「架空経費」の脱税告発が9月に2件——商品の発注や土地の購入を装う手口はなぜ発覚するのか

[取材/文責]マネーイズム編集部

2026年9月、架空の経費を計上して法人税などを免れたとして、東京国税局が会社と代表を刑事告発したと報じられるケースが2件続きました。業種は不動産業と広告代理業で異なりますが、いずれも「実際にはない取引をあったように見せて経費を膨らませる」という共通の構図です。本記事では報道されている内容を整理したうえで、こうした架空経費がなぜ発覚するのか、そして中小企業が自社の経理を守るために何を点検すべきかを解説します。なお2件とも刑事告発の段階であり、起訴や有罪が確定したものではありません。

何が起きたのか——9月に相次いだ2件の刑事告発

報道によると、2件の概要は次のとおりです。

不動産会社「アクロス」(東京都港区新橋)と室井祐介代表(51):2025年3月までの2年間に約1億8,600万円の所得を隠し、法人税など約4,700万円を脱税した疑い。9月7日に報じられました

広告代理業「Full Commit Creative and Strategy Partners」(大阪府吹田市)と長谷川敏弘代表取締役(48):2024年4月期までの3年間に約5億1,900万円の所得を隠して法人税約1億3,300万円を免れ、さらに消費税約5,300万円もあわせて計約1億8,600万円を脱税した疑い。スポーツイベントのPRなどを手掛ける会社で、9月16日に報じられました

いずれも東京国税局が法人税法違反などの疑いで東京地検に告発したとされ、告発の対象は代表個人だけでなく法人も含まれます。長谷川代表の代理人は「すでに修正申告と納付を済ませており、今後も適正な申告に努めてまいります」とコメントしていると報じられています。一方、室井代表については取材に対する回答が得られていないと報じられています。

共通する手口は「架空経費」——商品の仕入れや土地の購入を装う

2件に共通するのは、実際には行っていない取引を帳簿上あったことにして、経費を水増しする手口です。報道によれば、それぞれ次のように伝えられています。

・アクロスのケース:別の会社から土地を購入したように装い、架空の経費を計上していたとされる

・Full Commitのケース:商品を仕入れたように装うなど、架空仕入れを計上して経費を水増ししていたとされる

いずれも不正に得た資金は投資などに充てられていたとみられると報じられており、アクロスのケースでは代表自身の証券口座へ送金されていたとされています。

経費が増えれば、その分だけ利益が圧縮され、法人税の負担は軽くなります。消費税についても、課税仕入れが増えれば仕入税額控除が過大になります。Full Commitのケースで法人税と消費税の双方が告発対象になっているのは、架空仕入れが両方の税目に同時に影響するためです。「経費を増やす」という行為は、事実に基づくかどうかで節税と脱税に分かれます。実体のない取引を作り出した時点で、それは節税ではなく仮装・隠蔽です。

なぜ発覚するのか——反面調査と資金の流れ

「相手先も了承していれば分からないのでは」と考える方もいますが、架空取引は次の3つの経路から浮かび上がります。

反面調査:税務調査では、取引先側の帳簿と自社の帳簿を突き合わせます。自社が「支払った」と計上していても、相手側に「受け取った」記録がなければ、そこで整合性が崩れます。自社の帳簿は取り繕えても、取引先に残る記録までは操作できません

資金の流れ:経費として支出したはずのお金が、最終的に代表個人の口座や証券口座へ戻っていれば、その経路は金融機関の記録に残ります。今回報じられた2件でも、資金が投資に回っていたとみられる点が共通しています。

データ分析による異常値の検出:国税庁はAIを活用した調査先の選定を進めており、同業種の平均と比べて経費率が不自然に高い、特定の科目だけ急増しているといったパターンは抽出されやすくなっています。さらに2026年9月24日には基幹システムが次世代版「KSK2」へ更改され、法人税・所得税・消費税などを横断した分析が進む見込みです。

AIの狙い打ちで税務調査の追徴金が過去最高!KSK2は2026年9月24日稼働、国税庁のAI活用と必要な実務対応を解説

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経費の水増しはどこから「脱税」になるのか

経営者からよく出るのが「どこまでが節税で、どこからが脱税なのか」という疑問です。線引きの考え方はシンプルで、事実に基づいているかどうかです。

節税:制度が認める範囲で、実際に行った取引や支出を正しく計上して税負担を抑えること。共済への加入、要件を満たす設備投資の特例適用などが該当します

脱税:実体のない取引を作る、売上を除外する、書類を偽るなど、仮装・隠蔽によって課税を免れること

実務で問題になりやすいのは、その中間にある「事実はあるが、事業との関連性が説明できない支出」です。プライベートな飲食や物品購入を経費に混ぜる、家族に実態のない給与を払うといったケースは、悪意がなくても否認の対象になり得ます。仮装・隠蔽と判断されれば重加算税が課され、悪質な場合は今回のように刑事告発へ進むこともあります

節税と脱税の境界については、こちらの記事でも整理しています。

「節税しただけ」なのになぜ逮捕?エンジェル税制、節税と脱税の境界線

中小企業が自社を守るためのチェックポイント

今回の2件はいずれも意図的な不正が疑われるケースですが、中小企業の現場では「知らないうちに説明できない経費が積み上がっていた」という事態も起こります。次の4点を点検してください。

1. 支払いの裏づけ書類をそろえる:請求書・契約書・納品書・検収記録がそろっているか。金額の大きい外注費や仕入れほど、発注から納品までの証跡を残しておくことが重要です。

2. 経費率の急変を自社でも把握する:前期と比べて特定の科目が大きく増えていれば、その理由を説明できるようにしておきます。国税当局が見ている異常値は、自社でも同じ指標で確認できます。

3. 会社のお金と個人のお金を分ける:代表個人の口座への資金移動は、目的が不明確だと真っ先に疑われます。役員報酬・役員貸付・配当など、性質に応じて正しく処理しましょう。

4. 判断に迷う支出は事前に相談する:経費性の判断は個別事情で変わります。処理してから否認されるより、計上前に顧問税理士へ確認するほうが、結果として負担は軽くなります。

税務調査をきっかけに社内の不正が判明した事例もあります。

元税務署職員が競艇に8億6,000万円、脱税1億3,500万円か。税理士「使った額はそのまま引けません」

まとめ

ポイントを整理します。

・2026年9月、架空経費による脱税の疑いで東京国税局が会社と代表を東京地検に告発したとされるケースが2件報じられた(9月7日・不動産業/9月16日・広告代理業)

・手口は「土地の購入を装う」「商品の仕入れを装う」など、いずれも実体のない取引で経費を膨らませるもの。得た資金は投資に回っていたとみられる

・広告代理業のケースでは法人税約1億3,300万円に加え消費税約5,300万円も対象。架空仕入れは法人税と消費税の両方に影響する

・架空取引は取引先への反面調査、資金の流れ、データ分析による異常値検出から浮かび上がる。2026年9月24日のKSK2稼働で税目横断の分析はさらに進む見込み

・節税と脱税を分けるのは「事実に基づくかどうか」。仮装・隠蔽と判断されれば重加算税、悪質なら刑事告発に至ることもある

なお、本記事で取り上げた2件はいずれも刑事告発の段階であり、起訴や有罪が確定したものではありません。今後の経過は報道等でご確認ください。

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