相続財産清算人(相続財産管理人)とは?選任手続き・費用・相続税まで徹底解説

相続財産清算人(相続財産管理人)とは?選任手続き・費用・相続税まで徹底解説
最終更新日:2025/07/23
この記事の監修者
澤村明浩税理士事務所
代表 澤村 明浩(税理士)
相続が発生したものの相続人がいない場合や、全員が相続放棄をした場合には、相続財産を管理・清算する人が必要になります。この役割を担うのが「相続財産管理人(現在の相続財産清算人)」です。2023年4月の民法改正により名称が変わったこの制度について、選任手続きから費用、相続税の取り扱いまで、最新の法改正に対応した実務で知っておくべきポイントをわかりやすく解説します。

相続財産管理人とは

相続財産管理人は、相続人が存在しない場合や全員が相続放棄をした場合に、被相続人の財産を管理・清算する役割を担う人です。家庭裁判所によって選任され、相続財産の調査から債権者への対応、最終的な国庫帰属まで、一連の手続きを行います。

相続財産管理人の役割と必要性

相続財産管理人の主な役割は、被相続人の財産を適切に管理し、法的な手続きに従って清算することです。具体的には、相続財産の調査・保存、債権者や受遺者への対応、不動産の売却・換価、最終的な財産の分配などを行います。

この制度が必要となる理由は、相続人がいないまま財産が放置されると、債権者が債権を回収できなくなったり、不動産が管理されずに近隣に迷惑をかけたりする可能性があるためです。特に近年は、空き家問題との関連で注目されることが多くなっています。

管理対象となる財産は、現金・預貯金、不動産、株式などの有価証券、貴金属、自動車など、被相続人が所有していたすべての財産です。プラスの財産だけでなく、借金などのマイナス財産も含まれます。

相続財産管理人と相続財産清算人の違い

2023年4月の民法改正により、従来の「相続財産管理人」は「相続財産清算人」に名称が変更されました。これは、単なる管理だけでなく、清算業務が主たる目的であることを明確にするためです。

ただし、実務上は移行期間中であることから、両方の用語が使われているのが現状です。裁判所の書類や法律文書では「相続財産清算人」が正式名称として使用されていますが、一般的には「相続財産管理人」という用語も引き続き使われています。

検索する際は、どちらの用語でも同じ制度を指していることを理解しておくことが重要です。本記事では、理解しやすさを考慮して、適宜両方の用語を使い分けています。

相続財産管理人が必要となるケース

相続財産管理人が必要となる主なケースをご紹介します。

最も典型的なのは、相続人が存在しない場合です。被相続人に配偶者や子がおらず、両親や兄弟姉妹もいない、または先に亡くなっている場合がこれに該当します。

次に、相続人全員が相続放棄をした場合です。借金が多い相続や、管理が困難な不動産がある場合に、相続人全員が家庭裁判所に相続放棄の申述を行うことがあります。この場合、法的には相続人が存在しないことになるため、相続財産管理人の選任が必要になります。

相続財産管理人が活用される具体的事例

  • 債権者として、相続財産から債権を回収したい場合
  • 成年後見人であった人が、被後見人死亡後の財産を適切に引き継ぎたい場合
  • 相続放棄をしたものの、占有者として保存義務を課せられている場合
  • 特別縁故者として財産分与を受けたい場合
  • 空き家による近隣への被害や社会問題を防止したい場合

また、遺言で財産を遺贈されたが受遺者が受け取りを拒否した場合や、債権者が相続財産から債権を回収したい場合にも選任が必要です。

なお、誰も申立てをしない場合、相続財産は法的に宙に浮いた状態となり、債権者が債権回収できない、不動産が管理されずに荒廃して近隣に迷惑をかける、行政が強制的に対応せざるを得なくなるなどのリスクが生じます。

相続財産管理人の選任手続き・流れ

相続財産管理人の選任は、家庭裁判所への申立てから始まり、最終的な国庫帰属まで、複数の段階を経て進行します。手続きの流れを時系列で理解することで、全体像を把握しやすくなります。

選任申立ての方法と必要書類

相続財産管理人の選任申立ては、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に行います。

申立てができる人(利害関係人)

  • 検察官
  • 債権者(金融機関、取引先など)
  • 受遺者(遺言で財産を受け取る予定だった人)
  • 特別縁故者(内縁の配偶者、事実上の養子、療養看護に努めた人など)
  • 成年後見人・保佐人・補助人
  • 相続財産の管理について利害関係を有する地方公共団体
  • その他利害関係を有する者

主な必要書類

  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
  • 相続人不存在を証明する戸籍謄本
  • 被相続人の住民票除票
  • 相続財産に関する資料(不動産登記簿謄本、預金通帳写し、株式の証明書など)
  • 財産目録
  • 相続債権者・受遺者一覧表

戸籍の収集は特に重要で、被相続人の出生から死亡まで、すべての戸籍を漏れなく取得する必要があります。本籍地が複数回変更されている場合は、それぞれの市区町村で戸籍を取得することになるため、時間がかかることがあります。

申立て前の注意点とよくあるミス

戸籍の取り寄せには1~2週間程度かかる場合があるため、余裕をもって準備を開始することが重要です。また、相続放棄がある場合は、全員の相続放棄が家庭裁判所で確定していることを事前に確認する必要があります。財産目録の作成時は、プラス財産だけでなくマイナス財産(借金)も漏れなく記載することが求められます。

申立て費用として、収入印紙800円、連絡用郵便切手(家庭裁判所により金額が異なる)、官報公告料約4,000円、予納金(20万円~100万円程度)が必要です。

選任後の主な手続きの流れ

家庭裁判所により相続財産管理人が選任されると、まず官報による公告が行われます。この公告は2回行われ、1回目は相続債権者・受遺者に対して、2回目は相続人捜索のための公告です。

1回目の公告では、相続債権者や受遺者に対して、一定期間内(通常2か月以上)に債権の申出をするよう公告します。この期間内に申出があった債権について、相続財産管理人は調査・確認を行います。

2回目の公告は、相続人の存在を確認するための公告で、期間は6か月以上と定められています。この期間が経過しても相続人が現れない場合、相続人不存在が確定します。

公告期間中、相続財産管理人は財産の調査・管理を行います。不動産の評価、預金の確認、債権債務の整理などを行い、必要に応じて不動産の売却なども行います。

公告期間終了後、相続財産管理人は債権者への弁済、受遺者への遺贈の履行を行います。これらの支払いが完了した後、残余財産がある場合は、特別縁故者への分与手続きに進みます。

特別縁故者への財産分与

特別縁故者とは、被相続人と特別な縁故があった人で、相続人ではないものの、被相続人の財産の一部を受け取る権利が認められる可能性がある人です。

特別縁故者として認められる可能性があるのは、被相続人と生計を同じくしていた人(内縁の妻・夫、事実上の養子など)、被相続人の療養看護に努めた人(長期間介護をしていた人など)、その他被相続人と特別の縁故があった人(長年の友人、恩人など)です。

特別縁故者への財産分与を受けるためには、相続人不存在が確定した後、3か月以内に家庭裁判所に申立てを行う必要があります。家庭裁判所は、特別縁故者の存在や財産分与の可否、分与する財産の範囲などを総合的に判断します。

特別縁故者への分与が行われた後、なお残余財産がある場合は、最終的に国庫に帰属することになります。

相続財産管理人にかかる費用と報酬

相続財産管理人が選任された場合でも、相続税に関する手続きが必要となるケースがあります。ただし、相続税の申告・納付義務者は、実際に財産を取得した者(特別縁故者や国庫など)であり、相続財産管理人自身が納付義務を負うわけではありません。管理人は、これらの手続きを実務上代理することがある立場です。

申立て費用と予納金の目安

相続財産管理人の選任申立てにかかる費用は、収入印紙800円、連絡用郵便切手(3,000円~5,000円程度、家庭裁判所により異なる)、官報公告料約4,000円です。これらは比較的少額ですが、問題となるのは予納金です。

予納金は、相続財産管理人の報酬や管理費用を確保するために、申立時に家庭裁判所に納める金銭です。金額は事案により異なりますが、一般的には20万円から100万円程度が目安とされています。

予納金の額は、相続財産の規模、管理の複雑さ、予想される管理期間などを考慮して決定されます。不動産を多く所有している場合や、債権債務が複雑な場合は、予納金も高額になる傾向があります。

予納金は、相続財産管理人の業務終了後、実際にかかった費用を差し引いた残額が返還されます。ただし、相続財産から費用を支払うことができる場合は、その範囲で予納金が返還されることもあります。

管理人の報酬の決まり方

相続財産管理人の報酬は、家庭裁判所が相続財産の価額、管理の難易度、管理期間などを考慮して決定します。一般的には、相続財産の価額に応じて数十万円から数百万円程度となることが多いです。

報酬の支払いは、相続財産から行われることが原則です。相続財産が十分にある場合は、その中から報酬が支払われます。しかし、相続財産が少ない場合や債務の方が多い場合は、予納金から支払われることになります。

相続財産管理人は通常、弁護士や司法書士などの専門家が選任されることが多く、その専門性に応じた報酬が設定されます。業務の内容に応じて、基本報酬に加えて、不動産の売却手続き、複雑な債権債務の整理などに対する付加報酬が認められることもあります。

報酬の支払いタイミングは、管理業務の終了時が一般的ですが、管理期間が長期にわたる場合は、中間報酬の支払いが認められることもあります。

監修者

澤村 明浩

記事監修者からのワンポイントアドバイス

相続財産管理人が選任される場合は、法定相続人が存在しない場合や、相続人全員が相続放棄をした場合ということになります。特に法定相続人が存在しない場合は、相続税の基礎控除額は3,000万円のみとなります。最低一人は相続人がいるのが相続税の通常の流れであるため、基礎控除額の最低は3,600万円であると思い込みがちなので注意が必要です。
また、相続税は財産を相続した者が申告、納付をすることになりますが、相続財産管理人が選任されるようなケースでは特別縁故者が財産を相続することになる可能性がありますが、特別縁故者が被相続人の一親等の血族以外の者につきましては、2割加算の対象となることも気を付けるべきポイントです。

相続財産管理人と相続税の実務

相続財産管理人が選任された場合でも、相続税の申告や納付義務は継続します。相続税は相続開始を知った日から10か月以内に申告・納付する必要があり、実務上、相続財産管理人が申告や納付を代理する場合があります。

相続税申告が必要となるケースと手続きの流れ

相続財産管理人が関与する場合でも、相続財産の価額が基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)を超える場合は、相続税の申告が必要となります。

相続人が存在しない場合や全員が相続放棄をした場合の法定相続人の数の計算は複雑です。相続放棄があった場合は放棄前の相続人の数で基礎控除額を計算するため、専門的な判断が必要となります。

申告が必要な場合、相続財産管理人は実務上、相続税の申告書作成や提出手続きを行うことがあります。申告書は被相続人の最後の住所地を管轄する税務署に、相続開始を知った日から10か月以内に提出する必要があります。

最終的に財産を取得することになる特別縁故者や国庫が、相続税の納付義務者となります。納付資金は相続財産から支払われることが一般的ですが、現金が不足する場合は、相続財産管理人が不動産の売却などにより資金を調達する場合があります。

財産取得者別の相続税の取り扱い

相続財産管理人が関与する場合の相続税の取り扱いは、最終的に誰が財産を取得するかによって異なります。

特別縁故者が財産分与を受ける場合、特別縁故者が相続税の納付義務者となります。特別縁故者が取得する財産については通常は相続税が課税されますが、まれに贈与税の対象となる場合もあるため、税務上の取り扱いについては慎重な判断が必要です。

国庫帰属となる財産については、国は相続税の納付義務を負わないため、実質的に相続税の問題は生じません。

相続財産管理人は、これらの税務手続きを円滑に進めるため、税理士などの専門家と連携して業務を行うことが重要です。特に、財産の評価や申告書の作成、納付手続きなどの専門的な業務については、相続税に精通した税理士のサポートが不可欠です。

監修者

澤村 明浩

記事監修者からのワンポイントアドバイス

相続財産管理人が関与する相続は、法定相続人がいない、又は全員が相続を放棄している場合ということが考えられます。この場合、債権の回収としてではなく、相続として財産を取得する者として考えられるのは原則特別縁故者ということになります。通常の相続では申告期限は被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内となりましたが、特別縁故者の場合は財産分与があったことを知った日の翌日から10か月以内となります。このため、財産分与があったのが被相続人の死亡時から時間が経過していた場合でも、慌てて申告を行う必要はありません。しかし、財産の評価時点も被相続人が死亡した日ではなく、財産分与があった日になり、基礎控除も3,000万円であるなど通常の相続と異なることから、思い違いを起こしやすいことには注意が必要です。

相続財産管理人に関するよくある質問Q&A

Q1: 相続財産管理人は誰がなるのですか?

A: 相続財産管理人は、家庭裁判所が選任します。資格として必須ではありませんが、通常は弁護士や司法書士などの専門家が選ばれることが多く、申立人が希望する候補者がいても、裁判所が適任と判断した人が選任されます。

Q2: 相続財産管理人の選任にはどのくらいの期間がかかりますか?

A: 申立てから選任まで、通常1~3か月程度かかります。ただし、必要書類の準備や相続関係の調査が複雑な場合は、より長期間を要することがあります。

Q3: 相続財産管理人が選任されると、相続放棄はできなくなりますか?

A: 相続財産管理人が選任される前であれば、相続放棄は可能です。ただし、相続放棄は相続開始を知った日から3か月以内に行う必要があるため、早期の判断が重要です。

Q4: 相続財産に借金の方が多い場合はどうなりますか?

A: 相続財産で債務を完済できない場合、相続財産管理人は財産の範囲内で債権者に按分弁済を行います。申立人が予納した金銭から管理人報酬などの費用を支払い、残余があれば返還されます。

Q5: 相続財産管理人は相続税の納付義務者になりますか?

A: いいえ、相続財産管理人自身が相続税の納付義務者となることはありません。相続税の納付義務者は、実際に財産を取得した者(特別縁故者や国庫など)です。相続財産管理人は、申告・納付手続きを実務上代理することがある立場であり、納付義務を負うわけではありません。

Q6: 相続財産に関する相続税の申告は誰が行うのですか?

A: 相続財産の価額が基礎控除額を超える場合、相続財産管理人が実務上、申告書の作成や提出手続きを行うことがあります。ただし、最終的な納付義務者は財産を取得する特別縁故者や国庫となります。複雑な税務手続きのため、税理士などの専門家と連携して進めることが重要です。

Q7: 不動産の売却が必要な場合、どのような手続きが必要ですか?

A: 相続財産管理人が不動産を売却する場合、家庭裁判所の許可が必要です。売却価格や売却先について適切な手続きを経る必要があり、通常は不動産業者に査定を依頼して適正価格で売却します。

Q8: 特別縁故者として認められる可能性はどの程度ですか?

A: 特別縁故者として認められるには、被相続人との特別な関係を客観的に証明する必要があります。内縁関係、長期間の療養看護、深い精神的つながりなどが考慮要素となりますが、認定は厳格に行われます。

Q9: 相続財産管理人の業務はどのくらいの期間続きますか?

A: 事案により異なりますが、一般的には1年から3年程度です。財産の調査、公告期間、債権者対応、不動産売却、特別縁故者への分与手続きなどを含めると、相当な期間を要することがあります。

まとめ|相続財産管理人の手続きは専門家へ相談を

相続財産管理人の制度は、相続人がいない場合や全員が相続放棄をした場合の重要な法的制度です。民法改正により名称は変更されましたが、その役割と重要性は変わりません。

選任手続きから費用負担、相続税申告の実務まで、多岐にわたる専門的な知識と経験が必要です。特に相続税については、納付義務者の特定や申告手続きの代理など、複雑な法的判断が求められます。

相続財産管理人の選任を検討している場合や、すでに選任されている場合は、早期に専門家に相談することが重要です。弁護士、司法書士、税理士などの専門家が連携してサポートすることで、適切な手続きを進めることができます。

相続財産の管理や相続税でお困りの際は、相続に精通した専門家にご相談ください。適切なアドバイスとサポートにより、複雑な手続きもスムーズに進めることができます。

この記事の監修者
澤村明浩税理士事務所
代表 澤村 明浩(税理士)
静岡大学卒業後、某地方銀行に入社。ふとしたことから税理士を目指すことになり、8年勤めた銀行を辞め、税理士事務所に転職。税理士試験に合格後、令和7年1月1日独立。

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この記事の執筆者
相続財産センター編集部

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