亡くなった親の残したアパートが「赤字」!?引き継ぐ判断・取るべき対応について解説

[取材/文責]マネーイズム編集部
蛇沼浩之税理士事務所所長 蛇沼 浩之(税理士)

被相続人(亡くなった人)の遺産には、自宅のほかに賃貸アパートなどの収益不動産が含まれていることがあります。相続後の家賃収入は、相続人の生活費の確保や資産形成に貢献してくれることでしょう。ただし、中には思ったような収益を上げられないなどの理由で、「赤字経営」に陥っていて、逆に相続人の重荷になることもあります。「赤字」が起こる原因や、そのような不動産を相続するかどうかの判断、引き継いだ場合の対応策を中心に解説します。

アパート経営が「赤字」になる理由

不動産投資の目的には、大きく「キャピタルゲイン」と「インカムゲイン」があります。キャピタルゲインは、不動産の「売却益」のことです。例えば、2,000万円で購入した不動産が2,500万円で売れれば、500万円の利益を得ることができます。

これに対してインカムゲインは、所有する不動産の「運用益」、具体的には家賃収入を指します。長期的に安定した利益を得られるのが特徴で、一般的な不動産投資においては、こちらが重視されます。

相続した収益不動産(家賃収入を得られる不動産)にも、同じことがいえます。毎月、家賃が入ってくるというのは、物件を相続した人にとって、大きなメリットです。

同時に経営に必要な経費など、「出ていくお金」にも注意が必要です。これらが継続的に家賃収入を上回ったら、相続したアパートは「赤字を垂れ流す」存在になるからです。

蛇沼浩之税理士事務所所長 蛇沼 浩之(税理士)

アパート経営で「出ていくお金」とは

では、アパート経営には、どのようなお金がかかるのでしょうか?

ローンの返済

被相続人が金融機関から融資を受けてアパート経営を始めた場合、多額の借入金が残っていることは珍しくありません。残債は、相続した人が返済していくことになります。

ただし、被相続人(契約者)が、融資を受ける際に団体信用生命保険(団信)に加入していれば、死亡の時点でローンの残りは生命保険で完済されるため、相続人は、残債ゼロの状態でアパート経営を引き継ぐことができます。

管理、修繕にかかる費用

アパート経営には、適切な管理(共用部の定期的な清掃、家賃の確実な徴収など)が欠かせません。オーナーがすべて対応できればいいのですが、多くの場合は、費用を払って管理会社に委託することになるでしょう。

賃貸物件としての価値を維持するためには、外壁や共用部分の修繕(屋上やバルコニーの防水工事、給排水設備・給水ポンプ・配管などの工事など)、エアコン・給湯器などの取り換えといったコストも織り込んでおく必要があります。

固定資産税、都市計画税

固定資産税は、毎年1月1日時点で不動産を所有している人に対して課される税金です。市街化区域(※)内の土地と建物の所有者には、都市計画税も課税されます。

※市街化区域
すでに市街地となっている区域またはおおむね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域。アパート経営を行うような都市部の多くは、この市街化区域に指定されている。

税率は、原則として以下の通りです。

・固定資産税=土地と建物それぞれについて「固定資産税評価額×1.4%」
・都市計画税=土地と建物それぞれについて「固定資産税評価額×0.3%」

なお、固定資産税と都市計画税には、住宅のある土地(住宅用地)に関して、納税額を減らせる特例措置があり、200㎡以下の部分(小規模住宅用地)について、固定資産税は上の計算の税額の1/6、都市計画税についても1/3に減額されます。これは、アパート経営の場合も適用され、200㎡×住戸数の面積が小規模住宅用地として認められます。

このように、税の軽減措置は適用されますが、納税義務が発生することに変わりはありません。具体的な納税額については、土地と建物の固定資産税評価額は納税通知書に記載されているほか、市区町村役場にある固定資産課税台帳でも確認することができます。

所得税の「申告漏れ」に注意

不動産経営で出た利益(不動産所得)には、所得税が課税されるため、毎年、確定申告を行う必要があります。被相続人が何らかの理由(例えば、認知症を患っていた)で、申告していなかったり(無申告)、あるいは納税額が少なかったり(過少申告)した場合には、不動産を相続した人に納税義務が生じます。本来納めるべき税額に加え、「加算税」「延滞税」というペナルティも課せられることになります。

手元に納税通知書が届く固定資産税と違い、所得税は、自ら所得と納税額を調べて申告・納税を行う必要があるため、未納などが生じやすいことに注意が必要です。

被相続人がアパート経営を行っていた場合、相続人が代わりにその方の所得税の申告をする「準確定申告」という手続きも必要になります。

蛇沼浩之税理士事務所所長 蛇沼 浩之(税理士)

不動産を引き継ぐ判断はどうする?

まず実情を知る

明らかに「儲かっている」アパートなら問題ありませんが、中には「経営実態」が不明な場合もあるでしょう。そのような物件を相続する場合には、まずはその点をクリアにする必要があります。

確かめるべきなのは、家賃収入から今お話ししたような経費、出費を差し引いて、きちんと黒字が出ているか。修繕など将来の出費を見据えた積立ができているのか、ということです。ポイントは入居率で、例えば恒常的に部屋の半分しか埋まらないような状況だと、相対的に管理費の負担が増加し、経営は苦しくなる一方でしょう。

状況を知るためには、被相続人が行っていた不動産所得の確定申告の内容が、1つの目安になります。不動産所得は、「収益不動産からの総収入金額 -必要経費」で計算され、これに税率を掛けて納税額を算出します。「総収入」には、家賃のほか敷金や共益費なども含まれます。また、「経費」は、固定資産税、減価償却費、修繕費などが該当します。

この不動産所得を見れば、経営状況は一目瞭然です。ただし、大規模な修繕を行ったりして経費が膨らんだ年には所得が減少しますから、何年か分を調べてみるようにしましょう。

申告書の控えが見つからない場合には、家賃が振り込まれる口座の入出金、残高の状況から、ある程度の推測ができるかもしれません。収益不動産を持っていたのに、相続財産の預貯金が少額しかない、というような状況だったら、「赤字」を疑うべきでしょう。

状況によっては相続放棄も選択肢になる

仮にそのような実態だったとしても、次項で説明するような方法で状況を改善したり、利益を得たりすることができるかもしれません。しかし、明らかに「負動産」を引き継ぐことになる場合には、相続放棄という選択肢もあります。

相続放棄を行うには、原則として「相続の開始があったことを知ったときから3ヵ月以内」に、家庭裁判所に申し出る必要があります。また、相続放棄が認められると、他の遺産もすべて引き継ぐことができなくなります。

なお、相続放棄した不動産は、他の相続人が引き継ぐことになります。すべての相続人が放棄した場合には、「相続財産清算人(旧:相続財産管理人)」を選任したうえで、処分などを進めることになります。こうしたケースでも、相続放棄した相続人には、不動産の管理責任が残ることには、注意が必要です。

財産の全容が不明の場合には、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産も受け継ぐ、「限定承認」という方法もありますが、こちらも相続放棄と同じく申出期限があります。

蛇沼浩之税理士事務所所長 蛇沼 浩之(税理士)

「赤字」の不動産を生かす方法

現状が「赤字経営」でも、相続人にとってメリットを生むケースもあります。

アパートを売却する

不動産を売却することで、最初に説明したキャピタルゲインを得ることができます。アパートの経営権を含めて売却することも、廃業して土地と建物を売ることも可能です。

ただし、前者については、思うように収益の上がっていない物件に買い手が付くのかどうか、という問題があります。また、後者も、老朽化した建物がネックになるかもしれません。アパートを取り壊して更地にすれば、売却の可能性は広がりますが、解体コストの負担を考慮する必要があります。

建て替えやリノベーションで収益を改善する

「赤字」が起こる原因を解消して、アパートの入居率が向上すれば、継続的な利益を確保することができます。物件の古さや使い勝手の悪さなどがネックになっているのなら、建て替えやリノベーションで対応できる可能性があるでしょう。

当然のことながら、将来的に投資に見合った利益が見込めることが前提です。物件の立地条件などを踏まえ、精度の高い「市場調査」が必要になります。

アパート以外の活用方法を検討する

立地や敷地面積によっては、アパートを取り壊し、それ以外の形で土地を活用する道もあります。店舗や駐車場などに衣替えするわけです。これについても、収益見通しの詳細な検討が不可欠なのは、いうまでもありません。

まとめ

アパートの経営には、維持・管理や税金をはじめとする出費も発生します。相続で引き継ぐ場合には、長期的な「負動産」にならないか、検討すべきケースもあります。判断に迷うときには、早めに不動産の相続に詳しい税理士などの専門家に相談するのがいいでしょう。

記事監修者 蛇沼税理士からのワンポイントアドバイス

アパート経営の経験がない相続人の方々にとって、相続開始から3ヵ月という短い期間でアパート経営を引き継いでよいか正しく判断することは簡単なことではありません。
その後も、遺産分割協議、所得税準確定申告(4ヵ月以内)、不動産の相続登記、相続税申告(10ヵ月以内)など、期限のある手続きがたくさんあります。
売却や建て替えを検討する場合にも、そのタイミングや各種特例の適用の可否など、税務面での検討が欠かせません。
初回相談は無料としている税理士も多いので、少しでもわからないことがあれば、まずは相続・不動産に強い税理士に相談した方がよいでしょう。

中小企業経営者や個人事業主が抱える資産運用や相続、税務、労務、投資、保険、年金などの多岐にわたる課題に応えるため、マネーイズム編集部では実務に直結した具体的な解決策を提示する信頼性の高い情報を発信しています。

蛇沼浩之税理士事務所所長 蛇沼 浩之(税理士)

名古屋市緑区を拠点に、中小企業の経営を税務・会計・財務の面から支援する税理士事務所。正確な税務申告だけでなく、月次決算による経営の見える化や経営計画の策定支援、業績管理にも力を入れています。クラウド会計やAIなどの最新ツールを活用し、タイムリーな経営数値の把握を実現。創業支援から資産活用、相続対策まで幅広く対応。

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