合は、遺産分割が整わない事も想定されます。よって、遺言書を用意するなどの対策をしておくことも有用です。
スエナガ会計事務所
代表 末永 寛

配偶者控除を適用するための手続きと申告方法

申告の流れと必要書類

配偶者控除を利用するためには、相続税の申告書を正しく作成・提出する必要があります。具体的な手続きの流れは以下のとおりです。

まず「相続税申告の準備」として、遺産の評価額を算出し、各相続人の取得財産と税額を計算します。その上で、配偶者の税額軽減の明細書など所定の用紙に控除額を記入します。税務署指定の様式に従い、配偶者控除適用後の税額計算を行わなければなりません。

「申告書の提出期限」は、被相続人の死亡から10か月以内が原則です。この期限を厳守して申告書を税務署に提出しなければ控除が適用されないため注意が必要です。

必要書類として、被相続人の戸籍謄本や遺産分割協議書の写し、相続人全員の印鑑証明書なども揃えて提出します。配偶者控除を受ける場合は、配偶者が相続した財産額や税額軽減額を記載した明細の添付が必要となります。

遺産分割が間に合わない場合の対応策

10か月の申告期限までに遺産分割協議がまとまらないケースも少なくありません。原則として未分割の状態では配偶者控除を適用できませんが、「未分割申告」の制度を利用することで救済される可能性があります。

具体的には、いったん法定相続分どおりに取得したものと仮定して申告・納税を行い、申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付します。この書類を提出しておけば、実際に分割がまとまった後(期限から3年以内)に配偶者控除を遡って適用することができます(更正の請求により税金の減額・還付を受ける形になります)。

さらに3年経過しても未分割の場合、相続トラブルや遺言の指定等でやむを得ない事情があれば、税務署に所定の申請をして認められれば期限の延長も可能です。申告期限から3年経過後2か月以内に「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由の申出書」を提出し、その後分割が確定したら速やかに更正の請求を行うことで、期限を過ぎても配偶者控除を適用できます。

なお、このような特例措置を受けるには厳格な期限管理と証明書類の提出が求められるため、専門家のサポートを受けると安心です。

配偶者控除を利用する際の注意点

二次相続を見据えた配偶者控除の活用

配偶者控除は一次相続(最初の相続)では非常に強力な節税効果を発揮しますが、配偶者に財産を集中的に相続させすぎると、二次相続(配偶者が亡くなったときの相続)で子にかかる相続税が重くなる可能性があります。かなりの富裕層でなければ配偶者控除適用で配偶者の相続税はゼロになりますが、長期的視点で見ると必ずしも有利とは限りません。

二次相続で子供の税負担が増える4つの要因

二次相続では一次相続と比較して、以下の4つの要因により子の相続税負担が増加する可能性があります。

  • 1.二次相続では配偶者控除が適用できない
    配偶者控除は一次相続のみに適用される特例であり、二次相続では使えません。そのため、一次相続で配偶者に集中させた財産は、二次相続では控除なしで課税されることになります。
  • 2.法定相続人が1人減り基礎控除額が減少
    相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されるため、配偶者が亡くなると法定相続人が1人減り、基礎控除額が600万円減少します。この結果、課税対象となる遺産額が増えることになります。
  • 3.二次相続では配偶者自身の財産も加算される
    二次相続では配偶者が一次相続で取得した財産だけでなく、配偶者が元々所有していた個人資産も相続財産に加算されます。そのため総相続財産額が増え、課税対象額も増加します。
  • 4.高い税率区分が適用される可能性
    相続税は累進課税制度のため、課税対象額が多くなるほど税率が高くなります。課税遺産額が増えると、より高い税率区分が適用され、結果的に相続税の負担が増加する可能性があります。
一次相続・二次相続を含めた相続税負担の具体例

実際に配偶者控除の違いによる相続税の総負担額の差をシミュレーションしてみましょう。

【設例】
家族構成:父、母、子1人
総資産:2億円(父が1億円、母が1億円それぞれ所有)

◆パターン1:一次相続(父の死亡時)で母親が全財産を相続した場合
一次相続:父の遺産1億円をすべて母が相続
・母の相続税:配偶者控除適用により0円
・子の相続税:0円(相続なし)
二次相続:母の死亡時に子が母の財産2億円を相続
・基礎控除額:3,000万円+600万円×1人=3,600万円
・課税遺産総額:2億円−3,600万円=1億6,400万円
・子の相続税:4,860万円
トータルの相続税負担:4,860万円

◆パターン2:一次相続で母親が財産の半分(5,000万円)、子が半分(5,000万円)を相続した場合
一次相続:
・母の相続税:配偶者控除適用により0円
・子の相続税:385万円
二次相続:母の死亡時に子が母の財産1億5,000万円を相続
・基礎控除額:3,000万円+600万円×1人=3,600万円
・課税遺産総額:1億5,000万円−3,600万円=1億1,400万円
・子の相続税:2,860万円
トータルの相続税負担:3,245万円

このように、一次相続だけを見ると母親がすべての遺産を相続したほうが子の相続税負担は少ないですが、二次相続まで含めたトータルではパターン2のほうが1,615万円も相続税負担が少なくなります。

二次相続まで見据えた最適な遺産分割の考え方

「配偶者控除があれば相続税がゼロになる」という理由だけで一次相続時に配偶者に財産を集中させることは必ずしも得策ではありません。最適な遺産分割を検討する際には、以下のポイントを考慮することが重要です。

  • 家族構成や資産状況に合わせた個別のシミュレーション
  • 配偶者の年齢や健康状態
  • 一次相続と二次相続の時間的間隔の予測
  • 相次相続控除(10年以内の二次相続での軽減措置)の活用可能性
  • 配偶者と子の生活資金ニーズのバランス

多くの場合、一次相続の時点で配偶者と子への財産配分をバランスよく行うことが、トータルでの税負担を軽減する効果があります。各家庭の状況によって最適な分割割合は異なるため、相続税に詳しい専門家によるシミュレーションを踏まえた遺産分割を検討することをお勧めします。

申告漏れ・手続きミスに要注意

配偶者控除は要件さえ満たせば大きなメリットをもたらす反面、手続きを誤ると適用されないリスクがあります。特に多いのが「配偶者控除があるから納税ゼロ=申告不要」と勘違いして未申告となり、後日控除無しとして課税されるケースです。また、期限後申告や書類不備でも控除適用が認められなくなる恐れがあります。

必ず期限内に正しい申告書類を提出し、適用漏れがないようにすることが重要です。万一申告に不安がある場合は専門家にチェックしてもらうことも検討すべきでしょう。
配偶者控除は強力な特例ですが、他の節税策(小規模宅地等の特例など)とも組み合わせて検討することで更なる節税余地が生まれる場合もあります。また、再婚など特殊なケースでは配偶者控除の扱いがどうなるか事前に確認しておくとよいでしょう。「配偶者だから絶対安心」という思い込みを避け、制度の内容を正しく理解したうえで活用することが肝心です。

記事監修者からのワンポイントアドバイス
配偶者控除において、一次相続と二次相続まで含めたトータルでの相続税総額を検討することで相続税を節税できることはご理解頂けたかと思います。
ただし、相続の現場においての主目的は「相続税の節税」ではなく「遺族の生活保障」であるべきです。あくまでもシミュレーションは、数字上の試算であって、遺族の心情は考慮されていません。また、遺族の心情は、その家族における年齢構成や資産状況、配偶者の安心感など様々な要因があり、家族の状況により多種多様で、対策の王道は存在しません。
よって、相続税額の多寡ばかりに目を向けるのではなく、遺族(特に配偶者)が生活に困らないだけの財産を引き継ぐことを念頭におき、遺産分割を行うようにしましょう。
スエナガ会計事務所
代表 末永 寛

まとめ

配偶者控除は、相続税の負担を大幅に軽減できる非常に有効な特例制度です。1億6,000万円または法定相続分相当額まで非課税になるという強力なメリットがある一方で、適用条件や申告手続きを誤れば、せっかくの節税チャンスを逃してしまう可能性もあります。

相続税の申告義務がある・なしにかかわらず、配偶者控除を適用するには相続税の申告が必須である点、そして申告期限(被相続人の死亡を知った日から10か月以内)を厳守することが何より重要です。また、二次相続まで見据えた総合的な相続対策を立てることで、より効果的な節税が可能になります。

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この記事の監修者
スエナガ会計事務所
代表 末永 寛
専門学校卒業後、一般企業において経理事務を約25年経験。39歳で一念発起し、働きながら税理士試験に合格。税理士法人勤務を経て、2023年スエナガ会計事務所開業。特に「相続税」分野を強みとし、相続や中小企業の事業承継(後継者問題)について、相談に応じたり、セミナーを開催したりするほか、金融機関の勉強会やハウスメーカー主催の相続情報や相続対策の講演なども行っている。趣味はマラソンで、これまで100レース以上に出走、現在も記録更新中であり、将来はバイク(自転車)で47都道府県制覇を狙っている。
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この記事の執筆者
相続財産センター編集部
相続財産センターは、株式会社ビスカスが運営する、日本初の「税理士紹介サービス」の相続に特化したサイトです。資産税・相続に強い税理士をお探しの個人事業主や法人のお客様に対して、ご要望の税理士を無料でご紹介しています。
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