生前贈与の「7年ルール」は実質増税?2027年から影響大!対応策を解説


「1年に110万円までなら、贈与税を課税されずに生前贈与ができる」というのをご存じの方は、多いと思います。2023年の税制改正で、この生前贈与に関するルールが大幅に見直され、暦年贈与の「持ち戻し」期間が従来の3年から7年に延長されました。納税者にとっての影響、対応策について解説します。
生前贈与とは
贈与の方法
生前贈与には、次の2つの方法があります。
●暦年贈与(「暦年課税」による贈与)
次に説明する「基礎控除」を活用して、贈与を行っていく方法です。税務署への届け出は必要ありません。
●「相続時精算課税」による贈与
生前にまとまった財産を贈与し、贈与した人が亡くなったときに、その贈与財産を相続財産に加えて相続税を計算する制度です。累計2,500万円までの特別控除が設けられています。この制度を利用する場合には、最初に贈与を受けた年の翌年に、税務署へ「相続時精算課税選択届出書」を提出する必要があります。なお、2023年度の税制改正により、2024年から相続時精算課税にも年間110万円の基礎控除が設けられました。
贈与の節税メリット
生前贈与には、相続税を減らせるメリットがあります。贈与税には、「年間(暦年=毎年1月1日~12月31日)110万円」という基礎控除(非課税枠)があるため、贈与税ゼロないし少額で、子どもなどに財産を渡していくことができます。基礎控除を活用して、長期間に渡って贈与を行っていけば、それだけ相続財産の減額=相続税の節税になるわけです。
新ルールでもこの大枠は変わりませんが、メリットの範囲などについて、手が加えられています。
生前贈与は、早い時期から計画的に行うほど相続財産を減らす効果が期待できます。ただし、贈与する金額や相手によっては贈与税や生前贈与加算の対象となるため、相続税まで含めたシミュレーションを行ってから進めることが重要です。

さいたまクラウド税理士事務所代表税理士 中澤 竜之助(税理士)
贈与の「持ち戻し」とは
相続開始前一定期間の贈与は、相続財産に戻される
今回のテーマである贈与の持ち戻し(生前贈与加算)は、今説明した2つの方法のうち、暦年贈与について、以前から適用されているルールです。
「基礎控除を活用して生前贈与を行っていく」といいましたが、これには期間の制限があります。「持ち戻し」という表現の通り、亡くなった人から相続や遺言によって財産を受け取った人が、亡くなる前の一定期間に生前贈与も受けていた場合、その贈与された財産についても、原則として相続財産に加えて相続税を計算することになります。 目的は、高齢や病気などにより相続が近づいてからの「駆け込み贈与」による、相続税の課税逃れを防ぐことにあります。
例えば、この期間に100万円の贈与を行っていたとします。基礎控除の範囲内ですから、贈与税ゼロで渡せたと思っていたものが、被相続人の遺産に戻されてしまえば、その分が相続税の課税対象になる、ということです。
なお、相続税にも基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)が設けられているため、持ち戻しがあっても、遺産がこれ以下なら課税はされません。
仮に、この期間に基礎控除を超える贈与を行い、贈与税を支払っていた場合には、持ち戻し分も含めて計算された相続税の税額から控除(差し引き)されます。
持ち戻し期間が3年→7年に
ここからが本題です。以前は、この持ち戻しの対象になるのは「相続開始前3年以内」に行われた贈与でした。それが、23年度税制改正によって、「相続開始前7年以内」に延長されたのです。持ち戻し期間の延長は、生前贈与による節税効果が減ることを意味します。
制度がどのように変わったのか、具体的にみていきましょう。
持ち戻し期間延長のポイント
2024年以降の生前贈与を対象に、順次延長中
制度変更があったからといって、持ち戻しの期間が一気に過去に遡って7年に延びたわけではありません。新たな「7年ルール」の対象となるのは、2024年1月1日以降に行われた生前贈与で、23年12月31日までの贈与については、従来の「3年ルール」のままです。持ち戻し期間は、24年を起点に、順次7年まで延長されている最中なのです。
実際には、新ルールの影響を受けるのは、2027年以降に相続になった場合、ということになります。23年末までの贈与には従来ルールが適用されるため、24年~26年までの贈与に関しては、相続開始前3年より遡って持ち戻されることはなく、以前と実質的に変わらないからです。
例えば、2026年6月10日に亡くなった人が生前に行っていた贈与のうち、持ち戻されるのは、23年6月10日以降のものです。それより前の贈与には「7年ルール」は適用されないからです。
逆にいえば、27年以降の相続では、持ち戻しの期間が4年、5年……と段階的に延長され、2031年以降に相続が開始された場合に「7年ルール」が完全適用になります。
相続開始前3年より前の贈与からは100万円が控除される
説明したように、新たなルールでは、相続開始前7年以内の贈与が持ち戻しの対象になりますが、このうち相続開始前3年以内の贈与を除く部分については、その期間の贈与額の合計から100万円を控除した額が持ち戻しの対象になります。
例えば、7年間100万円の生前贈与を続けていた場合、3年以内の300万円はそのまま持ち戻しされますが、4年前~7年以内の400万円に関しては、そこから100万円を差し引いた300万円が持ち戻しの対象になります。
7年ルールで注意したいのは、延長された期間について控除される100万円は「毎年100万円」ではなく「期間全体で合計100万円」という点です。年間110万円の贈与税の基礎控除とは別の制度ですので、混同しないよう注意しましょう。

さいたまクラウド税理士事務所代表税理士 中澤 竜之助(税理士)
制度変更を踏まえた対策は
繰り返しになりますが、生前贈与の持ち戻し期間の延長は、節税効果を減少させる「実質増税」といえるものです。これを踏まえた対策には、どのようなものが考えられるでしょうか。
早めに準備し、計画的に贈与を行う
持ち戻し期間が延長されたとはいえ、手軽にできる暦年贈与の意味がまったくなくなったわけではありません。生前贈与には、自分が生きているうちに、確実に渡したい相手に財産を渡し、活用してもらえる、というメリットもあります。長期に渡って贈与を行えば、節税効果も見込めるでしょう。
以下のような選択肢を検討するうえでも、生前贈与を考える場合には、できるだけ早めに準備を始めることが大事になります。
相続時精算課税を活用する
最初に説明したように、生前贈与には、相続時精算課税制度を利用する方法があります。従来、2,500万円までの資産を贈与税ゼロで贈与できる(相続税で納税する)という制度でしたが、23年度の税制改正では、それとは別枠で基礎控除が新たに設けられました。
相続時精算課税では、2024年から年間110万円までの非課税枠が設けられました。この110万円以内で贈与した財産は、贈与した人が亡くなったときにも相続財産に加える必要がないため、相続税の計算対象にはなりません。つまり、相続開始まで基礎控除を使った生前贈与が可能になっているのです。この仕組みを活用することで、暦年贈与よりも有利になるケースもあるため、相続対策の選択肢の一つとして検討することができます。
ただし、制度を使うには税務署への届け出が必要で、一度相続時精算課税を使うと、暦年贈与に戻ることはできません。
孫への贈与を検討する
生前贈与の持ち戻しの対象となるのは、相続または遺贈(遺言書による財産分与)によって財産を取得するケースです。孫は通常、相続人ではないため、生前贈与を行っても、原則として持ち戻しの対象にはなりません。
注意点は、孫の親(贈与者の子ども)が先に亡くなり、孫が相続人の立場になる(代襲相続)可能性がゼロとはいえないことです。孫が遺言で財産を受け取った場合も、贈与については持ち戻しの対象になります。
相続税も含めトータルで考える
相続税の節税を目的に生前贈与を行う場合には、そもそも相続税をどれくらい課税される可能性があるのかなどの点を、ある程度正確に把握しておく必要があるでしょう。
2015年に相続税の基礎控除が引き下げられて以降、課税対象になるケースは増えました。しかし、それでも実際に相続税が課されているのは、すべての相続の1割程度です。
相続税には、基礎控除のほかに、配偶者の税額軽減、小規模宅地等の特例といった相続財産を大幅に減らせる特例措置も設けられています。そうした制度の利用も視野に入れながら、生前贈与を行ってまで対策する必要があるのかを、検討するようにしましょう。
2024年からの相続時精算課税では年間110万円の基礎控除が設けられ、この範囲内の贈与は原則として相続時の加算対象にもなりません。ただし、一度選択すると同じ贈与者からの贈与について暦年課税へ戻せないため、将来の相続まで見据えた判断が必要です。

さいたまクラウド税理士事務所代表税理士 中澤 竜之助(税理士)
まとめ
来年(2027年)以降の相続では、生前贈与の時期によって、持ち戻しの新ルールの影響を受ける可能性があります。その影響を抑えるための選択肢として、相続時精算課税の活用や、相続人ではない孫への贈与を行う、といった対策が考えられるでしょう。
保有する財産が高額に上り、相続税が膨らむ可能性がある場合などには、一度相続に詳しい税理士などの専門家に相談してみることをお勧めします。
記事監修者 中澤税理士からのワンポイントアドバイス
今回の改正により、暦年課税による生前贈与は相続開始前の加算対象期間が段階的に7年へ延長されるため、これまで以上に早い段階から相続対策を考えることが重要になります。
一方、2024年から相続時精算課税に年間110万円の基礎控除が新設され、この範囲内の贈与は相続時の加算対象にもならないため、相続時精算課税が有効な選択肢となるケースも増えています。ただし、暦年課税と相続時精算課税のどちらが有利になるかは、財産額や贈与する相手、年齢、今後の贈与予定などによって異なります。
単純に年間110万円を贈与するだけではなく、まず将来の相続税額を試算し、相続・贈与を一体として検討することをおすすめします。
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