二次相続とは?一次相続との違いと基本知識
二次相続の流れと事例
二次相続は「一次相続で配偶者が財産を受け継いだか否かに関わらず、その後配偶者が亡くなったとき」に発生します。
【具体例:4人家族のケース】
- 家族構成:父、母、子2人
- 一次相続:父が亡くなり、母と子2人が相続人
- 二次相続:母が亡くなり、子2人のみが相続人
このとき重要なのは、母が一次相続で受け継いだ財産と母自身の固有財産が合算されることです。例えば、父の遺産5,000万円のうち母が3,000万円を相続し、母の固有財産が2,000万円だった場合、二次相続時の課税対象は5,000万円となります。
また、一次相続と二次相続の間隔が短い場合(10年以内)は「相次相続控除」という特例が適用できる可能性がありますが、この制度を見落として損をするケースも多く見受けられます。
法定相続人の違い
一次相続と二次相続では、法定相続人の構成が大きく変わります。
項目 | 一次相続の場合 | 二次相続の場合 |
---|---|---|
法定相続人(法定相続分) | 配偶者(2分の1)、子ども2人(各4分の1) | 子ども2人のみ(各2分の1) |
基礎控除 | 4,800万円(3,000万円+600万円×3人) | 4,200万円(3,000万円+600万円×2人) |
この違いにより、法定相続人が1人減ることで基礎控除が600万円減少し、さらに配偶者控除が使えなくなるため、税負担が大幅に増加する要因となります。
数次相続との違い
「数次相続」と「二次相続」は混同されやすい用語ですが、明確な違いがあります。
数次相続とは
被相続人が亡くなった後、遺産分割協議が成立する前に相続人の一人が亡くなってしまうケースです。例えば、父が亡くなり遺産分割協議中に母も亡くなった場合、父の相続について母の相続人(子どもたち)が代わりに協議に参加します。
二次相続とは
一次相続が完了した後に発生する別の相続です。手続きは分離されているため、数次相続ほど複雑にはなりませんが、税負担の面で注意が必要です。
二次相続で相続税が増える理由
なぜ二次相続で税負担が増えるのか、主な理由を整理すると以下の通りです。
- 二次相続で税負担が増える6つの理由
- ①相続税の基礎控除額が600万円減る
- ②配偶者控除(最大1億6,000万円)が使えない
- ③配偶者自身の財産も課税対象に加算される
- ④死亡保険金等の非課税枠が500万円減る
- ⑤小規模宅地等の特例の適用要件が厳しくなる
- ⑥課税対象が増えることで相続税率もアップする
基礎控除の減少による影響
相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されます。
【基礎控除の比較例】
- 一次相続:4,800万円(法定相続人3人)
- 二次相続:4,200万円(法定相続人2人)
- 差額:600万円の減少
この差は大きく、例えば相続財産が5,000万円の場合を比較すると次のようになります。
【課税対象額の比較】
- 一次相続:200万円(5,000万円-4,800万円)
- 二次相続:800万円(5,000万円-4,200万円)
基礎控除の減少だけで、課税対象額が4倍に増加することがわかります。
配偶者控除の消失と課税対象の拡大
一次相続では「配偶者控除」という強力な節税制度が利用できますが、二次相続では配偶者がいないため使用できません。
配偶者控除(配偶者の税額軽減)とは
配偶者が相続した財産のうち、法定相続分または1億6,000万円のいずれか多い方の金額まで相続税がかからない制度です。
【税負担の実例比較】
以下の前提で一次相続と二次相続の税負担を比較してみましょう。
前提条件
- 家族構成:父、母、子ども2人
- 一次相続(父死亡):遺産総額1億円
- 配偶者(母):8,000万円相続
- 子ども2人:各1,000万円ずつ相続
- 母の固有財産:2,000万円
- 二次相続(母死亡):遺産総額1億円(8,000万円+2,000万円)
- 子ども2人:各5,000万円ずつ相続
項目 | 一次相続の相続税 | 二次相続の相続税 |
---|---|---|
基礎控除 | 4,800万円(3,000万円+600万円×3人) | 4,200万円(3,000万円+600万円×2人) |
課税遺産総額 | 5,200万円(1億円-4,800万円) | 5,800万円(1億円-4,200万円) |
配偶者 | 配偶者控除により相続税0円 | - |
子ども各人 | 63万円 | 385万円 |
このように、このケースの二次相続では一次相続の約6倍の税負担となります。
小規模宅地等の特例と保険金非課税枠の制約
二次相続では、各種特例の適用がより困難、あるいは金額がより少なくなります。
小規模宅地等の特例の適用制約
一次相続の場合
被相続人が居住していた自宅(土地)を配偶者が取得すれば無条件に適用されます。
二次相続の場合
同じ自宅(土地)を子どもが取得し適用を受けるためには厳しい条件があります。
【主な適用要件】
同居親族の場合
- 相続開始前から被相続人と同居していること
- 相続税の申告期限まで引き続き居住し、かつ所有していること
別居親族の場合
- 相続開始前3年以内に本人または配偶者、三親等以内の親族等が所有する家屋に居住したことがないこと
- 相続開始時に本人が居住している家屋を相続開始前に所有していたことがないこと
- 相続税の申告期限まで引き続き所有していること
- その他一定の要件を満たすこと
遺された配偶者が引き続き自宅で独り暮らしをしているような場合、別居親族の適用要件は厳しいため、特例の適用が困難になる可能性があります。
死亡保険金非課税枠の縮小
非課税枠の計算式 500万円×法定相続人の数
【非課税枠の比較】
- 一次相続:1,500万円(法定相続人3人)
- 二次相続:1,000万円(法定相続人2人)
- 差額:500万円の減少
さらに、保険金の受取人が限定されるため、節税効果を最大化するためには事前の見直しが必要です。
二次相続で損をしないための対策
一次相続での遺産分割の工夫
二次相続対策として最も重要なのは、一次相続の段階での適切な遺産分割です。
【分割時のポイント】
- 配偶者に財産を集中させすぎない
- 配偶者の生活に必要な金額を慎重に見積もる
- 収益性の高い財産(例えば、賃貸不動産など)は子どもに相続させる
- 将来値上がりが期待される財産は早めに子どもに相続させる

松井 信行
記事監修者からのワンポイントアドバイス
「面倒なのでとりあえず一次相続は遺った配偶者がすべて相続すればいい」と考える人は実際少なくありません。
「配偶者が財産を相続すれば1億6千万円までなら相続税がかからない」と言われればその特例を最大限活用したいと考えるのが普通ですし、配偶者が財産の大半を相続するのであれば相続人間の遺産分割協議で揉めることはほとんどありません。
しかし、そうして安易に決めた結果、二次相続で子どもが高額の相続税を負担することになってしまったケースをよく見かけます。
大事なことは親世代の財産を子などの世代に二回の相続を通じていかに税負担を少なく承継させるかです。
そのためには、親世代が共に健康なうちに二次相続まで含めた相続税額を試算して、一次・二次のトータルで相続税額が最も少なくなる財産配分を知っておくこと、そしてその上で特例を上手に使うことが大切です。
生前対策の活用
生前贈与の効果的な活用
暦年贈与の活用
年間110万円までの贈与が非課税となるため、長期間にわたって活用することで多額の財産を移転できます。
相続時精算課税制度の活用
2,500万円までの贈与が非課税となり、将来の値上がりが期待される財産に適用することで節税効果を得られます。
生命保険を活用した納税資金確保
- 生命保険活用のメリット
- 非課税枠の活用(500万円×法定相続人の数)
- 受取人固有の財産(遺産分割協議不要)
- 納税資金の確保
二次相続対策としては、配偶者の固有財産に余裕がある場合(もしくは一次相続の相続財産で)、配偶者が自身を被保険者・子どもを受取人とする保険に加入することが有用な対策になります。
不動産対策と特例の活用
小規模宅地等の特例を活用するための準備
- 子どもとの同居(二世帯住宅を含む)の検討・促進
- 持家の売却・賃貸住宅への住み替え
配偶者居住権の活用
配偶者居住権は所有権よりも評価額が低くなるため、一次相続時に配偶者が居住権を取得し、子どもが所有権を取得することで二次相続時の課税対象額を抑制できます。ただし、配偶者が何らかの理由で自宅に住み続けられなくなった場合に課税されるリスクもあるため、活用には注意が必要です。
相次相続控除の活用
相次相続控除は、一次相続から10年以内に二次相続が発生した場合の特例です。
【控除の仕組み】
一次相続で納付した相続税の一部を二次相続の相続税から控除できる制度で、二重課税を防ぐことを目的としています。
【注意点】
- 一次相続で相続税の申告・納付が前提
- 控除額は年数の経過とともに減少
- 申告書への記載が必要(適用漏れに注意)
二次相続でよくあるトラブルと防止策
遺産分割協議の難航
二次相続では、一次相続と比較して遺産分割協議が難航しやすくなります。
【よくあるトラブル】
- 実家不動産の処理方針で対立
- 一次相続での分割への不満が再燃
- 調整役となる配偶者がいない
- 兄弟姉妹間の感情的対立
【トラブル防止策】
- 遺言書の作成
- 定期的な家族会議の開催
- 各相続人の希望・状況の事前把握
- 専門家を交えた話し合い

松井 信行
記事監修者からのワンポイントアドバイス
二次相続の一次相続との最大の違いは、"相続人が子だけになる(親がいない)"ということです。
一次相続では上下の関係にあった親子間の話し合いから、二次相続は対等な関係の子ども(兄弟姉妹)同士の話し合いに変わります。
特に子世代はそのライフステージによって資金需要も大きく変化しますので、ある相続人には一次相続の時にはなかった事情が二次相続では生じているかもしれません。
そのため、一次相続に比べて二次相続の遺産分割は多かれ少なかれ揉める(相続人間で意見が食い違う)というのが一般的です。
このような争いを避けるためにも、二次相続にこそ遺言を遺しておくことをお勧めします。
公正証書遺言に加えて最近は法務省の『自筆証書遺言書保管制度』もありますので、これらを上手く活用して生前のうちからご自身の意思として財産の分け方を遺しておかれることが何よりも円満な相続に繋がります。
手続きの複雑化
数次相続が発生した場合の注意点
- 相続関係の複雑化
- 必要書類の増加
- 一次相続と二次相続でそれぞれ異なる相続放棄期限
- 一次相続と二次相続の申告手続きが重なる可能性
これらの複雑な手続きを避けるためには、一次相続の手続きを速やかに完了させることが重要です。
二次相続でよくある疑問Q&A
二次相続の方が税金は高くなりますか?
多くの場合、二次相続の方が税負担は重くなります。基礎控除が減少するため、同じ財産額でも課税対象となる部分が増え、さらに配偶者控除も使えなくなるからです。ただし、適切な対策を講じることで税負担を軽減することは可能です。
一次相続で配偶者がすべて相続するのは損ですか?
税負担の観点からは損になるケースが多いです。配偶者控除により一次相続では税負担がありませんが、二次相続ではすべての財産に対して相続税が課税されます。一次相続時に子どもにも一定の財産を相続させることで、全体の税負担を軽減できる可能性があります。
二次相続対策はいつから始めるべきですか?
できるだけ早期に始めることをお勧めします。特に一次相続発生時には、二次相続を見据えた遺産分割を行うことが重要です。夫婦ともに健在な段階から生前贈与や生命保険の活用などの対策を講じることで、より大きな節税効果を得られます。
どんなトラブルが多いですか?
実家の不動産をどうするかで兄弟姉妹の意見が分かれるケースが最も多く見られます。「住み続けたい」「売却したい」「賃貸に出したい」などの希望が対立し、協議が長期化することがあります。事前の遺言書作成や家族会議での話し合いが有効な防止策となります。
二次相続で「相次相続控除」はどんな場合に適用できますか?
相次相続控除は、一次相続から10年以内に二次相続が発生し、かつ一次相続で相続税を納めている場合に適用できます。控除額や手続きは複雑ですので、申告時に専門家に確認しましょう。
二次相続が発生したあとで相続放棄はできますか?
二次相続発生後も、原則として相続開始を知った日から3か月以内なら相続放棄が可能です。ただし、数次相続や再転相続のケースでは手続きが複雑になったり放棄できない場合もあるため、早めに専門家に相談しましょう。
二次相続で小規模宅地等の特例が使えない場合、他にできる節税策はありますか?
小規模宅地等の特例が使えない場合は、他の財産(金融資産)価額を抑えるために生前贈与の活用や生命保険で納税資金を確保する、対象不動産の価額を抑えるために自宅(自用地)を貸家(貸家建付地)にするなどの対策があります。状況に応じて複数の節税策を組み合わせることが重要です。
二次相続の申告や納税の期限はいつですか?
二次相続が発生した日(被相続人の死亡日)から10か月以内に申告・納税を行う必要があります。一次相続と同様ですが、数次相続の場合に一次相続の期限を二次相続の期限まで延長することはできても二次相続の期限は変わらないため注意しましょう。
二次相続で障害者控除や未成年者控除はどうなりますか?
一次相続で障害者控除や未成年者控除を適用している場合、二次相続では一次相続で控除しきれなかった残額のみ適用されるか、適用できないことがあります。控除の適用状況や金額は、相続人の年齢や障害の程度によって異なるため、必ず確認しましょう。
二次相続で遺留分のトラブルが起きやすいのはどんな場合ですか?
特定の相続人に多く遺産を残す遺言がある場合や、一次相続の分割に不満がある場合、兄弟姉妹間で遺留分を巡る争いが起きやすくなります。遺留分侵害額請求を防ぐためにも、分割内容や遺言作成時に十分配慮が必要です。
二次相続の相談はどのタイミングでするのがベストですか?
一次相続が発生した時点、もしくはご両親がご健在のうちから、早めに二次相続を見据えて相談するのが理想です。遺産分割や生前贈与など、選べる対策が多いほど有利になります。
まとめ
二次相続は、多くのご家庭で想定以上の税負担が発生する可能性が高い重要な問題です。配偶者控除の消失、基礎控除の減少、各種特例の適用制限など、複数の要因が重なることで一次相続の何倍もの相続税が発生するケースも珍しくありません。
しかし、一次相続の段階から適切な対策を講じることで、二次相続での税負担を大幅に軽減することが可能です。遺産分割の工夫、生前贈与や生命保険の活用、不動産対策など、多角的なアプローチが効果を発揮します。
相続財産センターでは、これまで数多くの二次相続対策をサポートしてきた経験豊富な税理士が、お客様の家族構成や財産状況に応じた最適な対策をご提案いたします。「うちは大丈夫」と思っていても、実際に計算してみると思わぬ税負担が発生することがあります。まずは無料相談で現状を把握し、早めの準備で将来の安心を手に入れませんか。一次相続から二次相続まで一貫したサポートで、お客様の大切な財産をお守りいたします。