相続税の税務調査で87.5%が申告漏れ、なぜこれほど危険なのか
相続税の税務調査を受けた場合、実に87.5%で申告漏れが指摘されています。平均追徴税額は約1,514万円。基礎控除の引き下げにより課税対象者が増加する中、専門知識なしでの申告は極めてリスクが高い状況です。
18件に1件が調査対象に、調査リスクが高まる背景
近年、相続税の税務調査は従来以上に注目を集めています。基礎控除額の引き下げにより、これまで相続税の対象とならなかった方々も課税対象となるケースが増加しています。
国税庁が公表している令和5事務年度のデータによると、相続税申告約155,740件のうち、実地調査件数は8,556件に上ります。つまり、約18件に1件、確率にして5.5%が税務調査の対象となっています。そして調査を受けた案件のうち、実に7,484件、87.5%で申告内容に誤りが見つかっているのです。
さらに、実地調査以外にも文書や来署依頼による「簡易な接触」が18,781件実施されており、そのうち8,135件(43.3%)で申告漏れ等が指摘されています。実地調査と簡易な接触を合わせると、年間27,337件、約6件に1件の割合で税務署からの接触がある計算になります。この数字は、相続税申告の複雑さと、専門的な知識なしでは適切な申告を行うことの難しさを如実に示しています。
平均1,514万円の追徴、調査を受けた場合の3つのデメリット
1. 高額な追徴課税
令和5事務年度の国税庁データでは、1件あたりの追徴税額が平均約1,514万円に上っています。この金額は家計に深刻な打撃を与えかねません。
2. 膨大な時間と労力
調査対応には資料の準備や税務署とのやり取りなど、膨大な時間と労力が必要となり、日常生活や事業運営に支障をきたすことも少なくありません。
3. 家族関係への影響
税務調査では家族間の資産管理の実態が詳しく確認されます。名義預金や生前贈与の扱いを巡って相続人同士の認識の違いが表面化し、新たな家族間トラブルのきっかけとなってしまうケースも珍しくありません。
このように、税務調査は単なる税金の問題を超えて、家族関係にまで影響を及ぼす可能性がある重要な問題です。申告時点での正確な財産評価と適切な申告手続きが、将来のリスクを防ぐ上で極めて重要となります。
税務調査が入りやすい7つのケースと対策
相続税の税務調査は、特定の条件や状況において実施される可能性が高まります。令和5事務年度のデータでは、申告漏れ課税価格の38.5%が現金・預貯金等、17.5%が有価証券となっており、これらの財産が重点的にチェックされています。以下、税務署が特に注目する7つのケースについて、具体的な対策とともに解説します。
1. 名義預金・名義株など、名義と実態が異なる資産
名義預金や名義株式は、税務調査でもっとも頻繁に指摘される項目の一つです。親の名義だが実際には子供が日常的に管理している預金口座や、家族名義で保有している株式・投資信託を別の家族が実質的に運用しているケースが典型例です。
税務署が重点的に確認するのは、通帳や印鑑の保管状況、預金の出し入れ履歴です。特に、預金の使用目的と実際の資金流れが一致しているかが詳しく調査されます。相続開始前から適切な名義管理と記録の保持が重要です。
2. 不動産の評価や申告内容に不自然な点がある
不動産の評価額については、極端な減額評価や実勢価格との大きな乖離が見られる案件に対して、重点的に調査が行われます。特に複数の不動産を一括で低く評価しているケースは、税務署の注目を集めやすくなっています。
調査では、路線価や固定資産税評価額との比較、必要に応じた現地調査、周辺の取引事例との比較検討が行われ、評価額の妥当性が詳細に検証されます。不動産評価は専門的な知識が必要な分野であり、適切な評価方法の選択が重要です。
3. 生前贈与・海外資産の申告漏れが疑われる
生前贈与と海外資産の申告漏れは、近年特に税務署が注目している分野です。長期にわたる大口の贈与を申告していないケース、留学資金等の名目で行われた資金移動の記録が不明確なケース、海外口座や海外不動産の未申告などが典型例として挙げられます。
特に注目すべきは、国際的な金融情報の共有体制が強化されている点です。税務署は海外送金の履歴を追跡する能力を高めており、国際的な情報交換の枠組みを活用して、従来は把握が困難だった海外資産も捕捉できるようになっています。
4. 親族間トラブルや"密告"が起きている
相続を巡る親族間のトラブルが、税務調査のきっかけとなるケースは少なくありません。遺産分割を巡る兄弟間の争いや親族間での意見の相違が税務署への情報提供につながることがあり、離婚した元配偶者など家族の内情を知る人物からの通報も調査のきっかけとなり得ます。
このようなケースが特に調査につながりやすい理由は、情報提供者が財産の詳細や資産の移動状況を具体的に把握していることにあります。内部事情を知る人物からの情報は、税務署にとって調査の精度を高める貴重な手がかりとなるため、より詳細な調査につながる可能性が高くなります。
5. 高額な美術品や骨董品など動産が多い
美術品や骨董品といった動産は、価値評価の難しさから税務調査の重要なターゲットとなっています。絵画、宝飾品、骨董品、貴金属などは市場価値の変動が大きく、保管場所の移動も容易なため、適切な評価と申告が特に重要です。
税務署は資産目録の有無や保管場所の確認を重点的に行います。さらに近年では、オークションサイトやアート市場での取引履歴を参照し、類似品の売買相場を詳細に調査することで、申告評価額の妥当性を検証しています。相続財産として申告する際は、専門家による適正な評価と取得時からの記録保持が重要です。
6. 仮想通貨・電子資産を含む新しい財産形態
仮想通貨やNFT(非代替性トークン)などの電子資産は、相続財産として注目を集めています。相続人がこれらの資産の存在自体を把握していないケース、相続財産として計上していない場合、ウォレット情報が不明なままとなっているケースなどが問題となります。
税務署は暗号資産取引所からの情報提供やブロックチェーン上の取引履歴を確認することで、これらの資産を追跡できます。デジタル記録は消えることがないため、申告漏れが後日発覚するリスクは極めて高くなっています。これらの新しい資産形態については、生前からの情報共有と記録管理が特に重要です。
7. 二次相続など複数世代にまたがる相続
複数世代にまたがる相続案件では、特有の注意が必要です。親が亡くなった後、短期間のうちに祖父母も亡くなるような場合、1回目の相続での申告内容に不備があると、2回目の相続時の調査で両方の問題が一括して指摘されるリスクがあります。
このような事態を避けるためには、二次相続や三次相続の可能性も視野に入れ、早い段階から専門家に相談し、適切な申告内容の確認と対策を講じることが重要です。二次相続以降の相続では、前回の相続時の資料や評価方法との整合性も重要な確認ポイントとなります。特に不動産や事業用資産など、評価額が大きく変動する可能性がある資産については、より慎重な対応が求められます。

- 記事監修者からのワンポイントアドバイス
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相続税申告約6件に1件は調査対象(簡易接触含む)となり、その内指摘事項が何もないというケースは稀だと言われています。注意すべき点はもちろん適正な申告ができているかになりますが、遺族でも把握できていない財産があり、知らずに申告漏れをしているケースも多々見受けられます。
不動産は登記簿などから存在を把握しやすい為、申告漏れとなる確率は低く、指摘があるとすれば特例適用可否を巡る「評価額」についてです。では申告漏れが多い財産は何かと言えば、名義預金や動産(現金・金・宝石など)。
特に名義預金については申告が必要という認識をもっていない方も多く注意が必要です。預金の名義人が誰かは問題ではなく実質で判定するという点にご注意ください。 - 徳永税理士事務所
所長 徳永 圭
相続税の税務調査の内容と対策
相続税の税務調査は、一定の手順に従って進められます。令和5事務年度のデータでは、調査対象となった案件の87.5%で申告内容に誤りが見つかっており、事前の準備と適切な対応が極めて重要です。調査の流れと各段階での対策を理解しておくことで、スムーズな調査完了につながります。
相続税の税務調査とは?
相続税の税務調査とは、税務署が相続税の申告内容が適正かどうかを確認するために行う調査です。申告書の内容に疑問点がある場合や、申告漏れが疑われる場合に実施されます。
調査には「実地調査」と「簡易な接触」の2種類があります。実地調査は調査官が自宅や事務所を訪問して行う本格的な調査で、簡易な接触は文書や来署依頼による比較的軽微な確認です。令和5事務年度では、実地調査が8,556件、簡易な接触が18,781件実施されており、合計で約6件に1件の割合で税務署からの接触がある状況です。
税務調査の内容
税務調査では、申告された財産の実態と申告内容が一致しているかが重点的に確認されます。
主な調査項目
- 預貯金・現金:通帳や印鑑の保管状況、過去の入出金履歴、名義預金の有無
- 有価証券:取引記録、名義株の有無、評価額の妥当性
- 不動産:評価額の妥当性、賃貸の実態、空き家の状況、路線価との整合性
- 生前贈与:贈与契約書の有無、資金移動の記録、贈与税の申告状況
- 動産:美術品・骨董品の保管状況、評価額の根拠
調査官が特に注目するのは、名義人と実際の資産管理者が異なっていないかという点です。令和5事務年度のデータでは、申告漏れ課税価格の38.5%が現金・預貯金等となっており、これらの財産が最も指摘を受けやすい項目です。
調査が入る時期
税務調査は相続税申告後、通常1年から2年以内に実施されることが多くなっています。これは、税務署が申告書の内容を精査し、必要な資料を収集するための期間です。
事前通知は、調査担当官から電話で連絡があり、調査日時や準備すべき書類について説明されます。通知から実際の調査まで、通常2週間から1ヶ月程度の準備期間が設けられます。
ただし、申告漏れが疑われる場合や、意図的な隠蔽が疑われる場合は、事前通知なしで調査が行われることもあります。また、相続税の法定申告期限は相続開始から10ヶ月以内ですが、税務署は申告期限から5年間は遡って調査を行うことができます。
税務調査への対策
税務調査をスムーズに進めるためには、事前の準備が重要です。
調査前の準備
- 預貯金通帳、有価証券の取引記録、不動産関連資料、生前贈与があった場合は贈与契約書など、必要書類を整理しておく
- 名義預金や生前贈与など、指摘を受けやすい項目について、資金の出所や使途を説明できる資料を用意する
- 不明な点があれば、事前に税理士に相談し、専門家の立ち会いを依頼する
調査当日の対応
- 質問には正直に答え、不明な点は「わからない」と正直に伝える
- 調査官の質問の意図を理解し、必要以上の情報は提供しない
- 税理士に立ち会ってもらい、専門的な質問には税理士に回答してもらう
調査後の対応
修正申告が必要となった場合、追徴税額に加えて過少申告加算税(10〜15%)や延滞税が発生します。令和5事務年度のデータでは、1件あたりの追徴税額は約1,514万円と高額になっており、適切な申告の重要性が分かります。
税務署の指摘内容に不服がある場合は、再調査請求や審査請求という手続きを取ることができます。ただし、これらの手続きには期限があり、専門的な知識も必要となるため、速やかに税理士などの専門家に相談することが賢明です。
税理士など専門家を活用するメリットと選び方
相続税の税務調査に関して、適切な専門家のサポートを受けることは、リスク軽減の観点から極めて重要です。国税庁データによると、税務調査を受けた案件の87.5%で申告内容に誤りが見つかっており、専門家による事前チェックと適切な対応の必要性が浮き彫りになっています。
専門家ができるサポート
相続税の専門家、特に税理士は、税務調査の各段階で重要なサポートを提供できます。まず調査前の段階では、提出書類の内容チェックや財産評価の見直しを行い、潜在的な問題点の早期発見と対策を支援します。特に不動産評価や名義預金の取り扱いなど、税務署が重点的にチェックする項目については、専門的な知見に基づいた適切なアドバイスが得られます。
調査当日には、税理士が立ち会うことで、税務署とのスムーズなコミュニケーションが可能になります。専門的な質問に対する適切な回答や、必要に応じた交渉も、税理士が担当します。さらに、修正申告が必要になった場合や、税務署の判断に不服がある場合の手続きについても、専門家による代行サービスを受けることができます。
依頼先選びのポイント
税理士選びで最も重要なのは、相続税の実務経験が豊富かどうかという点です。税理士資格があっても、必ずしも全員が相続税の専門家というわけではありません。そのため、過去の相続税申告や税務調査対応の実績、特に自身の案件に関連する分野での経験を確認することが重要です。
具体的には、不動産の多い相続案件、事業承継が絡む案件、海外資産が含まれる案件など、案件の特性に応じた専門知識と経験を持つ税理士を選ぶことをお勧めします。また、相続財産センターのような専門機関を利用することで、全国4,200事務所以上の登録税理士の中から、自身のニーズに最も適した税理士を見つけることができます。
料金体系についても、事前に十分な確認が必要です。一般的に、着手金、作業報酬、成功報酬などの組み合わせで料金が設定されていますが、税理士によって料金体系は大きく異なります。また、継続的なサポートが必要な場合は、顧問契約の内容や料金についても確認しておくことが賢明です。
このように、専門家の選択は相続税申告の成否を左右する重要な判断となります。相続財産センターでは、豊富な実績と経験を持つ税理士を、お客様のニーズに合わせて無料でご紹介しています。相続税に関して不安や疑問があれば、早めの専門家相談がリスク回避につながります。

- 記事監修者からのワンポイントアドバイス
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相続税申告というと「自分ではできない」と思うかもしれません。
確かに相続税申告には専門的な知識が必要で、税理士の中でも得意・不得意が分かれる分野ではあります。
しかし、誰がやっても評価が同じ財産・債務しか保有していないなら話は変わります。被相続人が非上場株式・不動産を全く保有しておらず、評価が簡単な金融資産のみという場合は、残高証明書を銀行・証券会社から取得すれば相続税評価額が記載されており、ネットで調べながらの申告が可能かもしれません。
とはいえ、相続は一生のうちに何度も経験するものではなく、何が相続財産にあたるのか?申告漏れはないか?などいろいろ不安に駆られるものです。
そうなった場合は専門家を活用するのも一つの選択肢とお考え頂ければと思います。 - 徳永税理士事務所
所長 徳永 圭
よくある質問(FAQ)
相続税の税務調査に関して、多くの方が不安や疑問を抱えています。ここでは、よくいただく質問とその回答をまとめてご説明します。
Q:相続税の申告を税理士に任せていれば調査されない?
A:税理士に申告を依頼していても、調査対象となる可能性はあります。税務署は申告内容や財産状況を総合的に判断して調査対象を選定しており、税理士が関与しているかどうかは主要な判断基準とはなりません。ただし、税理士による専門的なチェックを受けることで、申告内容の正確性が高まり、結果として調査リスクを低減できることは事実です。
Q:申告漏れが少額なら見逃してもらえる?
A:金額の大小に関わらず、申告漏れは追徴課税の対象となり得ます。特に、その申告漏れが意図的なものと判断された場合や、複数の小さな申告漏れが積み重なって大きな金額となる場合は、重点的な調査対象となる可能性があります。令和5事務年度の国税庁データによれば、1件あたりの追徴税額は約1,514万円にも上っており、小さな申告漏れであっても適切な修正申告を行うことが重要です。
Q:調査時に家に保管してある現金・貴金属はどう扱われる?
A:調査時に発見された現金や貴金属は、正当な取得経緯や所有関係が明確に説明できない限り、申告漏れの相続財産とみなされる可能性が高くなります。令和5事務年度のデータでは、申告漏れ課税価格の38.5%が現金・預貯金等となっており、これらの資産は特に重点的にチェックされています。このような事態を避けるためには、相続開始前から家族間で資産の保管状況を把握し、現金や貴金属類については帳簿や関連書類を整理しておくことが重要です。
まとめ・今後の対策
相続税の税務調査は、誰にでも起こり得る可能性があるものです。令和5事務年度の国税庁データを見ると、相続税申告約155,740件のうち、実地調査が8,556件(約18件に1件)、簡易な接触を含めると27,337件(約6件に1件)で税務署からの接触があります。そして調査を受けた案件の87.5%で申告内容に誤りが指摘され、1件あたりの平均追徴税額は約1,514万円に上っています。
相続税申告は複雑なうえ、家族間の資産状況を詳細に把握しておかないと、思わぬ高額の追徴課税が課される恐れがあります。特に申告漏れ課税価格の38.5%を占める現金・預貯金等は重点的にチェックされており、名義預金の問題は最も頻繁に指摘される項目です。
ただし、調査が入りやすいケースを事前に把握し、適切な対策を講じることで、そのリスクを大きく低減することが可能です。特に重要なのは、名義預金や生前贈与、海外資産など、税務署が注目しやすい7つのケースを理解し、早期に適切な対応を行うことです。不明な点がある場合は、相続税に精通した税理士に相談し、専門家の視点からアドバイスを受けることをお勧めします。
安心して相続を完了させるためには、日頃からの備えが重要です。家族間でのこまめな情報共有や、資産関連書類の整理を習慣化することで、将来の税務調査にも適切に対応できる体制を整えることができます。また、調査通知を受けた際は、事前に必要書類を整理し、税理士に立ち会いを依頼することで、スムーズな調査完了につながります。
お客様の状況に応じた具体的なアドバイスが必要な場合は、相続財産センターにご相談ください。全国4,200事務所以上の登録税理士の中から、お客様のニーズに最適な税理士を無料でご紹介させていただきます。
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