「上場廃止」も「好業績の子会社を売却」もアリ。
臨機応変の経営判断が会社を伸ばす

「上場廃止」も「好業績の子会社を売却」もアリ。  臨機応変の経営判断が会社を伸ばす

2018/4/12

 
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「会社の業績を伸ばす鍵はどこにあるのか?」。会社のトップともなれば、日々それを模索しているはずです。「会社をどうしたいのか=“ゴール”から逆算して、必要なサービスを提供する」ことをモットーとするブリッジ税理士法人の小川雅義先生が挙げるキーワードは、「取捨選択」、そして「社長自ら決断すること」。事例も交えて、お話をうかがっていきましょう。

MBOによる上場廃止で、会社の利益が5倍になった!

事業承継に際して8つの選択肢を提起


先生の事務所では、税務、会計まわりのフォローだけではなく、コンサルタント的な業務に注力しているとうかがいました。

コンサルというか、「お客さまが自分の会社をどんなふうにしたいのか」という目標を明確にしていただいたうえで、それを達成するために求められるサポートを行っていく、という基本姿勢で仕事をしているんですよ。お客様ごとに“ゴール”は異なりますから、必要な課題も違ってきます。結果的に、会計以外の「あれもやる、これもやる」ということになってしまう(笑)。一般の税理士法人のイメージからすると、ちょっと異質な事務所ではあるかもしれません。

たくさんの会社をみてきたと思いますが、今お話しの“ゴール”に向かう経営判断という切り口から、先生の印象に残る事例を、いくつかご紹介いただけませんか。

わかりました。では、最初に事業承継に絡んだ案件をお話ししましょう。お客さまは製造業の上場企業を経営する70歳代の方で、「そろそろリタイアを考えているのだけれど、どうしようか?」という依頼でした。結果的には、まったく別の個人事業を営んでいた娘さんがその会社を継ぐことになったのですが、その前に上場を廃止するという決断をされたんですよ。

上場を目指すという話はよく聞くのですが……。

そうですね。順を追ってお話ししましょう。お客さまに対しては、ご依頼の中身に沿って、その都度適切と思える方策を提案させていただきますが、「基本的な方針に関しては、ご自身で選択、決断してもらう」というのも、当事務所のやり方です。ですから、その時には、「誰にどのように会社を引き継ぐのか」といった点を中心に、先々の会社の成長戦略も含めて、こちらから8つの選択肢を用意して提示しました。

8つも揃えたのですか。

こうした提案の仕方はケースバイケースで、「右か左か」という選択肢を用意することもあります。この案件の場合には、例えば跡継ぎを親族にするのか、それ以外から呼んでくるのかについても、まだ方針が明確に定まっていないような段階だったんですね。そうした現状も踏まえて、「それぞれの案を実現するには、どんな手立てが必要か」「メリット・デメリットは何か」といったことも明示しつつ、できるだけ幅広い可能性を考えてもらえるように設えたわけです。

では、今お話しの上場廃止に関しても、「ぜひそうしましょう」と提案したのではないのですね?

あくまでも選択肢の1つ。挙げたのは、確か8項目の最後だったと思います。まあ、「上場しているのだから、それを廃止するという方法もありえますよ」という程度の位置づけです。まさか、そこに社長が乗ってくるとは、正直言って私自身想定外でした。上場来、業績自体は可もなく不可もなく、といった状態ではありましたけれど、「上場企業のトップ」としてのプライドみたいなものも、けっこうあるのだろうと想像していましたから。

社長は、どうしてその方針を選んだのでしょう?

当然のことながら、上場企業には、経営上いろんな縛りがあります。株主の意向も尊重しなくてはなりません。そうしたことに、長年ある種の「息苦しさ」を感じていたことが、社長に同じ質問をしてみて理解できました。提案を見て、「後継に道を譲るのだから、最後は自由に経営してみたい」という思いが沸き上がってきた、というわけです。だったら、我々はその思いを実現するためにできることをやろう、と。

スピード勝負だったMBO


ただ、上場廃止というものも、そう簡単な作業ではないはずです。それまで経験はあったのですか?

いや、まったく。おっしゃるように、非常に大変な思いをしました(笑)。上場廃止に向けて、MBOというプロセスが必要になったのですが、こうしたことをサポートするFA(ファイナンシャル・アドバイザー)を務めるのは、普通は証券会社です。ところが、その社長に「最後まで面倒をみて欲しい」と言われた以上、やるしかなかった。余談ながら、いぶかしく思ったのか金融庁から、「どうして、あなたのところがFAをやっているのですか?」という電話までかかってきましたよ(笑)。「頼まれたからです」としか、答えようがありませんでしたけれど。

MBOとはどんなものなのか、教えてください。

「マネジメント・バイアウト」の略で、簡単に言うと、経営陣が自ら自社の株式や事業を買い取ることです。上場企業ですから、市場での売買を通じて、いろいろな投資家がその会社の株式を持っていて、そのままの状態では上場廃止はできません。このケースでは、社長が3割の自社株を保有していたので、TOB(※)によって残りの7割の株をすべて買い戻す必要があったのです。
 とはいえ、ひとことで「買い戻す」といっても、数十億円の資金が必要になります。自己資金では到底無理ですから、まずは金融機関から借り入れるなり、ファンドを入れるなりして、資金のめどをつけなくてはなりません。

株式をいくらで売るのかも大事になりますね。


その通りです。そのTOB価格の設定という、100%証券会社マターの仕事も、私たちでやりました。加えて大事なのは、取引先への説明です。

社長の思いがどうであれ、「上場廃止」と聞けば、「あの会社は何かあったのか」という話になりかねません。

ですから、それが会社経営のマイナスになったりしないような、前向きな情報発信をしていかなければならないわけです。ざっくり言って、今の3つのプロジェクトを同時進行で進める必要がありました。
 実は、このケースには、「時間との勝負」という側面もあったんですよ。通常、同様の上場廃止には2年ぐらい時間をかけるのですが、8カ月でケリをつけたのです。

なぜ急ぐ必要があったのでしょう?

株価の状況を見ると、時間をかければかけるほど値上がりする傾向が読み取れたんですね。株価が上がれば、当然、買い取り価格も上昇します。必要な資金が膨らんで、結果的に銀行の融資などが受けられなくなる危険性がありました。最終的にはうまくいきましたけど、銀行からは「こんなに短時間でやったMBOは、経験がない」と言われたくらいです。

※TOB 「株式公開買い付け」のこと。ある株式会社の株式を、「買い付け期間・買い取り株数・価格」を公告したうえで、不特定多数の株主から、株式市場外で買い集める制度。

上場という“足かせ”が外れた結果……


「上場廃止による経営への悪影響は避ける」という指摘がありましたが、結果はどうだったのでしょう?

非上場になってから5年ほどが経ちましたけれど、会社の利益は、なんと廃止前の5倍に伸びたんですよ。おかげで、従業員の待遇改善も進みました。

それはすごい! 一番の理由は何ですか?

やはり「トップのモチベーションは大きかった」ということに尽きるでしょうね。例えば会社には、“番頭さん”格の人もいて、「社長、上場企業なのだから、それはできません」とブレーキをかける役割を担っていたんですよ。ある程度必要なことであったとはいえ、ワンマン気質のある社長のやる気を殺ぐことにもなっていたのです。思い切って非上場に戻ったことで、そうしたいろんな“足かせ”から解放されたことが、業績アップにつながりました。

上場廃止によって、「やっぱり自分は自由にやるのが向いている」ということを、その社長さんは思い出したのかもしれません。それにしても、普通は「上場すれば、資金も人も集めやすくなって、業績も上向く」と考えられるわけですが、その逆もあるということなんですね。

その会社も、上場した当時は、いろんなメリットを享受していたのかもしれません。でも、会社を取り巻く環境は変化します。A社にとって最良のやり方が、B社にとってもそうだという保証もないのです。常に臨機応変に、あくまでも「自分の会社の将来にとってどうなのか」という視点から、経営の取捨選択をしていく姿勢が大事なのだと、私自身あらためて勉強になった事案でしたね。

「この会社は手放したほうがいい」。その判断基準とは?

会社にも「買い時」があれば、「売り時」もある


当事務所は、以前からIPO(株式上場)準備のサポートを行っていますが、逆に非上場企業に戻るお手伝いをしたのが、今お話しした事例でした。同じように、会社を成長させるために、M&A(企業合併、買収)で新たな事業や組織を取り込むこともあれば、あえて一部を切り離してスリム化を図ることもあります。

まさに取捨選択ですね。そんな事例も紹介いただけますか。

お客さまに、社員10名ほどの電子部品メーカーの社長さんがいます。業績は、すこぶる好調でしたが、本業とは別に電気工事関係の子会社を持っていたんですね。そこの経営は、すべて別の人に任せている、というパターンです。

部品製造と電気工事ですか。業務のうえでは、直接関係はなさそうですね。

そうです。そういう実態もあって、子会社を売却することにしたんですよ。実は、その子会社自体、以前にM&Aで買収したものでした。結論を申し上げると、その会社は、およそ10億円で売ることができました。買った時の値段は3億円でしたから、大きな「利ザヤ」を手にすることができたわけです。
 けっこう高く売却することができた背景には、東京オリンピックを控えていることや首都圏での住宅建築の増加などから、「工事関係が忙しい」という業界の事情もありました。このタイミングで売りに出したのには、そういう理由もあったのです。

業績がいいのに、会社を売却したわけ


ただ、あえて売却したということは、その会社が親会社の足を引っ張っていたとか、なにか問題があったからではないのでしょうか?

いいえ。需要が活発なだけに、業績はやはりよかったんですよ。目立った負債を抱えていたわけでもありません。オリンピック後の景気がどうなるかという懸念はあるものの、会社そのものは「どうしても切らなければ」という状態では、ぜんぜんなかったですね。

では、どうして売却を?

さきほど、売り時のタイミングだったという話をしましたが、それは言ってみれば付随的な理由で、私が一番気になったのは、社長がその会社のことをあまり気にかけていないところでした。「最近、子会社の数字をチェックしていますか?」と聞くと、「いや。でも業績もいいし、信頼できる人間に任せているから大丈夫だ」という感じだったんですよ。

なるほど。なまじっかうまくいっているから、気にならないわけですね。そもそも、自分はその業界にそんなに詳しいわけでもないし。

そうなんです。これが赤字を垂れ流しているような状況だったら、真剣に立て直しを考えるでしょうし、「手放したい」という話をご自分から持ってくるかもしれません。ところが、放っておいても、しっかり利益が出ていた。しかし、このようにオーナーが「放置」した会社は、後々問題になることが少なくないのです。

そういうふうに社長に「放置」される会社は、けっこうあるものなのでしょうか?

それが、意外にあるんですよ。「儲かりそうだから」となんとなく買って、初めのうちは興味を持って経営しようとするのだけれど、そのうちに他人任せになってしまう。繰り返しになりますが、それは長い目で見ると続かないのです。さっきのオリンピックの話もそうですけど、周囲の環境だって、いい時もあれば悪い時もあるのですから。

本業のお荷物になってしまっては、元も子もありません。

経験上、その時の業績がどうであれ、トップがきちんと意思決定できない会社は切り離すべきだ、というのが私の持論なのです。自分の会社だったら、オーナー社長がきちんと目を光らせて、実際にグリップを効かせるべきでしょう。そういう、本業というフィールドで勝負していくことが、中小企業経営の重要な肝ではないかと思うのです。

「言われた通りにやる」経営ではもたない

なによりも社長のセンスが第一


前に、「経営の基本方針については、社長自身に決断してもらうことが大事だ」という話をされました。今お話しのケースでは、どうなさったのでしょう? そうは言っても、直接経営に関与しない会社を持っているのは問題だからと、「売りましょう」と正面切ってアドバイスされたのですか?

いえ、やはり社長自身によく考えてもらうことに、力を注ぎました。「私の経験からしても、社長の目が行き届かない会社は、今はよくても業績の悪化することが多いんですよ」というサジェスチョンはさせてもらいましたし、「工事関係の会社を売るには、今がいい環境ですね」といった話もしました。ただし、そうした材料を受け取ったうえで、「これからは、子会社のこともしっかり見るようにするよ」という判断もありえたでしょう。

業界のことを勉強して、もっとその事業を拡大した可能性だって、ないとは言えないわけですね。

そこは、いろんなリスクも取りながら、第一線で頑張っているトップのセンスが、一番大事です。いろんな会社をみてきたからといって、私たちにすべてがわかっているわけではありませんから、その考えを押し通そうというような気持ちは、基本的にないんですよ。私たちのやるべきことは、むしろ選択の幅、可能性を広げておいて、社長が何を選ぶのか、どうしたいのかを見極め、その達成のためにサポートしていくことだと思っています。

実際には、それがなかなか難しいのではありませんか(笑)。

かつては「社長、こうやりましょう」という提案型の仕事をしていたこともあるんですよ。でも、そうすると、いまひとつ“本気度”が足りないまま進むことも少なくなかったのです。数年たってから、「あの件は、君のところでやれと言われたんだったよな」という話になったりして(笑)。
 同じことをするにしても、「自分で決めたんだ」というスタンスで経営してもらうことが、会社の成長のためにはベスト。そう気づいて、今はお話ししたようなやり方に徹しているのです。

「いい人」だけでは、経営は難しい


お話をうかがっていると、やはり「会社は、社長の考えや実際の舵取りのやり方次第」という感じがします。

小さな会社ほど、そう言えますね。もちろん、景気が悪いとかマーケットが縮小してしまったとかの外部要因が業績に影響を与えるのは事実でしょうけれど、それ以上に大きいのは、「社長の問題」だと感じます。
 そもそも、今現在、右肩上がりにマーケットが拡大している業種がどれくらいあるでしょうか? 厳しい環境の中でも、生き残る術はあるし、実際に頑張って業績を伸ばしている会社はごまんとあるわけですね。変な話、われわれ会計業界だって、AIが普及したら真っ先に仕事を奪われると言われたりしているのですが(笑)、そうなっても廃業する必要はないだろうという見通しが、私にはあります。多くの事務所が、たぶんそうだと思うんですよ。

では、業績が伸びない会社の社長さんに、何か共通点のようなものはあるのでしょうか?

細かく分析したことはないのですが、「この人、“いい人”なんだけどなあ」という社長の会社は伸び悩む傾向が強い、という印象がありますね。能力はあるのに、イマイチ押しが弱かったり、粘りが足りなかったり、というタイプの人です。ナンバー2だったら、恐らく大活躍するのではないかと思えるのだけれど。

取引先などとの交渉があまり得意ではなく、社内での統率力にも難があるわけですね。

そうですね。それと、さっきの話にも通じるのですが、人に何か言われると、なんでもその通りにやってしまう社長も、業績を伸ばすのは難しいと感じます。足繁く経営セミナーに通ったり、成功した人に顧問料を払ってアドバイスを受けたりする人も、けっこういらっしゃるんですよ。

で、「これだ」と思ったことを、自分も実践してみる。

それで業績が上向くのなら、経営に苦労はないでしょう。でも、やっぱり自分のものになってはいないから、うまくいかないわけですね。厳しい言い方かもしれませんけど、他人の手を借りようとする時点でダメだと思うのです。
 もちろん、経営の勉強は必要だし、刺激を受けてモチベーションを高めるのもいいでしょう。私も、そうした場を設けたりはするのですが、「これを参考にしてください」とは言いません。お客さまに対して提案型の対応をやめたのは、そういうふうに頼ってほしくないと考えたのも、あってのことなんですよ。

経験を積んだ専門家がその都度アドバイスしてくれるのだったら、「なるほど」と思ってやってみたくなるでしょう。でも、それでは社長自身も会社も、強くはなれないということですね。

結局、経営にも近道はないのです。頭を悩ませながら、自分で生み出したものだからこそ、そこに向かって最後まで頑張れるのではないでしょうか。そういう積み重ねこそが、「いい会社」をつくるのだと、私は思います。
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