海外にある財産に相続税がかかる!?国外財産の二重課税対策を解説

海外にある財産に相続税がかかる!?国外財産の二重課税対策を解説
最終更新日:2025/12/24
この記事の監修者
竹中啓倫税理士事務所
代表 竹中 啓倫(税理士・米国税理士)
「海外の不動産を相続したが日本の相続税はかかるのか」「アメリカの銀行預金は申告が必要なのか」と悩む相続人は少なくありません。海外財産の相続税は、相続人と被相続人の住所・国籍、財産の所在地によって課税範囲が決まります。まず自分が無制限納税義務者か制限納税義務者かを判定し、課税対象となる財産を特定した上で、適切な評価と申告を行う必要があります。本記事では、判定の流れから評価・申告の実務、二重課税対策まで、海外財産の相続税申告に必要な知識を解説します。

海外財産の相続税がかかるケースとその判定フロー

海外財産への課税は、相続人が無制限納税義務者か制限納税義務者かで決まります。無制限納税義務者は国内外すべての財産が課税対象、制限納税義務者は国内財産のみが課税対象です。判定には相続人と被相続人の住所が関わり、平成29年度改正で導入された「10年ルール」により判定基準が厳格化されています。

納税義務者の区分と課税範囲(判定フロー)

相続税の課税範囲を知るには、まず相続人がどの納税義務者区分に該当するかを判定します。区分は「居住無制限納税義務者」「非居住無制限納税義務者」「制限納税義務者」の3つです。

相続人が日本国内に住所を有する場合、被相続人の住所や国籍に関わらず「居住無制限納税義務者」となり、国内外すべての財産が課税対象です。これが最も基本的な区分で、日本に住んでいる相続人は国籍を問わずこれに該当します。

相続人が国外に住所を有する場合の判定は複雑です。日本国籍を有する相続人で、被相続人または相続人のいずれかが相続開始前10年以内に日本に住所を有していた場合、「非居住無制限納税義務者」となり、国内外すべての財産が課税対象です。この「10年ルール」は平成29年度改正で導入され、従来の5年から延長されました。

一方、日本国籍を有する相続人でも、被相続人・相続人ともに相続開始前10年超にわたり日本に住所がない場合は、一般に「制限納税義務者」となり、国内財産のみが課税対象です。

日本国籍を有しない相続人については、相続開始時に日本国内に住所がある場合は「居住無制限納税義務者」となります。住所がない場合でも、被相続人の住所や国籍によっては「非居住無制限納税義務者」となるケースがあり、これらに該当しない場合が「制限納税義務者」となります。

ただし実際の判定には例外や細かな要件も多く、永住者か一時滞在者か、被相続人の国籍・住所などを総合的に判断する必要があります。詳細な判定は、国税庁タックスアンサーNo.4138などの公式情報や専門家の助言を前提に行うのが安全です。

監修者

竹中 啓倫

記事監修者からのワンポイントアドバイス

あまり間違えを見たことはありませんが、典型的なところでは、自分は日本国の居住者であり、かつ日本人である場合、海外の財産は相続税には全く無関係であるという誤解をされて見える方が、少数ながら存在されて見えます。全世界財産が課税対象となりますので、注意が必要です。日本の国税当局は資産運用の国際化に着目し、海外の課税当局との連携を強化することで、海外資産について重点的に調査をしておりますので、課税逃れは補足される可能性は高くなったと言えます。
また、2012年の武富士事件の国税局敗訴に対応したと思われる税制改正によって、日本国籍をもつ非居住者の過去の5年以内(その後10年以内に強化)の日本国内に住所を有したことにより、日本国外にある財産も相続財産に取り込まれることとなりましたので、「過去における国内居住要件をそれほど重要視されなかった昔を」ご存じの方ほど、注意が必要かと思われます。

国内財産・国外財産の判定基準

財産が国内財産か国外財産かは、相続税法第10条に基づき財産の種類ごとに判定します。主要な財産の判定基準は次のとおりです。

  • 不動産:物理的な所在地
  • 預貯金:口座がある営業所の所在地
  • 株式:発行法人の本店所在地
  • 国債・地方債:発行国
  • 動産:現物の所在地
  • 貸付金債権:債務者の住所地
  • 生命保険金:保険事務を行う営業所の所在地

例えば、日本の証券会社で購入したアマゾン株式は、発行法人の本店がシアトルにあるため国外財産となります。アメリカで開設した日本の銀行のドル建て口座は、受け入れをした営業所が国外にあるため国外財産です。一方、日本の銀行の貸金庫に保管した米ドル紙幣は動産の所在地で判定するため国内財産となります。生命保険金は、アメリカに本店がある保険会社でも日本に営業所があれば国内財産、営業所がなければ国外財産となります。

これらはあくまで典型例であり、実際には現地の法制度や契約内容などを踏まえて総合的に判断しなければなりません。二国間で締結される租税条約が優先され、対象国が変われば租税条約も変わるため注意が必要です。

日米相続税条約による特別ルール

被相続人が死亡時に米国籍を有していた場合や、死亡時の住所が米国であった場合など、日米間の相続に該当する場合には、日米相続税条約により財産の所在地判定が変わります。この条約は相続税法第10条の原則よりも優先されるため、該当する場合は必ず確認が必要です。

日米相続税条約では、債権(銀行預金を含む)は債務者の居住地、株式は法人設立準拠法の施行地で判定します。有体動産は現実にある場所、特許権等は登録地で判定するため、通常の判定と結果が異なる場合があります。

実務上は、被相続人の国籍と死亡時の住所を確認し、日米間の相続に該当する場合は条約適用を前提に判定を行います。

海外財産の評価と申告手続きの実務

海外財産の評価は国内財産の評価方法を準用しますが、為替換算や現地評価額の取扱いに注意が必要です。申告期限は10ヶ月以内ですが、書類収集に時間がかかるため早期着手が不可欠です。

財産評価の基本と為替換算ルール

海外財産の評価は、財産の種類に応じて国内財産と同様の方法で行い、評価額を日本円に換算します。

海外預貯金は、相続開始日における対顧客直物電信買相場(TTBレート)で円換算します。取引銀行の公表レートを使用するのが原則で、相続開始日が土日祝日の場合は直前の営業日のレートを使用します。

海外不動産は、現地に固定資産税評価額に相当する公的評価制度がある場合、その評価額をTTBレートで円換算した金額を基礎とします。公的評価制度がない場合は、不動産鑑定評価額や売買実例価額などを参考に評価します。ただし、国税庁がその評価方法を認めるかはケースバイケースであり、現地で相続税が課された場合の評価額の採用についても個別判断となります。

外国株式は、上場株式であれば国内株式と同様に相続開始日の最終価格を基準とし、4つの評価方法のうち最も低い価額を採用できます。非上場株式は現地の財務諸表を日本の評価方法に当てはめますが、実務上の難易度は高く、専門家の関与が不可欠です。

生命保険金は支払額をTTBレートで円換算し、死亡保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)は国内外を問わず適用されます。

申告に必要な書類と期限

海外財産を含む相続税申告の期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内です。海外不動産や海外預金は、登記簿相当書類や残高証明書、翻訳文などの取得に時間がかかるため、相続発生後すぐに着手することが重要です。

海外不動産では、登記簿謄本に相当する書類とその翻訳文、固定資産税評価証明書に相当する書類、不動産鑑定評価書(必要に応じて)が必要です。翻訳文には翻訳者の署名が必要で、公証を求められる場合もあります。

海外預金では、残高証明書(相続開始日時点)とその翻訳文、為替レートを証明する資料が必要です。アメリカの銀行では、プロベート手続きの完了を待たなければ残高証明書を発行しない場合もあります。プロベート手続きはコモンローの国の多くで行われており、長い場合には数年かかることもあり、申告期限の延長で対応しきれない場合もあります。プロベート手続きに入る際、遺産は遺産財団に移行し、裁判所の監督下に入るため、事前にトラストを組んでおくのが、プロベート対策として考えられています。

外国株式では、証券会社の残高証明書、株価を証明する資料が必要です。非上場株式の場合は現地の財務諸表とその翻訳文も求められます。

相続人が海外に居住している場合、納税管理人の届出が必須です。納税管理人は日本国内に住所を有する者で、申告書の提出や税務署との連絡を代理します。

監修者

竹中 啓倫

記事監修者からのワンポイントアドバイス

相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に相続税申告を行うことということは、原則、申告納税を行うことは絶対であるといえ、ペナルティは課されるとお考え下さい。例外的に、「災害その他やむを得ない理由」に該当する場合は、税務署に申請をすることで、例外的に相続税の申告期限・納付期限の延長(最大2ヶ月)が認められますが、事務作業が間に合わないとかの理由で延長されることはありませんのでご注意下さい。
実務上、申告期限に間に合わないケースとしては、遺産分割協議が間に合わないことが時々見受けられます。これは、相続税申告においてよく適用される「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」が利用できず、相続税額が過大となることがあるからです。この場合でも、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出することによって、未分割申告を行うことができます。

よくあるトラブルと申告の注意点

海外財産相続では、二重課税リスク、現地手続きの長期化、申告漏れのリスクに注意が必要です。

アメリカの遺産税(Estate Tax)は、非居住者の課税最低限が6万ドルと低く設定されており、米国内資産が少額でも課税される可能性があります。日本でも課税されると二重課税となるため、外国税額控除の適用を検討します(詳細は次章)。

金融機関は100万円を超える海外送金を国税庁に報告する義務があり、相続による送金も例外ではありません。適切な申告を行わずに送金すると、税務調査で問題となるリスクがあります。

アメリカではプロベート(検認手続き)に6ヶ月から1年以上かかることもあり、日本の申告期限に間に合わない場合があります。相続税の申告期限(原則10ヶ月)は基本的に延長が認められませんが、「災害その他やむを得ない理由」など一定の要件に該当する場合には、個別に期限延長が認められることもあります。もっとも、海外手続きの遅延のみを理由として機械的に延長が認められるわけではないため、早期に税務署や専門家に相談することが重要です。

国税庁は国外財産調書制度により国税当局間の連携により海外資産の把握を強化しています。価額の合計が5,000万円を超える国外財産を有する居住者は、毎年6月30日までに調書を提出する義務があります。被相続人が国外財産調書を提出していた場合、相続税申告との整合性がチェックされるため注意が必要です。

二重課税を防ぐための外国税額控除

海外で相続税に相当する税が課された場合、日本でも相続税が課税されると二重課税となります。外国税額控除により二重課税のリスクを軽減できる可能性がありますが、控除額には上限があり、適用には厳格な要件があります。

外国税額控除の仕組みと計算方法

外国税額控除は、海外で課された相続税を日本の相続税額から控除する制度です。控除額には上限があり、「外国で課税された相続財産の価額÷相続財産の総額×日本の相続税額」の算式で計算した金額と、実際に外国で納付した相続税額のいずれか少ない金額となります。

例えば、相続財産総額1億円(うち外国財産3,000万円)で日本の相続税額が2,000万円、外国で納付した相続税額が500万円の場合、控除限度額は「3,000万円÷1億円×2,000万円=600万円」となり、実際の外国納税額500万円が控除されます。

ただし、外国で課された税が「相続税に相当する税」(遺産税、相続税など)に該当しない場合は控除の対象外です。キャピタルゲイン税や譲渡所得税は含まれません。また、控除の計算は相続人ごとに行うため、財産の分け方によって控除額が変わる可能性があります。控除額の上限や適用要件により完全には解消されないケースもあります。

実態としては、税務申告書で相続税相当項目はわかりにくいことが多いため、税務専門家や米国税理士等の海外のライセンスを所持される方への相談をおすすめします。

適用要件と手続き

外国税額控除の適用要件は、①日本の無制限納税義務者であること、②外国で相続税に相当する税が課されていること、③その税を実際に納付したことの3点です。

控除を受けるには、相続税申告書に外国税額控除の適用を受ける旨を記載し、外国の納税証明書または納付を証する書類を添付します。外国語の書類には翻訳文も必要です。

外国での納税が日本の申告期限後になる場合、いったん日本で納税した後、更正の請求により控除を受けることができます。更正の請求は、外国で納税した日から4ヶ月以内に行う必要があります。

日米相続税条約がある場合(現在は米国のみ)、条約の規定が優先され、外国税額控除とは別の方法で二重課税を排除する場合もあります。

まとめ

海外財産の相続税は、相続人の納税義務者区分により課税範囲が決まります。判定には相続人と被相続人の住所・国籍が関わり、10年ルールにより海外移住直後でも課税される可能性があります。財産の所在地判定は種類ごとに異なるルールがあり、日米間の相続では条約の特別規定が適用されます。

評価では為替レートの適切な選択が重要で、申告には翻訳文や公証書類の準備に時間がかかります。二重課税は外国税額控除により軽減できる可能性がありますが、完全には解消されないケースもあります。

海外財産の相続税申告は、判定の複雑さ、書類収集の困難さ、評価方法の特殊性から、専門知識が求められます。相続財産センターでは、国際相続に精通した税理士が、判定から評価、申告、外国税額控除まで一貫してサポートします。海外財産を含む相続でお困りの際は、ご紹介料等は一切無料ですので、まずはお気軽にご相談ください。

よくある質問(FAQ)

Q. 海外財産の相続税はどこまで申告が必要ですか?

無制限納税義務者に該当する場合、国内外すべての財産が申告対象です。基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合は申告が必要となります。制限納税義務者の場合は国内財産のみが対象です。

Q. 海外に住む家族に相続した場合の課税はどうなりますか?

相続人が海外居住でも、日本国籍があり、相続開始前10年以内の日本での住所の有無や、被相続人の住所・国籍の状況によっては、非居住無制限納税義務者として国内外すべての財産が課税対象となる場合があります(国税庁タックスアンサーNo.4138参照)。

Q. 外国に相続税がない場合はどうなりますか?

外国に相続税制度がなくても、日本の相続税は通常どおり課税されます。外国税額控除は適用できませんが、日本の相続税の計算や申告義務に変わりはありません。

Q. 日本の証券会社で購入した米国株式は国内財産ですか?

いいえ、国外財産です。株式の所在地は発行法人の本店所在地で判定するため、購入した証券会社が日本にあっても、発行法人が米国であれば国外財産となります。

Q. 相続税の専門家にはいつ相談すべきですか?

海外財産の場合、書類収集に数ヶ月かかることもあるため、相続発生からなるべく早く相談を開始してください。

この記事の監修者
竹中啓倫税理士事務所
代表 竹中 啓倫(税理士・米国税理士)
岐阜県出身。現在4名のスタッフとともに竹中啓倫税理士事務所を運営。かつて上場会社の経営企画部・経理部に長年在籍しており、大会社への対応も可能。スタッフには社会保険労務士の有資格者がおり、司法書士行政書士事務所の勤務経験者も在籍しているため、所得税法人税だけでなく相続税贈与税を含む幅広い業務に対応。
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