相続税申告は必要か?基礎控除・申告が必要なケースと注意点を徹底解説

相続税申告は必要か?基礎控除・申告が必要なケースと注意点を徹底解説
最終更新日:2025/08/26
この記事の監修者
松井 信行 公認会計士・税理士事務所
所長 松井 信行 (税理士・公認会計士)
相続が発生した際、多くの方が「相続税の申告は必要なのか」という疑問を抱きます。実は令和5年の国税庁統計によると、相続税の課税割合は約9.9%です。しかし、これは課税対象者の割合であり、特例適用により税額がゼロでも申告が必要な方を含めると、実際の申告割合はこれを上回ります。本記事では、相続税申告の必要性を判断する基準から、申告が必要な具体的なケース、さらに申告漏れを防ぐための注意点まで徹底的に解説します。

相続税申告が必要か不要かの判断基準

相続税申告が不要となる主な条件

以下のすべての条件を満たす場合、相続税申告は不要です。

  1. 正味の遺産額(課税価格)が基礎控除額以下の場合
  2. 正味の遺産額(課税価格)が基礎控除額を超える場合でも、申告することが適用要件になっている特例や控除を利用せず、かつ、その他の申告要件のない控除(未成年者控除・障害者控除等)で税額がゼロになる場合

基本的な判断基準

正味の遺産額(課税価格)とは、相続財産の総額から債務や葬儀費用などを差し引いた金額のことです。

基礎控除額は「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」で計算します。 例えば、配偶者と子ども2人が相続人の場合、法定相続人は合計3人なので、基礎控除額は4,800万円です。

この場合、正味の遺産額が4,800万円以下で、申告することが適用要件になっている特例や控除を利用しなければ申告は不要となります。

監修者

松井 信行

記事監修者からのワンポイントアドバイス

「遺産総額が基礎控除額以下なら相続税の申告はしなくても良い」と誤って理解されている方は結構いらっしゃいます。
多くのケースではその通りですが、解説にもあるように「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額軽減(配偶者控除)」を適用した結果、課税価格の合計額が基礎控除額を下回る、あるいは相続税額がゼロになったとしてもその場合は申告が必要です。相続税を申告することが適用の要件になっているからです。
また、相続等によって財産を取得した人に被相続人からの生前贈与財産(現時点では相続開始前3年以内)がある場合や相続人に被相続人からの相続時精算課税適用財産がある場合は、それらの財産価額も課税価格に含めなければなりませんので、基礎控除額と比較する際は注意して下さい。

基礎控除の仕組みと注意点

基礎控除額は相続財産から差し引ける非課税枠です。この金額以内なら相続税は発生しません。

基礎控除額の計算式:「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」

法定相続人の数を数える際の注意点

    • 相続放棄をした人も、基礎控除額の計算上は法定相続人の数に含める
    • 養子の数には制限がある

・実子がいる場合:養子1人まで
・実子がいない場合:養子2人まで

  • これは基礎控除額等の計算上の制限であり、遺産分割や法定相続分の計算における相続人の数とは異なる場合がある

相続放棄をした人も数に含める理由は、相続放棄の有無を相続税額の計算に影響させないようにするためです。 一方で、養子の制限は養子縁組を利用した過度な節税を防ぐために設けられています。

基礎控除の計算方法やより詳しいポイントについては、こちらの記事もご参照ください。

相続財産の範囲とリストアップのポイント

相続財産は大きく分けてプラスの財産とマイナスの財産に分類されます。

プラスの財産の例

  • 現金・預貯金
  • 不動産(土地・建物)
  • 有価証券(株式・投資信託・債券)
  • 生命保険金、死亡退職金(みなし相続財産)
  • 自動車、貴金属・宝石
  • 美術品・骨董品、ゴルフ会員権

マイナスの財産(債務控除の対象)の例

  • 借入金
  • 未払いの税金
  • 未払いの医療費
  • 葬儀費用(控除対象のもの)

注意が必要な財産

  • 名義預金:被相続人名義以外でも実質的に被相続人が管理していた預金
  • みなし相続財産:生命保険金、死亡退職金など
  • 生前贈与財産:相続開始前3年以内(段階的に7年に延長)の贈与

相続財産に含まれるもの・含まれないものの詳細は、こちらの記事で詳しく解説しています。

みなし相続財産のポイント

生命保険金や死亡退職金は、民法上は相続財産ではありませんが、相続税法上は相続財産とみなされます。

みなし相続財産の非課税枠

  • 生命保険金の非課税枠:500万円×法定相続人の数
  • 死亡退職金の非課税枠:500万円×法定相続人の数
  • 適用条件:受取人が相続人であること

例えば、法定相続人が3人の場合、生命保険金は1,500万円まで非課税です。

生前贈与加算とその注意点

相続等によって財産を取得した人が相続開始前3年以内に被相続人から贈与を受けた財産は、相続財産に加算する必要があります。

生前贈与加算の期間を延長(令和6年1月1日以降の暦年課税による贈与が対象)

相続開始時期によって生前贈与加算の対象期間は以下の通りです。

相続開始時期 加算対象期間
令和6年1月1日~令和8年12月31日 相続開始前3年以内
令和9年1月1日~令和12年12月31日 令和6年1月1日~相続開始日
令和13年1月1日~ 相続開始前7年以内

延長分(相続開始前3年超7年以内)の贈与は、総額100万円まで加算対象から除外されます。

被相続人から3年以内に贈与を受けた場合、贈与契約書や贈与税申告書を確認し、暦年課税で対象となるものがあれば金額に関わらず相続財産に加算しましょう。

申告要否の最終判断

申告することが適用要件になっている控除・特例

控除・特例名 期限後対応
配偶者の税額軽減(配偶者控除) 申告期限までに遺産分割が確定していれば期限後申告可

※遺産分割が確定していない場合は後述の通り。
小規模宅地等の特例 申告期限までに遺産分割が確定していれば期限後申告可

※遺産分割が確定していない場合は『申告期限後3年以内の分割見込書』を期限内に申告書とともに提出すれば分割確定後に適用可
農地の納税猶予 期限後適用不可
寄付金控除 期限後適用不可

その他の控除

  • 未成年者控除(2022年4月以降は18歳に達するまでの年数×10万円)
  • 障害者控除(85歳に達するまでの年数×10万円、特別障害者は20万円)

申告要否チェックリスト

  • ☐ 配偶者の税額軽減を受ける予定がある
  • ☐ 小規模宅地等の特例を適用する予定がある
  • ☐ 農地の納税猶予を受ける予定がある
  • ☐ 相続時精算課税制度を利用した贈与がある
  • ☐ 被相続人から相続開始前3年以内に贈与を受けている
  • ☐ 名義預金など判断が必要な財産がある

いずれかに該当する場合は申告が必要な可能性があります。

相続税の特例・控除を一覧で確認したい方はこちらをどうぞ。

監修者

松井 信行

記事監修者からのワンポイントアドバイス

相続税の申告要否の一義的な判断基準は"課税価格の合計額が基礎控除額を超えるか"ですので、そこに迷う余地はあまりありません。
もし迷われるとすれば、"相続財産に何をどこまで含める必要があるのか(例えば、名義預金やみなし相続財産)"、あるいは"財産価額を幾らで評価して申告するのか(例えば、土地や非上場株式)"という点で、そこには相続税に関する専門的な知識と経験に基づく高度な判断が必要になります。
そのような点が全くない簡易なケースであれば相続人が自身で相続税の申告を行うことも可能ですが、そのために要する時間や労力、更には万一内容に誤りがあった場合に税務調査や追徴課税を受けるリスクを考えれば、多少費用がかかったとしても専門家に相談・依頼された方が確実・安心で得策なのではないでしょうか。

相続税申告が必要となるケースと注意点

申告が必須となる具体的なケースと、申告漏れを防ぐための重要なポイントをお伝えします。

特例は「申告しないと」適用されない

「相続税がかからない=申告不要」という考えは大きな誤解です。

実際には、各種特例を利用することで相続税額がゼロになる場合でも、これらの特例を受けるには必ず申告が必要です。

配偶者の税額軽減(配偶者控除)

配偶者が取得した財産が1億6,000万円または配偶者の法定相続分相当額のいずれか多い金額まで相続税はかかりません。

この特例により相続税がゼロになる場合でも、申告をしなければ特例の適用を受けられません。

申告期限までに遺産分割が完了していない場合は、申告期限後3年以内の分割見込書を期限内に提出すれば、分割後に更正の請求により特例の適用を受けられます。

小規模宅地等の特例

被相続人の自宅や事業用地について、一定の要件を満たす場合に評価額を最大80%減額できる制度です。

例えば、評価額1億円の自宅土地が2,000万円の評価となり、基礎控除額以下になるケースもあります。 この特例も申告をして初めて適用されるため、申告を怠ると本来の評価額で課税されてしまいます。

特例の適用要件は複雑で、同居要件、所有要件、居住要件など細かい条件があるため、専門家への相談が推奨されます。

生前贈与や相続時精算課税制度の加算対象

生前贈与に関する加算は、申告漏れが最も多い項目の一つです。

前述の通り、相続等によって財産を取得した人が相続開始前3年以内に被相続人から贈与を受けた財産は、贈与時の価額で相続財産に加算されます。 令和6年1月1日以降の暦年課税による贈与については、この加算期間が段階的に7年に延長されます。

相続時精算課税制度の注意点

相続時精算課税制度を選択している場合は、相続時精算課税を選択してから贈与者が亡くなるまでに受けた贈与財産すべて(基礎控除額を除く)が相続財産に加算されます。

2,500万円の特別控除がありますが、これを超える部分には一律20%の贈与税が課されており、相続時に精算されます。 制度選択後は暦年贈与に戻ることができないため、長期的な視点での判断が求められます。

令和6年1月1日以降の相続時精算課税制度には年110万円の基礎控除が新設されました。 この基礎控除の範囲内の贈与は相続財産に加算されませんが、基礎控除を超える部分はすべて加算対象です。

制度が複雑化しているため、適用を受けている場合は必ず専門家に相談することをお勧めします。

申告漏れ・ミスを防ぐためのチェックポイント

相続税の申告漏れは、加算税や延滞税などのペナルティにつながるため、慎重な確認が必要です。

財産のリストアップと必要書類

必要書類チェックリスト

  • 被相続人の通帳
  • 証券会社の取引報告書
  • 固定資産税の課税明細書
  • 生命保険証券

金融機関への残高証明書の請求は、相続開始日現在のものを取得する必要があります。

名義預金の注意点

子や孫名義の預金でも、実質的に被相続人が管理していた場合は相続財産です。

通帳や印鑑の管理状況、預金の原資、名義人の認識などから総合的に判断されます。 税務調査で最も指摘されやすい項目の一つであるため、該当する可能性がある預金はすべて申告に含めることが安全です。

申告期限とペナルティ

相続税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内です。

期限後申告のペナルティ

  • 無申告加算税(税額の5%〜30%)
  • 延滞税
  • 小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減が受けられない場合がある

申告書作成の基本手順

  1. 戸籍謄本等で相続人を確定
  2. 財産目録を作成
  3. 遺産分割協議を実施
  4. 申告書を作成

特に不動産の評価や非上場株式の評価は専門知識が必要なため、早めに専門家に相談することで、正確な申告と節税の両立が可能です。

税務署からの問い合わせへの対応

税務署から『相続税の申告等についてのご案内』が届く場合があります。 これは相続税の申告が必要と思われる方に送付される書類で、適切に対応しないと税務調査に発展する可能性があります。

このような通知を受けた場合は、速やかに必要事項を記入して返送するか、必要に応じて期限内に申告書を提出することが重要です。

相続税申告が不要か迷った時の対処法

申告の要否に迷った場合の解決方法として専門家活用のメリットをお伝えします。

専門家に相談するメリット

相続税申告の要否判断は、財産の種類や特例の適用可否など、多くの要素を総合的に検討する必要があります。 自己判断には限界があるため、専門家に相談することで以下のメリットを得られます。

財産評価の適正化

特に不動産の評価は、土地の形状や利用状況により大きく変わるため、専門知識が不可欠です。 不整形地や無道路地、がけ地などは評価減の対象ですが、これらを適切に評価するには専門的な知識と経験が必要です。

特例・控除の適用漏れ防止

小規模宅地等の特例は要件が複雑で、適用可否の判断を誤ると数千万円の評価減を受けられない可能性があります。 専門家は最新の税制改正にも精通しているため、新しい制度や特例も含めて最適な申告方法を提案できます。

二次相続対策

一次相続で配偶者がすべて相続すると相続税はかからないかもしれませんが、二次相続で子どもたちに多額の相続税が発生する可能性があります。 専門家は将来の相続も含めたトータルでの税負担を考慮した分割案を提案できます。

税務調査リスクの低減

申告書の記載内容が適切で、かつ税理士が調査した内容等を記した『添付書面』を付けることで税務調査リスクが低減されることはあります。

国税庁の判定ツールの限界

国税庁の相続税の申告要否判定コーナーは、簡単な質問に答えるだけで申告の必要性を判定できます。 とはいえ、特例の適用や財産評価の詳細は反映されないため、最終的な判断は専門家に相談しましょう。

まとめ

相続税申告の要否判断は、基礎控除額と正味の遺産額(課税価格)の比較が基本です。 とはいえ、特例や控除の利用、生前贈与の加算など、考慮すべき点が多くあります。

特に「相続税がゼロ=申告不要」ではないことを理解し、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を利用する場合は、必ず期限内に申告することが重要です。

申告期限は相続開始から10ヶ月と限られているため、早めの準備と正確な判断が求められます。 自己判断に迷った場合は、ペナルティのリスクを避けるためにも、専門家への相談を強くお勧めします。

相続財産センターでは、経験豊富な税理士を無料でご紹介し、申告の要否判断から申告書作成、さらには二次相続対策まで、あなたの相続をトータルでサポートいたします。

相続という人生の大きな節目を、安心して乗り越えるための第一歩として、まずは無料相談からお気軽にお問い合わせください。

よくある質問とその回答

Q1:遺産額が基礎控除額ギリギリの場合、申告は必要ですか?

A1:遺産額が基礎控除額をわずかでも超える場合は申告が必要です。ただし、財産評価には一定の幅があるため、専門家に相談して正確な評価を行うことで、基礎控除額以下となる可能性もあります。特に不動産は評価方法により金額が変わるため、慎重な検討が必要です。

Q2:申告不要と判断した後、税務署から連絡が来ることはありますか?

A2:あります。税務署は独自の情報網により相続財産を把握しており、申告が必要と判断した場合は『相続税の申告等についてのご案内』を送付します。この通知を受けた場合は、速やかに内容を確認し、必要に応じて申告を行ってください。

Q3:相続税申告を税理士に依頼する費用はどのくらいですか?

A3:一般的に遺産総額の0.5%から1%程度が相場ですが、地域や財産構成によって差があります。特に不動産や非上場株式の評価が必要な場合は上振れする可能性があります。相続財産センターでは、お客様の予算やニーズに合った税理士を無料でご紹介しており、料金の交渉もコーディネーターがサポートいたします。

Q4:申告期限に間に合わない場合はどうすればよいですか?

A4:概算でも期限内に申告し、後日修正申告を行うことが重要です。期限後申告となると、特例が受けられなくなる可能性があるため、必ず期限内に申告してください。遺産分割が未了の場合は、法定相続分で仮申告を行い、分割後に更正の請求を行います。

Q5:生前贈与を受けていたか分からない場合はどうすればよいですか?

A5:税務署で過去の贈与税申告書の開示請求を行うことができます。また、通帳の入金履歴や贈与契約書の有無を確認してください。不明な場合は、念のため相続財産に含めて申告することで、後日のペナルティリスクを回避できます。

この記事の監修者
松井 信行 公認会計士・税理士事務所
所長 松井 信行 (税理士・公認会計士)
大学卒業後、東京で大手IT企業や監査法人にて情報システムの新規事業企画や会計士としての実務に長年携わる。その後、自身が相続を経験したことを契機として2014年に相続専門の個人会計事務所を地元で開業。現在は阪神間(主に神戸市・芦屋市・西宮市)で相続税をはじめとする各種税務申告や生前の相続対策相談など、相続に纏わる様々なサービスを数多く手掛けている。

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この記事の執筆者
相続財産センター編集部

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