不動産を売った場合にかかる税金は、ざっくり言って、「売った価格-買った価格」の差額=譲渡所得をベースに計算されます。ところが、売買契約書を失くしたりして、「買った価格」がわからなければ、税額が大きく膨らむ「概算取得費」を使った納税を余儀なくされるかもしれません。引き続き、三園明先生(三園明税理士事務所)に、その怖さを語っていただきます。
いったん払った税金は取り戻せない!?
~不動産譲渡所得が生む「悲劇」・その2~
2019/2/14
「概算取得費というやり方がありますよ」
不動産を売ったのはいいけれど、いくらで買ったのかがわからないと、税金を多く支払うことになるかもしれないというのが、前回のお話でした。
「悲劇」の続きを、例えばで説明してみましょう。前の年に不動産を売ったため、確定申告が必要だと気づいたAさん。ところが、どこを探しても、売買契約書や領収書が見当たりません。仕方なく、申告期限が5日後に迫った3月10日、税務署の納税相談コーナーに出かけました。
Aさん『申告をしたいのですが、税務署の「あらまし」に書いてあった、取得価格を証明できる契約書などが見当たらないのです。どうしたらいいでしょうか?』
相談員『取得価格がわからないときには、お売りになった金額の5%を取得費として計算して、申告することができますよ。国税庁のホームページにも出ていますから、確認してみてください。』
Aさん『え、5%? 1億円で売れたのだけど、取得費はたった500万円しか認めてもらえないのですか? 購入価格は6000万円です。はっきり覚えているんですよ。』
相談員『そう言われましても、もう申告期限ギリギリですしねえ……。』
結局Aさんは、渋々この概算取得費を適用し、期限内に申告を行いました。さて、このAさんの申告は、正しかったでしょうか?
間違ってはいませんよね。
はい。申告自体は正しいものです。でも、税務署の相談コーナーではなく、私のところに来ていただけたら、概算取得費を使わずに済んだはずです。
「正しい申告」がアダになった
でも、購入価格を証明できるものがないのですよね。しかも、申告期限までもう日にちがない……。
それでも、このケースでは、実際の購入価格をベースにした「実額法」で申告できた可能性が多いにあるんですよ。どうするのかについては、次回お話しするとして、Aさんのその後に、話を進めましょう。実はAさんも、申告後に実額法でOKだったかもしれないことに気づきました。そこで、払い過ぎの税金を返してもらおうと考えたんですね。これを「更正の請求」と言います。では、Aさんのこの考えは、正しいでしょうか?
残念ながら、答えは「ノー」です。更正の請求ができるのは、あくまでも税法の適用の誤りや、税額計算のミスなどがあった場合に限られます。このケースでは、税法に則った正しい申告がされていますから、更正すべき理由がありません。ですから、恐らく認められません。
残念ながら、答えは「ノー」です。更正の請求ができるのは、あくまでも税法の適用の誤りや、税額計算のミスなどがあった場合に限られます。このケースでは、税法に則った正しい申告がされていますから、更正すべき理由がありません。ですから、恐らく認められません。
「恐らく」とおっしゃるのは?
国税通則法を厳格解釈すると、議論の余地なくアウト。ですが、最近は課税当局も納税者に「寄り添う」スタンスなので(笑)、更正の請求を門前払いにするようなことはないでしょう。しかし、認められるハードルは極めて高い、ということです。
例えば、2014年3月に国税不服審判所(※1)が出した裁決があります。概算取得費で申告した後、「市街地価格指数」に基づいて不動産購入価格を推計して更正の請求を行ったケースなのですが、結果はやはり「ノー」でした。推計した金額が、適切に当時の不動産の時価を表しているとは言えないので、概算取得費による申告が適切でないとは言えない、という理由でした。
要するに、更正の請求をする場合には、購入価格の推計計算が、ピンポイントで時価と一致していなければNG、ということなんですね。
例えば、2014年3月に国税不服審判所(※1)が出した裁決があります。概算取得費で申告した後、「市街地価格指数」に基づいて不動産購入価格を推計して更正の請求を行ったケースなのですが、結果はやはり「ノー」でした。推計した金額が、適切に当時の不動産の時価を表しているとは言えないので、概算取得費による申告が適切でないとは言えない、という理由でした。
要するに、更正の請求をする場合には、購入価格の推計計算が、ピンポイントで時価と一致していなければNG、ということなんですね。
それを証明するのは、実際には困難でしょうね。
そうなんです。ただ、2017年12月には、同じようなケースで、国税不服審判所が購入時の不動産業者に質問検査権というのを行使して、過去の取引台帳を調べたうえで納税者側の主張を一部認めた裁決を出したんですよ。審判所があそこまでやったのには、正直驚いたのですが。
その裁決が、判例のように受け継がれることはあるのでしょうか?
いや、そう甘くはないでしょう。あくまでも例外中の例外とみるべきです。つまり、譲渡所得は、いったん概算取得費で申告してしまったら、それでジ・エンド。税の払い過ぎがあったとしても、取り戻せないと思ってください。
ちなみに、取得費は、購入価格などをベースとする実額法が原則で、概算取得費は通達に定められた例外なんですね。さきほどの税務署相談員の「売った金額の5%とすることができます」という言い方がミソで、あくまでも任意の申告方法なのです。そうである以上、例えば実額法で申告した後に、税務署と揉めるようなことがあっても、彼らが概算取得費による更正処分(※2)をしてくるようなことはありえない、ということを付け加えておきましょう。
ちなみに、取得費は、購入価格などをベースとする実額法が原則で、概算取得費は通達に定められた例外なんですね。さきほどの税務署相談員の「売った金額の5%とすることができます」という言い方がミソで、あくまでも任意の申告方法なのです。そうである以上、例えば実額法で申告した後に、税務署と揉めるようなことがあっても、彼らが概算取得費による更正処分(※2)をしてくるようなことはありえない、ということを付け加えておきましょう。
※1国税不服審判所
税務署や国税局などの執行機関から分離された別個の機関として、国税に関する法律に基づく処分に対する審査請求について採決を行う機関。
※2更正処分
納税者の提出した申告書の内容に誤りがあると判断された際に求められる修正申告に応じなかった場合に、税務署が納税額の修正もしくは決定を行う手続き。
- 税理士・税理士事務所紹介のビスカス
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