相続税はいくらから?遺産3,600万円超からとなる基礎控除の計算と課税判定
相続税は基礎控除「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を超える遺産にのみ課税されます。最低ラインは法定相続人1人の場合で3,600万円、配偶者と子2人なら4,800万円です。令和5年分の実績では相続全体の約9割が非課税ですが、都市部の不動産や高額な生命保険金で基礎控除を超えるケースは意外と多いため注意が必要です。
相続税がかかるのは遺産がいくら以上?
相続税がかかるかどうかの基準となるのが「基礎控除」という制度です。この基礎控除の金額を超える遺産がある場合に初めて相続税が課されることになります。基礎控除額は次の計算式で求められます。
例えば、配偶者と子ども2人の合計3人が相続人である場合、基礎控除額は「3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円」となります。つまり、遺産の総額が4800万円を超えると相続税がかかる可能性が出てくるのです。
最も少ないケースでは、法定相続人が配偶者1人だけの場合で「3,000万円 + 600万円 × 1人 = 3,600万円」となり、これが相続税課税の最低ラインとなります。
相続税がかかる人は1割以下?
令和5年分の実績では、相続全体の約9割が申告・納付不要です。国税庁が公表した「令和5年分 相続税の申告事績」によると、同年の死亡者(相続開始件数)は1,576,016人、そのうち相続税の申告件数は155,740件で全体の9.9%、実際に税額が発生した課税件数は116,085件(7.4%)にとどまります。
前年(令和4年)も死亡者約1,569,050人に対し申告件数150,858件で申告割合は9.6%とほぼ同水準です。数字だけを見ると「わが家は関係ないかも」と感じるかもしれませんが、都市部の不動産や高額な生命保険金などで基礎控除を超えるケースは意外と多いため油断は禁物です。
非課税であっても安心しきってはいけない理由
見落としがちな財産で基礎控除を超えてしまうケースがあります。「うちは財産が少ないから」と思っていても、以下のような財産は評価額が意外と高くなりがちです。
- 死亡保険金(被相続人が契約者で、相続人が受取人の場合)
- 土地や建物などの不動産(市場価格より相続税評価額が高いことも)
- 名義預金(被相続人以外名義でも、管理や運用を被相続人が行っていた預貯金や有価証券)
- 死亡退職金
- 骨董品や美術品などの価値あるもの
特に都市部の不動産所有者や高額な死亡保険に加入していた方の相続では、思いのほか遺産総額が大きくなることがあります。まずは大まかでも遺産総額を確認してください。
基礎控除の計算方法と法定相続人の数え方
基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算し、この金額以下なら申告不要です。ただし法定相続人の数え方には注意点があります。相続放棄した人も人数に含める、養子は実子がいる場合1人まで(いない場合2人まで)、代襲相続人は実際の人数でカウントするなどの特別ルールがあります。また配偶者控除や小規模宅地等の特例を使う場合は、税額ゼロでも申告が必要です。
基礎控除の計算式と金額早見表
基礎控除額の計算式は以下のとおりです。
法定相続人の人数別に見た基礎控除額の早見表は次のようになります。
| 法定相続人の数 | 基礎控除額 |
|---|---|
| 1人 | 3,600万円 |
| 2人 | 4,200万円 |
| 3人 | 4,800万円 |
| 4人 | 5,400万円 |
| 5人 | 6,000万円 |
例えば配偶者と子ども3人の合計4人が法定相続人であれば、基礎控除額は5,400万円です。遺産総額がこの金額以下であれば相続税はかかりません。
法定相続人の数え方に注意!
法定相続人の数え方には3つの注意点があります。
【注意点1】相続放棄した人も法定相続人として数えます。相続を放棄した方でも、基礎控除を計算する際の法定相続人の数には含まれます。
【注意点2】養子には人数制限があります。相続税の計算上、養子の数は実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までと制限されています(相続税法第15条)。この制限を超える養子は、基礎控除の計算に含めることができません。
【注意点3】代襲相続人は実際の人数でカウントします。子が先に亡くなっている場合、その子の子(孫)が代襲相続人となり、実際の人数に応じてカウントされます。例えば被相続人の子が2人いたが1人が先に亡くなり、その子に子ども(被相続人から見れば孫)が2人いる場合、法定相続人は子1人+孫2人で合計3人です。
法定相続人の数え方は複雑なケースもあるため、相続が発生した際は専門家に相談してください。
基礎控除以下なら申告も不要
遺産総額が基礎控除額以下であれば、原則として相続税の申告は不要です。ただし配偶者控除や小規模宅地等の特例を適用して税額がゼロになる場合は、申告が必要になります。
申告が必要になるのは以下の2つのケースです。
- 特例適用により税額がゼロになる場合(配偶者控除、小規模宅地等の特例など)
- 相続財産に未分割の財産がある場合
「基礎控除以下だから」と安易に申告不要と判断せず、特例を使う可能性がある場合は専門家に相談してください。
なお相続時精算課税制度を利用していた場合でも、その贈与財産を含めた相続財産の合計額が基礎控除以下であれば申告は不要です。2024年の税制改正で年間110万円までの基礎控除が新設されましたが、これは贈与税に関する控除であり、相続税の申告要否には影響しません。

- 記事監修者からのワンポイントアドバイス
-
相続財産の棚卸をなるべく正確に行うことが必要です。預金や不動産といったものはまず思い浮かぶ財産ですが、相続財産の範囲は広いです。
被相続人以外の名義だが被相続人が管理し、実態として被相続人の通帳であることと変わらないような預金(名義預金)、相続時精算課税をつかって贈与を行ったことがあるのであれば、その贈与した財産額、亡くなる直前に引出した現金など、注意しなければいけない相続財産は数多くあります。
また、不動産の中でも、建物の評価というのは固定資産税評価証明書の金額とほぼ変わらないのが通常ですが、土地については路線価評価なのか、倍率評価なのか、市街化区域にある農地なのか、そうでない場所の農地なのか、宅地か、駐車場かなどで、固定資産税評価証明書の金額と大きく乖離することがあります。計算してみて基礎控除額ギリギリだったり、不動産が多いという場合は、専門家に早期に相談することを推奨します。 - 澤村明浩税理士事務所
代表 澤村 明浩
基礎控除を超えた場合の相続税計算の流れ
相続税は「課税遺産総額を法定相続分で按分→税率適用→実際の取得割合で再按分→各種控除」という4ステップで計算します。税率は10%〜55%の超過累進課税方式で、法定相続分に応じた取得金額が大きいほど税率が上がります。例えば遺産総額8,000万円(法定相続人3人)の場合、課税遺産総額3,200万円に対して相続税の総額は350万円となり、これを実際の取得割合で按分した後、配偶者控除などの各種控除を適用して最終的な納税額が決まります。
ステップ1:課税遺産総額を計算する
遺産総額から基礎控除額を差し引いた金額が課税遺産総額です。この金額に対して相続税が課されることになります。
例えば遺産総額が8,000万円で、法定相続人が配偶者と子ども2人(計3人)の場合、基礎控除額は4,800万円です。よって課税遺産総額は「8,000万円 - 4,800万円 = 3,200万円」となります。
ステップ2:法定相続分で按分して各人の税額を計算する
課税遺産総額をいったん法定相続分で按分し、その金額に税率を適用します。これは実際の遺産分割とは関係なく、あくまで税額計算のための手順です。
上記の例(課税遺産総額3,200万円)の場合、法定相続分で按分すると以下のようになります。
- 配偶者の法定相続分:1/2 → 3,200万円 × 1/2 = 1,600万円
- 子ども2人の法定相続分:各1/4 → 3,200万円 × 1/4 = 800万円(1人あたり)
この金額に相続税率を適用します。相続税は超過累進課税方式を採用しており、金額が大きいほど税率が上がります。現在の税率は以下のとおりです。
| 法定相続分に応じた取得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000万円以下 | 10% | - |
| 3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
| 5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
| 1億円以下 | 30% | 700万円 |
| 2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
| 3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
| 6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
| 6億円超 | 55% | 7,200万円 |
上記の例で各人の税額を計算すると以下のようになります。
- 配偶者(1,600万円):1,600万円 × 15% - 50万円 = 190万円
- 子1人(800万円):800万円 × 10% = 80万円
- 子2人分の合計:80万円 × 2人 = 160万円
- 相続税の総額:190万円 + 160万円 = 350万円
【計算例1】取得金額が4,000万円の場合
4,000万円 × 20% - 200万円 = 600万円
【計算例2】取得金額が8,000万円の場合
8,000万円 × 30% - 700万円 = 1,700万円
ステップ3:実際の取得割合で按分する
ステップ2で計算した「相続税の総額」を、各相続人が実際に取得した財産の割合に応じて按分します。例えば相続税の総額が350万円で、配偶者が60%、子どもが各20%ずつ取得した場合、配偶者の税額は210万円、子どもは各70万円となります。
ステップ4:各種控除を適用して最終的な納税額が決まる
按分後の税額から各種控除を差し引いて、最終的な納税額が確定します。主な控除には以下のようなものがあります。
- 配偶者控除(1億6,000万円または法定相続分まで非課税)
- 未成年者控除(20歳まで1年につき10万円)
- 障害者控除(85歳まで1年につき10万円、特別障害者は20万円)
- 相次相続控除(10年以内に続けて相続が発生した場合)
配偶者控除を適用すると多くのケースで配偶者の納税額はゼロになります。また納付方法は一括納付が原則ですが、条件を満たせば延納(分割払い)や物納(現物納付)も可能です。高額な相続税が発生する場合は、納税資金の準備方法も含めて専門家に相談してください。
税額をゼロにできる3大特例──配偶者控除・小規模宅地・生命保険
基礎控除を超える遺産があっても、配偶者控除(1億6,000万円まで)、小規模宅地等の特例(評価額最大80%減)、生命保険の非課税枠(500万円×法定相続人数)の3つを活用すれば、相続税額をゼロまたは大幅に減額できます。ただしこれらの特例は申告しなければ適用されないため、基礎控除を超える場合は必ず申告が必要です。特に小規模宅地等の特例は適用要件が複雑なので、専門家への相談を推奨します。
配偶者控除は1億6,000万円または法定相続分まで非課税
配偶者が相続する場合、1億6,000万円または法定相続分のいずれか多い方の金額まで相続税はかかりません。これは相続税対策として最も効果的な特例の一つです。
【具体例1】遺産総額2億円、相続人は配偶者と子1人の場合
配偶者の法定相続分は1億円です。この場合、配偶者が1億円を相続しても全額非課税となります(1億円 < 1億6,000万円)。
【具体例2】遺産総額4億円、相続人は配偶者と子1人の場合
配偶者の法定相続分は2億円ですが、1億6,000万円までしか非課税になりません。残りの4,000万円には相続税がかかります。
配偶者控除を適用するには相続税の申告が必須です。申告しなければ特例は受けられないため注意してください。
小規模宅地等の特例で土地評価額が最大80%減額
被相続人の自宅や事業用の土地は、小規模宅地等の特例により評価額を最大80%減額できます。これにより数千万円単位の節税効果が期待できます。
特例の適用限度面積と減額率は以下のとおりです。
- 居住用宅地:330㎡まで80%減額
- 事業用宅地:400㎡まで80%減額
- 特定同族会社事業用宅地:400㎡まで80%減額
- 貸付事業用宅地:200㎡まで50%減額
【計算例】相続した自宅の土地(居住用宅地300㎡)の評価額が5,000万円の場合
特例適用後の評価額:5,000万円 × (1 - 0.8) = 1,000万円
評価減の効果:4,000万円
この特例を適用するには、配偶者や同居親族などの要件を満たす必要があります。詳細な要件は国税庁のサイトで確認してください。
小規模宅地等の特例も申告が必須です。適用要件が複雑なため、専門家に相談してください。
生命保険金・死亡退職金にも非課税枠がある
生命保険金と死亡退職金には、それぞれ「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があります。この非課税枠を活用すれば、相続税の負担を軽減できます。
【計算例】法定相続人が3人の場合
非課税枠:500万円 × 3人 = 1,500万円
生命保険金が2,000万円なら、1,500万円まで非課税、残り500万円が課税対象となります。
この非課税枠が適用されるのは、被相続人が契約者で相続人が受取人となっている生命保険に限ります。死亡退職金も同様の非課税枠があり、相続税対策として有効です。

- 記事監修者からのワンポイントアドバイス
-
上記で書かれている通り、配偶者の税額軽減と小規模宅地の特例は代表的な税額を減らす方法です。
また、今回の記事では取り扱ってはいませんが、相続財産の合計額から引くことができるものが上記の特例以外にいくつかあります。一つは負債の額を控除することができます。負債というのは被相続人がもっていた負の遺産です。借金や、事業をやっている方であれば買掛金、未払金など、資産とは逆に、お金を払わなければいけない義務の額を財産から控除して課税遺産総額を計算することになります。
もう一つは葬儀にかかった費用です。本来的に葬儀費用は被相続人固有の負債ではありませんが、相続と同様、人の死を原因として行われるものであることから、控除することが認められています。この葬儀費用には、葬儀会社に払った費用だけでなく、お坊さんに払ったお布施も含めることができます。お布施は領収書が出ないことが常なので、お坊さんに払ったお布施の金額についてはどこかにメモしておくことをお勧めします。 - 澤村明浩税理士事務所
代表 澤村 明浩
2024年税制改正で変わった生前贈与と相続税の新ルール
2024年の税制改正により、相続時精算課税制度に年間110万円の基礎控除が新設され、暦年課税の持ち戻し期間が3年から段階的に7年へ延長されました。相続時精算課税制度は少額贈与でも申告が必須でしたが、年間110万円以下なら申告不要になり使いやすくなりました。一方、暦年課税は持ち戻し期間が延長されたため、相続直前の駆け込み贈与の効果が薄れています。両制度とも年間110万円の基礎控除が使えるようになったため、状況に応じた使い分けが重要です。
相続時精算課税制度に年間110万円の基礎控除が新設
2024年の改正で、相続時精算課税制度に年間110万円の基礎控除が新設され、この範囲内なら贈与税が非課税かつ申告不要になりました。これまで少額でも必ず申告が必要だった点が大幅に改善され、使い勝手が向上しています。
相続時精算課税制度とは、60歳以上の親や祖父母から18歳以上の子や孫への贈与について、贈与時に贈与税を支払わず、将来親が亡くなった際に相続財産に合算して相続税を計算する制度です。累計2,500万円までの贈与が非課税で、それを超える部分には一律20%の贈与税がかかります。
【改正のポイント】
- 年間110万円以下の贈与:贈与税非課税、申告不要、相続時に加算されない
- 年間110万円超の贈与:従来通り申告が必要、相続時に加算される
例えば毎年100万円ずつ10年間贈与した場合、合計1,000万円が非課税かつ申告不要、相続時にも加算されません。相続時精算課税制度を選択していても、年間110万円以下なら実質的に暦年課税と同じメリットが得られるようになりました。
暦年課税の持ち戻し期間が3年から7年へ段階的に延長
暦年課税(通常の贈与税の課税方式)では、持ち戻し期間が死亡前3年以内から段階的に7年以内へ延長されます。これにより相続直前の駆け込み贈与の効果が薄れ、より長期的な計画が必要になりました。
持ち戻し期間の変更スケジュールは以下のとおりです。
| 期間 | 持ち戻し対象 | 備考 |
|---|---|---|
| ~2023年 | 死亡前3年以内の贈与 | 従来のルール |
| 2024年 | 死亡前4年以内の贈与 | 4年目の贈与には控除100万円あり |
| 2025年 | 死亡前5年以内の贈与 | 4〜5年目の贈与には控除100万円あり |
| 2026年 | 死亡前6年以内の贈与 | 4〜6年目の贈与には控除100万円あり |
| 2027年~ | 死亡前7年以内の贈与 | 4〜7年目の贈与には控除100万円あり |
ただし4〜7年目の贈与については、合計100万円までの控除があります。例えば死亡前5年間に毎年110万円ずつ贈与していた場合、4〜5年目の贈与220万円から100万円を控除した120万円のみが相続財産に加算されます。
2024年改正を踏まえた生前贈与の注意点
税制改正により、生前贈与の効果的な活用には長期的な計画が不可欠になりました。以下の4つの点に注意してください。
【注意点1】持ち戻し期間延長で相続直前の贈与効果が低下
従来は死亡前3年より前の贈与は相続税の対象外でしたが、2027年以降は7年以内の贈与が対象になります。相続直前の駆け込み贈与ではなく、早期からの計画的な贈与が重要です。
【注意点2】少額贈与なら4〜7年目の控除で影響は限定的
4〜7年目の贈与には合計100万円の控除があるため、年間110万円以下の少額贈与を続けている場合、実質的な影響は小さくなります。
【注意点3】両制度とも年間110万円の基礎控除が使える
相続時精算課税制度でも暦年課税制度でも、年間110万円の基礎控除が使えるようになりました。不動産など高額な資産を贈与する場合は相続時精算課税、現金を少しずつ贈与する場合は暦年課税など、状況に応じた使い分けが可能です。
【注意点4】贈与のタイミングと金額の再検討が必要
持ち戻し期間が延長されたことで、「いつ」「いくら」贈与するかの戦略が変わります。最新の税制に詳しい専門家に相談してください。
納税資金の確保方法4選と相続税額シミュレーション
相続税は現金納付が原則ですが、不動産が多く現金が少ない場合は、延納(分割払い)、物納(現物納付)、生命保険の活用、相続税対応ローンの4つの方法で納税資金を確保できます。延納は最長20年間の分割払いが可能ですが利子税と担保が必要、物納は延納でも困難な場合に限られます。生命保険は非課税枠(500万円×法定相続人数)があり、生前からの納税資金対策として有効です。相続税額は遺産総額や相続人構成で大きく変わるため、事前のシミュレーションが重要です。
納税資金の確保方法4選
【方法1】延納制度で最長20年の分割払い
相続税が10万円を超え、かつ金銭で納付することが困難な場合、申請により最長20年間の分割払い(延納)が認められます。ただし延納には利子税(年0.4%〜6.0%程度)がかかるほか、原則として担保の提供が必要です。担保は不動産、国債、社債などが認められます。
【方法2】物納制度で相続財産による納付
延納によっても金銭での納付が困難な場合、相続財産で納税する「物納」が認められることがあります。物納できる財産には順位があり、第1順位は国債・不動産・上場株式、第2順位は非上場株式、第3順位は動産です。申請には厳格な要件があり、管理処分不適格財産(借地権付き建物など)は物納できません。
【方法3】生命保険・死亡退職金で納税資金を準備
生命保険金と死亡退職金には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があり、相続税の納税資金対策として有効です。例えば法定相続人が3人の場合、1,500万円まで非課税で受け取れます。生前から計画的に生命保険に加入しておくことで、確実に現金を確保できます。
【方法4】金融機関の相続税対応ローン・リバースモーゲージ
多くの金融機関が相続税の納付に特化した融資商品を提供しています。不動産を担保に入れることで、比較的低金利(年2〜4%程度)で融資を受けられます。また高齢の相続人が自宅を所有している場合、リバースモーゲージ(自宅を担保に老後資金を借り入れ、死亡時に自宅の売却代金で返済する仕組み)を活用すれば、自宅に住み続けながら納税資金を確保できます。
ケース別シミュレーション:必要な納税資金はいくら?
相続税額は遺産総額、相続人の構成、特例の適用状況によって大きく変わります。以下は法定相続分で分けた場合の一般的なシミュレーションです。実際の相続では、遺言や遺産分割協議により法定相続分とは異なる割合で分けることも可能です。
| ケース | 遺産総額 | 相続人 | 相続税額 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| ケース1 | 4,000万円 | 配偶者・子1人 | 0円 | 基礎控除(4,200万円)以下 |
| ケース2 | 6,000万円 | 配偶者・子1人 | 90万円(納税者:子) | 配偶者が3,000万円相続 |
| ケース3 | 1億円 | 配偶者・子2人 | 315万円(子2人で分割) | 配偶者が5,000万円相続 |
| ケース4 | 2億円 | 配偶者・子2人 | 1,670万円(子2人で分割) | 配偶者が1億円相続 |
| ケース5 | 5億円 | 配偶者・子2人 | 9,180万円(子2人で分割) | 配偶者が2億5,000万円相続 |
ケース4やケース5のように遺産総額が大きい場合、納税資金の確保が重要になります。不動産が多く現金が少ない場合は、延納や相続税対応ローンの活用を検討してください。正確な納税額を知るには専門家に相談することを推奨します。
相続税の申告・納付の流れと期限
相続税の申告と納付は、被相続人が亡くなった日の翌日から10か月以内に行う必要があります。この期限を過ぎると延滞税や加算税などのペナルティが課されます。また配偶者控除や小規模宅地等の特例を適用する場合は、税額がゼロでも申告が必須です。相続財産の調査・評価には時間がかかるため、早めの準備が重要です。
申告期限は「死亡から10か月以内」厳守
相続税の申告と納付の期限は、被相続人が亡くなった日の翌日から10か月以内です。例えば2025年1月15日に亡くなった場合、申告期限は2025年11月15日となります。この期限を過ぎると、以下のペナルティが発生します。
- 延滞税:納付期限の翌日から納付日までの日数に応じて年7.3〜14.6%
- 無申告加算税:納付すべき税額の15〜20%(自主申告なら5〜15%に軽減)
- 過少申告加算税:追加で納付する税額の10〜15%
相続税の申告・納付の流れは以下の5ステップです。
- 相続財産の調査・評価(1〜3か月):不動産、預貯金、株式、保険金などすべての財産を洗い出し、相続税評価額を算定します
- 遺産分割協議(2〜6か月):相続人全員で遺産の分け方を協議し、遺産分割協議書を作成します
- 相続税の計算(6〜8か月):課税遺産総額を算出し、各相続人の納税額を計算します
- 申告書の作成・提出(8〜10か月):相続税申告書を作成し、被相続人の住所地を管轄する税務署に提出します
- 相続税の納付(10か月目):申告と同時に現金で納付します(延納・物納を希望する場合は別途申請)
特に相続財産の調査・評価には時間がかかります。不動産の評価、名義預金の確認、相続時精算課税制度の利用履歴など、見落としがちな財産も多いため、早めに専門家に相談してください。
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税額ゼロでも申告が必要なケースに注意
配偶者控除や小規模宅地等の特例を適用する場合は、税額がゼロであっても申告が必須です。これらの特例は申告によって初めて適用されるため、申告しなければ特例を受けられません。
申告が必要な主なケースは以下のとおりです。
- 配偶者控除を適用して税額がゼロになる場合
- 小規模宅地等の特例を適用して税額がゼロになる場合
- 相続時精算課税制度を利用した贈与がある場合(基礎控除以下でも申告必要)
申告義務があるにもかかわらず申告しなかった場合、税務調査で発覚すると本来納めるべき税額に加えて、無申告加算税(15〜20%)や延滞税(年7.3〜14.6%)が課されます。「基礎控除以下だから」と安易に判断せず、特例を使う可能性がある場合は必ず専門家に相談してください。
まとめ
相続税は基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人数)を超える遺産にのみ課税され、約9割の相続では申告不要です。ただし都市部の不動産や生命保険金で基礎控除を超えるケースは意外と多いため、まずは遺産総額の確認が重要です。基礎控除を超える場合でも、配偶者控除(1億6,000万円まで)、小規模宅地等の特例(評価額最大80%減)、生命保険の非課税枠(500万円×法定相続人数)を活用すれば、税額をゼロまたは大幅に減額できます。
2024年の税制改正により、生前贈与のルールも大きく変わりました。相続時精算課税制度に年間110万円の基礎控除が新設され、暦年課税の持ち戻し期間は3年から段階的に7年へ延長されます。相続税対策には長期的な計画が不可欠です。
相続税の申告・納付期限は死亡から10か月以内で、特例を適用する場合は税額ゼロでも申告が必須です。納税資金の確保が難しい場合は、延納、物納、相続税対応ローンなどの選択肢があります。
相続税は複雑な税金であり、素人判断では損をすることも少なくありません。「相続税がかかるのか知りたい」「税金を少しでも抑える方法は?」といった相続税に関する悩みや疑問は、相続財産センターにご相談ください。弊社は税理士紹介のパイオニアである株式会社ビスカスが運営しており、相続に強い税理士を無料でご紹介しています。相続税に精通した専門家が全国対応でサポートし、初回相談無料の税理士も多数ご紹介可能です。基礎控除を超える可能性がある方、特例の適用を検討している方、生前の相続税対策を考えている方は、専門家のサポートで適切な相続税対策と円滑な申告手続きを実現してください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 申告期限までに遺産分割が終わらなかった場合はどうなりますか?
相続税の申告期限(被相続人の死亡から10か月以内)までに遺産分割が終わらない場合、「未分割申告」として法定相続分で仮に申告・納税し、その後3年以内に分割が完了した時点で「更正の請求」を行うことができます。ただし小規模宅地等の特例など一部の特例は未分割申告では適用できないため注意が必要です。
Q2. 海外に財産がある場合も相続税の対象になりますか?
はい、原則として被相続人が日本国籍を持つ場合や日本に住所がある場合は、国内外を問わず全ての財産が相続税の対象となります。海外にある財産については、その国でも相続税等が課される場合があり二重課税となる可能性がありますが、外国税額控除の制度により調整されます。
Q3. 親から生前贈与を受けた財産も相続税の対象になりますか?
被相続人の死亡前一定期間内の生前贈与については、相続税の計算上、相続財産に加算されます。2024年の税制改正で、これまでの3年以内から段階的に7年以内へと延長されました。ただし4〜7年目の贈与については合計100万円までの控除があります。
Q4. マイホームを相続した場合、住み続けるためにどのような特例がありますか?
自宅として使用していた被相続人の住まいを相続する場合、「小規模宅地等の特例」を利用すると土地の評価額が最大80%減額されます。また相続した空き家を売却する場合の「3,000万円特別控除」など、状況に応じた特例が存在します。これらの特例を適用するには各種要件があるため、専門家に相談してください。
Q5. 兄弟姉妹だけで相続する場合、どのような点に注意すべきですか?
兄弟姉妹は法定相続人の中でも相続順位が低く、配偶者や子、親がいない場合にのみ相続権が発生します。また兄弟姉妹の場合、相続税の2割加算という制度により、計算された相続税額に20%が上乗せされます。さらに兄弟姉妹には相続時精算課税制度が適用できないなど、不利な点が多いため、生前の対策が重要です。
