W杯優勝賞金80億円、日本は17.6億円。あの賞金に税金はかからないのか?税理士の見解は

FIFAW杯2026は現地時間7月19日に決勝が行われました。
優勝国に支払われる賞金は5,000万ドル、日本円でおよそ80億円です。日本は6月29日にブラジルに敗れてベスト32で大会を終え、賞金は1,100万ドル(約17億6,000万円)。全48チームに配られる準備費用250万ドルを加えると、総額は20億円を超える規模になります。この巨額の賞金に、税金はかかるのでしょうか。選手の手元には、いくら残るのでしょうか。
税理士に気になる点を伺いました。
賞金はJFAに入る。公益目的事業であれば法人税はかからない
W杯の賞金は、選手個人ではなく各国のサッカー協会に支払われます。日本で受け取るのは、公益財団法人である日本サッカー協会(JFA)です。
公益法人は、すべての所得に法人税がかかるわけではありません。課税されるのは収益事業から生じた所得だけで、しかも公益財団法人が行う公益目的事業の多くは、その収益事業の範囲から除かれています(法人税法施行令第5条第2項第1号)。日本代表の強化はJFAの公益目的事業の中核であり、その収入として計上される限り、17億円でも80億円でも法人税は課されません。仮に同じ17億6,000万円を普通法人が受け取れば、実効税率をおよそ30%として5億円を超える法人税等が生じる計算です。
「協会が受け取るから非課税」なのではなく、「公益目的事業だから非課税」だという点が本質です。
選手の報奨金は「給与」ではない。しかも住む国で手取りが変わる
JFAから選手に支払われる報奨金は、給与所得にはあたりません。給与所得は雇用契約にもとづく労務の対価をいいますが、代表選手はJFAと雇用関係にないからです。選手が契約しているのは所属クラブであり、代表活動はその外側にあります。
では無税かというと、そうではありません。プロ選手は税務上、個人事業主として活動しているのが通常で、報奨金も競技活動に関連する収入として課税されます。支払時には「職業運動家の業務に関する報酬又は料金」として源泉徴収され、税率は100万円以下の部分が10.21%、100万円超の部分が20.42%です(所得税法第204条第1項第4号)。報奨金500万円なら、源泉徴収額は918,900円になります。
一方、海外クラブに所属し日本の非居住者に該当する選手は、課税の姿が大きく変わります。非居住者が日本で課税されるのは国内源泉所得に限られ、プレーという役務の対価は「どこでプレーしたか」で源泉地が決まります(所得税法第161条第1項第12号イ)。2026年大会は全試合が北中米で行われ日本国内の試合がないため、W杯の成績に対する報奨金は国外源泉所得として取り扱われるため、原則として日本では課税されず、居住地国のルールで課税されます。同じ金額の報奨金でも、どこに住み、どこで活動したかで手取りは変わります。
オリンピックの報奨金は非課税、W杯は課税。この差はどこから来るのか
意外に知られていないのが、大会によって課税関係が変わることです。オリンピック・パラリンピックのメダリストがJOC(日本オリンピック委員会)などから受け取る報奨金は、所得税がかかりません。加盟競技団体から支給される報奨金についても、金500万円、銀200万円、銅100万円を上限に非課税とされています(所得税法第9条第1項第14号、平成22年財務省告示第102号)。
ところがこの規定は、対象を「オリンピック競技大会又はパラリンピック競技大会」と名指しで限定しています。W杯は含まれません。同じ日の丸を背負って挙げた成績でも、W杯の報奨金は全額が課税対象です。
さらに言えば、オリンピックであっても非課税なのはJOCなどから出る報奨金に限られます。メダリストが所属企業から受け取る報奨金は給与所得として課税され、自治体からの報奨金も非課税の対象外です。非課税は、法律が指定した相手から、指定された大会の成績に対して支払われる場合にしか及びません。
社長が社員に報奨金を出したら、原則は給与課税になる
ここからは他人事ではありません。会社が社員に報奨金や表彰金を支払う場合、雇用関係があるため、臨時の支給でも原則として給与所得になります(所得税法第28条)。源泉徴収と社会保険料の対象となり、10万円を渡しても手取りは数万円目減りします。役員に臨時の報奨金を出せば、定期同額給与などに該当せず損金不算入となるおそれもあります。
例外は「現金ではないもの」です。永年勤続表彰の記念品や旅行への招待は、勤続おおむね10年以上を対象とし、2回目以降はおおむね5年以上の間隔を空け、金額が社会通念上相当であれば課税されません(所得税基本通達36-21)。創業記念品も、処分見込価額1万円以下でおおむね5年以上の間隔で支給するものであれば同様です(同36-22)。ただし、これらに代えて現金や商品券を渡せば、その全額が給与として課税されます。
社員に報いたいときこそ、渡し方ひとつで税負担が変わります。表彰制度を設けるなら、支給規程を整えたうえで、支給前に税理士へ確認してください。
まとめ
「W杯の賞金80億円に税金はかからない」は正しいのですが、それはJFAの公益目的事業だからであり、お金が人に渡った瞬間から課税の話が始まります。オリンピックのような非課税規定は法律が名指しした範囲にしか及ばず、W杯の報奨金は課税され、住む国によって手取りも変わります。自社で報奨金や表彰金を出す場合も原則は給与課税です。現金で渡すのか記念品にするのか、支給前に税理士へ相談しておくと安心です。
法人税法施行令(e-Gov法令検索)
所得税法(e-Gov法令検索)
国税庁「所得税基本通達 36-21・36-22」
国税庁タックスアンサー「No.2591 創業記念品や永年勤続表彰記念品の支給をしたとき」
中小企業経営者や個人事業主が抱える資産運用や相続、税務、労務、投資、保険、年金などの多岐にわたる課題に応えるため、マネーイズム編集部では実務に直結した具体的な解決策を提示する信頼性の高い情報を発信しています。

東京国税局で15年にわたり、税務調査・審理・国税不服審判所の業務に従事。非居住者課税の相談実務に精通する。大手YouTuberエージェンシーでの実務経験から、フリーランス・インフルエンサー特有の税務にも明るい。その後、IT企業でのプロダクトマネジメントを経て神奈川県川崎市で独立。現在はクリエイターやスタートアップの税務支援を中心に活動し、税務メディアの記事監修も多数手がける。国税の現場で培った課税庁側の視点を活かした解説を得意とする。
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