熊本地震、義援金と支援金の税務上の取扱いは?税理士に聞いた

令和8年熊本地震を受けて、被災地への支援に動く企業が相次いでいます。
熊本県は7月29日に義援金の受付を始め、日本赤十字社も7月31日から義援金の受付を始めました。中央共同募金会は、被災地で活動する団体を支える「支援金」の受付を始めています。
言葉を整理しておきます。義援金は、義援金配分委員会を通じて被災者本人に配られるお金です。支援金は、NPOやボランティア団体の活動費に充てられるお金を指します。そして寄附金は法人税法の用語で、見返りなく渡したお金全般のことです。義援金も支援金も、税務上はこの寄附金の一種にあたります。
では、義援金と支援金で会社の経理は変わるのか。熊本に取引先がある場合はどうか。同じ100万円でも、どこにどう出すかで全額を損金にできるかどうかが変わります。税理士に聞きました。
税務上は義援金も支援金も寄附金。分かれるのは行き先
結論から言うと、義援金と支援金を区別する税制はありません。条文に義援金という区分も支援金という区分も出てこないからです。効いているのは呼び名ではなく、そのお金が最後にどこへ届くかです。
寄附金は、出した先によって3段階に分かれます。国や地方公共団体に出したものは全額が損金になり、公益社団法人・公益財団法人や社会福祉法人、認定NPO法人などに出したものは特別損金算入限度額まで、それ以外は一般の損金算入限度額までです(法人税法第37条)。
この物差しを当てると、義援金は義援金配分委員会を通じて自治体へ拠出されるため「国等に対する寄附金」として全額が損金になり、支援金は支援団体に渡ってその団体が使うため、その団体の区分どまりになります。中央共同募金会の「ボラサポ・令和8年熊本地震」であれば、同会が社会福祉法人ですので特定公益増進法人に対する寄附金として、特別損金算入限度額の範囲内での損金算入です。同会自身もそのように案内しています。なお、特別損金算入限度額を超えた部分も切り捨てではなく、一般の寄附金に含めて一般の損金算入限度額まで損金にできます。
ただし、名前で決まるわけではありません。東日本大震災では、中央共同募金会のボラサポが財務大臣の指定寄附金に指定され、支援金でありながら全額損金の対象になりました(平成23年3月15日財務省告示第84号)。今回の地震について同様の指定があるかは、今後の告示を確認してください。募集要綱を開いて、そのお金が自治体へ拠出されるのか、団体の活動費に充てられるのかを確かめる。これが振り込む前にやるべきことです。
取引先への支援は、そもそも寄附金にならない
意外と知られていないのが、寄附金の枠をまったく使わずに支援できる方法です。熊本に取引先があるなら、義援金や支援金より先にこちらを検討してください。被災前の取引関係を維持・回復する目的で、取引先の復旧過程において支出するものは、寄附金にも交際費等にもあたらないと通達で定められています。
使える形は3つです。災害見舞金(租税特別措置法関係通達61の4(1)-10の3)、売掛金や貸付金の免除(法人税基本通達9-4-6の2)、そして不特定または多数の被災者を救援するための自社製品の無償提供(法人税基本通達9-4-6の4)です。
300万円の売掛金を免除すれば300万円がそのまま損金になり、寄附金の限度額計算には一切入りません。自社製品の提供は広告宣伝費に準ずるものとして扱われ、他から購入した物品でも実質的な宣伝効果があるものは含まれます。
条件は「復旧過程にある期間内」であることです。仮店舗で営業しているような段階が想定されており、復旧が済んで相当の期間が経ってからでは対象になりません。支援するなら早めに動いてください。
やりがちな3つの失敗
1つめは、取引先の役員や従業員に個別に見舞金を渡してしまうことです。見舞金は、取引先に対して支出することが重要です。取引先が法人なら会社宛、個人事業主なら事業主本人宛の見舞金が対象です。法人の役員や従業員個人に渡すと、取引先の救済ではなく付き合いとみなされ、交際費等になります。
2つめは、決算前に未払計上することです。寄附金は現実に支払った事業年度でなければ損金になりません(法人税法施行令第78条)。決議しただけ、手形を振り出しただけでは足りず、決算日までの着金が必要です。取引先への見舞金や債権免除にはこの縛りがないため、期末が迫っているならそちらのほうが動かしやすい面もあります。
3つめは、社長個人の意思による寄附を法人名義で振り込んでしまうことです。個人が負担すべきものを会社が負担したと見られれば、役員給与として損金不算入になり、源泉徴収の問題も生じます。会社なら全額損金、個人なら寄附金控除とふるさと納税の対象と、使える制度が別物ですので、どちらで出すかを決めてから振り込んでください。
証憑も一言だけ。専用口座への振込であれば振込票の控えが受領証の代わりになりますが、その口座が義援金の受付専用口座だと分かる募集要綱の写しをあわせて保存してください。取引先への見舞金で領収書をもらいにくい場合は、支出先の所在地、名称、支出年月日を帳簿に記録しておけば足ります。レジ横の募金箱や街頭募金は、受領証や振込記録などの証拠が残らないため、会社の寄附金として処理するのは難しいのが実務です。社員個人の善意として扱い、会社の帳簿には載せないのが一般的です。
まとめ
義援金と支援金を分ける税制はありません。どちらも寄附金で、全額を損金にできるかどうかは、そのお金が最後に自治体へ届くかどうかで決まります。義援金は届くので全額、支援金は団体で止まるので特別枠まで(超えた分は一般枠へ)、というのが基本形です。そして熊本に取引先があるなら、災害見舞金・売掛債権の免除・自社製品の提供という、そもそも寄附金にならない支援が使えます。決算前の未払計上と、社長個人の寄附の法人名義処理。この2つさえ避ければ、善意が経理のトラブルに変わることはありません。
▼あわせて読みたい
自社も被災した場合は、申告期限の延長や災害損失の繰戻し還付など別の制度が使えます。
災害時に使える税の救済措置
国税庁「義援金に関する税務上の取扱いFAQ」
国税庁「災害に関する法人税、消費税及び源泉所得税の取扱いFAQ」
国税庁タックスアンサーNo.5281「寄附金の範囲と損金不算入額の計算」
日本財団「支援金と義援金の違い」
熊本県「令和8年熊本地震に係る義援金の受付について」
中小企業経営者や個人事業主が抱える資産運用や相続、税務、労務、投資、保険、年金などの多岐にわたる課題に応えるため、マネーイズム編集部では実務に直結した具体的な解決策を提示する信頼性の高い情報を発信しています。

東京国税局で15年にわたり、税務調査・審理・国税不服審判所の業務に従事。非居住者課税の相談実務に精通する。大手YouTuberエージェンシーでの実務経験から、フリーランス・インフルエンサー特有の税務にも明るい。その後、IT企業でのプロダクトマネジメントを経て神奈川県川崎市で独立。現在はクリエイターやスタートアップの税務支援を中心に活動し、税務メディアの記事監修も多数手がける。国税の現場で培った課税庁側の視点を活かした解説を得意とする。
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