まずは相続税の基本を理解しよう
相続税は亡くなった方(被相続人)から財産を受け継いだ際にかかる税金です。しかし、すべての相続に税金がかかるわけではありません。まずは基本的な仕組みを理解することで、自身の状況を把握することができます。
相続税がかかるケースとかからないケース
相続税の対象となる財産は、私たちの身の回りにあるものの多くが含まれます。具体的には、預貯金や有価証券などの金融資産、土地や建物などの不動産、生命保険金、さらには高額な美術品やブランド品なども課税対象となります。
主な課税対象財産
- 現金・預貯金・有価証券
- 土地・建物などの不動産
- 生命保険金や退職金
- 事業用資産(店舗、機械設備など)
- 貴金属、骨董品、美術品
- 自動車、船舶などの乗り物
一方で、非課税となる財産もあります。例えば、被相続人が受け取るはずだった支給期が到来している給与や賞与のうち、まだ受け取っていなかったものや、一定の要件を満たす相続人が相続する墓地や仏壇などは非課税となります。

- 記事監修者からのワンポイントアドバイス
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その他で相続税の課税対象財産と非課税対象財産で誤りやすいのが未支給の「年金」です。年金は大きく分けて「公的年金」と「私的年金」に分けられ、それぞれ取り扱いが異なります。
まず国民年金や厚生年金などの公的年金ですが、亡くなった年金受給者の3親等内の親族が未支給の年金を受け取ることが可能で、受け取った年金は、受け取った遺族のものとなります。これにより受け取った年金は遺族の一時所得として所得税・住民税が課税されます。
一方、企業年金などの私的年金は、死亡した月までの未支給年金は、公的年金と同様の取り扱いとなりますが、死亡後でも保証期間が付与されており、死亡の翌月から保証期間が満了するまでの年金(遺族給付金)について、遺族が受け取る場合には、相続税の課税対象となります。
このように、同じ年金でも取り扱いが変わりますので、注意が必要です。 - スエナガ会計事務所
代表 末永 寛
法定相続人と相続順位
相続税を考える上で重要なのが、法定相続人の存在です。法定相続人は以下の順位で決定されます。
- 第1順位:配偶者と子や孫など
- 第2順位:配偶者と父母や祖父母など(子や孫などがいない場合)
- 第3順位:配偶者と兄弟姉妹(第1順位、第2順位にいない場合)
配偶者は常に相続権を持ちますが、それ以外の相続人は上位の順位者がいる場合、相続権を持ちません。
そもそも基礎控除ってなに?具体的な計算式と考え方
相続税の計算において、最も重要な概念の1つが「基礎控除」です。この制度によって、一定額までの相続財産については相続税が課されないことになり、多くの方々の相続税の負担を軽減する役割を果たしています。
相続税の基礎控除とは?
相続税の基礎控除は、相続または遺贈により取得した財産の価額のうち、一定額を課税対象から除外する制度です。この制度により、比較的小規模な相続については相続税が発生しないよう配慮されています。基礎控除の金額は、相続が発生した時点での法定相続人の数によって変動するため、家族構成が重要な要素となります。
基礎控除額の計算式
相続税における基礎控除額は、以下の計算式で算出されます。
「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」
法定相続人数別の基礎控除額早見表
以下は、法定相続人数に応じた基礎控除額を早見表でまとめたものです。
法定相続人の数 | 基礎控除の基本額 | 法定相続人の加算額 | 基礎控除額合計 |
---|---|---|---|
1人 | 3,000万円 | 600万円 | 3,600万円 |
2人 | 3,000万円 | 1,200万円 | 4,200万円 |
3人 | 3,000万円 | 1,800万円 | 4,800万円 |
4人 | 3,000万円 | 2,400万円 | 5,400万円 |
5人 | 3,000万円 | 3,000万円 | 6,000万円 |
6人 | 3,000万円 | 3,600万円 | 6,600万円 |
具体的なケーススタディ
一般的な家族構成での具体例を見てみましょう。
- ケース1:夫婦と子供2人の世帯
法定相続人:配偶者と子供2人(計3人)
基礎控除額:4,800万円(3,000万円+600万円×3人)
相続財産:6,000万円の場合
→課税対象額:1,200万円(6,000万円-4,800万円) - ケース2:夫婦と一人っ子の世帯
法定相続人:配偶者と子供1人(計2人)
基礎控除額:4,200万円(3,000万円+600万円×2人)
相続財産:4,000万円の場合
→課税対象額:0円(基礎控除額以下のため非課税)
法定相続人の数がカギになる理由
基礎控除額は法定相続人の数に応じて増加する仕組みとなっています。これは、相続人が多いほど財産の分割対象者が増え、一人当たりの取得財産が少なくなることを考慮した制度設計となっているためです。
相続放棄時の注意点
相続放棄をした場合でも、法定相続人の数に含まれます。ただし、以下のような場合には注意が必要です。
- 相続人が相続権を失っている場合
- 相続人が廃除されている場合
- 相続人が相続を放棄した場合でも、基礎控除の計算上は相続人としてカウント
非課税財産や特例との関係も要チェック
基礎控除に加えて、一定の条件を満たす財産については非課税措置や特例が適用される場合があります。
主な非課税財産
- 生命保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)
- 死亡退職金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)
- 墓地や仏壇などの宗教用財産
- 相続人が国や地方公共団体などに寄付した財産
重要な特例制度
基礎控除と組み合わせることで、さらなる税負担の軽減が期待できる特例制度があります。
- 配偶者の税額軽減特例:配偶者が取得する財産額が1億6,000万円または法定相続分までは非課税
- 小規模宅地等の特例:居住用や事業用の土地について、最大80%評価減
- 農地等の納税猶予制度:農業を継続する場合の特例
これらの特例は、基礎控除と併用することで、より効果的な相続税対策を実現することができます。ただし、各特例には適用要件や手続きが定められているため、専門家に相談しながら慎重に検討を進めることが重要です。

- 記事監修者からのワンポイントアドバイス
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私自身、基礎控除額について、トラブルになったことはありませんが、常に気を付けている事は法定相続人が「誰」で「何人」なのかという事です。
ここまでの記事をお読み頂ければご理解頂けると思いますが、法定相続人の人数により基礎控除額は大きく変動します。このため、法定相続人を多くするために「養子」を活用する方もいますが、基礎控除額の計算上、養子には算入制限があります。最大で2人までしか人数に加える事ができませんので、多くの人と養子縁組を結んでも、上限が定められています。
このように、相続税の計算上では、必要以上に養子縁組を行って、不当に基礎控除額を増やすことを防ぐために養子の算入制限が設けられていますので、注意が必要です。 - スエナガ会計事務所
代表 末永 寛
法改正で基礎控除額は縮小?課税対象者は倍増
相続税の基礎控除額は、2015年1月1日以降の相続から大きく引き下げられました。この改正により、これまで相続税とは無縁だと考えていた方々にも影響が及んでいます。
基礎控除縮小の背景
2013年度の税制改正により、基礎控除額は従来の「5,000万円+1,000万円×法定相続人数」から「3,000万円+600万円×法定相続人数」へと引き下げられました。例えば法定相続人が3人の場合、改正前は8,000万円だった基礎控除額が、改正後は4,800万円となり、大幅な減少となりました。
この改正は、高齢化社会における世代間の資産移転の促進や、社会保障費増大に対応するための税収確保を目的としています。従来は相続税の課税対象となる相続人の割合が4%程度でしたが、改正後は約8%以上となり、より多くの方が相続税の対象となっています。
注意したい影響と今後の対策
基礎控除額の引き下げにより、特に都市部では土地や建物の評価額が高いため、予想以上に多くの方が課税対象となっています。自宅を保有している都市部在住の方や、事業用資産を多く保有している経営者の方は、特に注意が必要です。
対策としては、まず自身の財産総額を正確に把握することから始めましょう。不動産、預貯金、有価証券などの資産評価に加え、生命保険や退職金の見込み額、負債の状況なども確認が必要です。
また、相続税の計算は複雑で、様々な特例制度も存在するため、早い段階から税理士などの専門家に相談することをお勧めします。専門家のサポートを受けることで、正確な相続財産の評価や最適な節税策の提案、各種特例制度の活用方法について、適切なアドバイスを得ることができます。
相続対策は、発生してからでは間に合わないものも多くあります。「うちは大丈夫だろう」と思っている方こそ、一度専門家に相談して、確実な対策を講じることが重要です。
基礎控除以外の6つの控除枠も確認しよう
相続税の負担を軽減する方法は、基礎控除だけではありません。状況に応じて活用できる6つの重要な控除制度について解説していきます。これらの制度を理解し、適切に活用することで、相続税の負担を合法的に抑えることができます。
1. 配偶者の税額軽減
配偶者が相続する財産については、1億6,000万円または法定相続分までの金額のいずれか大きい額まで、相続税が非課税となります。たとえば相続財産が3億円で配偶者の法定相続分が1.5億円の場合、配偶者の取得分については全額非課税となります。(取得した財産が1億6,000万円までという条件)この制度を利用するためには、相続税の申告期限内に申告書を提出する必要があります。
2. 小規模宅地等の特例
被相続人の自宅や事業用の土地を相続する場合、一定の条件を満たせば評価額を大幅に減額できます。居住用宅地は330㎡まで80%の評価減、事業用宅地は400㎡まで80%の評価減が可能です。ただし、相続後も事業や居住を継続することなど、いくつかの要件を満たす必要があります。
3. 未成年者控除
18歳未満の相続人には、18歳になるまでの年数に10万円を掛けた金額が控除されます。例えば15歳の相続人の場合、残り3年分で30万円の控除を受けることができます。この控除は自動的に適用されるものではなく、相続税の申告時に必要書類を提出する必要があります。
4. 障害者控除
障害のある相続人については、85歳に達するまでの年数に一定額を掛けた金額が控除されます。控除額は、一般の障害者の場合は年10万円、特別障害者の場合は年20万円となります。たとえば45歳の特別障害者の場合、残り40年分で800万円の控除を受けられます。
5. 相次相続控除
10年以内に二重に相続が発生した場合、前回の相続で支払った相続税額の一部が控除されます。控除額は、前回の相続から経過した期間に応じて段階的に減少していきます。例えば5年後に再度相続が発生した場合、前回支払った相続税の50%相当額が控除されます。
6. 外国税額控除
海外に財産がある場合、日本と外国の両方で相続税が課される可能性があります。この二重課税を防ぐため、外国で支払った相続税相当額を日本の相続税額から控除する制度があります。国によって税制が異なるため、該当する場合は早めに専門家に相談することをお勧めします。
これらの控除制度は、それぞれに細かな適用要件があり、手続きも異なります。また、複数の控除を組み合わせることで、より効果的な税負担の軽減が期待できます。しかし、誤った適用は後々のトラブルの原因となる可能性もあるため、必ず税理士などの専門家に相談しながら進めることが重要です。
まとめ:基礎控除の仕組みを押さえて計画的に備えよう
これまで見てきたように、相続税の基礎控除は相続税額を大きく左右する重要な制度です。近年の税制改正により課税対象が広がる中、しっかりとした知識を持ち、計画的に準備を進めることが重要になっています。
早めの知識と対策が節税のカギ
相続税対策は、相続が発生してから始めるのでは遅いと言えます。まずは自身の財産を正確に把握し、基礎控除額を計算してみましょう。その上で、必要に応じて生前贈与や資産の組み換えなど、具体的な対策を検討していくことが賢明です。
特に重要なのが、家族間でのコミュニケーションです。相続人となる可能性のある家族メンバーと、財産の状況や将来の方針について話し合うことで、相続時のトラブルを未然に防ぐことができます。デリケートな話題ではありますが、例えば「相続税について勉強してみたんだけど」といった形で話題を切り出すことで、自然な形で対話を始めることができます。
専門家との連携でスムーズな相続を
相続税の計算や対策は専門的な知識が必要となります。税理士に相談することで、以下のような具体的なメリットが得られます。
- 相続税の試算と今後の見通しの把握
- 適切な節税対策の提案
- 各種控除制度の効果的な活用方法
- 相続に関する様々な法律や制度の最新情報
また、必要に応じて弁護士とも連携することで、法的な側面からもしっかりとした対策を講じることができます。
相続の専門家である税理士との良好な関係を築くためには、まずは気軽な相談から始めることをお勧めします。税理士紹介センタービスカスでは、経験豊富な税理士が皆様の相談を承っております。ご要望やご状況に合わせて最適な税理士をご紹介いたしますので、お気軽にご相談ください。
相続税の基礎控除について正しく理解し、早めの対策を講じることは、将来の相続をスムーズに進めるための第一歩となります。ご家族の大切な財産を次世代に円滑に引き継ぐため、今日から計画的な準備を始めてみませんか。

- この記事の監修者
- スエナガ会計事務所
代表 末永 寛
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