「賃上げできず人材流出→倒産」が83件・5年連続増——退職が引き金になる「従業員退職型」倒産から会社を守るには

[取材/文責]マネーイズム編集部

帝国データバンクが2026年8月7日に公表した調査によると、従業員や経営幹部の退職が要因となった「従業員退職型」の倒産が2026年1-7月で83件にのぼりました。前年同期(74件)から約12.2%増え、コロナ禍の2022年以降5年連続の増加です。このままのペースで推移すれば、初めて年100件を超えた前年(124件)を大幅に上回り、単年で過去最多の更新が確実とされています。「賃上げしたくてもできない」中小企業にとって、人材流出はもはや採用難と並ぶ重大な経営リスクです。本記事では、調査結果のポイントと、自社を守るために今からできる備えを整理します。

1. 「従業員退職型」倒産とは?83件・過去最多ペースの実態

従業員退職型の倒産とは、人手不足による倒産のうち、従業員や経営幹部などの退職が直接・間接的な要因となったものを指します。帝国データバンクの集計(負債1,000万円以上・法的整理による倒産が対象)によると、推移は次のとおりです。

・2026年1-7月:83件(前年同期74件から9件・約12.2%増)

・2022年以降、5年連続で増加

・2025年は年間124件で初の100件超え。2026年は単年過去最多の更新が確実な情勢

かつての人手不足倒産は「採用できない」ことが主因でしたが、近年は「今いる人材が辞めていく」ことが引き金になるケースが増えています。労働市場の流動性が高まるなか、待遇改善が進まない会社から条件の良い会社へ人材が移る動きが加速していることが背景にあります。

2. 業種別ではサービス業・建設業・運輸業が顕著

2026年の従業員退職型倒産を業種別にみると、上位は次のとおりです。

サービス業:22件(全体の26.5%)——老人福祉施設や美容室などで多発

建設業:20件——1-7月として初めて20件台に。現場を担う職人や営業担当者の相次ぐ退職で事業運営が困難に

運輸・通信業:12件——貨物自動車運送を中心に前年同期(8件)から増加し、1-7月として初の10件超え

いずれも慢性的な人手不足に加え、「2024年問題」以降の労働時間規制や燃料費・資材費の高騰など、コスト増と人材確保の両面で圧力がかかっている業種です。介護・美容のように労働集約型で価格転嫁が難しい業種、建設・運輸のように少数の技術者・ドライバーに事業が依存する業種で、退職が経営に直結しやすい構図が浮かびます。
建設業の倒産動向については、以下の記事でも詳しく解説しています。

あわせて読みたい:建設業の倒産が12年ぶりに2,000件を超えた——下請け・外注先の連鎖倒産から会社を守る3つの対策

3. なぜ起きる?「賃上げ原資を確保できない」構造

帝国データバンクの分析によると、2025年以降は特に、コストアップ分をサービスや商品の価格に転嫁できず「賃上げ原資」を確保できないまま、事業の中核を担うキーマンの流出を止められないケースが目立っています。
実際の事例として、貨物運送業の東海サービス(2026年5月、破産)は、受注環境の悪化や燃料費の高騰で収益が圧迫されるなか、ドライバーの賃上げを進められずに退職が相次ぎました。内装工事業の五十嵐建設(2025年12月、破産)は、中核メンバーの独立や退職が続いて人手不足が深刻化し、赤字経営に陥って事業継続を断念しています。
また、同社の「人手不足に対する企業の動向調査(2026年4月)」では、正社員について2社に1社が人手不足を実感していることが分かっています。賃上げしたくても業績悪化などを理由にできない企業は多く、報酬を十分に支払う余力のない中小零細企業を中心に、従業員退職型倒産は今後も高水準で推移する可能性が指摘されています。

4. 会社を守るために——今からできる4つの備え

「退職が引き金の倒産」は、突然起こるようで、実は予兆のある経営リスクです。次の4点を点検しておきましょう。

① 価格転嫁の交渉を先送りしない:賃上げ原資はまず売上・粗利から。原価上昇分を価格に反映できているか、取引先との交渉余地を定期的に見直す

② キーマン依存を「見える化」する:特定の技術者・営業・ドライバーに業務が集中していないか棚卸しする。業務の標準化・マニュアル化・複数名体制で、1人の退職が事業停止に直結しない体制へ

③ 賃金以外の処遇も点検する:資金繰り上、大幅な賃上げが難しい場合も、労働時間・休日・裁量・キャリアパスなど賃金以外の改善余地はないか検討する

④ 資金繰りと損益の早期把握:賃上げ余力がどこまであるかは、月次の損益と資金繰りを正確に把握してこそ判断できる。顧問税理士と「いくらまで人件費を増やせるか」をシミュレーションしておく

人件費の引き上げは、単なるコスト増ではなく「事業を継続するための投資」という側面が強まっています。自社の適正な人件費水準や価格転嫁の進め方に迷う場合は、税理士など専門家に相談しながら、数字に基づいた判断を行うことをおすすめします。

まとめ

・従業員退職型の倒産は2026年1-7月で83件(前年同期比+12.2%)、5年連続増で単年過去最多ペース

・業種別ではサービス業22件・建設業20件・運輸12件。労働集約型・キーマン依存型の業種で顕著

・背景には「価格転嫁できず賃上げ原資を確保できない」構造。正社員の人手不足は2社に1社

・価格転嫁・キーマン依存の分散・賃金以外の処遇改善・資金繰り把握の4点で備える

なお、本調査の集計対象は負債1,000万円以上・法的整理による倒産であり、任意整理や休廃業・解散は含まれていません。実際に「退職を機に事業をたたむ」会社はこの数字より多い可能性がある点にも留意が必要です。

中小企業経営者や個人事業主が抱える資産運用や相続、税務、労務、投資、保険、年金などの多岐にわたる課題に応えるため、マネーイズム編集部では実務に直結した具体的な解決策を提示する信頼性の高い情報を発信しています。

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