競馬や競輪の払戻金が「一時所得」とは「通達」に明記されており、確定申告時に収入から差し引けるのは、「当たり券」の購入額のみ。それが税務当局の見解です。ところが、それとは異なり、「外れ馬券も経費として認める」という最高裁判決がありました。いったい、どういうことなのか? 今回も田邉達也先生(田邉達也税理士事務所)にうかがいました。
「外れ馬券も経費にできる」という判決は
あったけれど~「競馬と税金」の真実・その2~
2019/4/3
「競馬の払戻金=雑所得」が認められた
確かに、競馬の高額配当金の納税をめぐって争った裁判がありました。
まず、2015年3月10日に最高裁判決が下った事例で、公訴された3年間で競馬で約1億4000万円の稼ぎがあったのにまったく申告しなかった男性が、国税局の査察を受けて所得税法違反で告発された、という刑事事件でした。検察の求刑は、懲役1年。
競馬をやって刑事告発というのも、怖い話ではあります。判決はどうだったのですか?
有罪ながら、懲役2ヵ月・執行猶予2年と、大幅に軽減されました。ポイントは、1億4000万円が、前回説明した「一時所得」か「雑所得」なのか、という点です。
この男性は、市販の競馬予想ソフトに改良を加え、ネット上でJRA全競馬場のほぼ全レースの馬券を無差別に購入する、という買い方をしていたんですよ。裁判所は、これを「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」すなわち雑所得と認定したのです。だから、外れ馬券の購入費用やソフトの利用料金なども、経費として認めた。その結果、脱税額は、一時所得であることを前提に起訴された約5億7千万円から約5,200万円に減少しました。
この男性は、市販の競馬予想ソフトに改良を加え、ネット上でJRA全競馬場のほぼ全レースの馬券を無差別に購入する、という買い方をしていたんですよ。裁判所は、これを「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」すなわち雑所得と認定したのです。だから、外れ馬券の購入費用やソフトの利用料金なども、経費として認めた。その結果、脱税額は、一時所得であることを前提に起訴された約5億7千万円から約5,200万円に減少しました。
そのぶん刑が軽くなったわけですね。
この判決は「払戻金=雑所得」という道を開いた意味で画期的と言えるでしょう。
そして、2017年12月15日の最高裁判決でも「払戻金=雑所得」という解釈が再び示されました。ネットを介して馬券を購入できるサービスを使って、6年間にわたって年間数億円から数十億円の馬券を買い続け、いずれの年も回収率は100%を超え、利益は多い年には2億円に上っていた事案です。
この方も申告はしていなかったのですか?
いいえ。この方は、払戻金を雑所得として、外れ馬券の購入代金も必要経費として控除したうえで、確定申告を行っていました。ところが、国税からは一時所得であると否認され、およそ2億円近い追徴課税を言い渡されてしまっていたのです。
でも結局、雑所得として認められたわけですね。
この方は、予想ソフトなどは利用せず、独自に競走馬や騎手、コースなどの情報を収集、分析して、レースごとに着順を予想して馬券を購入していたのです。ソフトウエアを使用しなくても雑所得の可能性が開けたという意味で画期的かもしれません。
税務当局側からすると、手痛い連敗に思えます。
しかしながら、その判決からわずか5日後の2017年12月20日には「払戻金=一時所得」という最高裁判決がありました。この方も払戻金自体は1億円に迫る年もあるなど、毎年数千万単位でそこそこ高額だったのですが、回収率が100%に満たないこと、そして、判決から推測するに、他に高額な所得がある馬主資格を有する方なので「馬主の道楽であり、一般の競馬愛好家と変わらない」ということからのようです。
「一時所得」の原則に変わりはない
前回、税務当局が「競馬や競輪の払戻金は一時所得」という例示の通達を出している、という話をしました。実はこれらの経緯を受けて現在は、その通達に払戻金が雑所得に該当する要件の注意書きが付けられています。
「馬券の払戻金も、場合によっては雑所得として認めますよ」というように、国税が姿勢を転換させたということなのでしょうか?
決してそうではなく、税務当局側は雑所得に該当するのはあくまでもレアケースという考えのようです。流れが前後して申し訳ありませんが、2016年には、競馬で得た4億円超の利益を申告しなかった男性が、地検特捜部に摘発されるという事件がありました。この事例では、外れ馬券は経費として認められなかったんですよ。馬券の購入方法が、基本的に100円単位というふうに、「普通」だったからです。
なるほど。では、雑所得として認められるケースとは?
現実問題として、さきほどお話しした「一時所得の例示通達」の「注」に該当するよう人は、まずいないわけです。そもそも最後まで読むのを挫折しそうな文書ですが。あらためて雑所得として認められた2つの例を考えてもらえば、いずれも周到な準備や計画、計算に基づいて、長期間大金を注ぎ込む、という極めてレアな買い方であることがわかるでしょう。少なくとも現状では、「馬券の払戻金は一時所得」という原則に、なんらの変更もないと考えてください。
そうでなければ、雑所得とは認められないということですね。
はい。「外れ馬券も経費になるという判決があった」というところだけを切り取って解釈するのは、現状では間違いです。
断片的な情報だけでなく、きちんとした認識が必要だと改めて思います。
話は変わりますが、今年の1月、国税庁のホームページに『公営競技の払戻金の支払を受けた方へ』というリーフレットが、突然掲載されました。「競馬、競輪、オートレース、ボートレースの払戻金は、一時所得として確定申告が必要となる場合があります」とあり、その計算方法などが大きな字で、易しく書かれていて、計算のためのエクセルシートまでついています。ちょっと異例というか、唐突というか。
何か特別な意図があるのでしょうか?
申告しない人が多いようですが、これからはどんどん捕捉しに行きますよ、という警鐘なのか……というのは、うがった見方かもしれませんがね。
いずれにしても、該当するなら申告しなければなりません。
私が気になるのは、こと馬券に関しては「営利を目的とする継続的行為」のハードルがやたら高いという点です。営利を追求する手段は本来自由であるはずなのに「年間通してほぼ全てのレースで馬券購入しているなどの偶発性の減殺」や「通常の競馬愛好家の買い方と極めて異なる手段」であることが要求されています。そして、実際に信じられないような水準の利益を毎年継続的に計上できていないと、「営利を目的とする継続的行為」であると認められないニュアンスが感じ取れます。営利を追求して赤字になることはあるはずだと思うのですが。
「公営賭博」という『賭博』の言葉から、税務当局、そして裁判官さえもギャンブルで得たお金はあぶく銭なので、それに課税するのは当たり前という一種の道徳観念が見え隠れしているようで、いち競馬ファンとしては残念に思ったりします。そもそも、法律で認めているものなのに、公営ギャンブルって悪ものなのでしょうかねえ。
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田邉達也(税理士)プロフィール
田邉達也税理士事務所 所長
平成12年に税理士試験合格後、会計事務所、不動産会社勤務を経て開業。不動産分野に強く、相続税額の試算や不動産投資のキャッシュフロー作成も得意としている。常にお客さまの利益を考え、フットワーク良く、温かみのある事務所でありたいと奮闘中。学生時代から競馬には精通している。
URL:http://tanabetax.ec-net.jp/
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