元税務署職員が競艇に8億6,000万円、脱税1億3,500万円か。税理士「使った額はそのまま引けません」

[取材/文責]マネーイズム編集部
プロゴ税理士事務所代表 好川 寛(税理士)

関東信越国税局は2026年8月7日、竜ケ崎税務署の職員(25)を懲戒免職とし、詐欺と所得税法違反の疑いでさいたま地検に告発しました。

報道によると、元職員は税務調査で担当した高齢女性から「実家への仕送り」などの名目で現金を繰り返し受け取り、その総額は約1億5,000万円にのぼるとされます。その資金を元手に競艇へつぎ込んだ額は約8億6,000万円。2023年から2025年にかけて競艇の払戻金などで約3億3,400万円の所得を得ながら確定申告せず、所得税約1億3,500万円を免れていた疑いが持たれています。

8億6,000万円もの舟券を買っていた人物に、なぜ1億円を超える税金の問題が生じるのか。そして、本物の税務署職員から税金の名目で現金を求められることがあるのか。税理士に話を聞くと、公営競技の払戻金にかかる税金の仕組みと、納税者が知らずにいる危うさが見えてきました。

競艇の払戻金にも税金がかかります。外れ舟券は原則引けません

まず押さえていただきたいのは、競艇や競馬などの公営競技の払戻金にも税金がかかるという点です。払戻金は原則として「一時所得」に区分され、確定申告が必要になる場合があります。

一時所得は、総収入金額から「収入を得るために支出した金額」と特別控除額(最高50万円)を差し引き、その2分の1をほかの所得と合算して税額を計算します。一時所得から差し引けるのは「その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額」に限られます。つまり、ここで差し引けるのは的中した舟券の購入代金だけです。外れ舟券は、当たった舟券の払戻金という収入に「直接要した金額」とはいえないため、差し引けません。

たとえば、払戻金が3,000万円、的中した舟券の購入代金が100万円なら、一時所得は3,000万円から100万円と特別控除50万円を引いた2,850万円。その半分の1,425万円が所得金額に算入されます。ほかに所得がなく基礎控除だけを差し引くものとして単純計算すると、所得税と住民税を合わせて概算で約440万円になります。実際の税額は、所得控除の状況や税率などによって変わりますが、実際の収支が大きくないように見えても、数百万円の税金が生じる場合があるということです。

なお、今回の事案で当局が実際にどう所得を計算したかは公表されていません。

外れ舟券を経費にできるのは、ごく例外的な場合だけです

外れ舟券が例外的に必要経費として認められる場合もあります。年間を通じて大量かつ継続的に購入し、購入方法や収支の状況などから「営利を目的とする継続的行為」と客観的に認められるようなケースです。競馬をめぐる裁判をきっかけに国税庁の通達が改正され、競輪や競艇も同じ考え方で扱われます。ただし対象は極めて限定的で、一般的な愛好家の払戻金は原則として一時所得であり、外れ舟券は差し引くことはできません。国税庁は、購入の期間・回数・頻度などの態様と、利益発生の規模・期間などの状況を総合して判断するとしています。実際に雑所得と認められた事案は、年間を通じてほぼすべてのレースを対象に購入し、長期にわたり継続的に利益を上げていたなど、通常の趣味としての公営競技とは異なる購入実態がありました。したがって、単に大量の舟券を購入しているというだけで、外れ舟券を必要経費にできるわけではありません。今回の事案についても、実際にどのような購入実態があったのか、当局がどのように所得区分を判断したのかによって税務上の取り扱いは決まります。

税務署職員なのに、なぜ申告しなかったのか

元職員がなぜ申告しなかったのか、その動機は公表されていません。報道によると、2023年1月から2026年1月にかけて、勤務時間中を含めて2,500回以上にわたり舟券を購入し、同僚からも借金していたとされます。上司から注意を受けた際には「競艇はやめた。借金はない」と説明していたということです。

税務の知識がなかったから申告しなかった、と説明できる事案ではありません。インターネット投票や預貯金口座には取引記録が残るため、調査が入れば資金の流れをたどられる可能性があります。

税務署職員から「この場で現金を」と言われたら渡さない

報道によると、元職員は税務調査で担当した高齢女性に対し、「以前に提出した修正申告書に誤りがあり、新たに納めるべき税金が発生する」と虚偽の説明をし、約85万円をだまし取った疑いが持たれています。偽の税務署員ではなく、本物の職員が税務調査で得た信用を悪用した疑いがある点が、この事件の特徴です。なお、所得税では、収入が適法か違法かは問われません。だまし取った現金であっても、返還されない限り課税の対象となり得ます。

税務調査の結果として追加の納税を求められること自体は珍しくありません。異常なのは、調査の担当者から「今この場で現金を渡してください」と言われることです。調査で納税が必要になった場合は、修正申告などの手続を経たうえで、納付書やe-Tax、金融機関などを通じて納税者自身が納めます。窓口での現金納付や、徴収担当の職員が現金を領収する場面もありますが、その場合は必ず領収証書が交付されます。

少しでも不審に感じたら、その場で現金を渡したり、書類に署名したりせず、いったん保留してください。そのうえで、税務署の代表番号にかけ直して担当部署と氏名を確認するか、顧問税理士に相談することをおすすめします。

まとめ

公営競技の払戻金は、原則として一時所得として課税対象になります。一時所得では、原則として的中した舟券の購入代金しか差し引くことができないため、実際の収支が少なくても税金が生じる場合があります。また、税務調査の担当者からその場で個人的に現金を求められた場合は応じず、税務署に確認してください。税務署職員という肩書きだけで信用するのではなく、納税については必ず所定の手続と納付方法を確認することが大切です。

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プロゴ税理士事務所代表 好川 寛(税理士)

東京国税局で15年にわたり、税務調査・審理・国税不服審判所の業務に従事。非居住者課税の相談実務に精通する。大手YouTuberエージェンシーでの実務経験から、フリーランス・インフルエンサー特有の税務にも明るい。その後、IT企業でのプロダクトマネジメントを経て神奈川県川崎市で独立。現在はクリエイターやスタートアップの税務支援を中心に活動し、税務メディアの記事監修も多数手がける。国税の現場で培った課税庁側の視点を活かした解説を得意とする。

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