期初に税理士から、「計画通りなら、今期の法人税はこれくらいです」と説明されて、了解していたはずなのに、いざ支払う段になると「どうしてこんなに高いのだ」とクレームをつける。あなたは、そんな社長ではありませんか? 気がつけば、「節税第一」に陥って、適切な内部留保を確保することができずに、肝心の会社経営に支障をきたしていた。そんなことにならないために、心掛けるべきこととは何でしょうか? 竹澤広晃先生(竹澤税理士事務所)に聞きました。
税理士に“丸投げ”でなく、会社の数字に興味を持つ
~「節税」が会社をダメにする!?・その3~
2019/4/12
できれば「自ら記帳」してほしい
経営者が法人税の節税に目を奪われることの「怖さ」を、お話しいただきました。そのように「経営の本分」を見失わないために必要なものは何だと、先生はお考えですか?
ひとことで言えば、「自社の数字」に興味を持つことが、一番大切だと思います。自分の会社は、どこで利益を出しているのか? 経費がかかっているのはどこか? 去年に比べて伸びているのか、それとも足踏み状態なのだろうか? そういう数字がある程度見えたら、「よし、もう少し頑張ろう」「利益を増やそう」という気持ちが、自然に生まれるのではないでしょうか。
そうではなくて、「私は数字に弱いので、先生に全てお任せします」という人に限って、期末には法人税の納税額ばかり気になって、仕方なくなる(笑)。
そうではなくて、「私は数字に弱いので、先生に全てお任せします」という人に限って、期末には法人税の納税額ばかり気になって、仕方なくなる(笑)。
大事なところに目が行かないわけですね。
できることなら、会社の帳簿は社長自身で、あるいは社内の担当者に付けてほしい。
そうすれば、先ほどのような数字は、よくわかるようになるでしょう。
記帳代行だと、どうしても社長に報告するまでにタイムラグが生じます。自分で付けてもらえば、リアルタイムの数字に接する機会が増えるはず。それも大きなメリットなんですね。
ただ、現実には、本業を回すので手いっぱいで、とても帳簿付けの暇などない、という状態の社長が多いこともわかります。その場合も、顧問税理士に“丸投げ”のスタンスではなく、できるだけ数字を掴む努力をしてほしいと思うのです。
ただ、現実には、本業を回すので手いっぱいで、とても帳簿付けの暇などない、という状態の社長が多いこともわかります。その場合も、顧問税理士に“丸投げ”のスタンスではなく、できるだけ数字を掴む努力をしてほしいと思うのです。
税理士で差のつく節税
その場合、顧問の先生に、「会社の数字を知りたい」という社長の思いに応える力があるのかどうかも、問われることになるのではないでしょうか。
そうですね。前回お話しした「長いスパンの税金対策」も、経営者に寄り添うタイプの税理士で、なおかつ事業承継に関する知識がなかったら、提案できないと思います。他の先生からの切り替えで当事務所のクライアントになった会社の財務状況などを調べてみると、「どうしてこんなことが」と首をかしげたくなることも、けっこうありますね。
たとえば、どんな事例がありますか?
法人や個人事業主が、一定の割合以上に従業員への給与の支給を増やした場合に、増加額の10%分を法人税、所得税から控除できる「所得拡大促進税制」という制度があるんですよ。十分その要件を満たしていたのに、適用の手続きをしていない先生は、たくさんいます。
ちなみに、この制度は、当初申告で必要書類を添付していなかったら適用されません。後から更正の請求(※)で控除してもらおうと思っても、無理なのです。中には数年にわたって給与を増額していて、合わせて1000万円ほどの控除が認められたはずの会社もありました。
ちなみに、この制度は、当初申告で必要書類を添付していなかったら適用されません。後から更正の請求(※)で控除してもらおうと思っても、無理なのです。中には数年にわたって給与を増額していて、合わせて1000万円ほどの控除が認められたはずの会社もありました。
でも、先生はもはやどうしようもない。それにしても、前の顧問税理士は、制度自体を知らなかったのでしょうか?
これも理由は不明です。
「税の専門家」に頼んでも、そういうことが起きるわけですね。いい税理士を選ぶには、どんなところに注意すべきでしょう?
そうですね、数十分話しただけで、「いいか悪いか」を判断するのは難しいかもしれません。顧問税理士を選ぶ時には、複数の先生に会ってみるのも、1つの方法ではないでしょうか。
すでに頼んでいる場合でも、十分話を聞いてくれなかったり、アドバイスに疑問に思う点があったりした場合には、セカンドオピニオンを利用することができます。
すでに頼んでいる場合でも、十分話を聞いてくれなかったり、アドバイスに疑問に思う点があったりした場合には、セカンドオピニオンを利用することができます。
他の税理士さんの見解を聞いてみる。
今の税理士さんに許可を取る必要はありませんし、他で話を聞いたという情報が漏れることもありません。疑問を残したままにした結果、損をするのは最悪です。もちろんコストは発生しますけど、「おかしい」と感じたら、気兼ねなく相談してみてはいかがでしょう。
※更正の請求
税の申告後、納めた税金が高すぎた場合に、税務署に対して還付の請求を行うこと。
税の申告後、納めた税金が高すぎた場合に、税務署に対して還付の請求を行うこと。
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竹澤広晃(税理士)プロフィール
竹澤税理士事務所 所長
税理士法人やコンサルティング会社にて中小・ベンチャー企業から1部上場企業まで幅広く会計・税務レビュー、節税相談、MAS業務などに従事し、2010年5月に独立開業。お客様とのコミュニケーションを第一に、会社の参謀役として親身に経営のお手伝いをしている。
URL:http://www.takezawa-tax.com/