平均給与は1.9%増、源泉徴収された所得税は17%増。なぜ?今年の年末調整で起きることも税理士に聞いた

国税庁は2026年9月、「令和7年分民間給与実態統計調査」の結果を公表しました。
1年を通じて勤務した人の平均給与は487万円(前年比1.9%増)で、この人たちから源泉徴収された所得税額は12兆9,141億円(同17.0%増)でした。給与所得者全体でみても、給与総額2.6%増に対して所得税額は13兆1,262億円(同17.4%増)と、税額の伸びが際立っています。
ただし、これは会社員一人ひとりの所得税が17%増えたという意味ではありません。
給与がわずかしか増えていないのに、なぜ所得税額だけが急増したのか。そして今年の年末調整では何が起きるのか。税理士が解説します。
急増の主因は、2024年だけ実施された定額減税の反動とみられます
17%という伸びは、前年の数字が特殊だったことを踏まえて読む必要があります。2024年は給与総額が3.7%増えたにもかかわらず、源泉徴収された所得税額は11兆1,834億円と6.9%減っていました。この年は、本人3万円に加え、一定の要件を満たす同一生計配偶者・扶養親族1人につき3万円を所得税から差し引く定額減税が行われ、会社員は6月以降の給与天引きから控除されたためです。
統計にもその影響がはっきり表れています。源泉徴収で所得税を納めた人の割合は、2023年が86.3%、2024年が73.1%、2025年が80.9%と、2024年だけ大きく落ち込みました。給与総額に占める税額の割合も5.15%、4.63%、5.30%と同じ動きです。ただし国税庁は増加の理由までは示しておらず、17.4%のすべてを定額減税で説明できるわけではありません。「大幅増の大きな背景に定額減税の反動がある」と理解するのが正確です。
2年前と比べれば伸びは約9%、累進課税も税額が伸びやすい一因です
定額減税の影響を除いて実態をつかむには、2023年と比べるのが分かりやすいでしょう。所得税額は2023年が12兆61億円、2025年が13兆1,262億円で、2年間の伸びは約9.3%です。同じ期間に給与総額は232兆9,072億円から247兆6,479億円へ約6.3%増えており、17.4%という数字ほどの開きはありません。
それでも税額の伸びは給与総額を上回っています。背景の一つが所得税の累進課税です。税率は5%から45%まで7段階あり、所得が増えるほど高い税率がかかる部分が増えるため、賃金上昇局面では税額が給与総額以上の割合で伸びることがあります。もっとも、この統計だけで差のすべてを累進課税によって説明することはできず、給与階級別の人数や控除の変化なども影響します。少なくとも17.4%という大幅増は、2025年に一律で大幅増税されたというより、2024年の定額減税による反動が大きく表れた数字と見るのが適切です。
2025年は控除が引き上げられ、減税分は12月の年末調整でまとめて反映されました
2025年分の所得税では、基礎控除が合計所得金額132万円以下なら95万円(改正前48万円)に、給与所得控除の最低保障額は55万円から65万円に引き上げられ、19歳以上23歳未満の子などを対象とする特定親族特別控除も新設されました。給与収入のみでほかに所得がない人の場合、所得税がかからない給与収入の目安は103万円から160万円(95万円+65万円)に上がりました。
ただし、この改正は2025年12月1日に施行され、11月までの毎月の源泉徴収は従来どおりでした。減税分は12月の年末調整で1年分をまとめて精算する仕組みのため、毎月の給与明細では減税を実感しにくかったはずです。統計上の税額はこの減税を織り込んだうえで17%増えているとみられ、定額減税がなくなった影響の大きさがうかがえます。
2026年はさらに引き上げ、差額は今年12月の年末調整で精算されます
2026年度の税制改正で、控除はさらに拡大しました。2026年分、および2027年分は、合計所得金額489万円以下の人の基礎控除が104万円(本則62万円+特例42万円)となり、給与所得控除の最低保障額も74万円に上がります。給与収入のみでほかに所得がない人の場合、所得税がかからない給与収入の目安は178万円(74万円+104万円)です。
この改正も2026年12月1日に施行され、11月までの源泉徴収には反映されません。そのため今年12月の年末調整で、多めに天引きされていた分が還付として戻るケースが多くなりそうです。
前年と比べた減税額の目安としては、給与収入500万円(給与所得356万円)の人なら、基礎控除は2025年分の68万円から104万円へ36万円増えます。ほかの所得控除などによって、この36万円部分にかかる所得税率が5%なら約1万8,000円、10%なら約3万6,000円の減税となります(復興特別所得税を除く)。一方、合計所得金額489万円超2,350万円以下では基礎控除の引き上げ幅は4万円にとどまり、2,350万円を超える層は今回の基礎控除引き上げの対象外です。所得が高い層ほど、今回の改正による減税効果は限定的になります。
年末調整では「毎月の手取り」と「1年間の税額」を分けて確認してください
所得税は1年間の給与で税額が決まり、毎月の天引きはその概算にすぎません。11月までの給与明細で税額が変わっていなくても12月に精算されるため、毎月の手取りだけで減税の有無を判断しないでください。年末調整後の給与明細や源泉徴収票で、年税額と還付額を確認すると確実です。
注意したいのは、控除を受けるには勤務先への申告が必要な点です。2026年分は扶養控除等の対象となる親族の所得要件が引き上げられ、給与収入のみなら136万円以下が目安になります。また、19歳以上23歳未満の子などは、給与収入が136万円を超えても197万円以下なら特定親族特別控除の対象になる可能性があります。申告書に記載漏れがあると、控除を受けないまま年税額が確定してしまいます。年末調整で漏れた控除は確定申告で取り戻せるので、源泉徴収票が届いたら内容を一度確かめておくと安心です。
まとめ
2025年に源泉徴収された所得税額が17%増えた大きな背景には、2024年だけ実施された定額減税の反動があります。2年前と比べれば伸びは約9%で、給与の伸びとの差は大きく縮まります。一方で控除は2025年、2026年と続けて引き上げられており、2026年分の改正は今年12月の年末調整で初めて精算されます。毎月の手取りではなく年税額で判断し、扶養や特定親族の申告漏れがないかを年末調整前に確認してください。
▼参照サイト
国税庁「令和7年分 民間給与実態統計調査」
国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」
国税庁「令和5年分 民間給与実態統計調査」
国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」
国税庁「令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について」
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有限責任あずさ監査法人(KPMG)にて、金融商品取引法監査、会社法監査、海外レポーティング業務等に従事。その後ミャンマーに渡り、ミャンマーの国際会計事務所にて、会計・税務アドバイザリー業務、デューデリジェンス業務、国際税務業務、会社設立業務、監査業務等にジェネラルマネージャーとして従事。帰国後、税理士法人Suinasを設立。
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