不動産の相続税上の評価を、最大8割減らすことができる「小規模宅地の特例」。有効な相続税対策として、必ず語られるのがこれで、主な資産が親の家といった場合には、大きな威力を発揮します。ネックは、特例を受けるための要件が極めて複雑なこと。半面、「えっ、それもアリなの」というケースも存在するようです。税理士の久野豊美先生に聞きました。
「小規模宅地の特例」には、こんな使い方も
2015/1/28
◆厳格な要件を「利用」して、ハードルをクリア
小規模宅地の特例は、被相続人から取得した、相続人の生活基盤となる宅地に対して、あまり重い相続税がかからないように、と考えられた制度です。例えば、相続人が親と同居していた場合や、同居はしていないけれど、3年間、賃貸住まいなどで自宅を持っていないという場合などに適用されます。後者を「家なき子」と言うのですが、それに関してこんな事例があったので、紹介しましょう。父親が亡くなる数日前に、マンションを購入した人がいました。契約も済ませてしまった。自宅があるので、一見、「小規模」の要件から外れるように思えますが、このケースは「セーフ」でした。契約したものの、部屋はリフォーム中で、まだ住める状況にはありませんでした。要件は、あくまでも自宅に「居住」となっているのです。
ただし、注意しなければならないのは、申告期限である、被相続人が亡くなってから10カ月の間に売却すると、「アウト」になってしまうこと。ですから、売却する場合は物件の引き渡しはそれ以降にするよう、アドバイスしました。
この方の場合はさらにオチがついて、3ヵ月後に父が住んでいた家を売却する契約をしてしまいました。そこで家の引き渡しは申告期限以降にするようアドバイスをしました。これも「セーフ」です。 実は、この小規模宅地の特例の要件は、非常に複雑かつ厳格です。正直、われわれ専門家でも、頭を悩ませるほど。しかし、厳格なだけに、その条件さえ満たせば「ちょっと無理でしょう」というのが、堂々とOKになるケースもあるのです。法律も使いよう、なんですね。
◆「空き家対策」にもなる
今のようなケースはこれから増えていくと思うし、むしろ奨励すべきだと私は思っています。 親元を離れている子どもが、親が死んだからといって、その家に戻るというのは、レアケースでしょう。そこは空き家になってしまうのです。今、日本で一番多い空き家は、「入居者がいない」家ではなく、こうした「相続によって発生した」物件なのをご存知でしょうか? 更地にすれば、固定資産税は6倍になりますから、そのまま放置することになります。そうやって「幽霊屋敷」が増加するのは、社会政策上も好ましい状況ではないはず。
ともあれ、相続が発生しそうだったら、家を買うのは我慢して「家なき子」になっておくのがいいでしょう。相続になったら堂々と買い、親の家は売却することを考えるべきだと思います。
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