さまざまな理由で膨らんでしまった税金の滞納分を申告し、納税計画を立案して税務署と交渉し、分割納税を認めてもらえた。とりあえず、財産の差押えも免れた。でも、それでハッピーエンドとはいかない場合もあります。どう頑張っても、やっぱり納税はできそうにない、という事態になるかもしれません。林聰先生(林会計事務所)は、「その場合でも、打つ手はあります」と言います。
滞納の一掃は、再出発のため ~どうしたらいいのか?
税金の滞納・その3~
2019/4/9
状況によっては、滞納処分そのものが止まることもある
前回、滞納した税金の支払いを猶予してもらえる場合がある、というお話をうかがいました。ただ、あくまでも猶予ですから、分割であろうが納税はしなくてはなりません。本当にお金がなくて、それ自体が無理というケースもあると思うのですが。
その場合にどうなるのか? これは事例でお話ししましょう。相談に来られた方は、滞納額が1億円近くありました。
ずいぶんためてしまいましたね。
ところが、元請けに仕事を切られて、事業収入はほぼゼロの状態。ただ、それなりに預金はあったので、前回お話しした「換価の猶予」を申請して、滞納分を分割で支払っていくことにしました。新たに事業計画を作り、事業資金と生活のための報酬はこれだけ必要だとはじいて、税務署と掛け合ったわけですね。ここで、税務署に対していかに合理性のある説明ができるかが、大事なところです。
でも、結局新しい取引先は見つかりませんでした。会社のお金はどんどん目減りして、ついには底を突く状態になってしまったのです。
でも、結局新しい取引先は見つかりませんでした。会社のお金はどんどん目減りして、ついには底を突く状態になってしまったのです。
納税資金もなくなってしまった。
そうです。そこで税務署にお願いしたのが、「滞納処分の停止」なんですよ。督促から始まる差押え、公売といった一連の流れを、すべてストップしてもらうのです。「してもらう」といっても、あくまでもこれは税務署側の判断、手続きで、滞納者が申請するという性格のものではありません。
ポイントは、会社が無財産の状態にあるのかどうか。滞納処分の執行により「生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき」「滞納者の住所又は居所及び財産がともに不明な場合」(国税徴収法)といった要件も定められています。この方の場合は、本当に差押えるべき財産がなくなりましたから、停止が認められました。
ポイントは、会社が無財産の状態にあるのかどうか。滞納処分の執行により「生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき」「滞納者の住所又は居所及び財産がともに不明な場合」(国税徴収法)といった要件も定められています。この方の場合は、本当に差押えるべき財産がなくなりましたから、停止が認められました。
その状態で、仮に取引先が見つかって売上が立つようになったら、どうなるのでしょう?
そのときは、滞納処分の停止は解除され、再び納税の必要が生じます。ただし、3年間会社に収入がないような状態が続けば、納税は免除。
その方は、滞納分の支払いは免除になりました。その間、個人のアルバイトで食いつなぎ、数年後に新しい会社を設立して、別の事業を始めることができたんですよ。
その方は、滞納分の支払いは免除になりました。その間、個人のアルバイトで食いつなぎ、数年後に新しい会社を設立して、別の事業を始めることができたんですよ。
その道に詳しいプロに任せるのが、ピンチ克服の道
こんな事例もありました。個人事業で飲食店をやっていた方が、やはり5年分、3000万円ほどの滞納を抱えて、相談にいらっしゃいました。すでに申告をしていて、しかも税務調査(※)も行われ、修正申告もされていた。
ちなみに、申告内容を見ると、税務署もちょっとやり過ぎだろうという内容だったんですよ。申告の前に来てくれたら、滞納額自体を減らせたケースでした。
ちなみに、申告内容を見ると、税務署もちょっとやり過ぎだろうという内容だったんですよ。申告の前に来てくれたら、滞納額自体を減らせたケースでした。
税務署には誠実に対応しなければいけないけれど、すべて言いなりになっていると、思わぬ負担を背負い込むこともあるわけですね。
ところで、この方は、脳梗塞で倒れて入退院を繰り返している状況でした。実際に店を切り盛りしていたのは、奥さんだったのです。滞納者が病気ですから、この場合は前回の「納税の猶予」の手続きをして、コツコツ返していくことにしました。
しかし、ご主人は高齢だし、そういう形で納税を続けていくのはきつくなってきた。そこで、今ある個人事業は廃業して、新たに奥さんに会社を立ち上げてもらうというプランを作って、税務署と交渉したのです。
しかし、ご主人は高齢だし、そういう形で納税を続けていくのはきつくなってきた。そこで、今ある個人事業は廃業して、新たに奥さんに会社を立ち上げてもらうというプランを作って、税務署と交渉したのです。
その場合、滞納分は免除されるのですか?
ええ。結果的に税務署も、それを認めてくれました。
実は「滞納処分の停止」には、「第二次納税義務」という要件もあって、例えば同じ屋号、場所、事業を行う別会社を作って、それを親族に任せたとします。そのような場合には、もし元の会社に滞納があれば、一定の支払い義務も親族に引き継がれることになるのです。
実は「滞納処分の停止」には、「第二次納税義務」という要件もあって、例えば同じ屋号、場所、事業を行う別会社を作って、それを親族に任せたとします。そのような場合には、もし元の会社に滞納があれば、一定の支払い義務も親族に引き継がれることになるのです。
免除にはならないわけですね。このケースも微妙です。
でも、税務署にとっても、ちゃんと支払われる保証のない滞納分を追いかけるよりも、新しい会社で稼いだ分を確実に納税してもらうほうが、メリットがあるはず。そう考えて、彼らとはかなりざっくばらんな話もしたんですよ。
もちろん、滞納者の状況や金額などによって、税務署の判断はまちまちでしょう。どんな場合でもこのやり方で切り抜けられるとは限りません。
もちろん、滞納者の状況や金額などによって、税務署の判断はまちまちでしょう。どんな場合でもこのやり方で切り抜けられるとは限りません。
最終的に決めるのは、税務署ですから。でも、それだけに、この分野に詳しい専門家にお願いすることが、とても大事だと感じます。
滞納処分に関連するメインの法律を国税徴収法というのですが、これを深く勉強した税理士さんは、そんなに多くないはずです。
ただ、私は滞納の解消にメドがついたからそれで終わり、とは考えていません。本当に大事なのは、そこからどうやって再出発していただくかなんですね。宣伝みたいになってしまいますが、常にそういう視点に立ったサポートを心掛けていたいと思っているんですよ。
ただ、私は滞納の解消にメドがついたからそれで終わり、とは考えていません。本当に大事なのは、そこからどうやって再出発していただくかなんですね。宣伝みたいになってしまいますが、常にそういう視点に立ったサポートを心掛けていたいと思っているんですよ。
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