起業したい! そのとき考えるべきこと
~ところで誰に相談する?~

起業したい! そのとき考えるべきこと  ~ところで誰に相談する?~

2017/1/5

 
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先生の事務所では、創業支援の案件も多いと聞いています。今回は、政府も後押しする「創業」について、お話をうかがっていきたいと思います。

【今回の専門家は…】税理士 及川健太先生(及川総合会計事務所)


先生の事務所では、創業支援の案件も多いと聞いています。今回は、政府も後押しする「創業」について、お話をうかがっていきたいと思います。

私たちの事務所自体、開業してまだ10年たちませんから、お客様も老舗企業というより出来立ての「若い」会社が比較的多くなっています。おっしゃるように「これから会社を立ち上げたい」というご相談も、数多く受けていますよ。事務所は奈良県の生駒市にありますが、創業なさるのは飲食業、美容室、介護関連といった業種が中心です。

普通の会社の税務顧問をするのと創業支援とでは、仕事の中身もかなり違ってきますよね。

そうですね。創業というのは、その企業にとって1度きりのもの。経営者にとっては、基本的に初めての経験です。ある程度経営が軌道に乗ってきてからのルーチンワークを含めたサポートと違い、「経営者といっしょにゼロからつくっていく」ところが難しさであり、あえて言えば我々にとっての醍醐味でもあります。経験を積むなかで、そのあたりのスキルはずいぶん磨かれたと思っています。

具体的に、どんなスキルですか?

いや、決して難しいことをやるのではありませんよ。さきほども言いましたように、みなさん創業なんて初体験ですから、そのために何が必要なのかすら分からないわけですね。税金関係の手続きは、どこでどうやったらいいのか? 人の問題、労務関係は?
 もっと言えば、それを誰に相談したらいいのかが分からない。そこで、その相談相手、税金に限らずあらゆる問題に対処する「創業の相談窓口」になろうというのが、私たちの基本的なスタンスなのです。

「創業したいけど、何も分からない」人にとっては、とりあえずここに来ればなんとかなる、ということですね。

そうです。今お話ししたような、会社の設立時に必要な煩わしい「公共関係」の手続きなどは、全部当事務所に任せてほしい。そのぶん経営者の方は、会社が順調に滑り出せるように本業に全力投球してもらいたいのです。もちろん、会計事務所だけでは対処しきれない問題があるかもしれませんから、そうした場合には「その道の専門家」を、責任を持って紹介します。
 事務所の宣伝みたいなことばかり申し上げましたけど、創業を考えるのならば、ぜひ親身になって相談に乗る税理士を、サポーターにつけて欲しいと思うのです。

すべての会計事務所が、的確な創業支援をできるとは限りません。信頼できる専門家選びは、夢を叶える第1歩といえそうですね。

“思い”は必要。でもそれだけでは……


かつては、株式会社を設立するために1000万円の資本金を用意する必要がありました。今は、極論すれば資本金1円でもOKです。

そうですね。起業のハードルはずいぶん低くなり、それにチャレンジする人も増えました。

一方で、日本では、起業3年以内の廃業率が7割に上るなどともいわれます。創業支援に実績のある先生の目から見て、「起業するのなら、最低限こういうことを考えておいた方がいい」「こんな心構えを持ってほしい」というアドバイスはありますか?

希望を持って創業したけれど続かなかったところを見ていて感じるのは、やはり「この事業がしたい」「儲けたい」という“思い”だけでは必ずしもうまくいかない、ということですね。創業という夢で頭の中がいっぱいで、シビアな現実に目が向いていなかったりすると、「こんなはずではなかった」という結果になる危険性のあることは、自覚すべきだと思います。
 もちろん「この事業を絶対に成功させるんだ」という強い気持ちは大切です。世に言う「カリスマベンチャー経営者」たちは、それがあったからこそ「カリスマ」になれたわけですね。ただし、そこには「裏付け」も必要なのです。やはり売り上げなどの数字の見通し、それを実現するためにどんな営業活動をするのかといった経営計画は、自分の頭できちんと考え、説明できるようにしておきたいですね。その際に、税理士などの専門家に、考えるための助言を受けるのもいいでしょう。
 あえて申し上げておくと、とはいえ一般の企業でも「5か年計画」みたいなものが青写真通りにいくのは、むしろ稀なことです。

想定外の経済環境の変化などもありますから。

そうですね。ゼロから創業ともなれば、先を見通すのはさらに困難でしょう。しかし、それでも「どう経営していくのか」について真剣に思いをめぐらせて、形にしてもらいたいんですよ。これから経営者になるのだから、その覚悟、心構えを持つためにも大事なことだと私は思うのです。
実際には、相談にいらっしゃる方の中にも、そこがあやふやなまま、「絶対にうまくいくはずだ」「とにかく会社をつくりたいから、フォローしてほしい」というケースがあります。

そういうときには、「起業はやめたほうがいい」という話をされるのでしょうか?

これも事務所によるのでしょうけど、よほどのことがない限り、私は基本的にそういう方向での話はしないんですよ。いろいろお話しはしますけど、「それでも起業したい」という意思をお持ちの場合は、その決意を最優先に考えてサポートします。私たちはあくまでもサポート役で、実際に会社を動かすのはお客様なのだから。

人を採用したときのこと、イメージできていますか?


さきほど先生は、創業時には熱い“思い”だけではなく、それを実現させるための計画を持つべきだ。ただし、それがないからといって「起業はやめたほうがいい」という話はしない、とおっしゃいました。それはなぜなのか、もう少し詳しくお聞かせ願えますか?

起業はお客様の「夢」ですよね。それを潰すのが私たちの仕事だとは思わないからです。私のところに来るお客様には、他の会計事務所で創業の相談をしたら、さんざん否定的なことを言われて、半分やる気を殺がれているような方も、けっこういらっしゃるんですね。でも、新しく仕事をしていきたいという人に対して、「ダメだ」という判断を下すのは、基本的におかしいというのが、私の考えなんですよ。それに、「ちょっと危なっかしいなあ」と感じていたお客様が、起業してみたら見事に事業を軌道に乗せていた、というような例も中にはあるんですよ。

止めていたら大変でした(笑)。

さきほども申し上げたように、「とにかく起業ありき」で、そこに至る道筋がまったく描けていなかったり、事業の遂行を阻むリスクに目が向いていなかったりする場合には、過去の失敗例なども引き合いに出して、いろんな話をします。でも、それでも「やりたい」という場合には、止めることはしません。全力でサポートする側に回ります。

走りながら、経営計画の策定などについてもフォローしていくわけですね。ところで、今おっしゃったように起業にはリスクがつきもの。みなさんが陥りやすい罠みたいなものはありますか?

教科書的には、1回目にお話しした「諸手続き」や「資金調達」「販路開拓」「経営ノウハウ」「人材採用」などが起業の障害、リスクとして語られていますよね。それらの中で、経験上意外な盲点だと感じるのが、「人の問題」なんですよ。

昨今は人手不足、採用難が問題になっていますけど……。

経営する側にとっては、その点も深刻ですよね。ここであえて申し上げたいのは、自分以外の人間が会社に入ってきたときのことをイメージできていない人が多い、ということなのです。
 事業が広がって人を採ったら、人手不足は解消するかもしれませんが、これまでのように何でも自分の思い通りに事が運べなくなる可能性が高くなるでしょう。それに、採用するのはロボットではなく生身の人間。仕事上の能力やスキルも大事ですが、“合う・合わない”の問題が生じるかもしれません。

それでは、かえって仕事の効率が落ちてしまうかも。

ゆくゆくは社員を採用するつもりなら、それに対応できる環境をどのように整備していくのかも、起業前に考えておくべきことの1つだと思いますよ。逆に言えば、伸びている会社は、そういう「人の問題」がとてもうまくいっているのです。

「政策金融公庫」の融資制度を利用する

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例えば飲食業を始めようとしたら、店舗を借りて内装工事をするとか、人を雇ったりするのだとかに、まとまったお金が必要になります。自己資金だけで賄えるのは稀で、多くの場合は金融機関の融資などに頼ることになりますよね。今回は、創業に必要な資金をどのように調達したらいいのかについて、おうかがいしたいと思います。

わかりました。おっしゃるように創業資金の調達は、起業の成否を決める大きなポイントで、みなさんが最も頭を悩ませる問題でもあります。どんなにその事業に将来性があるように見えても、普通の銀行の窓口に行って「貸してください」と言っても、「はいどうぞ」というわけにはなかなかいきません。そこで活用したいのが、日本政策金融公庫の融資制度なんですよ。
 政府系金融機関である政策金融公庫は、国の政策に基づいて、民間の金融機関を補完する役割を担っています。国民生活事業、中小企業事業、農林水産事業の3つの柱があって、このうち国民生活事業で創業資金の融資を行っているのです。

創業支援という「国の政策に基づいて」、起業家が融資を受けやすくなっているということですね。

その通りです。具体的には、「新規開業資金」という制度があります。新規開業ないし開業後7年以内の人が条件で、融資限度額は7200万円(運転資金の限度額は4800万円)となっています。返済期間は、設備資金と運転資金で異なり、設備資金は20年以内、運転資金は7年以内です。
 また、無担保無保証で、融資限度額3000万円(運転資金の限度額は1500万円)の「新創業融資制度」も用意されているんですよ。ちなみに、無担保なだけでなく、経営者本人の連帯保証人のサインも不要。創業に必要な資金に占める自己資金比率が10分の1でいいという要件の緩さも、起業しようという人にとってはありがたいところです。
 ややネックを探すとすれば、多少金利が高いことでしょうか。融資期間17年以内の基準金利は年率2・16%。例えばさきほどの「新規開業資金」の場合は、1・71%(担保なし)。細かい点については、私たち専門家や政策金融公庫に確認することをオススメ致します。

融資に当たって、何か特別な条件はないのでしょうか?

まず、きちんとした創業計画書の提出が必要不可欠。それなりのお金を貸すのですから、当然それ以外にも細かな条件は決められています。ただし、まじめに起業しようとする人なら、それらの条件自体が大きな障害になるということは、まずないでしょう。
 とはいえ、「計画書」とやる気があれば融資OKとなるかといえば、やっぱりそう甘くはありません。次にそのあたりのお話をしてみたいと思います。

「政策金融公庫」の融資をスムーズに受けるコツ


さきほど、日本政策金融公庫が行っている創業資金の融資の概要をお聞きしました。起業家にとってハードルが低く、メリットの多い制度ということでしたが、実際に融資を実行してもらうためには、やはりノウハウも必要だという指摘がありました。具体的にどういうことでしょうか?

当事務所のお客様で、さきほどお話しした「新創業融資制度」を活用して、満額の1500万円の融資を受けられた建設業の方がいらっしゃいます。「ありがとう、助かった」ととても感謝されたのですが、その方は当事務所に相談に来られる前に、一人で政策金融公庫に融資の申し込みをしたものの、断られたそうなんですね。実は、そんなケースがけっこうあるんですよ。
 公庫に提出した創業計画書を見せてもらいましたが、内容はしっかりしたものでした。他の融資条件で、特に引っかかる項目も、これといって見当たらない。なのに、融資が受けられないわけですね。いくら創業支援が国策で、それに従って融資のハードルを下げているとはいえ、「これだけの準備をしていれば、貸してくれるだろう」と安易に考えるのは、甘いということです。

そのお客様は、先生のアドバイスの結果、逆転で融資OKとなったわけですね。「計画書」を抜本的に書き直したとか……。

いいえ、そうではありません。違いといえば、お客様が政策金融公庫の融資を希望される場合には、必ず事務所のメンバーが融資の申し込みに同席するんですね。そして、「第3者」の立場から、いかにお客様が事業に対して熱い思いを持っているのか、頑張る気持ちがあるのか、といったあたりを中心に、融資の担当者にお話しするわけです。
 きちんとした事業計画を持っているのは大前提。ですが、前にもお話ししたように、それは絶対ではありません。誤解を恐れずに言えば、同じような創業計画書をゴマンとみている公庫の人間も、そのあたりは了解済みだと思うのです。私の経験上、計画よりも大切なのは、起業家の本気度。ですから私たちは、自分自身が感じたその本気度を、誠意をもって伝えることを第一に考えているのです。その結果、ほとんどの案件で希望額に近い融資が受けられているんですよ。

税理士さんが話すのだから、説得力もありますよね。

あえて言えば、当事務所が政策金融公庫と良好な関係を築いているというのも、大きいでしょう。融資担当者の身になってみればわかることで、彼らはお金を貸すのが仕事。「いいお客様」は1件でも多く欲しいわけですよ。その点では、今までに培った実績がものを言っているのは確かだと思います。

政策金融公庫からの融資によって、確実に創業資金を準備したいと思ったら、やはり専門家の力を借りるべきですね。

当事務所と同じように、公庫と太いパイプを持った事務所が、探せば必ず見つかるはずです。そうした事務所のノウハウも活用して、スムーズな船出を目指してほしいですね。

あなたは何のために起業するのですか?

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先生は、創業支援を行う際に、節税の話も併せてされるのですか?

創業時に、税金に対して何か特別な手段を講じるようなことは、私は基本的にしないんですよ。ある程度歴史があって事業規模の大きな会社だったら、例えば不動産を活用した節税のスキームを提案するといったことはあると思うのですけれど、これから起業する場合は、まずはスムーズに「離陸」していただくのが第一ですから。創業時には、税金の話は、あえて言えば“二の次、三の次”ではないでしょうか。

税金のことをウンヌンする前に、まずは売り上げを立てて黒字にしましょう、ということですね。

そうです。とにかく、本業を軌道に乗せることに全力を注いでいただきたいのです。時々あるのが、税金対策などから無理やり会社をいくつかつくったりした結果、それらを回すのに四苦八苦というケース。それでは、自分が何のために働いているのか、よくわからなくなってしまいます(笑)。操業して5年、10年くらいであまり複雑なことをやろうとすると、結局足元をすくわれることになるかもしれません。

法人には、設立2年後から消費税がかかります(※)。中には、この2年というのを逆手にとって、2年ごとに新しい会社にして、消費税を逃れるように指導する税理士の先生などもいらっしゃいます。

「そういう話を聞いたんですけど」と、相談に来られるお客さんもいますよ。確かにそれは、法律上は問題ない行動なのですけれど、失うものも大きいように感じます。例えば事業は、お客様なしには成り立ちません。コロコロ社名が変わったりしたら、信用して付き合ってもらえるでしょうか? 長い目で見たら、損失が免税分を上回るかもしれませんよね。
 もちろん、経営者たるもの税金に無頓着というのでは困ります。でも、視点は常に「どれだけ節税できるか」ではなく、「利益をどれだけ残すのか」に置いておかないと。節税のために利益を圧縮しよう、といったマイナスの方向を向いていては、事業を継続的に発展させていくのは難しいと思いますよ。

創業したてのような時期は、まだいろんな知識に乏しいし、情報の入手先なども限られます。だからよけいに「おいしい話」に飛びついたりしないよう、気をつける必要がありそうですね。

何か特別のことをやろうとすれば、本業以外の手間もかかるし、それを考えるための時間も費やすことになります。そういうコストが、おっしゃるような創業時には、特に大きな負担になるのです。策に溺れることなく、本道を行くべき。それが私からのアドバイスです。
※法人の消費税:
資本金1000万円以下の場合は、設立1期目の消費税が免除される。2期目に関しては、「特定期間」(事業開始日から6ヵ月)の売上高が1000万円以下か、給与等支払額の合計額が1000万円以下の場合に免除される。

伸びる会社はここが違う


あえてうかがいますが、先生が創業支援にかかわったけれども、途中でうまくいかなくなったような会社はありますか?

稀ですがありますよ。

一方で大きく伸びている会社もあると思います。どこが違うのでしょう?

いうまでもなく、事業の成否には様々な要因があると思うのですが、伸びる会社に共通しているのは、経営者がちゃんとお金の計算をしているところですね。さきほど節税にばかり気を取られていてはダメだという話をしましたけど、やはりそういう方は、税金の前に「会社にいくらお金を残すか」に頭が行くわけです。
 ある若いお客様で、最初は少し頼りない印象で心配していたのですが、起業したら見事に事業を軌道に乗せた人がいます。見ていると、「この案件を受けたら、経費はこれくらいで、これだけ利益が出るな」というのを、毎回きちんと計算して仕事に取り組んでいるんですよ。やはり成功には理由があるのだと、私自身勉強になりました。
 逆に、それがぜんぜんイメージできない方もいます。そういうのは、ある程度センスの部分もあると感じますが、我々が「数字は大事ですよ」とアドバイスを続け、ご自身もいろんな経験を積むうちに、多くの人が必要な経営者感覚を身に着けていくわけです。

私も経営者の端くれですけれど、最初は決算書の読み方もわからないところからのスタートでしたから、今のお話はよくわかります。

もちろん、「今期はナンボ儲けるか」ばっかり考えていたら、それはそれで視野が狭くなってしまう。あるいは、数字の計算ばかりしていて行動が伴わなければ、やっぱり会社を成長させるのは難しいでしょう。お客様にも、私たちが経営計画の作り方をアドバイスすると、それはできるようになるのだけれど、なかなか動けないタイプの方もいらっしゃるんですよ。

黙っていても、向こうからチャンスがやってくるわけではありません。動けば、失敗もあるかもしれないけれど、何かの反応は得られますからね。

成功する社長さんは、自ら積極的に営業に回って仕事を取ってくる行動力に長けているという点でも、共通します。まずは行動することです。その際、エネルギーになるのは、以前もお話しした起業に対する夢、熱い思いでしょう。常に「自分は何のために起業したのか」という原点に立ち返って考えてみることが大事でしょうね。
 同時に、「思い」だけで走っていても、長続きは難しいことも理解しましょう。事業を伸ばしたいと思ったら、それにプラスして売り上げ、利益を意識すること。数字は苦手だからと人任せにするのではなく、それが経営に不可欠な要素であることを認識し、身に着ける努力を心掛けてほしいのです。

起業の夢をエネルギーにした行動力、それに自らがしっかり「計算」する習慣が伴えば、“鬼に金棒”というわけですね。
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