ニデックTOBインサイダーで追徴金7.5億円超、利益の約13倍でも税金はかかる?税理士に聞いた

モーター大手ニデックによる牧野フライス製作所へのTOB(株式公開買い付け)を巡るインサイダー取引事件で、東京地裁は10月16日、会社役員の男性(45)に懲役4年6月、罰金1,000万円、追徴金7億5,849万円の判決を言い渡しました。
判決によると、男性は2024年9月6日〜12月26日、未公開のTOB情報を基に牧野フライス株計32万9,100株を約23億4,980万円で買い付けました。裁判所は「常習性は相当に強く、運用規模も大きい」と指摘しています。
報道によると、判決が認定した男性自身の利益は約5,700万円で、追徴金はその約13倍にあたります。なぜ利益を大きく上回る額が取られるのか。違法な取引で得た利益にも税金はかかるのか。税理士に聞きました。
追徴金は「利益」ではなく「売却代金」などが基準
インサイダー取引の追徴金は、儲けた分を返させる仕組みではありません。金融商品取引法第198条の2は、インサイダー取引で得た財産と、その対価として得た財産を没収すると定めています。没収できないときは、その価額を追徴します。
ここでいう財産は利益ではなく、取引で得た株そのものや売却代金を指します。2025年3月の東京地裁判決でも、売却代金1億307万円の全額を追徴するのが原則とされました。たとえば1,000万円で買った株を1,100万円で売った場合、利益は100万円でも、追徴の原則は売却代金の1,100万円です。利益の11倍にあたります。
ただし同条には、財産の取得状況などから、全部または一部を没収しないことができる規定もあります。今回の追徴金7億5,849万円がどう算定されたかは、判決報道では明らかになっていません。
違法な取引で得た利益にも税金はかかる
インサイダー取引で得た株の売却益にも、通常の取引と同じく税金がかかります。所得税は、収入の原因となった行為が適法かどうかを問わないためです(所得税基本通達36-1)。上場株式の譲渡益は申告分離課税で、税率は所得税・復興特別所得税・住民税を合わせて20.315%です。先ほどの例で利益が100万円なら、税額は20万3,150円になります。
ただし、今回の事件では複数の名義や顧客資金が使われていました。実際に誰が課税されるかは、名義ではなく所得が誰に帰属するかで決まります(所得税法第12条)。
罰金・追徴金は、株の譲渡益から差し引けない
罰金や追徴金を払っても、その分を株の譲渡益から差し引くことはできません。譲渡益の計算で差し引けるのは、株の取得費や証券会社への委託手数料など、譲渡のために直接かかった費用に限られます。罰金や追徴金は犯罪に対する制裁であり、これに当たらないためです。
先ほどの例で売却代金の全額が追徴されれば、利益100万円に対して追徴金1,100万円、さらに税金20万3,150円が生じる計算です。元本1,000万円ごと失ったうえに税金の納税も発生することになります。
なお、追徴後に過去の申告を見直せるかは別の問題です。追徴金を払っただけで税金が戻るわけではありません。
「追徴金を払えば、そのぶん税金も戻ってくるのでは」と考える人もいますが、そうはなりません。すでに納めた税金を取り戻す「更正の請求」ができるのは、法律が定める理由がある場合に限られます。所得税法施行令第274条が想定しているのは、無効な契約などで得た利益が後から失われたケースです。インサイダー取引で追徴を受けたというだけでは、これに当たらないと考えられます。反対に、利益を申告していなかった場合は、追徴とは別に、本来の税金に加えて無申告加算税や延滞税を納めることになります。
まとめ
インサイダー取引の追徴金は、利益ではなく売却代金などを基準にするため、利益を大きく上回る負担が生じることがあります。違法な取引で得た利益も原則として課税対象で、罰金や追徴金を株の譲渡費用として差し引くことはできません。職務上知った未公表の情報での取引は、家族や知人を通じたものも含めて避けてください。
▼参照サイト
金融商品取引法(e-Gov法令検索)
所得税法(e-Gov法令検索)
所得税基本通達36-1(国税庁)
国税庁タックスアンサーNo.1463「株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」
東京地方裁判所 令和7年3月17日判決(裁判所ウェブサイト)
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有限責任あずさ監査法人(KPMG)にて、金融商品取引法監査、会社法監査、海外レポーティング業務等に従事。その後ミャンマーに渡り、ミャンマーの国際会計事務所にて、会計・税務アドバイザリー業務、デューデリジェンス業務、国際税務業務、会社設立業務、監査業務等にジェネラルマネージャーとして従事。帰国後、税理士法人Suinasを設立。
事務所公式ホームページはこちら
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