相続税、現金で払えなければ「物納」できる

相続税、現金で払えなければ「物納」できる

2016/12/2

 
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相続したのが、不動産や債券ばかりで現金は僅か。それらを売ってお金を作ろうにも、相続税の納税期限(※1)まで時間がない――。そんなやむをえない場合には、現金ではなく「もの」で税金を納める「物納」が認められています。その要件はどんなものなのか、税理士法人みらい経営の神緒美樹先生にうかがいました。

◆やりようによっては節税効果の大きい相続税

前回、「相続は揉めないようにまとめるかどうかが勝負で、税金対策をやるのは当たり前」という話をしました。ただし、この「当たり前」を実行するためには、それなりの知識と経験が要ります。見方を変えると、所得税や法人税など他の税目に関する対策が、基本的に「繰り延べ」が中心になるのに対して、相続税、資産税というのは、各種の特例や金融商品などを組み合わせることによって、大きな節税効果が見込めるんですよ。
税理士に相続税についての知識やスキルがあるかないかで、結果には大きな差が出るということですね。
そうです。これから、いくつか具体的な事例も紹介しながら、そうしたテクニックについての話をしてみたいと思います。今回は、「相続税の物納」についてです。
けっこうハードルが高く、申請しても税務署に「ノー」を突きつけられることも多いんですよね。
相続税は「期限内に現金で一括納付」が原則で、物納というのはあくまでも「特例の特例」みたいなものですから、認められるための要件が厳格に定められているのです。ご紹介したい事例は、「外債の物納」なのですけど、800件近い相続をやってきた私でも、債権の物納というのは2例目だったんですよ。

「延納」でも払えない時に認められる物納

事例をお話しする前に、物納の概要を述べておきましょう。「現金一括納付」が原則の相続税ですが、一定の条件を満たせば「延納」することができます。簡単に言えば、相続税の分割払い。しかし、それでも納税が難しい場合に認められるのが、物納なのです。現金の代わりに、相続した不動産などの「もの」で税金を払うわけですね。国はそれを収納し、管理・売却して、税収とします。 これが認められるためには、相続税法で次の4つの要件をすべて満たす必要があると定められています。
(1)延納によっても金銭で納付することを困難とする事由があり、かつ、その納付を困難とする金額を限度としていること
(2)申請財産が定められた種類の財産であり、かつ、定められた順位によっていること
(3)物納適格財産であること
(4)物納申請書及び物納手続関係書類を期限までに提出すること
相続財産だから、何でもかんでも物納できるというわけではないんですね。
「もの」は日本国内になければなりません。かつ①国債や地方債、不動産や船舶、特定登録美術品→②社債や株式、証券投資信託などの受益証券→③商品なの動産――と順位も決められていて、例えば納付額に相当する国債を相続したのに、株券で支払うといったことはできないんですよ。同時に、例えば担保権が設定されている不動産などは「物納不適格」として、認められません。 こうしてみても、おっしゃるようにハードルの高い制度であることは明らかでしょう。しかし、それは「不可能だ」ということとは違います。次回は、アクシデントを乗り越えて成功した事例を紹介します。
※1 相続税の納税期限
被相続人が亡くなってから10ヵ月

遺産の有価証券が暴落した

相続税、現金で払えなければ「物納」できる
先生の担当された物納の事例は、外債を対象としたものだったというお話でした。
そうです。具体的にはオーストラリア・ドル建て債券だったんですよ。お父さんが亡くなって、相続人はお母さんと子ども。遺産総額は5億円ほどで、相続税は約1億円という相続だったのですが、被相続人はこの手の資産運用が好きだったのか、遺産の8割ほどを、この外債が占めていたのです。相続が発生したのは昨年秋で、特に揉めることもなく、11月にはほぼ遺産分割協議がまとまりました。外債をすべて現金化して相続し、税金もそれで賄うというスキームだったんですね。私は「速やかに申告・納税を済ませましょう」とお話ししたのですが、お客様は「まあ、正月過ぎてからでいいだろう」と。ところが悪いことに、年明け早々その外債が暴落してしまったんですよ。
それは大変です。上場されている債権の遺産評価額は、基本的に被相続人が亡くなった日の最終価格になります。相続税はそれをベースに計算されるのに、実質的な相続金額は大きく目減りしてしまったわけですね。年を越したツケは、高いものについてしまいました。
まあ、逆になる可能性もあるわけですが、上場している株や債券は相場が変動しますから、相続の際にはその点も気をつけたいところです。ともあれ、起きてしまったことは仕方がありません。「被害」を最小限に食い止めるために、私は急遽、暴落した外債を現金化するのではなく、そのまま物納するという方針に切り替えたんですよ。こうすれば、相続発生時の時価で納税できますから。

物納にもテクニックがある

物納申請というのは、税理士の先生方にとっても骨の折れるものなのですか?
税務当局とのやりとりをはじめ、大変な労力を要します。できればやりたくない(笑)。でも、知識と経験を生かしてお客様にいいサービスを提供するのが仕事ですから、物納がベストだと判断したら、臆せずにその方法を選択します。 物納の場合特に大事になるのは、相続の案件ごとに資産や相続人の状況をしっかりつかんだうえで、あえて言えば「物納のしやすい遺産分割」に持って行くことなんですよ。今回の事例では、預貯金などはお母さんに相続してもらい、外債は子どもに集中するよう、分割を組み直しました。そうすることによって、「子どもは外債を物納するしかない」状況を作り上げたわけです。
なるほど。それなら税務署も認めざるを得ないですよね。
「債券類の物納」について細かな注意点を補足しておくと、まず「名義書き換えの出来ること」が条件です。株価が1円とか2円とかになってしまったらそれができなくなりますから、その危険性がある場合には、申請を急ぐ必要があります。 また、今回のように外債の場合、日本の証券会社を通して売買されていることが条件になるでしょう。直で取引していたものは、物納されても管理が難しいという理由で、申請が却下される可能性が大きいと思ってください。
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