【2026年10月1日施行】106万の壁撤廃で何が変わる?経営者がやるべき社会保険の対応を解説

[取材/文責]マネーイズム編集部

2025年6月に成立した年金制度改正法によって、社会保険(厚生年金・健康保険)に加入義務が発生する条件のうち「106万の壁」と呼ばれる賃金要件が撤廃されることが決定しました。

また、企業規模要件についても従業員数が段階的に引き下げられ、最終的には撤廃される予定です。この変更により、企業の人件費への影響は無視できません。

賃金要件の撤廃は2026年10月1日施行と目前に迫っており、パート・アルバイトを雇用する企業にとって準備は待ったなしの状況です。

本記事では、制度の基本から撤廃の背景、企業へおよぼす影響、そして今すぐ取るべき対応策についてわかりやすく解説します。

1. 「106万の壁」とは?制度の基本と撤廃が決定した背景

ここでは「106万の壁」について制度の基本と撤廃が決定した背景を解説します。

「106万の壁」の仕組みと社会保険加入の5つの要件

「106万の壁」とは、短時間労働者が社会保険(厚生年金・健康保険)に加入義務が生じる目安の年収水準です。

2026年8月現在、以下の要件5つをすべて満たす場合に、社会保険への加入が義務付けられています。

1.週の所定労働時間が20時間以上
2.月額賃金が8.8万円以上(=年収106万円以上)
3.2カ月を超える雇用の見込みがある
4.学生でない
5.従業員数が51人以上の企業に勤めている

家族の扶養に入っていた人が自身で社会保険へ加入すると、保険料を負担することで手取りが減少するケースがあるため、勤務時間や年収を抑えて働く人も少なくありません。

ただし、2026年10月1日からは賃金要件である「月額賃金が8.8万円以上(=年収106万円以上)」の条件が撤廃されます。また、企業規模の要件(従業員数)についても段階的に見直され、2035年10月にはすべての企業が対象とされる予定です。

「壁」が生んだ働き控えと企業の人手不足問題

家族の扶養に入っている人の年収が106万円を超え、自身で社会保険に加入すると、社会保険料を負担することによって手取り額が減少してしまうケースがあります。そのため、多くの短時間労働者が労働時間や年収額を意識的に抑える「働き控え」をしています。

企業側にとっては、繁忙期にシフトを増やしたくても壁を超えない範囲でしかシフトを組めないため、深刻な人手不足を招く原因の1つとされていました。

106万の壁撤廃が決定した経緯と法改正の全体像

106万円の壁が撤廃されるのは、前述した働き控えによる労働力不足に加え、最低賃金が上昇したことが直接的な要因です。

厚生労働省によると、2025年度の最低賃金がもっとも低かった都道府県は高知県、宮崎県、沖縄県で1,023円でした。週20時間の勤務でも月収8.8万円を超え、社会保険の加入基準を満たしました。

これにより「月額賃金が8.8万円未満であれば適用外」の条件が成り立たなくなったため、撤廃が決定されたのです。なお2026年度の最低賃金についても、中央最低賃金審議会が全国加重平均1,176円(引き上げ額55円)とする目安を示しており(2026年7月28日答申)、賃金水準の上昇は今後も続く見通しです。また、少子高齢化社会において社会保障制度を維持するための財源を確保し、持続可能性を高める目的もあります。

このような背景から、2026年10月より社会保険の適用から賃金要件が撤廃されます。また、企業規模要件についても段階的に見直され、最終的には企業規模に関わらず適用される予定です。

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2. 撤廃後の制度はどう変わる?スケジュールと残る「壁」

今後はまず賃金要件が撤廃され、その後企業規模要件も段階的に見直しが行われ最終的には撤廃される予定です。しかし「130万の壁」や「178万の壁」など依然として残る「壁」もあります。

賃金要件撤廃の施行時期と「週20時間の壁」への移行

2026年10月1日より、加入要件の1つであった賃金要件「月額8.8万円以上(=年収106万円以上)」が撤廃されます。年収に関わらず、従業員数が51人以上の企業で「所定労働時間が週20時間以上」であれば、原則としてすべての短時間労働者が社会保険(厚生年金・健康保険)へ加入する対象とされます。

これは「106万の壁」から「週20時間の壁」への移行ともいえるでしょう。新たな壁である「週20時間」を超えないように調整する働き控えが発生する可能性があります。なお「2カ月を超える雇用の見込みがある」「学生でない」といった要件も引き続き適用される見込みです。

企業規模要件の段階的撤廃スケジュール(2027年〜2035年)

2026年8月現在、社会保険の加入条件の1つに企業規模要件として「従業員数が51人以上」と定められています。この企業規模要件も従業員数が段階的に引き下げられ、最終的には撤廃される予定です。

具体的には、以下のように計画されています。

・2026年8月現在:従業員数51人以上
・2027年10月:従業員数36人以上
・2029年10月:従業員数21人以上
・2032年10月:従業員数11人以上
・2035年10月:企業規模要件の撤廃(すべての企業が対象)

このように、2035年10月には企業規模要件が撤廃され全企業が対象とされます。

撤廃後も残る「130万の壁」「178万の壁」との関係整理

「106万の壁」が撤廃されても、「130万の壁」や「178万の壁」といった労働者の手取りに影響する「壁」は残ります。

「130万の壁」は、社会保険に関して家族の扶養から外れる年収の水準です。「106万円の壁」で社会保険加入対象とされる要件5つをすべて満たすと、家族の扶養から外れ社会保険に加入する義務が生じることは前述しました。加えて、5つの要件を満たしていない場合でも、年収が130万円を超えると、家族の扶養(社会保険)から外れます。

自身で勤務先の社会保険または国民健康保険・国民年金へ加入しなければなりません。130万円の壁に当たる労働者は勤務先の社会保険に加入できず、自身で国民健康保険・国民年金へ加入するケースが多いでしょう。

たとえば、従業員が10人の企業で働いている人が年収130万円を超える場合や、週20時間未満の勤務で年収130万円を超える場合などが該当します。このような人は年収が106万円を超えても家族の扶養から外れませんが、年収130万円を超えると扶養から外れるのです。

「178万の壁」は所得税が発生する水準であり「社会保険」の壁とは異なりますが、労働者の手取り額に影響するものです。以前は「103万の壁」と呼ばれていましたが、2025年に「160万の壁」へ引き上げられました。2026年分は特例措置も加わりさらに引き上げられ「178万の壁」として残ります。

3. 経営者が直面するコスト増の実態とシミュレーション

制度が改定されると、企業は長時間働ける人材確保により人手不足の解消が期待できる一方で、保険料支払いによる負担が増えることが想定されます。

社会保険料の折半負担とは?企業側の保険料増加の計算方法

社会保険料は、労使折半(会社と従業員で半分ずつ負担)が原則です。そのため、社会保険に加入する従業員が増えるほど、企業側の負担も比例して増加します。

従業員1人当たりに企業が負担する保険料をシミュレーションしてみます。

たとえば、2024年度の保険料率から算出すると、東京都・協会けんぽ・40歳の従業員の場合、企業が負担する保険料は以下の通りです。
従業員の月額賃金90,000円の場合:月額負担約12,500円・年額負担約150,000円
従業員の月額賃金100,000円の場合:月額負担約14,000円・年額負担約168,000円
従業員の月額賃金120,000円の場合:月額負担約17,000円・年額負担約204,000円
※本シミュレーションはあくまで概算であり、実際の負担額は状況によって異なります。

企業には、新たに社会保険に加入する従業員の人数分の負担が課せられます。

中小企業への影響が大きい理由と負担増のリスク

中小企業は、大企業に比べて利益率や資金余力が限られているため、社会保険料の増加が経営に与える影響が大きくなります。さらに、これまで適用対象外だった企業が新たに対象とされるケースでは、制度対応のためのシステム改修費用も発生します。

とくに、飲食店や小売業といったこれまで社会保険に加入していないパート・アルバイト従業員が多い企業では、業績悪化や、事業を続けられない・倒産に至るといったリスクが懸念されているのです。

採用・労務管理コストの変化と人材確保への影響

制度改定は、新たな社会保険加入者に関する手続き、給与計算やシステム対応、従業員からの質問対応といった労務管理業務が複雑化し、現場担当者の負担も大きくなると考えられます。

一方で、社会保険に加入できることが従業員にとって働きやすく安心できる職場であると評価され、採用面で有利に働き採用競争力の向上が期待できる側面もあるでしょう。ただし、社会保険に加入したくない従業員が社会保険対象外の企業へ転職するリスクも残るため、加入に関する従業員の意向を事前に丁寧に確認することが大切です。

4. 経営者・人事担当者が今すぐ取るべき対応策

ここでは、経営者・人事担当者が今すぐ行うべき対応策について解説します。

キャリアアップ助成金(短時間労働者労働時間延長支援コース)の活用法

政府はこの適用拡大に伴う企業負担を軽減するため、複数の助成金制度を用意しています。なかでも2025年7月に新設された「キャリアアップ助成金」の「短時間労働者労働時間延長支援コース」を活用すると、負担を抑えながら制度移行を進められます。

短時間労働者の労働時間延長や賃金増額に取り組み、新たに社会保険に加入させると、企業が助成金を受け取れるのです。受け取れる助成金は企業規模と延長した労働時間・増額した賃金などによって異なりますが、1年目は1人当たり最大50万円、2年目は1人当たり最大25万円の助成金を受け取れます。

この助成金を受け取るためには、事前に「キャリアアップ計画書」を都道府県労働局へ提出する必要があるため、計画的に準備を進めましょう。

社会保険適用促進手当と特例措置(2年間の保険料軽減)の仕組み

従業員の手取り減少を防ぐため、企業が「社会保険適用促進手当」を従業員へ支給した場合に、最大2年間、社会保険料算定の基礎である標準報酬月額等からその手当分を除外できる特例があります。

対象者は標準報酬月額が104,000円以下の従業員で、除外できる上限額は新たに発生した本人負担分の社会保険料相当額です。この制度を利用すると、従業員の手取り減少を和らげながら社会保険加入を促進できます。

就業規則・雇用契約・給与システムの見直しチェックリスト

制度変更に対応するためには、次のような実務面の見直しが必要です。

・自社の状況確認:従業員数と適用される時期の確認・該当する従業員の確認・負担額のシミュレーション
・就業規則の見直し:社会保険の適用条件を明確化
・従業員の希望確認:扶養内で働きたいか社会保険に入り労働時間を増やしたいかヒアリング
・雇用契約書の見直し:労働時間の変更や社会保険加入条件を明記
・勤務体制の見直し:従業員の希望も踏まえて労働時間やシフトを検討
・給与システムの改修:新たな制度に合わせて設定変更やアップデートを実施
・社会保険加入手続き:新たに社会保険に加入する場合は年金事務所へ届け出る
・助成金や特例措置活用の検討:該当するか確認し必要な手続きを進める

このような準備を早期に行うことで、制度改正による混乱防止につながります。施行まで残り約1か月となった今、未着手の項目がないか改めて確認しておきましょう。

従業員への周知方法と社内説明のポイント

制度変更は、従業員の手取りや働き方に直接的な影響を与えるため、丁寧な説明が欠かせません。社内説明会や個人面談を実施し、丁寧な説明と質疑応答により、従業員の不安を和らげ理解を得られるよう努めます。何がどう変わるか、従業員にどのような影響があるか、どのような選択肢があるか、企業はどのようなサポートが行えるかといったことを伝えます。

また「手取りが減少する」マイナス面だけを伝えるのではなく「将来受け取る年金が増える」「遺族年金や障害年金が手厚くなる」「病気や怪我によって働けない場合に傷病手当金が給付される」といったメリットも説明することが大切です。

まとめ

2026年10月より社会保険(厚生年金・健康保険)に加入義務が発生する条件のうち「106万の壁」と呼ばれる賃金要件が撤廃されます。また、企業規模要件も従業員数が段階的に引き下げられ、2035年10月には撤廃される予定です。

この改正により企業は保険料支払いによる負担増加が想定される一方で、長時間働ける人材確保により人手不足の解消が期待できる機会でもあります。助成金や特例措置を活用して負担を軽減しながら、就業規則・雇用契約・給与システムなどの見直しを進め、従業員への丁寧な説明と合わせて対応していくことが重要です。

中小企業経営者や個人事業主が抱える資産運用や相続、税務、労務、投資、保険、年金などの多岐にわたる課題に応えるため、マネーイズム編集部では実務に直結した具体的な解決策を提示する信頼性の高い情報を発信しています。

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