株の利益52億円、脱税額は7億8,400万円。税理士が解説する脱税容疑のポイント

自身が保有する株式の売却益を申告せず、所得税約7億8,400万円を脱税したとして、東京地検特捜部は2026年7月10日、中古ブランド品の買い取りサービスなどを手がける会社の元代表取締役を所得税法違反の疑いで逮捕しました。
関係者によると、株の売却を別会社が組成した匿名組合の事業として行ったように装い、自分の所得ではないように見せかけた疑いが持たれています。対象となった2022年から2023年分の所得は、計約52億5,500万円にのぼるとされています。
そもそも、株を売って得た利益にはどんな税金がかかり、今回は何が問題とされているのでしょうか。税理士に聞きました。
株を売って得た利益には原則20.315%の税金がかかる
株を売って得た利益には、原則として20.315%の税金がかかります。課税の対象になるのは売却価格そのものではなく、そこから取得費(買ったときの値段)や売却手数料などを差し引いた「利益」の部分です。税率の内訳は所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%。給与など他の所得とは合算せず、譲渡益だけを取り出して計算する「申告分離課税」という仕組みです。
なお、報道されている約7億8,400万円は所得税の脱税額であり、住民税を含めた税負担の総額ではありません。
上場株式と非上場株式では、申告方法や損失の取り扱いに違いがありますが、売却益にかかる税率は原則としてどちらも20.315%です。ただし、証券会社の特定口座(源泉徴収あり)で取引した上場株式は原則として確定申告が不要で、NISA口座内の譲渡益は非課税です。
今回問題になったのは「利益は誰のものか」
今回の焦点は、株を売ったこと自体ではありません。その利益が「誰の所得なのか」を偽ったとされる点にあります。
捜査当局は、容疑者が自分の持つ株式の売却を、別会社が組成した匿名組合の事業として行ったように装ったとみています。匿名組合とは、出資者が事業者の事業に出資し、そこから生じた利益の分配を受ける契約上の仕組みです。匿名組合を使うこと自体が違法なのではなく、実際の売却の主体や所得の帰属を偽ったとされる点が問題です。
所得が誰に帰属するかは、契約書や名義だけでなく、取引の実態を踏まえて判断されます。自分が持つ株の売却益を、別会社の事業による所得であるかのように見せても、実態が個人の取引であれば、原則として本人が申告しなければなりません。
意図的に所得を隠せば、追徴課税や刑事罰も
意図的に所得を隠していたと認められれば、免れようとした税金を追納するだけでは済みません。本来納めるべき税金に加えて、重いペナルティが上乗せされます。
事実の仮装や隠蔽があったと認定された場合、過少申告には原則35%、無申告には原則40%の重加算税が課される可能性があります。あわせて、納付の遅れに応じた延滞税もかかります。さらに、偽りその他不正の行為による所得税の免脱には、10年以下の拘禁刑または1,000万円以下の罰金、あるいはその併科が定められています。また、脱税額が1,000万円を超える場合は、情状により罰金を脱税額相当額まで引き上げられます。本件のように脱税額が数億円規模になれば、罰金も同水準まで科され得ることになります。
ただし、単なる計算ミスや申告忘れが、直ちに刑事上の脱税になるわけではありません。税を免れる故意があったか、所得を隠すための虚偽や不正な行為があったかなどを踏まえて判断されます。なお、今回はあくまで逮捕・容疑の段階であり、有罪が確定したわけではありません。
まとめ
株を売って得た利益には、原則として20.315%の税金がかかり、その所得が誰のものかは名義ではなく取引の実態で判断されます。今回の事件は、その帰属を偽って所得税を免れた疑いが持たれているものです。特に自社株や非上場株を大きな金額で売却する場合は、契約や売却方法を決める段階で税理士に確認しておくことが重要です。
国税庁タックスアンサー No.1463「株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」
国税庁「加算税制度(国税通則法)の改正のあらまし」(重加算税35%・40%)
所得税法 第238条(罰則)(e-Gov法令検索)
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東京国税局で15年にわたり、税務調査・審理・国税不服審判所の業務に従事。非居住者課税の相談実務に精通する。大手YouTuberエージェンシーでの実務経験から、フリーランス・インフルエンサー特有の税務にも明るい。その後、IT企業でのプロダクトマネジメントを経て神奈川県川崎市で独立。現在はクリエイターやスタートアップの税務支援を中心に活動し、税務メディアの記事監修も多数手がける。国税の現場で培った課税庁側の視点を活かした解説を得意とする。
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