パート主婦に立ちはだかる税と社会保険の
「2つの壁」とは? 増税よりも、
夫の手当が減るのが痛い「103万円の壁」

パート主婦に立ちはだかる税と社会保険の  「2つの壁」とは? 増税よりも、  夫の手当が減るのが痛い「103万円の壁」

2015/9/29

 
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このコーナーでは、税金に関する基本的な知識や新しい動き、気になる話などについて専門家の先生方にわかりやすく解説していただきます。今回のテーマは、パート主婦がとくに気になる所得税の「103万円の壁」と社会保険の「130万円の壁」について。安倍政権は現在、この2つの壁を取り払おうとしているようですが、どんな狙いがあって、実現するとわたしたちの家計はどうなるのでしょうか? 先生、詳しく教えて!

【今回の専門家は…】税理士・行政書士  浅野和治先生(浅野税務会計事務所)


パートで働く主婦の方々にとって、「103万円の壁」という言葉はあまりにも有名です。パートの年収が103万円以上になると、支払う税金が増えて逆に損をするので、あえて103万円以下に収まるように仕事をセーブしている方が多いですよね。

わたしの知り合いに健康飲料の販売員をしている主婦がいるのですが、「一生懸命セールスして年収が上がったのはよかったけど、夫婦で支払う税金や社会保険料の金額がそれ以上に大きく増えて、手取りが以前の半分近くに減ってしまった」と嘆いていました。この主婦の場合、年収が103万円を超えて納税額が増えただけでなく、ご主人が加入する社会保険の「扶養者」としてみなされるかどうかのボーダーラインである「130万円の壁」も超えてしまったことで、一気に負担が跳ね上がったようです。
国が決めた制度に従うのはやむを得ないこととはいえ、せっかく頑張ったのに、むしろ手取りが減ってしまうというのは何ともやるせないですよね。
そう考えると、「103万円の壁」「130万円の壁」を超えないように働こうとするパート主婦の方々の気持ちも、わからないではありません。

実際の仕組みがよくわからない人もいるはずですので、「103万円の壁」「130万円の壁」とはどういうものなのか、詳しく教えていただけますか?

最初に整理しておきたいのは、「103万円の壁」は所得税にかかわるボーダーライン、「130万円の壁」は社会保険にかかわるボーダーラインだということです。
まず「103万円の壁」ですが、これは所得税の基礎控除(38万円)と給与所得控除(65万円)を合計した金額です。年間収入がこの金額以下であれば、全額控除されることになるので税金は一切かかりません。しかもこの金額を下回れば、実際にはパート収入を得ていても「配偶者(妻)は稼いでいないに等しい」とみなされるので、ご主人の所得から配偶者控除(38万円)を差し引くことができます。つまり、妻と夫のダブルで節税ができるわけです。

なるほど。つまり見方を変えると、パート主婦の年収が103万円を超えてしまったら、夫婦ダブルで納税負担が増えるわけですね。

その通りです。パート主婦の年収が「103万円の壁」を超えると所得税を支払わなければならなくなり、夫の給与から差し引かれる配偶者控除もなくなってしまいます。
ただし、配偶者控除がなくなっても、妻の年収が141万円までなら、配偶者特別控除というものが夫の年収から段階的に差し引かれます。だから、103万円を超えても、夫の払う税金が急激に増えるというわけではないんですよ。

具体的には、どれくらいの負担増になるんですか?

それをシミュレーションしたのが下の表です。
夫の年収が多くなればなるほど増税額も増えるのですが、仮に夫の年収が600万円だとした場合、パート主婦の年収が108万円であれば夫の所得税・住民税の増税額は4084円、123万円だと4万6714円、133万円では7万7134円、141万円で11万596円となります。
この程度の増税額であれば、「103万円の壁」を気にすることなく、むしろ奥さんが頑張って稼いだほうがおトクと言えるかもしれませんね。

と言いますと?

シミュレーションを見てもわかるように、ご主人の税金は増えるけれど、奥さんの年収もそれを上回るほど増えるからです。
たとえば、奥さんの年収が103万円から141万円に増えれば、基礎控除と給与所得控除(103万円)を差し引いた所得は38万円になりますよね。これに対する所得税はせいぜい2万円前後ですし、ご主人の増税額も11万9000円ですから、差し引き24万円ぐらいは手取りが残る計算になります。
38万円を時給1500円で割ると約250時間の労働ですから、年間250日勤務として1日1時間ぐらい余計に働けば、月々2万円前後の手取りが増えるわけです。そう考えると、「103万円の壁」に縛られるのはもったいないと思えるんじゃありませんか?

たしかにそうですね。

でも、これはあくまで所得税だけの話。じつは「103万円の壁」の問題がややこしいのは、ご主人が会社から支給される手当の額にも大きく影響するからなんですよ。

あ、それは聞いたことがあります。配偶者手当がなくなるんですよね。

そうです。ご承知のように、日本の企業のほとんどは家族手当制度を設けており、その中でも配偶者手当を支給している企業は9割以上に上ります。そして大半の企業が、配偶者手当の支給基準として「配偶者の年収が103万円以下」という「壁」を設けているのです。おそらくこれは、税制が「103万円以下の年収であれば、稼いでいないに等しい」とみなしていることに影響を受けたものでしょう。
いずれにしても、妻(配偶者)の年収が103万円を超えてしまうと、配偶者手当はもらえなくなり、ご主人の手取りが減ってしまいます。具体的な減額幅は企業によって異なりますが、たとえばトヨタ自動車の配偶者手当は月2万円ですから、年間では24万円も減ってしまうことになります。

それはかなり痛いですね。

しかし、いずれは配偶者手当という制度そのものがなくなる時代がやってくるかもしれません。実際、トヨタ自動車は現在、配偶者手当をなくす方向で労働組合と交渉を行っているんです。これは、安倍政権が成長戦略のひとつとして「女性の活躍推進」に取り組んでいることに呼応した動きと言えます。
安倍政権は、女性が「103万円の壁」を超えないように仕事をセーブしている状況を変えるため、配偶者控除の見直しなどの検討を進めていますが、企業側もこれを後押しするような動きを見せ始めているのです。

でも「103万円の壁」がなくなったからと言って、すべての女性が「これからはバリバリ働こう」と考えるとは思えませんし、逆に「どんなに頑張っても、たっぷり税金で持っていかれるのだから……」と主婦の就労意欲がしぼんでしまう可能性だってありますよね。

いったいどうなるのか、先が読みにくい問題ですが、少なくとも実質的な増税や手当の見直しによって、家計が厳しくなることは間違いなさそうですね。

健康保険と年金の 支払いで手取りが大きく減る「130万円の壁」

パート主婦に立ちはだかる税と社会保険の  「2つの壁」とは? 増税よりも、  夫の手当が減るのが痛い「103万円の壁」

「103万円の壁」が所得税を払う、払わないのボーダーラインであることはよくわかりました。次に「130万円の壁」ですが、これは社会保険にかかわるボーダーラインだというお話でしたね。

そうです。通常、パートで働く主婦の方は、ご主人が会社で加入している社会保険の「扶養者」として国民健康保険や国民年金の加入が免除されているのですが、パートの年収が130万円を超えると、これらに加入しなければならなくなります。
じつはこの「130万円の壁」のほうが、所得税の「103万円の壁」よりも手取りが大幅に減る原因となりやすいんですよ。

実際、いくらぐらい変わるものなのですか?

それをシミュレーションしたのが下の表です。夫の年収が600万円(所得税率40%)、妻は40歳以上で、介護保険の対象者であるという前提で計算してみました。国民健康保険の保険料は市区町村によって異なるので、ここでは東京都目黒区の保険料をもとに計算しています。また、国民年金は付加保険料を除いています。
このシミュレーションを見ると、「130万円の壁」を超えると超えないとでは、手取り収入に大きな違いがあることがよくわかります。

たとえば、妻のパート年収が「壁」の上限である130万円の場合、パート収入にかかる所得税・住民税などを差し引いた夫婦の手取り(可処分所得)は年間125万4300円です。
ところが、パート収入が150万円になると、妻が国民健康保険と国民年金を支払うことで、夫婦の手取りは年間117万2600円に減ってしまいます。つまり、奥さんは20万円分も多く働いたのに、逆に手取りは8万円以上も少なくなってしまうのです。
ちなみに、妻が国民健康保険と国民年金を払うと、夫の所得から社会保険料控除が差し引かれますが、それでも手取りは大きく減ってしまいます。


それは、あまりにもやるせないですね。パート収入が「130万円の壁」を超えないようにしようと、奥さんたちが涙ぐましく労働時間を調整するのもよくわかります。

ちなみにこのシミュレーションを見ると、妻が国民健康保険と国民年金を払っても、夫婦の手取りが125万円を超えるようにするためには、妻のパート収入が161万円を超えなければならないことがわかります。つまり、31万円分余計に働いて、ようやく130万円までしか働かなかったときの手取りと同じレベルに戻るわけです。仮に日給8000円だとすると、約39日分も余計に働かなければ元が取れないのですから、パート収入を130万円以内で収めたくなるのも、当然と言えば当然だと思います。

ところで、「103万円の壁」の原因である所得税の配偶者控除は、「女性の活躍」を促進するため政府が見直しを検討しているとのことでしたが、「130万円の壁」についても、同じように見直しが図られるのでしょうか?

その可能性は否定できません。「130万円の壁」のせいで、「あまり長い時間は働きたくない」と考えている女性が多い実情は、「女性の活躍」を成長戦略の大きな柱のひとつに掲げている政府にとって由々しき問題ですからね。もちろん、「壁」を取り払うことによって国民健康保険や国民年金の支払いが増えれば、毎年約1兆円ずつ増え続けている国の社会保障負担を多少なりとも軽減できるという皮算用もあるのでしょう。
ただし、「103万円の壁」とともに「130万円の壁」も取り払うとなると、所得税と社会保険という仕組み異なる制度を同時に変えていかなければなりませんから、そう簡単ではありません。どのように進めていくのか、今後の政府の動きに注目したいところです。

「130万円の壁」が取り払われるということは、つまり、パート年収が130万円に満たなくても、奥さんが国民健康保険と国民年金に加入しなければならなくなるということですよね。

場合によっては、パート労働者も一般の従業員と同じように、会社の社会保険に強制加入させられるようになるかもしれません。そうなると手取りが大きく減ってしまうので、パートに出ることすら嫌がる主婦の方が出てくる恐れもあります。また、企業側の社会保険負担も重くなるので、経営が苦しくなる会社が増えるかもしれませんね。

学生などのアルバイト労働者は、どうなるのでしょう?

学生も主婦と同じように、社会保険の「扶養者」で年収が130万円以下なら、国民健康保険や国民年金に加入する必要はありません。
しかし、実際にはアルバイトの収入が130万円を超えてしまっているようなケースも少なくないようです。いままでは社会保険事務所が「大目に見てくれていた」ところもありますが、来年からマイナンバー制が実施されると、雇い主は必ず学生のマイナンバーを取得しなければならなくなるので、社会保険への加入も免れることはできなくなりそうですね。
しかも、マイナンバーで紐づけられた情報は、親の勤め先にも届くので、子どもが「扶養者」から外されて家族手当などが減額されてしまう可能性もあります。

つまり、子どもが小遣い稼ぎなどのためにアルバイトに精を出した結果、家計に悪影響が及ぶことも考えられるわけですね。

妻のパート収入は把握していても、子どもがアルバイトでいくら稼いでいるのかまで知っている人は少ないはずです。マイナンバー制が実施される前に、わが家全体の総収入をしっかり把握しておいたほうがいいかもしれませんね。
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