インフルエンサー脱税事件から学ぶ法人税法違反の仕組みと税理士の役割、企業が取るべき対策

2025年12月、多くのフォロワーを抱える有名インフルエンサーが脱税したというニュースが報道されました。高級バッグや高級車を数多く保有し、成功した実業家というイメージがあったため驚いた人は多いでしょう。
本記事では、宮崎麗果被告の法人税法違反事件について、概要や発覚までの経緯、税理士が取るべき対応や、同様のリスクを防ぐためのポイントを解説します。
1. 宮崎麗果被告の法人税法違反事件とは? ニュースの概要と全体像
ここでは、インフルエンサーの宮崎麗果被告の法人税法違反(脱税)事件について、概要を紹介します。
インフルエンサー・宮崎麗果とはどんな人物か 事件の背景
宮崎麗果被告(本名・黒木麗香)は、実業家兼インフルエンサーとして知られていた人物です。16歳からモデルやタレントを経験した宮崎被告は、30歳で美容系のコンサル会社を立ち上げたのを皮切りに、化粧品関連やランジェリーブランドなどさまざまな事業を展開し、実業家として知られるようになりました。
また、高級ブランドや高級車などに囲まれた華やかな生活をたびたび公開し、インスタグラムには50万人ものフォロワーがいるインフルエンサーとしても有名です。2021年12月にEXILE元メンバーの黒木啓司氏と結婚し、2児を授かった宮崎被告には仕事と育児を両立させる母親としての面もあり、多くの女性から憧れの対象であったといえます。
2025年12月の刑事告発から2026年3月の初公判まで 事件の経緯まとめ
宮崎被告は2025年12月、法人税法違反などの罪で個人ならびに自身の広告会社「Solarie」とともに東京地検特捜部に起訴されました。このほか、同法違反ほう助などの罪で会社役員の男性2人も起訴されています。
在宅起訴された宮崎被告は同日、インスタグラムのストーリー機能を利用して起訴の事実を認めて「深く反省している」とコメントしました。その後、初公判は2026年3月に行われています。
「マルサ」が狙った理由 国税局査察部が動いた背景
マルサとも呼ばれる国税局査察部は、脱税を行う法人などを調査し、検察当局へ告発する機関です。査察部ではさまざまな方法を用いて調査対象を絞り込んでいます。宮崎被告の場合は、SNS上で華やかな生活を披露していたことが調査のきっかけになったといわれています。
たとえば、高級ブランドのバッグや高級車の購入をアピールしている場合、その購入代金の出所をたどるのが査察部の仕事です。SNSで公開している生活水準に対して、宮崎被告が申告している所得が少なかったことなどが調査対象となった理由だと考えられます。
2. 1.5億円の法人税法違反の内訳 何をどうやって脱税したのか
宮崎被告の脱税額は、総額1.5億円と伝えられています。ここでは、その内訳や所得隠しの方法、今後予想される追徴税額などについて紹介します。
法人税約1.26億円と消費税約3100万円 2種類の税の脱税内訳
宮崎被告の起訴状によると、2021年1月期と23年~24年1月期に計約4.96億円の所得を隠す方法により、脱税した法人税などは計約1.26億円。
一方、消費税などについては22年2月~24年1月の期間に合計で約3,100万円を脱税したとされています。このほか、1,400万円の消費税の還付を不正に受けようとしたとの報道もあります。
「B勘屋」と架空業務委託費の仕組み 約4.96億円の所得隠しのカラクリ
宮崎被告の脱税の手口は、B勘屋と呼ばれる業者を使って架空業務委託費を計上して実際より経費を増やし、利益を少なく見せる方法です。B勘定とは税務調査で使われる隠語で、正規の取引(A勘定)に対し、不正な取引や架空の領収書などを指します。
B勘屋は5~10%程度の手数料と引き換えに架空の取引を装った領収書を発行してくれる業者です。宮崎氏は知人から紹介されたB勘屋に対して、業務委託費として総額約4.96億円の未払金を計上することで、利益を実際より少ない金額で申告し、所得税と消費税の納税額を減らそうとしました。
しかし、2021年1月期から数年にわたって、約5億円もの金額が未払いである状態は通常では考えられないことです。そのため、脱税を疑われたのだと考えられています。
追徴税額は総額5億円超になる可能性 重加算税・延滞税のペナルティ
脱税すると行政処分として追徴税額を払います。追徴税額の内訳は、本来支払うべきだった税金(本税)+ペナルティとしての重加算税+延滞税です。今回のケースでは、脱税額が約1.5億円に上ったといわれています。
重加算税は本税の35%とされているため、重加算税だけでも約5,000万円となる可能性があります。延滞税は税金の支払が遅れた分の利息のようなものです。報道によると脱税が行われた期間は、2021年1月期と2023年~2024年1月期とされており、納付期限から完納までの期間に対して年利2.4~8.7%で計算されます。
このほか、今後の裁判で有罪となれば本税の1~3割程度の罰金が科されるでしょう。これらを合計すると追徴税額は5億円を超える可能性があります。
3. 本来であれば税理士はどうすべきだったのか
法人であれば税理士や会計士と顧問契約していたり、確定申告のアドバイスをもらったりしているのが一般的です。そのため、今回のような脱税のケースでは税理士がどのように対応していたのか、また税理士と契約していても会計処理のミスなどにより意図せず脱税してしまうことがないのか、気になる人もいるでしょう。
ここでは、税理士の法的義務や責任について解説します。
事件のきっかけは税理士の一言「納税額が2000万円になる」
宮崎被告のケースでは、事件のきっかけとなったのは「(2021年度の)納税額が2000万円になる」という税理士の一言でした。納税額を減らす方法はないかとA被告に相談した宮崎被告はA被告からB被告を紹介され、架空の費用を計上することで利益を圧縮する方法を取ってしまうのです。
税理士法41条の3が定める「是正助言義務」とは何か
税理士は個人や法人の会計・税務をサポートする専門家です。税理士の業務や義務について定めた税理士法では、41条の3で税理士が顧客の不適正な会計処理に気づいた場合は、是正するように助言しなければいけないとしています。これを是正助言義務といいます。
万が一不正に気づきながら是正を促さなかった場合、税理士自身が罪に問われ、刑事責任や懲戒処分の対象となる可能性があるでしょう。
架空領収書に気づいた場合に税理士が取るべき正しい対応
今回の事件では、知人が経営する企業を相手に架空の領収書を発行し、実際には使っていない費用を計上することで利益を少なく見せたことが脱税と認定されました。
ただし、個人や企業の中には会計処理を税理士や会計士などのプロに依頼しているケースが少なくありません。その場合、確定申告の前に税理士が架空の領収書に気づくことも考えられます。
架空領収書に気づいた場合、税理士法41条の3の是正助言義務に従って税理士は、顧客に対して正しく経費を申告するようにアドバイスする義務があります。何かおかしいと感じたときは帳簿を詳しく見せてもらえるよう要求することも可能です。
知りながら申告書を作成すれば「脱税ほう助」で税理士自身も刑事責任を負う
架空領収書などを含めて、顧客の会計処理におかしな点があると感じながら放置することには税理士自身が脱税ほう助に問われるリスクがあります。
法人税法によると脱税ほう助が成立する要件は以下の通りです。
・納税者が売上除外や架空経費計上などの脱税として罰せられる行為を行う
・虚偽内容だと知りながら税理士や会計士が申告書の作成・申告を行う
ほう助とは手助けするという意味であり、税理士が脱税に該当する行為を直接行っていなくても刑事責任を負う可能性があるため注意が必要です。脱税ほう助が認められれば、税理士法45条に基づく懲戒処分を受け、税理士業務が行えなくなることもあります。
4. 法人税法違反で問われるリスクと正しい節税の考え方
国税庁査察部はさまざまな方法で企業を監視しているため、脱税が発覚するリスクは高いでしょう。法人税法違反で起訴されると行政処分としての追徴税額のほかに罰金が科せられるリスクもあります。
ここでは、法人税法違反で査察調査から逮捕・起訴に至る仕組みや脱税と節税の違いなどについて紹介します。
脱税が発覚するまでの流れ 査察調査から逮捕・起訴に至る仕組み
脱税の疑いがある企業や経営者の捜査を担当するのは、国税庁査察部です。査察部では捜査員らがさまざまな情報を駆使し、脱税の疑いがある対象者(個人や企業)に関する調査を実施します。
そしてある程度調査が進んだ段階で、対象者の住所や法人の本店など関係各所を訪ねて一斉に捜索を行うのが査察調査です。査察調査では、書類やデータなどの捜査に必要な情報や証拠を押収するのが目的です。
査察調査が終わると捜査官は、対象の個人や企業に対する事情聴取を実施します。事件として検察庁へ送致するかを判断するため、事情聴取は何度も行われるのが一般的です。脱税に関して故意が認められない場合や、脱税額が少なく内容も悪質でない場合などには、検察へ告発されない可能性もあります。
一方、悪質性が認められたり脱税額が大きかったりする場合には検察へ事件送致され、検察官による取り調べを受けることになります。取り調べは在宅で続けられることが多いでしょう。
ただし、逃亡のおそれがある、または関係者同士で口裏を合わせるなど証拠隠滅の可能性が高いときには逮捕されることもあります。最終的に脱税として起訴・不起訴を決定するのは検察官です。事件送致された場合、7~8割程度の確率で起訴されるといわれています。
脱税と節税は何が違うのか 法的に許される経費・許されない経費の境界線
本来納めるべき税額を減らす方法は節税と呼ばれます。脱税と節税の違いは、法律で認められている手段によるものかどうかです。たとえば、自宅の家賃や光熱費を合理的な範囲で経費としたり、新しい事務機器を購入して利益額を減らしたりすることは、節税に該当します。
一方で現金で得た売上を申告しなかったり、私的な旅行の費用を出張費と偽ったりすることは認められていません。このような虚偽の申告の結果、納税額が減少した場合は脱税と認定される可能性が高くなります。
今回の事件から学ぶ 経営者が顧問税理士と持つべき正しい関係性
税理士は税務のエキスパートとして、顧客である企業や経営者に正しい会計処理をアドバイスする立場にあります。今回の事件のようなケースでは、税理士に「納税額を抑えたい」と相談していれば法律的に問題のない節税の方法を教えてもらえた可能性があります。顧問税理士と契約している経営者は、経理や申告のことで疑問点があるときは積極的に助言を求めましょう。
まとめ
有名インフルエンサーが華やかな生活の裏で脱税していたことは世間に大きな衝撃を与えました。特に今回の事件ではSNSの投稿が発覚のきっかけになったともいわれています。脱税は犯罪であり、発覚したときのリスクは大きいものです。税務の疑問点は税理士に相談し、正しく申告・納税することが大切です。
中小企業経営者や個人事業主が抱える資産運用や相続、税務、労務、投資、保険、年金などの多岐にわたる課題に応えるため、マネーイズム編集部では実務に直結した具体的な解決策を提示する信頼性の高い情報を発信しています。
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