「税理士が勧めた節税」でも追徴される?国税庁が節税スキームの「売り手」に本腰、否認される節税・されない節税の線引きは

[取材/文責]マネーイズム編集部

「税理士が勧めた節税策だから大丈夫」。そう思って実行した取引が、数年後に税務調査で否認され、本税に加算税を上乗せして追徴される。2026年10月、そんな事例と、それを売る側への国の動きが相次いで報じられました。

10月4日には、人気バンドのメンバーが代表を務める音楽関連会社が、当時の顧問税理士法人が用意した「節税スキーム」を使ったとして東京国税局から約5億8,650万円の申告漏れを指摘されたと各紙が報じました。会社側は「適法と説明されていた」と釈明しています。そして10月28日、金融専門紙のニッキンONLINEは、国税庁が「金融機関が節税策をパッケージ化して顧客に提案し、アドバイザリー手数料を得ている例を複数確認した」として金融庁と対策を協議すると報じました。10月20日の政府税制調査会では、国税庁が節税スキームを商品のように売る「プロモーター」の存在を問題視する資料を提出しています。

結論から言えば、税理士や金融機関が勧めた節税策であっても、「税金を減らす以外の目的がない」不自然な取引は税負担を不当に減らすものとして否認されることがあり、追徴されるのは会社自身です。「誰が勧めたか」は、否認されるかどうかの基準になりません。

本記事では、国税庁が問題視するプロモーターの実態、5億8,650万円が否認された事例の仕組み、否認される節税とされない節税の線引き、そして節税提案を受けたときに経営者が確認すべきポイントを解説します。

1. 国税庁が問題視する「プロモーター」とは何か

ここでは、2026年10月に相次いだ国の動きと、「プロモーター」という言葉の意味について解説します。

節税スキームを「商品」として売る人たち

2026年10月20日、政府税制調査会の「経済社会のデジタル化への対応と納税環境整備に関する専門家会合」(第5回)で、財務省と国税庁は「租税回避等への対応」という説明資料を提出しました。ここで取り上げられたのが、租税回避の仕組みを標準化し、多数の納税者に販売・提供する「プロモーター」です。

同資料では、国税当局が把握したプロモーターの例として、次のような事例が紹介されています(事業者は「A税理士法人」「B株式会社」といった匿名表記です)。

  • ある税理士法人が、グループ法人税制などを使って経済実態を伴わない多額の税務上の損失を作り出すスキームを、数十の法人に販売していた(法人税)
  • 税理士が代表を務める会社が、総合課税と分離課税の税率差を利用するスキームを数十人に販売し、税制改正で封じられた後も、それを回避する新たな仕組みを考案していた(所得税)
  • このほか、ペーパーカンパニーを使って納税のない消費税の還付を生じさせるスキームへの関与(数十社)や、金融機関も関与した別の税理士法人のスキームが挙げられている

資料に事業者の名前は出ていません。しかし「同じ手法を数十社・数十人に売る」というプロモーターの特徴は、後述する音楽関連会社の事例と重なります。

金融機関の「節税パッケージ」は税理士法違反のおそれ

10月28日のニッキンONLINEによると、国税庁は、複数の金融機関が税負担の軽減や還付金の受け取りをパッケージ化して顧客に提案し、アドバイザリー手数料を得ていたことを確認しました。具体例として、法人顧客に対して具体的な金額を示したうえで、組織再編や資産の取得によって相続税評価額を圧縮する仕組みを提案し、手数料を得ていたケースが挙げられています。

税理士でない者が報酬を得て税務相談を行うことは税理士法で禁じられています(詳しくは4章で解説します)。国税庁は、税理士法人以外の専門家による租税回避の助言は税理士法違反に当たる可能性が高いとして、金融庁と連携して対策を議論する考えだと同紙は伝えています。金融庁と国税庁は2022年7月にも、節税を主な目的として販売される保険商品について、商品審査とモニタリングの両面で連携を強化すると発表しており、今回はその延長線上にある動きといえます。

司令塔のポスト新設と57人の増員を要求

体制面でも動きがあります。国税庁が2026年8月31日に公表した2027年度(令和9年度)の機構・定員要求では、「複雑化する租税回避スキームに対する総合的な対応」として、国税庁に「租税回避対策企画官(仮称)」を新設することを求めました。定員は730人の増員を要求しており、専門メディアによれば、このうち租税回避スキームへの対応が57人、消費税の不正還付への対応が185人とされています。

海外では、英国が2004年から、EUが2018年の指令(DAC6)で、租税回避スキームの開発・販売を行うプロモーターに税務当局への報告を義務付ける「義務的開示制度(MDR)」を導入しています。日本は導入の要否を検討する段階ですが(税務大学校論叢、2025年6月)、「売り手を把握する」方向に国が動いていることは、今回の税調資料と機構要求からはっきり読み取れます。

2. 「適法と説明された」のに5億8,650万円を否認された事例

ここでは、2026年10月4日に報じられた音楽関連会社の申告漏れについて、報道で分かっている範囲の仕組みと、否認の根拠について解説します。

株を5億8,800万円で買い、150万円で売って損失をつくる

共同通信や日本経済新聞、朝日新聞などの報道によると、サザンオールスターズのベーシスト・関口和之氏が代表を務める音楽関連会社「のほほん」(東京都目黒区)は、東京国税局から2023年9月期までの3年間で5億8,650万円の申告漏れを指摘されました。追徴税額は過少申告加算税を含めて約5,300万円で、会社は修正申告と納税を済ませています。

報道されている取引の流れは次のとおりです。

時期 取引の内容(報道ベース)
2021年2月 当時の顧問税理士法人側が用意した会社の株式を5億8,800万円で取得
その後 取得した会社から配当を受け取る。配当で会社の資産が大きく減り、株式の価値が下がる
約7か月後 価値が下がった株式を150万円で代表者個人に売却
2021年9月期 取得額との差額5億8,650万円を損失として計上し、以後の期も利益ゼロで申告

なぜこれで税金が減るのでしょうか。法人が受け取る配当には「受取配当等の益金不算入」という制度があり、株式の保有割合に応じて配当の全額または一部が課税所得から除かれます(法人税法第23条。完全支配関係がある完全子法人株式等なら全額、保有割合3分の1超の関連法人株式等なら負債利子相当額を控除した全額、5%超3分の1以下なら50%、5%以下なら20%)。一方、株式を売って出た損失は原則として損金になります(法人税法第61条の2)。つまり、配当の側は課税されにくく、株式の値下がり損だけが損金として残る構図です。報道では保有割合や配当額の詳細は明らかにされていないため、ここは一般論としての説明です。

東京国税局は、株式の売買と配当を組み合わせた一連の取引は不自然で「経済的合理性を欠く」として損失の計上を認めず、「節税スキーム」を使って税負担を不当に軽減したと認定したと報じられています。NHKが報じたところによると、この税理士法人は同様の手法を全国の少なくとも30社に紹介しており、国税当局が一斉に税務調査を行っているとみられるとされています(共同通信は「少なくとも数十社」と伝えています)。税理士法人側の代理人は「損金を生じさせることを目的とした取引ではない」と主張し、会社側は当時の顧問税理士から「合法的に税負担を軽減するための取引」と説明を受けていたとしています。

否認の根拠とみられる「同族会社の行為計算否認」

一つひとつの取引が形式上は有効でも、全体として税負担を不当に減らしていると判断されると、税務署長はその行為や計算にかかわらず税額を計算し直すことができます。法人税法第132条の「同族会社等の行為又は計算の否認」です。条文は、同族会社の行為や計算を容認した場合に「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」があるときは、税務署長の認めるところにより課税標準や税額を計算できると定めています。報道では適用された条文までは明示されていませんが、「損金だと認めた場合、法人税の負担が不当に減る」という東京国税局の判断(NHK報道)は、この規定の考え方に沿ったものです。

社長や親族など上位3つの株主グループで発行済株式の50%超を持つ会社は、法人税法上の「同族会社」に当たります(第2条第10号)。年商2億円以下の会社の多くはこれに該当するはずです。同族会社であること自体が、この否認規定の対象になる条件だという点は、押さえておきたいところです。

なお、所属事務所は、事実を偽ったり隠したりしたという指摘は受けておらず、重加算税も課されていないと説明しています。会社側も「複数年にわたり収入や所得を申告していなかった事実はない」としています。刑事事件になったという報道はなく、各紙はこの件を「脱税」ではなく、申告した内容の一部が否認された「申告漏れ」として報じています。

3. 否認される節税・されない節税の線引き

ここでは、節税・租税回避・脱税の3つがどこで分かれるのか、そして否認されたときに会社が負う金銭的な負担について解説します。

分かれ目は「税金以外の目的があるか」「事実をそのまま申告しているか」

節税提案を受けたとき、「合法か違法か」の二択で考えると判断を誤ります。実務上は、次の3段階で考えるのが分かりやすいでしょう。

区分 中身 税務上の結果
節税 法律が用意した制度(特別償却、各種控除、役員退職金など)を、要件を満たして使う 原則として認められる
租税回避 個々の取引は違法ではないが、税金を減らす以外の目的がなく、通常なら選ばない不自然な形を取る 行為計算否認などで否認されることがあり、本税+過少申告加算税+延滞税
脱税 売上を隠す、架空の経費を計上するなど、事実を偽って申告する 重加算税(過少申告なら35%、無申告なら40%)。悪質なら刑事告発

今回の事例が当てはまるのは真ん中の「租税回避」です。国税当局が見るのは「税理士が勧めたかどうか」ではなく、「その取引に税金以外の目的があるか」「お金が実際に動いているか」「事実をそのまま申告しているか」です。提案者の肩書きがどれだけ立派でも、この判断基準は変わりません。

否認されたら、本税だけでは済まない

税務調査で否認されて修正申告をしたり更正を受けたりすると、本税に加えて次の負担が生じます(調査の事前通知を受ける前に自主的に修正申告した場合は、過少申告加算税はかかりません)。

  • 過少申告加算税:増加した税額の10%。当初の申告税額と50万円のいずれか多い方を超える部分は15%(国税通則法第65条)。調査の事前通知を受けた後、更正を予知する前に修正申告した場合は5%・10%に軽減される
  • 重加算税:仮装・隠蔽があったと認定された場合、過少申告加算税に代えて35%(同法第68条)
  • 延滞税:法定納期限の翌日から納付日までの日数に応じて課される

今回の事例では、追徴約5,300万円に過少申告加算税が含まれています。注意したいのは、追徴を払うのは提案した税理士でも金融機関でもなく、申告した会社だという点です。提案者への責任追及は、損害賠償請求など民事の問題として、税務とは別に進めることになります。

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4. 節税提案を受けたとき、経営者が確認すべきこと

ここでは、「売り手」の資格の確認と、提案を受けたときのチェックポイントについて解説します。

税理士でない者の「税務相談」は税理士法違反

税理士法第2条は、税務代理・税務書類の作成・税務相談の3つを税理士業務と定め、第52条で「税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行つてはならない」としています。違反した者は2年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です(第59条第1項第4号)。

国税庁が問題視した金融機関の事例は、「具体的な金額を示して」相続税評価を圧縮する仕組みを提案し、手数料を得ていたというものです。銀行・証券会社・保険代理店・コンサルタントが具体的な税額や節税額を示して提案し、その対価を受け取っているなら、提案者自身が税理士法に抵触しているおそれがあります。そうした提案に乗ると、仮に否認されたとき、会社は「税理士でない者の助言に従って申告した」ことになり、提案者への責任追及も難しくなるおそれがあります。

5つのチェックポイント

提案が税理士からのものであっても、次の点を確認してください。一つでも説明があいまいなら、実行を急がず別の税理士にセカンドオピニオンを求めるのが安全です。

  1. 税金以外の目的を一言で説明できるか。「事業上なぜその取引が必要か」を、税額に触れずに説明してもらう。説明できない取引は、行為計算否認の対象になりやすい
  2. お金が実際に動くか。資金が実際には動かず、帳簿上だけで損失や権利が生まれる設計は、取引の実態を疑われやすい
  3. 短期間で完結しないか。今回の事例では取得から売却まで約7か月。取得と売却、配当がセットで最初から予定されている取引は、全体で一つの行為として見られる可能性がある
  4. 同じ手法を多数の顧客に売っていないか。「他社もやっている」は安心材料ではなく、プロモーター型のサイン。今回の事例のように、同じ手法を使った会社がまとめて調査される可能性がある
  5. 否認されたとき誰がいくら負担するか。本税・加算税・延滞税の見込み額と、提案者が責任を負う範囲を書面で確認する。「否認されても困らない取引か」で判断する

なお、当サイトでは2026年夏に、スタートアップ投資の優遇税制を使って「節税しただけ」と主張した会社役員が所得税法違反で逮捕された事件を取り上げました(「節税しただけ」なのになぜ逮捕?エンジェル税制、節税と脱税の境界線)。あちらは投資に実態がなく資金が還流していたとされ、刑事事件になった「脱税」の事案、今回は一連の取引が不自然で経済的合理性を欠くとされ、重加算税は課されていない「租税回避」の事案です。線引きの違いを比べて読むと、国税当局が何を見ているかがより分かります。

まとめ

2026年10月、国税庁が節税スキームの「売り手」であるプロモーターや金融機関を業態と事例を挙げて問題視し、司令塔ポストの新設と増員を要求していることが明らかになりました。同じ月に報じられた音楽関連会社の事例は、税理士法人が用意した取引で5億8,650万円の損失を計上し、「適法と説明された」にもかかわらず否認され、約5,300万円を追徴されたものです。

節税と租税回避を分けるのは、提案者の肩書きではなく、「税金以外の目的があるか」「お金が実際に動くか」「事実をそのまま申告しているか」です。税務調査で否認されたときに本税・加算税・延滞税を負担するのは会社自身です。大きな節税効果をうたう提案ほど、実行前に目的と資金の流れを書面で確認し、必要なら別の税理士の意見を聞いてください。

参照:ニッキンONLINE「国税庁、節税スキームに警戒 金融庁と対応策協議」(2026年10月28日)
参照:内閣府 税制調査会「第5回 経済社会のデジタル化への対応と納税環境整備に関する専門家会合(2026年10月20日)資料一覧」(デ5-3 財務省国税庁説明資料「租税回避等への対応」)
参照:国税庁「令和9年度 機構・定員要求について」(2026年8月31日)
参照:金融庁「節税(租税回避)を主たる目的として販売される保険商品への対応における国税庁との更なる連携強化について」(2022年7月14日)
参照:税務大学校論叢第115号「義務的開示制度の我が国への導入を巡る論点と考察」(2025年6月)
参照:日本経済新聞「サザンオールスターズ関口和之氏の会社5.8億円申告漏れ、国税指摘 節税手法を不当認定」(2026年10月4日)
参照:共同通信(熊本日日新聞)「サザン関口氏の会社申告漏れ指摘 東京国税、3年間で5億8千万円」(2026年10月4日)
参照:弁護士JPニュース「サザン関口氏の会社に5億円超の申告漏れ…税理士に勧められた節税は安心なのか」(2026年10月17日)
参照:法人税法 第2条・第23条・第61条の2・第132条(e-Gov法令検索)
参照:国税通則法 第65条・第68条(e-Gov法令検索)
参照:国税庁 タックスアンサー No.2026「確定申告を間違えたとき」
参照:税理士法 第2条・第52条・第59条(e-Gov法令検索)
参照:国税庁「税理士制度のQ&A 6 税理士法違反行為」

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