「廃業やむなし」。待ってください。
M&Aで、意外な“買い手”が現れるかも

「廃業やむなし」。待ってください。  M&Aで、意外な“買い手”が現れるかも

2017/10/10

 
  • Facebookでシェア
  • Twitterでシェア
  • LINEでシェア

中小企業経営者の高齢化に伴い、事業承継をどうするのかが、大きな問題になっています。子どもや従業員などにうまくバトンタッチできればいいのですが、現実はそれが困難で、せっかく起こした事業の継続を断念するケースも、少なくありません。そうした状況を踏まえて、近年注目を集めているのが、事業を他の会社に買ってもらうM&Aです。とはいえ、相手を探すのは簡単なことではありません。そもそも、「赤字続きのこんな会社を買うところなど、ないだろう」と思い込んでいる経営者も多いはず。しかし、中小企業向けM&Aにユニークな手法でアプローチする梶浦潮先生(税理士法人Bricks&UK)は、「世の中には、“仲介役”の我々も想定外のニーズがあります。諦めるのは早い」と話します。

中小企業でも身近になったM&A

不動産売買と同じく、「売り手」「買い手」、そして「仲介者」がいる


今回は、中小企業のM&Aを事業として展開なさっている梶浦先生に、その現状と展望についてうかがっていきたいと思います。まずあらためて、「M&Aとは何か」について説明していただけますか。

「Mergers and Acquisitions」、すなわち企業の「合併」「買収」のことを言います。前者では、買収企業が存続会社になり被買収企業は消滅しますが、後者の場合は、買収企業が被買収企業の過半数の株式を買い取り、その支配権を得ることになります。
 一般論で言うと、M&Aの最大のモチベーションは、買収企業の事業の拡大にあります。既存分野を、他社の技術や販売網などを手に入れることで抜本的に強化したり、M&Aにより関連する新規事業への進出を図ったり。

自らに足りないものを、外の事業を買うことで補うわけですね。

そうです。この手法が注目され始めた要因の1つは、経済環境の変化だと私は感じています。かつては、お金を借りてきて、自分の得意なものをつくったり、サービスを提供したりしていれば、どんどん売れたんですね。ところが、市場が成熟してくると、そのやり方で売上を伸ばすのは、難しくなりました。他とは違うことを、しかもスピーディに展開しないと、成長できない時代になったわけです。そうなった時に、M&Aという手段が、ある意味必然的に脚光を浴びるようになったのではないでしょうか。
 ただし、やりたいと思っても、そう簡単にいかないのもM&Aなのです。最大の問題は、「相手を探すのが容易ではない」ということなんですよ。

確かに、自分の事業に貢献してくれる会社を自分で探すのは、大変だと思います。

私は、企業のM&Aは、不動産売買と構造がそっくりだと思うのです。「売り手」がいて「買い手」がいて、取引されるは「土地・建物」。M&Aでは、これが「会社・事業」に置き換わっただけです。ただし、両者で差のあるのが、「仲介業者」の力なんですよ。土地の売買取引には長い歴史がありますから、売り手と買い手をマッチングする不動産業が、しっかり機能しています。
 ところが、M&Aの場合は、この仲介役が未発達でした。どこかの会社を買いたくても、あるいは事業売却を考えても、現実問題として成約のハードルは高かったのです。ただ、M&Aの仲介専門の上場企業も現れるなど、大企業向けのインフラは一定の整備が進みました。

中小企業の事業の「出口」は限られる


では、中小企業はどうかというと、「買い手」の側の経営者の意識は、まったく変わりません。「M&Aで事業を成長させたい」というニーズは、けっこう前からあったのです。でも、我々がこの分野の事業に乗り出した5年ほど前には、ニーズはあっても「僕たちには関係ないでしょう」とおっしゃる方が大半だったんですよ。
 その意識が、ここ何年かで大きく変化してきたというのが私の実感です。今は30代、40代の経営者の方を中心に、「いい買収先があったら、教えてください」というのが普通になりました。中小企業にとっても、M&Aはかなり身近なものになっていることを実感します。

そうなったのは、先生の事務所も含めて、中小企業向けのM&Aのインフラが整ってきたからですか?

それもあると思いますが、加えて中小・零細企業の場合には、「売り手」側の事情、意向が大きく影響しているのも事実だと思います。ここにきて、いわゆる団塊の世代といわれる人たちをはじめ、戦後に起業した経営者の方々が、リタイアの時期を迎えています。そこで、自らが営んできた事業をどうするかが、差し迫った問題になっているわけですね。
 この場合、事業の行く末=「出口」は、基本的に次の5つのうちのどれかになります。子どもや従業員などへの事業承継、株式の上場、廃業、倒産、そしてM&Aです。

事業承継がスムーズにいけば、言うことなし。上場して、広く経営者や投資家を募るというのも夢のある話ではありますけれど、よほど高い技術力があるとか、強固な需要を確保しているとかでないかぎり……。

現実には、ハードルは高いです。廃業は、負債などを完済して会社を閉じること。資金繰りがつかなくなって、取引先への代金や従業員への給与なども支払えなくなって経営不能に陥る倒産よりはマシですが、それでも関係先には大なり小なり、「迷惑」を及ぼすことになるでしょう。路頭に迷う従業員が出るかもしれません。

高齢になってから、裸一貫立ち上げた会社を「潰して」しまったという精神的ダメージも、無視はできませんよね。

そうした事情を背景にクローズアップされてきたのが、M&Aという「第5の選択肢」なのです。ですから、このところの中小企業のM&Aに対する関心の高まりは、決してブームなどではなく「必然」だと私はみているんですよ。

若い経営者を中心に、「どこかの事業を買いたい」という意欲は強い。他方、売り手の側も、事業承継というやむにやまれぬ事情も含めて、その「市場」に期待を高めているというわけですね。

M&Aには3つのやり方がある


ところで、ひと口にM&Aといっても、いくつかの方法があると聞きます。

簡単に整理しておきましょう。会社を丸ごと引き継ぐ場合には、「合併」「株式売却」「株式交換」という3つが、具体的なやり方になります。
 売り手の側から説明すると、「合併」は、会社の権利義務などの全部を譲ります。債権、債務も、そのまま買う会社が引き継ぐことになります。従業員も引き続き雇用されるので、彼らが失職することはありません。ただし、自分の会社は、名実ともに消えてなくなります。
 他方「株式売却」は、自分が保有する自社株を、他社に売却するやり方です。これだと、会社は株主が変わるだけ。中身は売却前と何も変わりません。会社の経営は、新しい株主が選任した経営陣が担当することになります。
 「株式交換」は、自社株の全部を他の会社に取得させることで、その会社の完全子会社になる方法です。「取得させる」対価として、子会社の社長は親会社の株式ないし現金を受け取るんですね。この場合も、子会社になったというだけで、会社の中身は従来と変わりません。

買い手、売り手、双方の意向などを考慮しながら、選択していくわけですね。

そうです。なお、この他に事業の一部を売買する事業譲渡というやり方もあるのですが、それについては後述したいと思います。

赤字会社に買い手がついた! 誰も予想できなかったその理由

大企業と同じやり方では、マッチングできない

「廃業やむなし」。待ってください。  M&Aで、意外な“買い手”が現れるかも

まあ、M&Aに関しては、テクニカル面でのあれこれもあるのですけれど、一番重要かつ難しいのが、さきほども述べた「最適の相手を見つける」ということなんですよ。大手のM&A仲介業者さんも、ここに時間と労力を投入するわけですが、「手数料ビジネス」ですから、結果としてそれなりの売買金額になる案件であることが、必要条件になります。中小企業同士のM&Aでは、ほとんどの場合、ペイできないでしょう。

中小企業のM&Aのマッチングには、上場大企業などとは違うインフラが必要だということですね。先生の事務所では、どんなやり方を採用されているのですか?

「カフェ1店舗からのM&A」というのが、当事務所のキャッチフレーズなんですね。このスタイルにぴったりなのが、実はインターネットです。まず、何らかの事業の買収に興味を持っている方に、専門のサイトに登録してもらいます。この人たちは、当事務所のお客さまのルートの他、当事務所ホームページを通じて「勧誘」します。

募集を見て「いいな」と思った人が、登録するわけですね。

そうです。どんな業種の方が、どういう意図をもって登録しているのかなどについては、こちらも把握しているわけではないのですが、現在ユーザーは4000ほどになったでしょうか。一方、「うちの事業を売りたい」「事業承継に苦労している」といった方が現れると、すぐにその業種や事業の中身などを可能な限り詳しく記した資料を作成し、その4000人に向かってメール配信するんですよ。それを見て、「この社長に会って話を聞きたい」という人がいたら、その場をセッティングする――という非常にシンプルなつくりになっています。当事務所では、「M&Aバンク」と名付けているのですが。

そのシンプルさで、買い手の手は上がるものですか?

そういう感想をお持ちになるのは、よくわかります(笑)。でも、こちらの想像以上に、お問い合わせの件数は多いんですよ。さきほどの「中小企業でもM&Aが身近になった」というのも、そのあたりを根拠にしたお話なのです。現在、当事務所関連の成約数は、年に20件ほどなのですが、登録ユーザーが増えていけば、それに比例して伸びていくという感触を持っています。
 それにしても、実際にこのビジネスを始めて感じるのは、「世にM&Aの種は尽きまじ」ということなんですよ。ニーズは多種多彩。「こんなM&Aもあるんだ」という“目からウロコ”の案件も、たくさんありました。

“ダメモト”で「売り」に出してみたら……


そんな事例を紹介いただけますか。

わかりました。ちょっと前の案件なのですが、当事務所のお客さまで、東海地方の魚市場で卸売業をなさっている小さな会社があったんですね。ただ、業界環境は好景気とはいえず、赤字続きの状態でした。経営者が高齢化する中、後継者もおらず、先行き環境が好転する気配も感じられないため、「もう“店じまい”しようか」という話が持ち上がっていました。
 とはいえ、市場に入って競りをするというのは、誰でも自由にできることではないし、廃業するとなると、さきほどお話ししたようなデメリットも覚悟しなくてはなりません。そこで、「どうせ店を畳むのなら、その前に“ダメモト”で配信をかけてみてほしい」という話になったんですよ。正直、我々もそんなに期待していなかったのですが、「では」とやってみたら、すぐに複数のユーザーから手が上がったのです。

赤字会社なのに。どんなところが「買い」を入れたのでしょう?

ほとんどが飲食関連です。話し合いの末、最終的に「落札」したのは、居酒屋チェーンでした。その会社もたまたま当事務所のお客さまだったので、詳しく話を聞くことができたのですが、このM&Aの目的は、ズバリ魚の仕入れ値のカットにありました。
 店で提供する魚は、市場の卸売業者から仕入れます。その値段には、通常なら業者のマージンが乗ってくるわけですね。しかし、市場での競りの権利も含めて、卸売部門を丸ごと自分で持てば、それは必要なくなります。社長の目算は当たり、M&Aによって居酒屋チェーンの原価率は3%下がりました。飲食業で原価率の3%ダウンというのは、かなり画期的なことでしょう。

店は魚を安く仕入れるルートを確立し、片や黙っていればただ消える運命にあった会社が売れて、そこで働く人の雇用もとりあえず守られた。両者にとって、Win-WinのM&Aだったわけですね。

卸売業者のほうは、赤字会社である自分たちにそんな価値があるなんて、露ほども思っていなかった。繰り返しになりますが、我々もそんなニーズには、まったく気づかなかったんですよ。いろんなことを勉強させられた案件でもありましたね。

川上・川下の補強も、横展開もある


今の事例は、事業の川上分野を獲得するためのM&Aでした。

反対に、川下強化のM&Aというのもあります。従業員5人ほどの、金属加工をやっている町工場がありました。加工といっても、何か特別な技術を持っているわけではなくて、鉄板をいろんな形に削ったり、曲げたりするだけ。当然、そんなに儲かるわけはなく、言葉は悪いのですけど、いつ潰れてもおかしくないような経営状態でした。

それだけ聞くと、とてもM&Aの対象になるとは思えません。

そうですよね。ところが、この会社もイチかバチかで配信してみたら、ちゃんと買い手が現れたんですよ。手を上げたのは、鉄板の卸売会社でした。ここも業界環境は厳しくて、何か事業を差別化できないか、考えあぐねていたんですね。
 目を付けたのは、「鉄板を削り、曲げる」という、町工場の機能でした。鉄板を仕入れて売るだけなら、同業他社と同じ。でも、そこに簡単な切削加工の技術が加わるだけで、「他にはない卸売会社」になれるのです。

お客さまの求めに応じて、加工を施した製品を売ることができるから。

しかも、「職人が5人」という規模が、この場合にはベストでした。大きな工場では、コストがかかりすぎるし、逆に非効率になってしまうのです。

普通は弱点と思われるところが、その会社にとっては、大きなメリットだったわけですね。

どんな会社にも、自分で気づかない「いいところ」があるということではないでしょうか。
 成功したM&Aには、このように自分の川上やあるいは川下の機能を手に入れることで事業を強化するという事例が、けっこう多いですね。後は、同業者を買うというのも、オーソドックスなパターンと言えるでしょう。
 地方の、従業員が10人に満たない印刷会社があって、やはり後継者がいないので、このままいけば廃業という状態でした。ところが、我々のスキームに乗せてみたら、買い手がついた。もう少し規模の大きな同業の会社でした。そのエリアを新たな商圏にしたいというのが、買収の動機でした。

いくつかの事例をうかがって、M&Aに関しては「隠れたニーズ」が数多く存在することが理解できました。

もちろん、リスクもあるM&A

事業を「切り売り」するという手もある


さて、ここまでお話ししてきたのは、ある会社を丸ごと買うパターンです。最初のほうでお話ししたように、売り手の株式を取得することで、その事業や経営権を手にするわけですね。でも実際には、様々な事情で、そうすんなりといかないことも、少なくありません。
 例えば、売り手が、どう考えても将来性のない不採算部門を抱えているとか、莫大な借入金を残しているとか、従業員の残業代を一部未払いのままにしているだとか。売りに手を上げる中小・零細企業は、いろんな問題をはらんでいることが、現実にはあるわけですね。その状態で株の譲渡を受けたら、そうしたリスクも、丸ごと譲り受けることになってしまいます。

その状態では、そもそも買い手を探すのは難しそうです。

そうしたケースで有効なのが、一部の事業だけを売却する「事業譲渡」なんですよ。黒字の部門、あるいは買い手が欲しいと感じる事業などを、いわば「切り売り」することができるのです。
 売れなかった事業については、清算に向けた処理が必要になりますが、たとえ一部でも譲渡代金を手にすることができるのは、売り手にとってはありがたいこと。もちろん買い手には、余計なリスクを背負い込まずに、自社の成長に寄与する資源を獲得できるというメリットがあります。

大赤字を垂れ流す部門を抱えていたりしても、チャレンジの道は残っているというわけですね。

買い手が絶対に欠かしてはならない「デューデリ」とは何か?


逆に、買い手のほうは、「欲しい事業」に目がくらんで、背後のリスクに気づかず株の譲渡を受けた――といった事態は、避けなくてはなりません。

そこで不可欠なのが、デューデリジェンス、略して「デューデリ」です。ひとことで言えば「公認会計士や税理士、弁護士などによる買収対象会社の事前調査」のこと。売り手企業の財務状況や事業リスクなどを、専門家の目でチェックするわけですね。
 多少のコストはかかりますけど、M&Aをやろうと思ったら、このデューデリは必須だと思ってください。大企業の場合には、サラリーマンの原理、すなわち「とにかく問題を起こさないことが第一」という思考回路が働きますから、デューデリなきM&Aはありえません。ところが、中小企業経営者には「リスクを取ってナンボ」という発想でやってこられた方も多く、口を酸っぱくして「デューデリをお願いします」と言っても、この工程をスルーする人が、たまにいらっしゃるんですよ。結論から申し上げれば、そういうM&Aは、後で必ず問題が発覚して、揉め事に発展します。

売る方は、自分の問題点はできるだけ隠して成約に持ち込みたいでしょう。トラブルになったような事例をご存知ですか?

顧問先のある塗装会社が、塗料メーカーを買いたいという話になったんですね。さきほど例に出した居酒屋チェーン同様、川上にアプローチしたわけです。ところが、デューデリを省いて買ってしまった。社長にしてみれば、「買収金額もそんなに大きくはないし、いい買い物だ」という軽い気持ちだったようなのですが……。M&Aから1ヵ月後に、大きな騒動が持ち上がりました。
 なんとそのメーカーは、塗料の製造過程で出た廃液を、直接川に流していることがわかったのです。当然なされるべき産業廃棄物としての処理が、行われていなかったんですね。明らかな違法行為にもかかわらず、買った会社は塗料の専門家ではありませんから、ぜんぜん見抜けなかったのです。

それは、「債務が見つかった」とかいうのとは、別次元の問題ですね。

へたをすれば、塗装メーカーが納入先から取引停止をくらうかもしれない、という大事件です。会社のためにと思ってやったM&Aが、とんでもない事態を招いてしまいました。
 結局その会社は、廃液の浄化対策を余儀なくされ、初期の設備投資だけで数千万円の出費になりました。処理のランニングコストなどを含めると、「買わなければよかった」というのが結論です。
 デューデリの重要性、逆に言うとそれを軽視することの恐ろしさが、わかっていただけるでしょうか? M&Aをやろうとしたら、最低限、相手のことはしっかり調べましょう。会計まわりのみならず、会社そのものを精査する姿勢を持ってもらいたいと思うのです。

M&Aインフラが充実してきて、知らない者同士の出会いの可能性が広がるのは素晴らしいことですが、それだけリスクに遭遇する機会も増えているということは、頭に置いておく必要がありそうです。

M&Aという選択肢を視野に入れた準備を

しっかり準備すれば、高く売れる

「廃業やむなし」。待ってください。  M&Aで、意外な“買い手”が現れるかも

すでにお話しになられたように、中小企業の場合は特に、事業承継の1つの手法としてM&Aへの注目が高まっているんですよね。

そうです。ただ、注目は高まっているのですが、実際には事業承継を考えるべき段階にありながら、さきほど申し上げた事業の「出口」をきちんと認識した準備を進めているかというと、そうなっていない会社もたくさんあるわけです。「なんとかしなければ」という思いは頭の片隅にありつつも、日々の仕事に没頭するうちに時は過ぎ、高齢になって自分がこれ以上事業を続けるのは難しい、後継者もいない……。

それも、けっこう多いパターンではないかと感じます。

そんな状況に追い詰められてから、当事務所に「駆け込んで」くる方もいます。「M&Aバンクというのを聞いたのだけど、うちも配信してもらえませんか?」と。そういう方は、40代、50代の女性が多いんですよ。創業者の娘さんです。「男兄弟はいないし、自分の夫はサラリーマンで、事業を継ぐ気持ちはないし」というわけですね。

とてもリアルなお話ですが、その段階でできることは、会社の状況次第ということになりそうです。

ケースバイケースとしか、言いようがありません。もちろん全力を尽くしてマッチングを試みますが、選択肢や可能性は、かなり限定される場合が多いと思います。
 逆に、5年ぐらい前からゴールを定めて準備していけば、買い手もつきやすいし、自分の会社を高く売ることもできるんですよ。ある会社にいくらの価格を付けるかという「値付のルール」は複数あるのですが、「直近の時価ベースの純資産に、営業権をプラスした価額」というのが、商習慣的によく使われるんですね。「営業権」は、「過去3~5年平均の税引き利益×3(~5)」で計算されます。
 ここで1つポイントになるのは、この営業権が、直近期の利益を重視するようにウエイトづけされて算出される、ということなんですよ。つまり、M&Aに近い期の業績が良ければ、それだけ高い評価を得ることができるのです。

なるほど。5年前から準備を始めれば、そういうことを視野に入れながら経営を行うこともできそうです。

単に付け焼刃の「売買対策」を行うというのではなく、M&Aに向けて会社の組織体制や収益体質をしっかり再整備する、という意味合いがあると思うのです。

そういう思いは、買い手にも通じるかもしれません。いずれにしても、時間が限られる中で「仕方なくM&Aをやる」というのとは、結果に雲泥の差が出るのではないでしょうか。

「必要のない会社」はない


M&Aの可能性を中心にお話をうかがってきましたが、あらためて、先生は「M&Aのメリット」って何だとお考えですか?

創業者にとっては、とにかく売買代金が手元に残るということですよね。その後の人生を歩む上で、大きな支えになるはずです。

少なくとも、廃業して何も残らなかったというのとは、大違いです。

ただ、最もメリットを享受するのは、社会ではないかと思っているんですよ。そこで働く人たちの生活はもとより、地域社会を支える一翼を担ってきた会社が、たまたま後継者難に陥った結果、消えていかざるをえない。M&Aによって、そんな会社を残すことができるわけです。社会的に必要な技術、専門性が、それで救われることもあるでしょう。
 逆に言えば、世の中に「不要な会社」はないということを、このビジネスを始めてから日々実感させられています。論より証拠で、いくつか実例も挙げましたけど、世間一般では「もう無理だろう」と思われるような会社が、見事に「生き返る」のですから。
 まずは、M&Aについてもっとよく知ってほしい。その上で、「事業に将来性がない」「赤字だから」と可能性に蓋をするのではなく、どこかにその事業を求めている人がいることに確信を持ってもらいたい――。それが、私からのメッセージです。
  • Facebookでシェア
  • Twitterでシェア
  • LINEでシェア
全国の税理士を無料でご紹介しています
税理士紹介ビスカス