相続税評価額とは?財産評価が重要な理由
相続税評価額とは、相続税を計算する際に使用する財産の価額のことで、一般的には市場価格(時価)となります。しかし、市場価格(時価)を求めることは容易ではないことから、迅速かつ適切な課税事務の処理を実現するために、国税庁が定める「財産評価基本通達」に基づいて相続税評価額を算出することが一般的です。
この評価額が重要な理由は複数あります。
- 相続税額の算定基準となるため、評価額が変われば税額も変わります
- 税務調査で評価額が過少と指摘されると、追徴課税やペナルティの対象となる可能性があります
- 逆に過大評価すると、本来必要以上の税金を納めることになってしまいます
- 遺産分割の際の基準値としても使用されるため、相続人間の公平性を保つためにも重要です
財産評価基本通達では、財産の種類ごとに異なる評価方法が定められており、それに従って評価を行わなければなりません。適切な評価を行わないと、後に税務署から指摘を受けるリスクが高まります。また、税務調査の結果、過少申告と判断された場合は、追加の税金に加えて過少申告加算税などのペナルティが課される可能性もあります。

- 記事監修者からのワンポイントアドバイス
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相続税の税務調査において、申告漏れが最も多いのは預貯金です。
相続人が把握していない口座の存在や、生前贈与した金銭を申告財産に含めていないケースが目立ちます。
中には、相続を予期した段階から親族の口座に資金を移し、相続時点では残高がないのだから財産計上しないといった誤解も見られます。
実際には名義預金や貸付金として争われ、裁判所や不服審判所で追徴課税となる事例も少なくありません。 - 鈴木洋輔税理士事務所
所長 鈴木 洋輔
そもそもどこまでが相続財産?対象・非対象のポイント
相続税を正確に計算するためには、まず被相続人がどのような財産を持っていたかを正確に把握することが大切です。相続財産とは、被相続人が所有していたプラスの財産(資産)とマイナスの財産(負債)の総体を指します。
プラスの財産には、現金・預貯金、不動産、有価証券、自動車、宝飾品などの資産が含まれます。一方、マイナスの財産には、住宅ローンなどの借入金、未払い税金、葬式費用などが含まれます。
相続財産として対象になりやすいものとして、以下が挙げられます。
- 土地・建物などの不動産
- 現金・預貯金
- 株式・投資信託などの有価証券
- 生命保険金(受取人が相続人の場合)
- 自動車や貴金属、美術品などの動産
一方、相続財産に含まれないものとしては、以下のようなものがあります。
- 祭祀財産:お墓、仏壇、位牌など、祖先の祭祀に関する財産
- 一身専属権:被相続人の一身に専属する権利
- 相続開始後に発生した家賃収入
- 生前贈与が完了している財産
相続財産の対象についてさらに詳しく知りたい方は、相続財産の対象になるもの・ならないものをご参照ください。
不動産・預貯金・株式など資産種類別の相続税評価方法まとめ
財産の種類 | 評価方法 | 評価基準 | 注意点 |
---|---|---|---|
土地 | 路線価方式・倍率方式 | 公示価格の約80% | 土地の形状や利用状況による補正あり |
建物 | 固定資産税評価額 | 再建築価格の約50~70% | 構造や経過年数により減価 |
上場株式 | 4つの価額から選択可 | 相続開始日の株価など | 相続直近の月平均額等から最も低い価額を選択可 |
預貯金 | 死亡日時点の残高 | 額面通り | 未収利息も含める |
生命保険金 | 受取金額 | 額面通り | 法定相続人1人あたり500万円まで非課税 |
自動車 | 時価 | 中古市場価格 | 年式や走行距離により評価減 |
非上場株式 | 複数の評価方法あり | 会社規模や業種により異なる | 専門家の評価が必須 |
一般的な相続財産の評価額の算出
相続税評価額を算出する一般的な流れは以下の通りです。
- 1. 被相続人の死亡日時点での財産の把握と財産目録の作成
- 2. 各財産の種類に応じた評価方法で個別に評価額を算定
- 3. プラスの財産(資産)の合計からマイナスの財産(債務・葬式費用等)を差し引く
- 4. 生前に贈与した財産の価額を加算する
- 5. 課税価格から基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人数)を差し引く
- 6. 各相続人の法定相続分に応じて税額を計算
特に重要なのは、評価の基準日が相続開始時(被相続人の死亡日)である点です。その時点での財産状況に基づいて評価を行う必要があります。
土地の評価方法
路線価方式:市街地など路線価が設定されている地域で用いられます。路線価に土地の面積を掛け、さらに各種補正率(奥行価格補正率、不整形地補正率など)を乗じて評価額を算出します。路線価は毎年7月に国税庁から公表され、公示価格の約80%程度の水準に設定されています。
倍率方式:路線価が設定されていない地域で用いられます。固定資産税評価額に一定の倍率を掛けて算出します。この倍率も国税庁から毎年公表されています。
土地の評価において特に注意すべき点は、土地の形状や利用状況に応じた各種補正です。例えば、間口が狭く奥行きが長い土地は「奥行価格補正」や「間口狭小補正」が適用され、評価額が減額されます。また、セットバックが必要な土地や高低差がある土地なども、それぞれ補正が適用されます。
建物の評価方法
自分が利用している建物の評価額は、固定資産税評価額をそのまま相続税評価額として用います。
また、貸家として貸している建物の評価額は、固定資産税評価額の70%が相続税評価額となります。
建物の構造(木造、鉄筋コンクリート造など)や経過年数によって評価額は異なりますが、これらの要素は既に固定資産税評価額に反映されているため、通常は固定資産税評価額をそのまま使用します。
固定資産税評価額は、市区町村から送付される固定資産税納税通知書や評価証明書で確認することができます。
上場株式の評価
上場株式の評価方法には、次の4つの方法があり、この中から最も低い価額を選択することができます。
- 1. 相続開始日(被相続人の死亡日)の最終価格
- 2. 相続開始日の属する月の毎日の最終価格の月平均額
- 3. 相続開始日の属する月の前月の毎日の最終価格の月平均額
- 4. 相続開始日の属する月の前々月の毎日の最終価格の月平均額
この選択制は、相続開始日が株価の急騰日だった場合など、偶然の要素による税負担の増加を避けるための仕組みです。
上場株式の評価に必要な書類としては、証券会社の残高証明書や取引明細書があります。相続開始日時点での保有銘柄と株数を確認できる書類を準備しておくことが重要です。
生命保険金の評価
生命保険金は、受け取った金額がそのまま評価額となります。ただし、相続税法では、生命保険金のうち「法定相続人1人あたり500万円まで」の金額については非課税とされています。
例えば、法定相続人が配偶者と子2人の計3人で、生命保険金が3,000万円の場合、非課税限度額は500万円×3人=1,500万円となります。このため、課税対象となる生命保険金は3,000万円-1,500万円=1,500万円となります。
なお、生命保険金は受取人が誰であっても、被相続人が保険料を支払っていた場合は原則として「みなし相続財産」として相続税の課税対象となることに注意が必要です。
自動車
自動車の評価は、原則として中古車市場における取引価格(時価)で評価します。具体的には、年式や走行距離、車種、状態などを考慮した中古車相場や下取り査定額を参考に評価額を決定します。
特に高級車やクラシックカーなど、価値が高いと考えられる車両については、専門の業者による査定を受けることが望ましいでしょう。一般的な車両であれば、中古車情報サイトの相場価格を参考にすることも可能です。
現金・預貯金
現金や預貯金は、相続開始日(被相続人の死亡日)時点での残高がそのまま評価額となります。非常にシンプルですが、いくつか注意点があります。
定期預金については、相続開始日までに発生した利息も含めて評価します。金融機関で残高証明書を取得する際、既経過利息の金額を含めて記載してもらうようにお願いしましょう。
外貨預金の場合は、相続開始日の為替レートで円換算した金額が評価額となります。
美術品や会員権の評価額の算出
絵画・骨董品などの美術品、ゴルフ会員権も相続財産として評価する必要があります。これらの特殊な財産は、一般的な財産と比べて評価が難しいケースが多いため、専門家による査定が重要になります。
美術品や骨董品は、美術品取扱業者や専門の鑑定人による鑑定評価を受けることが望ましいでしょう。ゴルフ会員権については、相続開始日時点での市場取引価格を参考に評価します。
これらの特殊財産については、その特性に応じた評価方法があり、場合によっては複数の評価額を比較検討する必要があるため、税理士などの専門家のサポートを受けることをお勧めします。
非上場株式の評価
非上場株式(上場されていない会社の株式)の評価は、相続税評価の中でも特に複雑で専門的な知識が必要とされる分野です。主な評価方法には以下の3つがあります。
- 類似業種比準方式:評価対象会社と同業種の上場会社の株価を比準して評価する方法。配当金額、利益金額、純資産価額の3要素を基に計算されます。
- 純資産価額方式:会社の資産から負債を差し引いた純資産を基に評価する方法。土地や建物などは財産評価基本通達によって評価替えを行なうため、決算書に記載された金額とは異なる評価額になります。
- 配当還元方式:配当率を基に株式の評価額を算出する方法です。一般的に、少数株主が保有する株式を評価するケースで使用します。
中小企業オーナーの相続では、会社の株式評価が相続税額に大きく影響するため、事前に対策を講じておくことが非常に重要です。
相続財産の評価で押さえたい注意点と税務署トラブルの防止策
相続財産の評価において特に注意すべき点をいくつか紹介します。
- 1. 評価の基準日を正確に把握する
相続税評価の基準日は、相続開始日(被相続人の死亡日)です。その時点での財産状況に基づいて評価を行う必要があります。相続開始後に財産価値が変動しても、原則として評価額は変わりません。 - 2. 小規模宅地等の特例など各種の特例措置を活用する
自宅や事業用の土地については「小規模宅地等の特例」により最大80%の評価減が認められる場合があります。この特例を含め、様々な特例措置をしっかりと活用することで、相続税の負担を軽減できる可能性があります。 - 3. 財産の申告漏れに注意する
被相続人の財産を網羅的に把握することは意外と難しいものです。特に、別居していた場合や複数の金融機関に預金がある場合など、見落としやすい財産があります。申告漏れが発覚すると、追加の税金に加えてペナルティも課される可能性があるため、慎重な調査が必要です。
税務署トラブルを防ぐためのポイント
相続税の申告において、特に財産評価に関するミスや意図的な過少申告は、税務調査で指摘を受けるリスクが高いです。税務調査の結果、追徴課税となった場合、以下のようなペナルティが課される可能性があります。
- 過少申告加算税:申告した税額が実際の税額より少なかった場合に課される(隠ぺい・仮装の場合は35%)
- 無申告加算税:申告期限内に申告しなかった場合に課される(隠ぺい・仮装の場合は40%)
- 延滞税:納付期限を過ぎても納付しない場合に課される
不動産や非上場株式など評価が複雑な財産については、特に専門家のサポートを受けることをお勧めします。税理士には財産評価の専門知識があり、適切な評価方法の選択や必要書類の準備などをサポートしてくれます。

- 記事監修者からのワンポイントアドバイス
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相続税の財産評価の中でも、特に土地と非上場株式の評価は難易度が高い分野です。
土地は都市計画や造成費、道路付け、周辺環境などの減価要素に気づけるかが重要で、評価者の知識や経験によって結果が変わることもあります。
非上場株式についても、種類株式や増資などの情報を見落とすと正しい評価ができません。
実際に裁判所や国税不服審判所で争われている事例も多く、教科書通りの評価だけでは通用しないのが実情です。
過去の判例や裁決事例を研究し、深い知見をもつ専門家に依頼することが、トラブルを回避し適正な評価を行なう近道となります。 - 鈴木洋輔税理士事務所
所長 鈴木 洋輔
まとめ
相続税の申告期限は相続開始(被相続人の死亡)から10か月以内と定められています。この期間内に財産の把握、評価、各種書類の作成、申告書の提出までを完了させる必要があります。
しかし、特に財産評価には専門的な知識が必要であり、評価額の算出や書類作成には相当の時間がかかります。そのため、相続が発生したら早めに専門家に相談することをお勧めします。
相続税に強い税理士や専門家に相談するメリットは多岐にわたります。
- 正確な財産評価によるトラブル防止:専門家の知識を活かして、財産を漏れなく正確に評価することができます。これにより、税務署とのトラブルや相続人間の紛争を未然に防ぐことができます。
- 適切な節税対策の提案:小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減など、様々な特例や控除を最大限活用するためのアドバイスを受けられます。
- 煩雑な手続きの代行:財産目録の作成から申告書の提出まで、煩雑な相続税申告手続きを専門家に任せることができます。
- 迅速な対応:申告期限(10か月)を考慮した計画的なサポートにより、余裕を持って手続きを進めることができます。
相続財産センターでは、お客様の状況やご要望をしっかりとヒアリングした上で、最適な税理士をご紹介します。必要書類の整理から申告書作成、納税までトータルサポートを受けられるため、相続税申告の不安や負担を大幅に軽減することができます。
相続に関する相談は、早ければ早いほどメリットが大きくなります。特に、評価が複雑な不動産や非上場株式などを含む相続では、専門家の関与が不可欠です。
相続でお悩みの方は、ぜひ一度相続財産センターにご相談ください。経験豊富な税理士コーディネーターが、お客様に最適な専門家をご紹介します。

- この記事の監修者
- 鈴木洋輔税理士事務所
所長 鈴木 洋輔
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